| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

A's編 その想いを力に変えて
  44話:少し遅れたクリスマス会

 
前書き
 
時間かかりました。申し訳ないです。
それと…またもこんな展開にしてしまい、申し訳ありません。
  

 
 

倒れた士を抱え、アースラへ帰還したなのは達。
その間に、はやても大出力の魔法を使用した疲労で倒れてしまう。ユニゾンを解除したリインフォースがすぐさま抱え、今では士と共にベットの上。

そのはやてが眠るベットの周りに、ヴォルケンリッターの四人とリインフォースがいた。

「やはり、破損が致命的な部分まで至っている。防御プログラムは停止したが、歪められた基礎構造は変わらない。私は…“夜天の魔道書”本体は、遠からず新たな防御プログラムを生成し、また暴走を始めるだろう」

はやてを正面から見るリインフォースは、シグナム達に静かに事実だけを伝える。

「やはり、か…」
「修復はできないの?」
「無理だ。管制プログラムである私の中からも、“夜天の書”本来の姿は消されてしまっている」
「元の姿がわからなければ、戻しようもない、ということか…」
「そういうことだ」

修復や復元をするには、どうしてもその元の形を把握しておく必要がある。しかし今ではその原型すらもわからないのだ。修復しようにも、それすらもできない。

「主はやては…大丈夫なのか?」
「何も問題はない。私からの浸食も完全に停止しているし、リンカーコアも正常だ。不自由な足も、時を置けば自然に治る筈だ」

それを聞いた四人は一様に安心した顔をした。

「そう…。じゃあ、それならまぁ…よしとしましょうか」
「あぁ、心残りはないな」
「防御プログラムのない今、闇の書の完全破壊は簡単だ。破壊しちゃえば暴走することもない」

だが、それはその場にいる五人の消滅も意味していた。
元はと言えば闇の書のプログラムだったヴォルケンリッターの四人。本体がなくなれば、自ずとプログラムも消滅…つまり四人も消滅する。

「いいや、違う」

それを自覚し、暗い表情をしていた四人に、リインフォースは否定の言葉を放つ。

「お前達は残る。逝くのは……私だけだ」


















防御プログラムを破壊したその日から、約五日が経った。

「―――…三度この天井か…」

ベットの上でぼんやりと視界に入るものを眺めながら、小さく呟く士。

「二度ある事は三度あるというが……さて、仏の顔も三度まで、となるかどうか…」

と言いながら、士は体を起こし、ベットから降りる。
そのときを見計らってか、その部屋の扉が開く。そこには白衣を着た医師と、クロノが立っていた。

「士、起きてたのか?」
「つい今しがた。体の方は結構辛いけど、頭はしっかり動いてくれているよ」
「それはよかった」

その後、やってきた医師の簡単な診察を受けて、目立ったものは見られなかった。

「まぁ、また後で詳しい検査を受けてもらうけど……君は何とも運がいいのか、鼻が利くのか…」
「…?」
「いや、こっちの話だ」


















やっと戻って来られましたジ・アース!大地を踏みしめる感覚…う~む、懐かしい感じだ。

「…んで、なんで場所が月村邸なのかね。しかもお前も一緒とか」
「何か問題でも?」
「いや、ありまくりだろ」

検査も終わって、戻ってきたのはいいのだが、すぐさまなのはに呼び出されてしまった。しかも場所がすずかの家。さらには行こうとするとクロノまで付いてくる始末。

「お前すずか達のこと知らんだろ。完璧魔法関係だし、いいのか?」
「そこは問題ない。それに……まぁ着けばわかるだろう」

思わせぶりな事を言いやがって、クロノのくせに。
そう思いながら、やって来たバスに乗って、月村邸へと向かった。








間省略して、着きました月村邸。
早速呼び鈴を鳴らし待っていると、いつも通りメイド長のノエルさんが出て来て、案内をしてくれた。

向かったのは両扉の部屋。月村邸にはいくつも部屋はあるが、ここはおそらくまだ入った事のない部屋だった筈だ。

「……入らないのか?」
「逆に聞くが、俺が開けていいのか?」

クロノは俺の質問に、首を軽く縦に振る。……って待てよ?ここの事はあまり知らない筈のクロノに聞いては意味がないのでは?

