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聖戦のデルタ

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『第五次世界大戦』の部
レクエムの章
  第六話『外付け能力と強制覚醒装置』

 
前書き
〜あらすじ〜
恵奈と美弥妃が無事榊町に到着!
そして、強制避難(スクラップ)の謎が明らかになった!

小鳥遊と泰河も榊町へ移動を開始したが…………

近未来能力ファンタジー第六話。 

 
***

軍事都市アライアより、北西に約7kmの位置に森があった。アライアの外にある緑豊かな森。自然保護区に指定されていて、普段は進入禁止だが、今だけは例外だろう。
森の中に二つの人影があった。
小鳥遊と泰河だ。2人とも相も変わらずアサルトライフルを持つ。

泰河の叱咤激励を受け、立ち直った小鳥遊は、
「泰河。恵奈達はもう榊町に着いたかな……?」
「どうだろうな……。恵奈(あいつ)の事だ、心配いらねぇだろ」
「そうだな……」
小鳥遊が歩みを止め、後ろを振り向く。
「それに、今は自分達の心配をした方が良いみたいだな!」
小鳥遊に遅れて泰河が振り向く。
「ん?」
小鳥遊と泰河の視線の先には……!?
「あり……!?」
泰河は間の抜けた顔をしている。
だが、小鳥遊は活き活きとした顔つきだ。
小鳥遊は、泰河の「誰もいなくね!?何だったの今の?」という疑問を取り払うように言う。
「尾行されてる……2人か……」
「嘘だ!俺は全く気づかなかったぜ!?」
泰河がアサルトライフルを構える。
「隠れてねぇで出て来いよ!今なら相手してやるぜ!」
小鳥遊はそう叫ぶと、アサルトライフルを構えた。

「ばれてしまったようでは、仕方ありません」

どこからともなく聞こえてきた声。

小鳥遊から2、3m離れた木だ。
そこから1人の男が現れた。痩せていて、ヒョロヒョロした身体つきに、インテリ系の香りを放つ眼鏡。
その男は、場違いな白衣を着て、場違いな薄ら笑いを浮かべている。
男の後ろには、マントを羽織った背の低い人がほっそり立っている。


博士っぽい男が言った。
「私は量産人型能力兵器C-110です。ちなみに、この”C”というのは型を表していて、”110”とは同じ型の兵器に振られた番号です。つまり私は、C型の110号機という事になります。まぁ、街には私の”兄弟たち”が展開していますがね。」
いきなり意味不明な発言をされた泰河が、
「はあ!?一気に沢山喋んなって!!こんがらがっちまうから!!」
頭を掻きむしって訴えかける。
「泰河。こいつは”クローン人間”あるいは”機械”だよ。ある一つの目的のために量産された心のない物体」
だが小鳥遊は冷静に言った。
「おお!ナイスだ偏差値68!」
と、泰河が親指を上に立てて言った。
小鳥遊が「俺の偏差値を何で知ってんだよ」と呟くが、

「あなた方には”飛んで”もらいます」

とC-110が言った。
C-110が意外に速い速度で泰河の元へ走る!
「喰らえ!」
泰河がアサルトライフルを連射する!銃弾がC-110の額にぶち当たる!

筈だった。

だが銃弾は額に当たるや否や瞬間的に消滅した。
C-110の笑みがより一層不気味なモノになる。
泰河が
(やべぇ!!効いてねぇ!!)
と思い、咄嗟に後ろに飛び退く!
だが後ろに飛び退くのと前に出るのでは、その差は歴然。当然、前に出る方が”強い”。
「終わりですよ」
短い一言と共にC-110が右手を突き出す!

泰河の身体に触れる直前、小鳥遊が横からドロップキックを放った!
小鳥遊の両足がC-110の横っ腹に食い込み、C-110が吹っ飛ぶ!
C-110が4、5m地面を転がる。
「ナイス!翔馬!」
と泰河が言った。

だが……翔馬はいなかった。

「あり……?おーい、翔馬!どこだ!!」
泰河は辺りを見回しながら声を張り上げ翔馬の名を呼ぶが、返事はない。

「無駄ですよ。君のお友達 翔馬くんですか?はもういません」
C-110が立ち上がりながら言った。
「んだと!!翔馬に何をした!!」
C-110は、少し困った顔で
「ん〜ん、翔馬くんを”飛ばした”んですよ。私の能力で」
「能力?」
(能力?聞いたことはあるぜ。レクエムには約200万人の能力者がいるってな。いや待て、こいつはディヌアのクローン人間・機械じゃねぇのか?)
「おい、てめぇ。2つ質問がある」
「なんでしょう?全てお答えしますよ」
「じゃ1つ目。翔馬はどこだ?」
「へえ。翔馬くんはここから半径10キロ内の範囲にいます。はい」
「そうか。じゃ2つ目。お前は人じゃねぇのに何で能力が使えんだ?」
「はいはい。私はですね、”能力を付けられている”んですね。ディヌアの上層部の命令で。」
「能力付けられている、だと?」
「はい。私共はそれを”外付け能力”と読んでいます。正確には、」
と、C-110が一旦区切り、首元に手をやった。
C-110の首元からブチッ!と何かが千切れる音がした。
C-110が泰河に歩み寄り、首元にあった手を泰河に見せた。
その手のひらには、5平方cm程の、薄く四角い機械が乗っている。
「このアウトサイド・アタッチメントと呼ばれる強制覚醒装置を付けています。これをつけることにより、何らかの能力が使用できるようになります」
「ほーお」
と納得げに頷いた泰河が、「貸して見せて触らせて」と言いながら、強制覚醒装置(アウトサイドアタッチメント)を手に取る。
「これが”アウトセーフよよいのよい”か……」
泰河が訝しげに見つめた。
「違います……」
泰河が「ふーん」と適当に返事をすると、
「あ!ゴメンン!手と足が順序良く滑ったァァァァァ!!」
と叫びながら強制覚醒装置(アウトサイドアタッチメント)を地面に投げつけ、足で何度も踏みつけた。
10回程踏みつけた所で、ふー、と額の汗を拭う。
C-110は、色々なショックで思考停止&機能が停止し、石像のように固まっていた。
泰河はペコリと頭を下げ、
「いや、本当すまん」
だがすぐ頭を上げ、歩き始めた。
「こいつが人じゃないとはいえ、騙すのはちょっと心苦しかったな〜」
(つーか、もう一つ質問し忘れたな。あ、でも”ディヌアの上層部の命令で強制覚醒装置(アウトサイドアタッチメント)を付けた”って言ってたから、あいつはディヌアの兵士って事になんのか?
って事は、もうディヌアの連中も能力が使えんのか……)
泰河にしては珍しく、長い長〜い思考だった。
「いや、それよりか翔馬と合流しねぇとな。翔馬ー!居るかー!?居るなら返事してくれー!」

泰河の大声に驚いたのか、木に止まっていた鳥が飛び立った。


***
 
 

 
後書き
〜語句〜
特殊能力(レアアビリティ)……異能の力。従来までは、レクエムの国民がごく稀に、先天的に得ていた力だったが、ディヌアが、人為的に能力を与える事に成功し、ディヌアはそれを軍事利用している。前者を『天然』と呼び、後者を『外付け』と呼ぶ。
能力者(アビリティホルダー)……特殊能力(レアアビリティ)を持つ者。天然の力を持つ者を初期型と呼び、外付けの力を持つ者を二期型と呼ぶ。
強制避難(スクラップ)……レクエムとディヌアの交渉の末、レクエム政府が打ち出した政策。おそらく失策である。 
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