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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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空に戻れない星


「僕の命は、あとわずかなんだ」

ロキの言葉にルーシィとルーは目を見開いた。

「え?あの・・・」
「ロキ・・・?」

ルーシィを離し、初めてまともに正面から向き合う。

「・・・どういう事?」

まさかの余命宣告にルーシィは戸惑う。
ロキはルーシィから顔を背け、クク・・・と小さく声を上げた。

「あははははっ!」

次の瞬間、ロキは笑い出した。
何事かとルーはロキの顔を正面から見る位置に立つ。

「ひっかかったね。これは女の子を口説く手口さ」

そう言っていつもの様にウインクしてみせるロキ。
それを聞いたルーシィは目を見開いた。

「泣き落としの1つでね。どう?結構ビックリしたでしょ?」

それを聞くにつれ、ルーシィは震えていく。
冗談で言っていい事と悪い事がある。これは悪い事だ。
本気で心配したのに、それは女を口説く手口・・・つまりは嘘だった・・・?

「!」

パァン、と。
3人と板前だけがいる店内に、音が響く。
ルーシィがロキの左頬に平手を決めたのだ。

「あたし・・・あたしそういう冗談キライ!」

目に涙を浮かべてそう叫ぶルーシィ。

「行くよ!ルー、ハッピー、プルー!」
「あぎゅ」
「ププ」
「待ってよ~」

ご立腹のルーシィに尻尾を掴まれ引っ張られるハッピーとプルー。
その後ろをルーが慌てて追いかける。

「プーン?」

ロキを見つめたプルーが呟き、ガタンと勢いよく店の扉が閉まった。

(何をやってるんだ、僕は・・・感情に流されるんじゃない・・・ルーシィを、ルーを巻き込むな。僕はもう・・・)

と、店の扉が開き、カコカコと下駄を鳴らして立ち尽くすロキの横を少女が通る。
席には座らずロキを指さすと、静かな店内にソプラノボイスを響かせた。

「アイツの頬を冷やすから袋と氷をお願いするわ」

聞き覚えのある声にロキは顔を上げる。
そこにいたのはかつて口説こうとして首元に包丁を突き付けられた氷の女王(アイスクイーン)

「ティア・・・」

名を呼ばれたティアは振り返る。
少し濡れた群青色(ラピスラズリ)の髪が揺れ、いつもの帽子はない。
一瞬誰かとも思ったが、ティアである。

「はい」
「ありがとう・・・」

板前から貰った袋に氷を入れ、差し出す。
その頬を冷やせ、という事だろう。

「・・・珍しいね。君が僕を睨まないなんて・・・」
「あと少しで寿命の男を睨むほど、愚かでないだけよ」

それを聞いたロキは目を見開いた。

「聞いてたのかい?」
「それについてはNOよ。『知っていた』だけ」
「知っていた・・・?」

空気を読んだのか、板前が奥へと姿を消す。
それを目で確認してから、続けた。

「アンタが何者かなんて知らない。だけれど、アンタが何らかの理由でもうすぐ寿命で、そして・・・『人間ではない』事」
「っ!」
「私が知っているのはこれだけ」

冷めた口調でそう言い放つ。
すると、ティアは躊躇うように瞳を揺らし、少しして口を開いた。

「・・・ねぇ」
「何だい?」
「私の裏に回ってくれるかしら?」
「?いいけど・・・」

意味不明なティアの言葉に、ロキは立ち上がりティアの後姿が見える位置に立つ。
それを確認したティアは、湿ってほぼストレート状態になった髪を持ち上げた。
そして『それ』を見たロキは目を見開く。

「これは・・・」
「それ以上は禁句よ。意識を失いたくなかったら言わない事ね」

意識を失いたくはないので、ロキは何も言わない。

「取り引き、しましょう」
「取り引き?」
「そう」

ティアは頷くと、ショルダーバックから白い紙1枚とペンを取り出した。

「アンタは自分が死にかけているというのに誰にも助けを求めない。それは助かりたくないから・・・違う?」

ロキは答えない。
が、小さく首を縦に動かした。

「だったら私はアンタを助けない」
「え?」
「それがアンタの願いなら、最後くらいは叶えてあげる。もちろん、ギルドの誰かがアンタを助けない様に、アンタが人間ではない事は誰にも言わない。言ったらアイツ等の事だし、国中走り回ってアンタを探すわ」

確かに、とロキは思った。
彼女はギルドにいる年月が自分より明らかに長い。
だからこそ、自分の属すギルドがどんなギルドか、その魔導士はどういう奴か、誰よりも知っているのだ。