………いや、止めよう。ノエルさんの案内に従ってここに来たのだ。あまり疑うような事はしないでおこう。
そう思って俺は両手を扉の取手にかけ、思いっきり引く。


……ビクともしない…


「…士様、その扉は押して開くものです」
「ですよね!」

それを見かねたノエルさんの言葉に、俺は大きな声を上げる。そういうのは早く言って欲しかったな、ノエルさん!
その横でははぁ~、と深めのため息をつくクロノがいる。

「…まぁ、気を取り直して」

俺は再び腕に力を込めて、今度はちゃんと扉を押し出す。


―――パン、パパン!


「「「「「メリークリスマース!」」」」」」


次の瞬間、俺の目の前にきらびやかな紙テープが、大きな音と共に降り注がれる。
目の前には、車いすに乗るはやてを中心に、なのはとフェイト、すずかにアリサが入り口を囲むように陣取っていた。そして火薬のにおいが、甘い何かのにおいと共に俺の鼻をくすぐる。

「……士君?」
「だ、大丈夫…?」

あまりの急な出来事に、言葉を失っていた俺に、なのはとフェイトが声をかけてくる。

「あ、あぁ…まぁ、大丈夫だと…思う…」
「あらら、こりゃダメだわ」
「あはは…」

歯切れを悪くする俺に対し、アリサは呆れた声を上げ、すずかは小さく笑っていた。
よく周りを見ると、士郎さんや桃子さん達高町家、リンディさんやエイミィ、アリサ家の皆さんや、忍さんもいる。他にもアースラクルーがちらほら。
その中心には、巨大なケーキのタワーがそびえ立っていた。

「え~っと…これは?」
「そう言えばまだ説明してなかったわね」

俺の疑問に答えてくれたのは、腕を組むアリサだった。

「この前のクリスマス、私やすずかはなんだかわかんなかったし、ちゃんとお祝いできなかったでしょ?今日はその代わり」
「代わりってお前……」

俺は目線をなのはやフェイトに向けて、無言の疑問を投げかける。

「大丈夫。ここにいる皆には、魔法の事は話してあるから」
「おいおい……」
「まぁ二人は私達の戦いを見てた訳だし、いつかはちゃんと話さなきゃいけなかった訳だし…」
「そんな訳で、士にも色々聞きたい事もあるし、丁度はやても外出許可取れたし、アンタも目を覚ましたってことで」

色々ある訳だ。まぁ士郎さん達に話したのだったら…リンディさんのことだ、ちゃんとした話をしたいだろうから、それも兼ねてだろうな。

「だからそういう事で……少し遅めの、クリスマスパーティーよ!」


















「それでは交流会改め、クリスマスパーティーを始めま~す!」
『かんぱ~い!!』

準備が整い、リンディさんが乾杯の音頭を取って、パーティーが開始された。
大人達はそれぞれ好みの酒を手に談笑。お母さん同士の会話や、男達の酒の飲み比べなども始まっていた。

「んで、アンタはなんであんな姿になれんの?」
「それは…魔法です」
「それで、あの変な姿をした奴らは?」
「悪い奴らです…」
「なんでアンタが戦ってるの?」
「それが俺の……使命、みたいな?」
「何それ」

