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偽典 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第7章 終わりの始まり
  第壱話 偽典・名探偵なのは?アーベル君

 
前書き
本文をお読みになる前に、外伝の「名探偵だよ?アーベル君」をお読みいただくと、本編との違いがわかるかもしれません。推奨はしませんが。

警告
本文は、読者に対して、精神的な負担を強いられる可能性があります。
また、本文は、いわゆる「推理もの」ではありません。
あらかじめ、ご了承願います。


 

 



アーベルは、書斎で捜し物をしている祖父に声をかける。
「おじいちゃん。
どうしたの?」

元気なアーベル少年の声を確認した老人は、いつもの厳めしい表情を崩して、豊かな声量で嬉しそうに答える。
「おお、アーベルか。丁度良いところに来てくれた。
わしの頼みを聞いてくれんか?」
「どんなこと?」
アーベルは、小首を傾げながら老人に尋ねる。

老人は、アーベルの返事に大きく頷くと、
「さっきから捜し物をしているのじゃが、見つからなくてのう。
これから、呪文をつかうと、探している物が光って見えるはずじゃ。
それを、わしに教えてくれないかい?」
「わかったよ」
アーベルは、元気よく答えた。

老人は、周囲を見渡してから、短く呪文を唱えた。
「レミラーマ」


呪文の効果を確認するため、老人はアーベルに質問する。
「どうじゃ、アーベル?」
「おじいちゃんの頭が光ったよ」
アーベルは、迷わず老人の頭を指し示す。

老人は、アーベルの答えに驚き、そして笑いながら、
「ハハハ、アーベルよ。
それは、昔からじゃよ」
頭に手をおいて、
「じゃが、ほかの者にはそんなことを、言うではな・・・・・・」
老人の手に触れた物体が、床に落ちる。

それは、老人が探していた眼鏡だった・・・・・・



~「アリアハン冒険者養成所魔法講義用テキスト:著者ソフィア」から抜粋~



俺たちは、マイラの村にいた。
「テルル、この辺りを頼む」
「わかったわ。レミラーマ」
テルルは、俺の頼みに応えて、呪文を唱える。

だが、俺たちが周囲を確認しても、光ることはなかった。



俺は、妖精の笛を探していた。

この大地、アレフガルドを創造したといわれる、精霊ルビス。
そのルビスは、大魔王ゾーマの手によって、石像にされ、マイラの村の北西にある塔で封印されている。
封印された精霊を元に戻す方法はただひとつ。
石像の前で、妖精の笛を吹くことである。

そして、妖精の笛は、ここ温泉の村マイラにあると言われている。
その情報を頼りに、俺は捜索をしていた。



「よし、次はここだ」
俺は、温泉から少し南の場所を指さす。
「わかったわ。レミラーマ」
テルルは再び呪文を唱える。
テルルのMPは基本的に、戦闘時では使用しない。
テルルの表情は、呪文を使えることで喜んでいるように見える。

「光ったわ!」
周囲に視線を移していた、セレンが声をあげる。
「そこですね、セレンさん!」
タンタルも喜びの声をあげる。
だが、ちょっと待って欲しい。

タンタル、お前は、セレンとは反対側の方向を見ていたはずだ。


だが、優先順位は笛を入手する方が高い。
とりあえず、タンタルへの突っ込みは脇に置くことにして、俺は光った場所の穴掘りを開始する。



「穴掘りを使う?」
テルルが商人だったときに覚えた呪文の使用を提案するが、
「いや、問題ない。
何度か掘り返された跡がある」
俺は、掘り進みながら応える。
「大丈夫ですよ、テルルさん。
俺の武術には、穴掘りも修行の一つにありましたから」
タンタルも元気に返事しながら掘り進める。