「私がアンタの事を言わない限り・・・まぁ、アンタは死ぬ前にギルドを抜けると言うだろうから奴等は動くでしょうけど・・・誰もアンタのトコへは辿りつけない」

ロキは少し驚いた。
彼女は自分が何者かを知らない・・・だが、その口調はまるで『僕がどこで死ぬかを知っているよう』で。

「・・・それで?僕に何をしろと?」
「さっき見た『あれ』の事を黙っていなさい」

あれ、と言われて一瞬戸惑ったが、すぐに理解できた。

「それだけでいいのかい?」
「えぇ。どう?お互いの為になる取り引きだと思うけど」

ティアの目がキラッと煌めく。
ロキは少し考え、微笑んだ。

「いいよ。取り引き成立だ」

ロキの答えが満足なようで、ティアは口元を緩める。

「そう・・・それじゃ、私は部屋に戻るから」
「待って」

呼びとめられ、ティアは足を止める。

「君・・・もしかして僕が何者か、解ってるんじゃ」
「さぁ?一体何の事かしらね」

ロキの問いに肩を竦め、ティアは酒処を後にした。









翌日、妖精の尻尾(フェアリーテイル)
そこでは何故か傷だらけのナツとグレイが睨み合っていた。

「何だありゃ」
「仕事先で枕投げしてて怪我したんだって」
「どうやったら枕投げであんな大怪我を・・・」
「もう途中から枕投げとは呼べなくなったんだよ」

アルカが思い出しながら呟く。

(グレイ様大丈夫かしら)

そしてやっぱりいるジュビア。

「だいたいテメーは何で枕投げでムキになんだよ」
「俺はいつでも全力なんだよ」
「そのワリには負けてんじゃねーか」
「はぁ?負けたのはオメーだろ」

それを見ていたアルカは「わー、低レベルー」と呟き、ミラの料理を口に運んだ。

(枕投げの勝ち負けって何かしら?)

ジュビアは顔だけ覗かせながら、枕投げの勝ち負けを考える。
そしてナツとグレイは同時に、ルーシィとルーの方を見た。

「「ルーシィ!ルー!勝ったのは俺だよなっ!」」

いつもなら、ルーシィは呆れたように、ルーは呑気に返してくれるだろう。
そう。いつもなら・・・。








「うるさい」

「2人とも・・・少し黙ろうか?」








ルーシィは現在進行型で不機嫌であり、ルーはにっこりと笑っているが目だけは笑っていない。

「「ご、ごめんなさい」」
「おお!エルザとティア以外にあの2人を止められる奴が!」
「やるなルーシィ!」

その不機嫌さに思わず謝る2人。

「ルーシィとルー、ずっと機嫌悪いね」
「そう?フツーだけど」
「別にいつもと同じだよ」

そう言いながらミラの料理を口に運ぶ2人。

「オイラのいたずら、まだ怒ってる?」
「ちーがーう!あたしってそんなに器の小さい人?」
「そんな事で怒ってたら毎日怒らないといけなくなるじゃん」

ハッピーの言葉に2人はそう返し、溜息をつく。

「ゴメン・・・何かいろいろ考え事あって」
「僕は少しイライラしてて・・・ゴメンねハッピー」
「オイラ相談のるよ」
「うん・・・いいの・・・ありがとう」
「本当に助けが必要になったら頼るね」

そんな会話をしながら食事を再開しようとした、その時。

「ねぇ、ロキ来てる?」
「!」

突然仮設カウンターにたくさんの女の子が詰めかけてきた。
全員がヒステリックにロキの名を呼ぶ。

「ロキは?」
「ひどいわ、ロキってば」
「何よアンタ達」
「アンタこそ」
「ロキ~、どこ~」

全員がロキを呼ぶが、泣く者、他の女に食って掛かる者・・・と種類は様々だ。

「何アレ」
「町の女の子達だよ」
「皆自称ロキの彼女みたいだね」

女の子たちは一気にカウンターにいたミラに食って掛かる。

「昨日の夜突然別れようって」
「キー!くやしいけど私もよ」
「私も」
「アタイも」
「何で急にこんな事言いだすのよ!」
「もしかして本命が現れたの!?」
「誰!?このギルドにいるの!?」
「さ・・・さあ・・・いや・・・」

あまりの剣幕にミラもたじたじになる。
・・・が、こんな剣幕の女の子達をいとも簡単に一掃する救世主が現れたのだ!