そんな中、俺はただいま絶賛尋問中。されてる方ですけどね。

「まぁアリサちゃん、一応なのはちゃん達と同じ、魔法を使ってるってことだからさ、あんまり深く考えない方が…」
「まぁ…確かにそうかもしれないけど…」

すずかの言葉に、納得の行かなそうな顔をするアリサ。

「何なら今見せようか?」
「「え?」」

そんな二人に俺はそう言葉をかけると、二人は間の抜けた声を上げる。

「トリス、頼む」
〈 All right 〉

右手首にあるトリスに声をかけ、ディケイドライバーへ変え腰に当てる。
出現したライドブッカーを開き、一枚のカードを取り出す。

「まぁ見てろ」
〈 ATACK RIDE・CONNECT 〉
〈コネクト・プリーズ〉

その音声と共に出現した魔法陣に手を突っ込み、掴んだ物を引っこ抜く。
俺の手に収まっていたのは、マゼンダ色の二眼レフトイカメラ。

「あ、それ…!」
「士が使ってるカメラ…」
「え?私これ見てへんよ?」
「あぁ、はやてには見せた事なかったな。まぁ丁度忘れてたと思ってた所だし」

そう言ってカメラを構え、四人の姿をレンズに納め、シャッターを切った。

「へ~、珍しいカメラ使うとるんやな」
「あぁ、俺のお気に入りだ」
「いつも使ってるよね~」
「私と始めて会った時も使ってたよね」
「始めて会った時、ってどんなだったの?」
「えっとね…」

とまぁ話題はずれながらも、会話が弾んでいた。
な、なんとか尋問は回避できた…かな?

「まだまだ聞きたい事はあるんだからね」
「え~…」
「返事は?」
「はい…」


















そんな五人の戯れを、大人達はニヤニヤと笑いながら見守っていた。
勿論、ニヤニヤは酒が入っている所為もあるが…。

「子供は元気でいいですわね~」
「そうですね~」

そう話すのは、リンディと桃子の母親コンビ。二人の目に映っているのは、士を中心に戯れる子供達。

「フェイトちゃんって、ほんといい子ですね」
「えぇ、まだ娘になった訳じゃないんですけど…今ではもう、家族みたいなものですから」

そこらへんの事情も、詳しくはないが二人の間で色々と伝わっていた。

「後はフェイトさんがどう決断してくれるか、ですね」
「あの子、とっても優しい子みたいだし…きっと応えてくれるわよ」

それにしても、と桃子は切り出し、話題を変える。

「士君の周りには、よくあれだけの可愛い子達が集まるわね」
「えぇ。あの子達はまだ“恋”というところまでは行ってないみたいですが…そういう経過を見るのも、楽しみですね」
「ですね~」

と、二人の間で色々と話が盛り上がっていた。








「ふ~ん……魔法って言っても、色々あるのね」
「そういうこった。まぁ、俺の場合の方が特殊で、なのは達の方が普通の魔法、なんだけどな」

こ、これで長い長い説教も終わり、ようやく一息つける。

「お疲れさま、士」
「よう、淫獣フェレットもど―――」
「まだそれいうの!?」

そこのタイミングを見計らってか、さっきまでアースラの人達やエイミィと話していたユーノがやってきた。

「い、いい加減その言い方止めて欲しいんだけど…」
「ユーノよ、それは無理な話だ。それはもう、この俺にいじられるようなネタを知られた時点で、諦めるべきだ」

「―――…ユーノ?」

と、俺とユーノが話していると、常人以上のスペックを誇るすずかが口を挟んで来た。おそらく、なのは達と会話しつつも、そのよく聞こえる耳が俺達の会話を拾ってしまったのだろう。
すずかの意識がこっちに行ったのに気づいてか、他の四人もこっちに視線を向ける。

「あ、そうだった。まだちゃんと説明してなかったね。実は―――」
「な、なのはストップ!そ、それ以上はマズいy「だまりんしゃい」ゲフッ!?」

状況を察してか、なのはがユーノの事を説明しようとする。それを阻止しようとするユーノだったが、それを見逃す俺じゃない。止めに入ろうとしたユーノの後頭部に手刀を入れる。

「ユーノ君は実は、春の頃私達が拾ったフェレットだったんだよ」

なのはもなのはで、無邪気な笑顔でアリサとすずか、はやてに説明する。その間もモゴモゴと動くユーノだったが、俺が口を手で遮りながら取り押さえていた。

「へぇ~、そんな事があったんか~」
「あのフェレットが…?」
「うん。あのときは魔法を使ってフェレットになっていたんだけど、最近はそうでもなくてね」

なのはの説明や思い出話がちょくちょく入りながら、会話は進んでいく。さて、誰が最初に気づくかな?