「中の笛を、壊さない程度にな」
俺は、タンタルの豪快な掘り方に注意すると、
「そうでした」
タンタルは、掘るスピードを緩めた。



やがて、俺の手に堅く冷たい感触が伝わった。
「これか」
タンタルは、素早い動きで、周囲の土を吹き飛ばすと、金属製の箱が姿を現す。

「これが、妖精の笛?」
「いや、箱だから」
俺は、箱を開けると、中から木箱が現れる。


「箱?」
タンタルが首をひねる。
「土にかぶらないために、二重にしたのだろう」
俺は、何処かで見たことのある木箱だな、と思いながら木箱をあける。

そこには、布がおかれていた。
「衝撃を吸収するためか」
俺は、笛を置いた人間が丁寧に笛を扱っていることに感心しながら、丁寧に布をはがす。


「何も、無いだと!?」
俺は、驚きの声を上げる。
布のなかには、何もなかった。
俺は衝撃を隠せない。
レミラーマが、嘘を伝えるはずはないからだ。
「どうするの?」
テルルが俺に尋ね、俺が驚きから回復し、自分の考えを伝えようとしたときに、

「そこで、ナニをしている!」
男が、俺たちの前に現れた。

男は、たくましい体躯と、丸く大きな顔、今にも襲いかかってきそうな姿勢から、ダースリカントを人間にしたような印象を受ける。

男は驚いている俺たちを無視して、低く唸るような声で、話を始める。
「さあ、みなさん。
この人たちが、犯人のようです。
まさか、複数犯とは思いませんでしたが」
いつのまにか、周囲に村人たちが集まってきた。
「複数犯?」
セレンは首を傾げる。
「そうです。
我が村のアイドル、ニャーミちゃんの笛を盗み出した犯人ですよ!」
男は、後ろにいる少女に視線を向ける。

その少女は、この世界では珍しいピンクのノースリーブを華奢な体に身につけ、髪の右側にリボンをつけていた。
顔は少し不安そうな表情をしているが、普段しているであろう愛くるしい印象は残っており、まるで子猫のように思われる。
さすがこの男が、この少女のことをアイドルと呼ぶだけのことはあるなどと、俺は感心していた。

「その箱は、ニャーミちゃんが持っていた箱、そしてお前が持っているその布は、ニャーミちゃんの布。
お前たちが犯人で間違いない!」
男は、右手の人差し指で俺を指し示しながら断言する。
いつの間にか、俺たちの周囲に人垣ができていた。


「知らないわよ、そんなこと!」
テルルが反論する。
「それに、かんじんの笛がないぞ!」
俺も反論する。
「何処かに隠し持っているのでしょう。
まったく、困った人です。
場所なんて、取調室で、自白させればいいのです。
どうせ、口に入れてなめ回したり、股に挟んで楽しんだりしているのでしょう。
まったく、けしからん変態だ!」
男は、俺の言葉に再反論すると、集まってきた村人たちに向かって、指示を出す。
「さあ、彼らを捕まえて、笛の場所を吐かせるのです!」

村人たちが、男の指示に従って、俺たちの包囲網を少しずつ狭めてゆく。

「怖い・・・・・・」
セレンは、俺の背後で、俺の左手を両手で握りながら震えている。
「アーベルどうするの?」
テルルも、俺に判断を求める。

さて、どうすれば良いのだろ?
村人に捕まったら、この冒険は終わってしまう。
だからと言って、この場から逃げ出したら、二度とこの村に入ることはできない。
そうなれば、妖精の笛は入手できなくなるだろう。
だから、俺はテルルに頼む。

「テルル、レミラーマを頼む。
怪しいところを探してくれれば良い」
「・・・・・・レミラーマ?
わかったわ」
テルルは、納得いかないまでも、アーベルの指示に従う。

俺は、呪文によって一瞬だけ光った場所を探す。

「あれは、・・・・・・」
俺は、男の股の部分を指し示す。
そこには、太くて長い形状の物体が、ズボンの上からもはっきりとわかるようになっていた。
「ハハハ、これは昔からじゃよ。
それは、私のおい・・・・・・」
男のズボンの中央から、先端部分が顔をのぞかせる。

