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聖戦のデルタ

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『第五次世界大戦』の部
レクエムの章
  第五話『政府首都アデム』

 
前書き
〜あらすじ〜
ついに強制避難(スクラップ)が始まった。

小鳥遊と泰河はディヌアの軍と交戦!
恵奈と美弥妃は列車に乗り、ディヌアの軍を突破!
恵奈と美弥妃は榊町に無事に到着出来るのか!?

近未来能力ファンタジー第五話。
 

 


***

レクエムには【政府首都アデム】という都市が存在する。
その名の通り、政府の首相官邸や国会議事堂 等がある。

首相官邸の、とある部屋。
5平方メートル程の広さに、黒いソファが2つ。その間に地味な長机が、
窓際には大きなデスクと柔らかそうな黒い革の椅子が置かれている。

レクエムの内閣総理大臣・大殿(おおとの) 偉人(ひろと)は、柔らかい黒のソファに座っていた。
まだ35歳と若く、周囲から”若頭”と呼ばれ、期待されている。
紺と黒のスーツを着る姿は凛々しく、さまになっている。

「総理!」
部屋の扉が勢いよく放たれ、秘書の大友(おおとも) 宗玉(そうぎょく)が入ってきた。
「どうした?宗玉」
「ご報告があります!」
宗玉のかしこまった態度に、大殿は立ち上がり、
「宗玉!2人だけの時は敬語は辞めろと言っているだろ!俺とお前は同期の仲間同士だろ!」
と怒鳴った。
「スマン……」
「分かればいい……」
大殿がソファに座り直した。そして、
「で、報告は?」
「あぁ。ディヌアの侵攻軍が1人の能力者によって退けられ、列車に乗っている人々が榊町に到達したそうだ!」
「何ッ!!」
大殿が目を見開いた。
「そんな!馬鹿な!?アライア(あそこ)には能力者などいないはずだッ!」
「それが……、観光目的でアライアを訪れていた人がいたようで……」
「クソォッ!」
大殿が長机を拳で思い切り叩いた。

大殿の脳内を思考が駆け巡る。
(誤算だった。アライアには、戸籍情報により能力者が居住していない事を知っていた。
能力者がいなければ、市民は攻撃しないと踏んでいたが、アライア市民がディヌアの軍を攻撃した以上、交渉は決裂だろうな。アライアは元々、ディヌアに無抵抗で受け渡す予定だったのだ。
あの日、そう決めたのだからな……)



4月1日

第五次世界大戦が始まり、周辺の小国、大国の戦いは激化していった。
そんな中、軍力の乏しいレクエムは、あっという間に窮地に立たされた。

そんな時、ディヌアが交渉を持ちかけてきた。

私・大殿は、一国の代表者として、交渉に応じる事にした。
交渉は、レクエムのアデムにある首相官邸で、”対談”という形で行われる事になった。


対談が始まり、
「では、大殿……」と声をかけてきた相手、つまりは私と対談をする相手は、ディヌアの外交官 オスマン=バヤズィトだ。
オスマンと大殿は、向かい合う形でソファに座っている。

彼は
『オスマンに外交を任せると、いかなる条約も締結させてくる』
と言われる程の手腕の持ち主だ。

「交渉の話だが、我々の提示する条件はこうだ」
オスマンに敬語を使う気は微塵もないらしい。それだけ格下に見られているのだろう。
オスマンは3人の部下から紙切れを受け取ると、大殿に差し出した。
そして無表情で言った。
「”レクエムは、軍事都市アライアの土地と建造物を、我が国・ディヌアに譲渡する事。”」
「な、そんな事できる訳がッ……」
と動揺する大殿の言葉を遮り、
オスマンは続ける。
「そうすれば この第五次世界大戦において、ディヌアはレクエムに侵攻しない……」
「くっ、そぉ……!!」
(格下に見やがってェ……)
大殿が奥歯を噛みしめる。
「そちらが条件を承諾しなければ……」
オスマンは一度セリフを止め……
「ディヌアは4月4日、全戦力を持って首都・アデムを攻撃する」
最後の一言にアクセントをつけた。
「我々ディヌアと、貴様らレクエムの戦力差は知っていような?」
オスマンの言葉には余裕が満ちている。
「……分かった」
大殿は決断した。
「俺も一国の代表者だ。決断しなければならない時が来たようだ」
「……で?返事は?」
「お前達の条件を、飲もう」
「つまり?」
嫌味な奴だと思った。私は、こいつは人を服従させる事で快感を得る奴なんだと思った。
どうしても私の口から言わせたいらしい。
「4月4日にアライア市民を隣町に移動させる。そしてアライアをもぬけの殻にした上で、ディヌアに明け渡す」
「了解した。ではその通り、本国に伝えるとする」
オスマンはソファから立ち上がり、そそくさと部屋を出て行こうとした。