「ちょ、ちょっと待って!あのフェレットのユーノは…男の子のユーノでもある、ってことよね?」

お、最初はやっぱりアリサだったか。

「つまり…私達が一緒に温泉に入ったフェレットも…アンタって訳!?しかもなのははそれを黙って…」
「で、でも私はその頃まだユーノ君が男の子だった知らなかったから…」

なのはのいい訳らしい言葉も、ユーノからしてみたら、なのはから見捨てられた事を意味する言葉でもある。その証拠に、ユーノの顔から血の気が少しずつ引いていく。
俺はこの件の成り行きがなんとなくわかったので、潔くユーノから離れる。だがユーノ自身も、もうジタバタしている訳でもなく、ただ視界に入る少女の気迫に飲まれていた。

「という事は……全面的にアンタが悪いってことね!」
「ち、ちがっ!誤解だ!い、いや誤解というより、あれは君が主に無理矢理…」
「問答無用!女の子の裸を見て、許される訳だいでしょ!」
「そうや!この女の敵め!」
「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ…!」

怒りに身を任せ、床に転がるユーノを蹴るアリサと、何故かそれに加わり、蹴れない代わりと言わんばかりに、何処からか取り出したハリセンで叩くはやて。それを無様に食らい続けるユーノ。遠目からでも、既にボロボロなのがわかる。

「ありゃりゃ、こりゃ大変」
「元はと言えば、士がこの原因を作ったんじゃ…」
「どうせ悪いのアイツだし、別によくね?」

そう心配そうに聞いてくるのは、やっぱりフェイトだったりする。

「お前はいつもながら人に対して優しいよな。ま、別に悪いことではないからいいけど」
「そ、そう…かな…?」

フェイトは俺の言葉を聞いたせいか、顔を俯かせてしまう。横目で確認した限りでは、顔を赤らめていた。
そんなフェイトをよそに、俺はユーノの行く末を見届ける。はやてとアリサが殴るのを、なのはとすずかが止めに入っていた。

「……ねぇ、士」
「ん?どうかしたか?」
「なのはやはやてには話したんだけど…」

突然声をかけられ、フェイトを見ると、その顔はさっきと違って真剣な眼をしていた。

それからフェイトの口から話されたのは、俺が闇の書に吸収された後、自分も吸収されたという事と…そこであった“夢”のこと。

「あのとき、私はアリシアに会ったの。そこではアリシアだけじゃなく、母さんやリニスもいて…」
「………」
「母さんは、優しくて…リニスは、私の思い出のままで…アリシアは、かわいくて…」

そう語るフェイトの顔は、とても柔らかいものだった。

「はやてが言ってたんだ。闇の書が見せる夢は、その人の心の一番柔らかくて、もろい部分を捉えるって…」
「……だけど、お前はこの世界を選んだ。そうだろ?」
「うん……なのはやリンディさんやクロノ、そして士が……皆がいるこの世界に、帰ってきたいって思ったんだ」

一番柔らかくて、もろい部分。それはある意味、自分の心の奥底にある、自分が望む世界。たとえ本人にその自覚がなかったとしても…闇の書の夢は、それを捉え映し出す。
そんな世界からフェイトは、自分の世界に帰って来た。

「……お前は、ほんとに強い奴だな」
「え…?」
「今まで見られなかった優しい母親や、会った事のない可愛い姉がいる世界。普通そんな世界あったら、そこに残りたいと思うだろ。それでも、お前はここに戻って来た。だからお前は強い心の持ち主だ……俺はそう思うよ」
「そ、そう…かな…?」

