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偽典 ドラゴンクエストⅢ 勇者ではないアーベルの冒険

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第7章 終わりの始まり
  第弐話 約束

空を駆ける。
その言葉に、多くの人間は魅せられた。
俺がかつていた世界では、飛行船や飛行機、ヘリコプターやグライダー等、科学の力でその望みを叶えていた。

では、この世界ではどうだろうか?



俺たちは、マイラの村を出ると、西に向かい、海を目指していた。
そして、海岸線に到着すると、右側の景色を確認する。
視線の先には、塔がそびえ立っていた。

「さて。今日の目的は、あの先にある塔で捕らわれている、精霊ルビスを助ける訳だが・・・・・・」
俺が、後ろを振り返り、リーダーらしく今日の目的を説明するのだが、
「めずらしいわね。
アーベルが人助け、いえ、精霊だったかしら、助けようとするなんて」
テルルが意地悪なことを言い出す。

「何を言っている。
俺だって、助けをするくらいあるさ」
「そうかしら?」
テルルは、首を傾ける。

「ほら、タンタルを助けたじゃないか」
「役に立ちそうだと思ったからでしょう」
「タンタルさんはすごいです」
「お役に立てて光栄です」
タンタルはセレンに向かって、右手を軽く左に動かしながら優雅にお辞儀をする。

「まあ、わかったわ」
テルルは、あまり納得していない声で返事をしてから、
「でも、どうやってあそこに行くの?
船も無いのに?
まさか、また一人でトベルーラを使うの?」
飛翔呪文のことを持ち出した。

俺は、首を左右に振ってテルルに答える。
俺だけであれば、飛翔呪文で目的地に向かおうとする事は可能かもしれない。
だが、その場合、途中でキメラやメイジキメラなどの飛行可能なモンスターが襲いかかって来たときに対応が出来ない。
もっとも、魔王バラモスを追い払った時のように、魔法の玉をぶつけて、撃退することも出来るかもしれない。
だが、今の段階で、大魔王ゾーマには魔法の玉のことは知られないほうが良いだろう。
大魔王ゾーマに直接効くかどうかは不明だが、下手な対抗策を打たれたら困る。

だから、俺は、
「それは、俺とソフィアが一緒に毎晩続けた、共同作業の結果をお見せしよう」
高らかに宣言する。
「そんな、誤解を招くような言い方を」
「俺も協力しましたよ」
「すごそうですね」
三人がそれぞれの反応を返す。

俺が、海を渡るための手段。
それは、巨竜変身呪文ドラゴラムであった。
「ドラゴラム?
あれって、炎を吐く呪文じゃなかった?」
テルルが質問する。

本来、ドラゴラムは戦闘中に使用する呪文であり、唱えたら、敵が居なくなるまで炎を吐くのをやめない。もとい、毎ターン炎による攻撃でダメージを与え続ける。
ゲームでドラクエ3を遊んだ人なら、はぐれメタルを倒すときに重宝したことを覚えていると思う。
無論、この世界でもその設定は生かされている。

「空だって、とべるさ。
ドラゴンだもん」
俺はおどけた様子で、言い放つ。

宮廷魔術師(非常勤)のソフィアと一緒に改良に取り組み、多人数飛行用の呪文として開発したのが「ドラゴラム(飛行試験型)」である。
スカイドラゴン等の飛行型モンスターの生態を参考に、飛行性能を備え、術者の意志を保ったまま変身が出来るように改良されている。

理論的には、同時に100人乗せても大丈夫だが、平和になった世界で過大な軍事力を持つと新たな悲劇につながるだろう。そう思い、4人まで乗せることが出来るように、設定している。
もちろん、消費MPを抑制するためでもある。