「待ってくれ!」
オスマンは無意識に叫んでいた。
オスマンが動きを止める。
「本当に、アライアを渡せば、攻撃しないんだな?」
大殿の額を汗がつたう。
「何度も言わせるな。約束は守る」
オスマンは吐き捨てるように言い、部屋を後にした。



現在

部屋に重い空気が漂う。
大殿がソファに座ってうな垂れている。
が、思考は止まらない。
(アライア市民がディヌアの軍に攻撃した以上、ディヌアとの交渉は決裂だろう。本来ならアライア市民は抵抗せず、アライアを明け渡す計画だった。だがアライア市民の攻撃を、レクエムの奇襲とみなし、それを口実にしてディヌアは侵攻を開始する……)
大殿の様子を見た大友が静寂を破る。
「大殿、これからどうするよ……?遅かれ早かれディヌアは絶対に攻めてくるぞ」
「ああ……、分かっている……」
大殿が苛立ちながら応える。
(こうなればディヌアと全面戦争をするしかない……。ならば、)
大殿は立ち上がり、
「宗玉!今すぐ動かせる人員と物資のリストアップをしてくれ!」
了解(ラジャ)!でもいきなりなんでだ?」
「ディヌアと全面戦争だ……ッ!」
大殿は、一際低い声で言った。
大殿は、そう言い残すと足早に部屋の外、綺麗に整った廊下に出た。


***

榊町

榊町のこじんまりとした駅のホームに列車がやってきた。
第五車両が半壊しているその列車はアライアから来たようだ。
先頭車両の屋根に2人、女が乗っていた。恵奈と美弥妃だ。

「ふ〜、よいしょっ!と」
座っていた恵奈が立ち上がり、
「美弥妃さん!」
と、美弥妃を引き起こした。
「ありがとー」
美弥妃は起き上がると、恵奈の服を両手でやさしくはたき始めた。
「あの、一体何を?」
恵奈は戸惑い、しかし美弥妃にされるがままになっている。
その様子を見た美弥妃が、
「砂埃が着いてるから……」
と言いつつ、美弥妃は恵奈の胸部や下半身をやたらと触る。
(恵奈ちゃんは翔馬の未来のお嫁さんだから、念入りにボディチェックをしないと……。主に貧乳か否か……)
もはや、はたいてはいない。
中年の親父が如く触る。
流石に恵奈は気づき、
「あのう……やめて下さいませんか?」
と語尾に怒気を宿しながら言った。
「もうすぐ終わるよー」
「何がですか?」
(ふむふむ……。この感触だと、巨乳とは言えない。でも、その点を除けば割と理想のスタイルッ!!)
美弥妃は手の動きを止め、
「ハゥアッ!」
美弥妃は、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
(すごい……!この私でさえウエストを絞るのは大変だというのにィ!)
一度思考が停止し、
(羨ましいィ〜!この身体、ほぼ完璧!)
頭を抱え、唸る美弥妃と、その様子を見て絶句した恵奈であった。

 
 

 
後書き
〜語句〜
・第五次世界大戦……大国ディヌアと大国レクエム、周辺の小国が起こした戦争。3014年3月25日に始まった。本編では第五次世界大戦の真っ只中である。(第五話 現在)
・ディヌア……地球上に3つある大国の内の一つ。軍事開発が盛んな国で、第五次世界大戦の中心となっている国。軍事開発により、大量の新兵器が量産されたと噂されている。
・レクエム……地球上に3つある大国の内の一つ。軍事に関してはあまり着手していない。レクエムにある軍事都市はアライアのみ。国民の20分の1が、『天然』の能力者(アビリティホルダー)。 
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