「ティア~、助けて~」

そう。
救世主とは、丁度ギルドに来たティアである。
そしてミラが助けを求めたのが『女』であった為、女の子たちは今度はティアに食って掛かる。

「何、あの女~」
「胸でか」
「まさか、ロキの本命って・・・」
「ちょっと!顔見せなさいよっ!」
「な、何なのアンタ達!ちょっ・・・」

凄い勢いで自分に飛び掛かる女の子達に成すすべなく帽子を取られるティア。

「さあ!顔を見せなさ・・・い・・・」
「ぁ・・・」

が、そこにあった顔を見て女の子たちは言葉を失った。

「初対面の人間にこんな事するなんて、アンタ達・・・人としてどうなの?」

不機嫌そうな表情をするティアは・・・紛れもなく美少女だからである。
長く贅沢な睫毛に縁どられ、大きく、光を浴びて宝石のように光る群青色(ラピスラズリ)の瞳。すっと通った鼻筋。小さくきゅっと結ばれた唇。若干桃色に染まった頬。少しの幼さを残しながらも凛とした雰囲気の顔立ち。
そして群青色(ラピスラズリ)のカーリーロングヘアに完璧という言葉が何よりも似合うプロポーション。

「・・・こ、こいつが・・・」
「ロキの、本命・・・?」
「か、勝てる訳ない・・・」

まぁそうだろう・・・いろんな意味で。
が、彼女たちは1番言ってはいけない一言を言ってしまったのだ。
女たらしが嫌いなティアに、禁句を。

「誰が誰の本命ですって?もう1度言ってごらんなさい」

その瞬間、マグノリアの気温が5度ほど下がった・・・気がした。

「ひっ・・・」
「し、失礼しましたーーーーーーーっ!」

ティアの放つ殺気には勝てず、女の子たちは一目散に駆けて行く。

「・・・ふぅ」

殺気を放出し終えたティアは、何事も無かったかのように仮設カウンターでミラに頼んだアップルティーを啜った。









「・・・という訳なの、クル爺」
「ほマ」

その頃、ギルドから自分の家に帰ってきたルーシィはルーとハッピーと共に自分と契約する南十字座のクルックス、通称『クル爺』を呼んでいた。

「あたし・・・ついカーッとなっちゃって、手をあげちゃったけど・・・なんかだんだん冗談じゃなかったような気がして・・・」
「ほマ」
「クル爺の力で過去にロキと関係のあった星霊魔導士、調べられない?」
「ほマ」

フワフワと浮くクルックスは、しばらく沈黙すると・・・

「ぐー、ぐー、ぐぅー」
「寝てるよルーシィ!」

寝た。

「大丈夫・・・検索中だから」
「うそだ!絶対寝てる!」
「寝てる様にしか見えないよっ!」

ハッピーとルーの言葉に、ルーシィは口を開く。

「クル爺は星霊学のスペシャリストなのよ。星霊界と人間界をつなぐ(ゲート)の情報は全て持っているの。過去にどんな星霊魔導士が何の星霊を呼びだしたかまで解っちゃうんだから」

ルーシィの説明が終わったと同時に、クルックスはこれでもかというほど目を見開いた。

「ティアァーーーーーーオッ!」

その目の見開きと共に、大声で叫ぶ。

「クル爺、何か解った!?」
「ほマ」

見慣れているルーシィは冷静だが、初めて見たハッピーはルーシィの腕にしがみ付き震え、ルーはベットの上に座ってクルックスを指さして震えていた。

「個人情報保護法が星霊界にも適用されてますのであまり詳しくは申せませんが、ロキ様と関係のある星霊魔導士はカレン・リリカ様でございます」
「カレン・リリカ!?」

その名前を聞いたルーシィは驚愕した。

「知ってるの、ルーシィ」
「めちゃくちゃ有名な星霊魔導士よ。すっごい美人で昔はソーサラーのグラビアとかやってたもん」
「へぇー」
「でも・・・何年か前に仕事中に亡くなっちゃったの」
「ギルドの魔導士だったんだ」
「うん・・・確か、青い天馬(ブルーペガサス)だったと思う」