今回使用するのは、飛行試験型のため、炎を吐くことができない。
まあ、移動する距離は近距離だし、問題ないだろう。

「アーベル、準備が出来たわよ」
幼なじみの、元気な声が聞こえる。
念のため、テルルが覚えた盗賊の特技で、モンスターから見つかりにくくなる「しのびあし」を使用してもらった。
さらに、セレンは所持品から「せいすい」を取り出すと、パーティ全員に振りまいた。
タンタルが、急に興奮した表情を見せているが、もはや誰も気にしない。


「そうかい。じゃあいくぞ」
俺は、呪文を唱えた。
「ドラゴラム」
俺の姿は、大きな竜の姿になっていた。



「ねえ、どうして裏側にいるの?」
俺は、変身を解くと、テルルから質問を受ける。

「こちらから、進入した方が早い。から?」
俺は、海を渡り終わった段階で、一度変身を解いていた。
ある程度、MP消費を抑えたとはいえ、無駄にはできない。
そして、テルルの「しのびあし」と、セレンの「せいすい」の効果でモンスターとの戦闘を回避しながら、塔の前にたどり着いた。

しかし、俺は目の前にあった門を無視して、再びドラゴラム(飛行試験型)を唱えると、皆を乗せ、塔の裏側に到着した。

この塔に封印されている精霊ルビスの下にたどり着くためには、塔の階段を上り下りするだけでなく、一度、塔から飛び降りる必要がある。
ちなみに、今俺たちがいる場所は、その飛び降りた場所と同じ場所である。
だが、いきなり、十分な探索をせずに、塔から飛び降りることを発想することは、非常に困難である。
早急にルビスを救助したい俺にとっては、その時間を節約するために、裏側に回ったわけだが、

「そうですか?」
セレンは首をかしげて、
「どうして、知っているの?」
テルルは、さらに追及する。

この世界が、俺の知っているゲームの世界に酷似している。
その事実を、今の時点で説明するわけにもいかず。

「ガルナの塔も裏側から進入した方が早かった。
そんなところだ。
違ったら、ゴメン」
俺は、右手を縦にしてあやまる。
「・・・・・・わかったわ」
テルルは、俺の言葉に納得したようだ。
「また、変なことを考えているのでしょう?
3階からではなくて、わざわざ、2階から進入しているし」
「・・・・・・」
納得しては、もらえてなかったようだ。
さすがに、3階が飛び降りる場所とも言えず。

「まあ、目の前の階段を登れば答えがでるさ」
俺は、おどけた様子で、装備を確認し、先に進もうとする。

「これは、何ですか?」
セレンが、着陸した地点の手前にある床を指し示しながら、俺に質問してきた。
俺が、その視線の先を確認する。

床には、銀色の線により大きなひし形が描かれ、半分が線と同じ色で塗りつぶされている。
その半分の位置は、床によって二種類に分かれていた。
そして、床からはかすかな魔力が込められていた。

「回転床か」
俺は、聞こえないように小さくつぶやいた。

回転床は、ドラクエ3で導入されたダンジョントラップで、踏んだところから移動しようとすると、その方向から90度ずれたところに移動してしまう罠である。
先ほど、外から進入したときは、めんどくさいので、変身したまま飛び越えたので、影響はなかったが、実際に引っかかると面倒だろう。
二次元と三次元では、感覚は異なるのだ。


とはいえ、初めて目にしたものを、知っているのは問題があるため、
「おそらく、何らかの罠だと思う」
誤っていないが、適当なことを言うことにした。
「罠ですか?」

「とりあえず、目の前の階段を登ろう。
それで、駄目だったら、この床について考えよう」
「そうね」
テルルが、俺の意見に同意して階段を目指し始めた。



「聖水」と「しのびあし」との併用で、モンスターを回避しながら、ルビスの封印された場所まで到達する。
目の前には、美しい女性が、石像のように固まっていた。

「これが、精霊ルビスか」
俺は、少しだけその美しさに見とれていると、
「そういうことね」
背後から、テルルの声が聞こえた。

「そういうこと?」
俺は、テルルに質問すると、
「何も、見返りもなく精霊を助けるなんて、怪しいと思っていたら、こんな美人だったからなのね」
「そんなことはない」
「表情が崩れているわよ」
「それは、これからの冒険を考えると強い味方ができると思ったからさ」
「・・・・・・わかったわ」
テルルはとりあえず引き下がった。