「嫌!」
セレンは、一瞬、そのものを確認すると、両手で目を覆い、膝を地面につけ、首を左右に振りながら泣いている。
テルルも、顔を赤くしながら、それを見ていた。



……それは、縦笛の、先端部分だった。



「・・・・・・またしても、あなただったのね」
少女は男に、悲しい視線を向ける。

「私もまた、笛に踊らされた犠牲者に過ぎないのだよ。
私の場合は、自分から踊ったのだけどね」
男は、腰を前後に動かしながらそう言うと、村人たちに連れ去られていった。



手元には、男が持っていた笛があった。
当然、先ほどまで俺が手にしていた布で、厳重に包み、絶対に接触することが無いように、細心の注意を払いながら管理している。


「これを吹きたいと思う人は・・・・・・。まあ、いないよね」
俺は、仲間たちの表情を確認して結論をくだす。
むしろ、喜んで笛を吹く人間が仲間にいたならば、パーティメンバーから外す必要が生じたことだろう。

「で、どうするの?」
テルルが、質問する。
なんらかの、解決をしなければ、先に進まない。

一応、方法は思い浮かぶが、
「セレン、・・・・・・」
「嫌です」
セレンは、強く首を左右に振る。

俺はセレンの答えを無視して、話を続ける。
「バギの応用で、風を起こすことはできないか?」
バギとは、僧侶が使用することができる攻撃呪文であり、周囲に風を発生させることで、かまいたちのような現象を発生させ、モンスターにダメージを与えるものである。
うまく、風を制御する事ができれば、直接笛を吹かなくても、音を出すことができるだろう。

俺の意図を説明したが、
「それは、・・・・・・無理です」
セレンは、頭の中で計算して、否定した。

「そうだよな」
呪文の威力の制御は、冒険者養成所で教わる範囲を超えている。
俺や、母ソフィアでもないかぎり、呪文の改造は難しいだろう。
そして、俺は魔法使い。
僧侶系呪文であるバギを改造するのは、現時点では無理だろう。

「タンタルも無理だよな?」
「ああ、無理だ。
そして、今までの恩義をここで返せと言われても、さすがに無理だ。
すまない」
タンタルは頭を下げる。
「俺もそこまで、鬼畜ではない」
俺は、タンタルに返事をする。

もし、あの笛を吹くことができるとするならば、先ほど捕まった男だけだろう。
だが、あの男を連れていく訳にはいかない。

俺たちの旅は、ここで終わるのか。
本当にここで、終わってしまうのか・・・・・・







「どうしたのじゃ、お前さん」
困り切った様子の俺たちを見かねたのか、一人の老人が話しかけてきた。
「あ、あなたは・・・・・・?」
「ああ、ワシはこの村で長老のようなことをしておる。
さっきは、騒がせてすまなかったな。
いつも、奴はあんな感じなのだよ」
老人は俺たちに頭を下げる。
「そうなのか?」
「ああ、この村の住人たちは娯楽に飢えていてね。
あやつは、ああ見えて、それなりに役には立っているのじゃよ。
次は、彼にゾンビにでもなってもらう予定じゃ」
老人は、つまらなそうに答えると、俺たちが直面している問題を聞いてくれた。



「妖精の笛じゃと?」
「ええ、ここまで汚されたら、もう使い物になりません・・・・・・」
俺は、無念の表情で老人に伝える。

「お前さん。
何か、勘違いしていないか?」
老人は笑いながら、答える。

「勘違い?」
「その笛は、妖精の笛じゃないぞ」
「なんだって?」
俺とタンタルは、驚く。

「その笛は、アリアハンとかいう所から逃げてきた男が作ったものじゃ」
「じゃあ、本当の妖精の笛は?」
俺は、老人に質問する。
「変わりがなければ、埋まったままじゃないのか?」
老人が、先ほどまで俺たちが掘っていた穴の所を指し示す。

「テルル」
俺は、テルルに目配せすると、
「レミラーマ」
先ほどまで掘っていた穴の底が、ほのかな明かりを照らしていた。
 
 

 
後書き
第壱話から、ぐだぐだですね。
まあ、そんな感じで続きます。
週一ペースで更新が出来ればと思っています。 
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