青い天馬(ブルーペガサス)
マスターはボブ。美男美女しか入れないギルドだ。

「ねぇ・・・そのカレンとロキがどう関係してるの!?」
「ほマ、これ以上は申し上げられません」
「ちょっと!」

すると、クルックスは再び寝た。

「あ!そう言いつつも検索してる」
「なーんだ、びっくりした~」
「いや・・・寝てるわね」
「「え!?」」

先ほどの検索している時と全く同じ寝方なのに、今回は寝ているという事に驚くハッピーとルー。

「カレンとロキ・・・」

呟いてみて、ルーシィの頭にあの時のロキの言葉が蘇える。

『僕の命は・・・あとわずかなんだ・・・』

「あれ?」
「どうしたのルーシィ」
「何だろう、この違和感」

その違和感の正体を必死に確かめようと、ルーシィは頭を抱える。
と、そこに・・・

「ルーシィ、大変だァ!」
「ひィ」

凄まじい勢いでグレイが入ってきた。

「ロキが妖精の尻尾(フェアリーテイル)を出て行っちまった!」
「え!?」
「どういう事!?」

グレイの言葉に目を見開くルーシィ、ルー、ハッピー。
ルーシィはベットの近くに置いてあったブーツを履き始める。

「な・・・何で!?」
「知らねぇよ。今皆で探してんだ。アイツ・・・ここんトコ様子おかしかったからな」

勘の鋭いグレイはティアのように気づきはしなかったが、様子がおかしい事には気づいていたようだ。
それを聞いたルーシィは立ち上がる。

「まさか・・・」
「オイ!ルーシィ!どこ探しに行く気だ!」
「僕が追いかける!グレイは皆のトコ戻って!」
「お、おう!」









マグノリアでロキを探す声が響く中、ロキはとある場所にいた。
幾千もの星の光を浴び、美しく流れる滝に囲まれる場所。
そしてその中央には・・・ひっそりと建てられた、1つの墓。

「皆、探してるよ」
「ここにいたんだ。ルーシィの言った通り」
「ルーシィ!ルー!」

するとそこにルーシィとルーがやってくる。

「カレンのお墓でしょ?ここって」

その言葉に、ロキはサングラスのブルーレンズの奥の目を見開いた。

「星霊魔導士カレン。あなたの所有者(オーナー)よね」

そしてルーシィは・・・言った。








「星霊ロキ。ううん・・・本当の名は、獅子宮のレオ」








「・・・よく気付いたね・・・僕が星霊だって」
「あたしもたくさんの星霊と契約してる星霊魔導士だからね。あなたの真実に辿り着いた。でも・・・もっと早く気付くべきだったんだよね」

そう言いながら、一歩一歩ロキに近づいていく。

「本来、鍵の所有者(オーナー)が死んだ時点で星霊との契約は解除される。次の所有者(オーナー)が現れるまで、星霊は星霊界に強制的に戻されるの」

滝と滝の間から、カレンの墓が見える。

「カレンが死んで契約は解除されたはずなのに、あなたは人間界にいる。何らかの理由で星霊界に帰れなくなったのね」

ロキは微笑みを浮かべたまま、答えない。

「人間が星霊界で生きていけないように、星霊も人間界で生きていけない。生命力は徐々に奪われ、やがて死に至る」
「もう3年になるよ」

ロキはどこか他人事のように、告げた。

「3年て・・・!1年でもあり得ないのに」
「あぁ・・・もう限界だよ・・・全く力が出ないんだ・・・」

ルーは星霊魔導士ではない。
だから、ロキに出来る事も何もないのかもしれない。
でも仲間だから助けたいと、必死に叫ぶルーシィを見ていた。

「あたし・・・助けてあげられるかもしれない!帰れなくなった理由を教えて!あたしが(ゲート)を開けてみるから!」
「僕もっ!ルーシィが(ゲート)を開けるまで君に魔力を与えてみるから!」

ルーシィとルーが必死に叫ぶが、ロキは変わらず答えた。

「助けはいらない」
「何言ってるの!?このままじゃ、アンタ本当に死んじゃうのよ!」
「そんなの嫌だよ!絶対僕達が星霊界に・・・」
「帰れない理由は単純なんだ」
「「!?」」

ロキの言葉に、2人は口を閉じた。

所有者(オーナー)と星霊の間の禁則事項を破ってしまったんだ。結果・・・僕は星霊界を永久追放となった」
「永久・・・追放?」
「それって・・・」

―――――――もう、星霊界には帰れないって事?
そう続けようとして、ルーは言葉を呑み込んだ。

「これは僕の罪だ。この『死』だって受け入れられる」

そう言うと、ロキは表情1つ変えずに・・・言い放った。











「僕は裏切り者の星霊だ。所有者(オーナー)であるカレンをこの手で殺した」










その言葉に、ルーシィとルーは言葉を失い、目を見開いた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
関係ない話ですが、「ビンタ」って「平手打ち」って意味じゃなかったんですってね。
鹿児島あたりの方言で「頭」って意味らしいですよ。

感想・批評、お待ちしてます。 
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