「さあ、吹くわよ」
テルルが、妖精の笛を吹いた。

テルルが笛を吹き終わると、封印されたルビスに光が集まりだし、やがて内部からルビスを封印してた表層部分が砕け散り、ルビスの体に生気がみなぎっている。

「まるで、夢のよう」
精霊ルビスは喜びの声をあげ、
「よくぞ封印を解いてくれました」
感謝の言葉を述べた。


「私は精霊ルビス、このアレフガルドの大地を作ったものです」
ルビスの自己紹介に頷く。
したり顔をするわけにはいけない。
「お礼に聖なるまもりをさしあげましょう」
最初、受け取りを拒否しようかとかんがえたが、時間がないので受け取った。
あとで、勇者にあげることにする。

「そして、もし大魔王をたおしてくれたなら、きっといつかその恩返しをいたしますわ」
「それはありがたいですが、事前に確認したいことがあります」
俺は、ルビスに問いかける。
「なんでしょうか?」
ルビスは、静かに微笑みながら俺にたずねる。

「大魔王を倒すだけで、このアレフガルドは平和になりますか」
「何を言っているの?」
俺の言葉に、テルルはあきれた口調で疑問の声をあげる。
テルルはもちろん、ゾーマの存在を知っており、それを倒せば平和になることを疑って居なかった。

「そうですね。
大魔王の力は強大です。
倒したとしても、周囲の闇の力を吸収すれば復活できます。
この闇に満ちた世界であれば、」
ルビスは、両手を空に広げて、
「容易に復活できるでしょう」
「・・・・・・そうか」
「そ、そんな」
セレンは、口に手をあて、
「じゃあ、どうするのよ!」
テルルは、ルビスに文句を言った。

「お嬢さん。
心配はいりません」
ルビスは、テルルに優しく微笑む。
「この世界は、私が生み出しましたものです。
今は、大魔王の力により、私の力は限られていますが、みなさんが大魔王を倒したのであれば私の力で、この世界に光を取り戻すことができます」
「それなら、問題ないわね」
テルルは納得する。

「では、恩返しについて頼みたいことがあります」
俺は真剣な表情で、ルビスを見つめる。
「何でしょうか?」
ルビスは、あいかわらず美しい微笑を浮かべたままだ。
「できれば、他の人に聞かれたくないことですが?」
「アーベル、変なことを考えてないわよね?」
「少なくとも、テルルが考えていることとは別のことだ」
俺は、強く断言する。

「ならば、心の中で強く念じてください」
(こうですか?)
俺は、ルビスの指示に従って心の中で、声をかける。
(ええ、聞こえますよ、アーベルさん。
それとも、前の世界での名前の方が良いかしら)
俺のことが、わかるのか?
まあ、そのほうが、話が早くて助かる。
(いや、アーベルでお願いします。俺はこの世界では、アーベルとして生きることを決めていますから)
(わかりました)
(質問ですが、俺は元の世界に戻ることが出来ますか?)
(ええ、問題ありません)
(それならば、お願いしたいことがあります)
俺は、ルビスに願いを告げる。
(わかりました。
それが、願いであるのなら、問題はありません)
ルビスは、俺にやさしく微笑んだ。
「ありがとうございます」
俺は、深く頭を下げる。



「私は精霊ルビス、この国が平和になることを祈っています」
ルビスは別れの言葉を告げると、光に包まれ、いつの間にか姿を消した。

俺は、帰還呪文「リレミト」を唱えた。
最後の戦いに向かう時がきた。 
 

 
後書き
どうでもよいことですが、「心配はいりません」を入力しようとしたら、「心配入りません」と誤入力してしまいました。(今は修正してあります)
 
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