俺の言葉を聞いたフェイトは、恥ずかしがりながら頬をポリポリとかく。

「…夢の中でね、アリシアと“さよなら”をしたの。それから、“ありがとう”と、“ごめんね”も…ちゃんと言えた。アリシアも、私を“妹”と呼んでくれて、“いってらっしゃい”って…言ってくれた」
「……ん…」
「だから、私はやっと…“アリシア・テスタロッサのミスコピー”じゃなくて、“フェイト・テスタロッサ”になれたんだ」
「…俺は最初っからそうだと言って来たつもりなんだけどな」
「あ、いや、士の言葉を疑ってた訳じゃないんだよ!」

そう言って手を振りながら慌てふためくフェイト。なんだ、そんな慌てて。

「…でもやっぱり、心の奥でどうしても引っかかってたんだ。私は、本当にどういう存在なのか。本当に、ここにいていいのか…とか」
「……そうか…」

そうだな、と俺はある決意をして、口を開く。

「まぁ…無理はするなよ。辛かったり悲しかったりしたら、遠慮なく俺達を頼れよ」
「……士…」

俺はそう言って、フェイトの頭にポンと手を置く。

「ふぇ!?」
「倒れそうだったらいつでも支えてやる。挫けそうだったら何度だって手を差し伸べてやる。俺だけじゃない。なのはもはやても、魔法の事を知ったアリサやすずかだって、そうしてくれる筈さ」
「……うん…ありがとう、士…」
「礼を言うのは俺の方だ。お前らのおかげで、闇の書から出られたんだからな。ありがとな」
「い、いや…そんなこと…」

笑ってそう言うと、フェイトは顔を俯かせて頷いた。

[つ、士!た、助けてよ!この子が…アリサが止まらないぃぃ!!]

その時唐突に聞こえた念話に驚き、その念話を繋いできた本人を見る。
ボコボコと昔風の喧嘩風景を繰り広げるアリサ。それを側でオロオロしながら止めようと必死になっているなのはとすずか。

「…は~、何やってんだか…」
「そ、そんな言ってる場合じゃないよ!アリサを止めないと!」

俺がため息まじりに言うと、フェイトは慌ててアリサ達の元へ向かっていく。あいつはやっぱり優しいな。親友の淫らな姿を見られたのに、その見た奴を助けようとするなんて。
そのとき、この光景にどこか違和感を感じた。何か足りなくなっているような、そんな感覚だ。

「門寺」
「?あぁ、シグナムか」

丁度そのとき、背後から聞き慣れない言葉をかけられた。振り向いて見ると、そこにはピンクのポニーテイルを揺らすシグナムと、その側にヴォルケンリッターの面々が並んでいた。

「どうした?そんな驚いた顔をして」
「いや…名字で呼ばれるのは慣れてなくてな。少し戸惑った」

少し笑いながらそう言うと、シグナムも小さく笑みを浮かべた。

「そうか、それじゃあ士と呼んでおいた方がいいか?」
「いや、好きに呼んでもらって構わないさ」
「そうか。それでは、そうさせてもらおうか」

そう言えば、とシグナムは話を切り替えてくる。

「そういえば門寺、お前との決着もまだついていなかったな」
「そうだな。いずれは、とは思っている」
「それは楽しみだ」

シグナムはそう言って、わざとらしく俺の横を通る。それと一緒にヴィータやシャマルさんも側を通っていく。

[―――…主がお前に用があるそうだ。庭で待ってる、と言っていた]
[…そうか、ありがとよ]

通り際にシグナムが念話でそう伝えて来た。
俺は一度ゆっくりと目を閉じてから、はやてが待つという月村邸の庭へと向かった。








庭を吹き抜ける冷たい風で体を振るわせながら、風になびく芝生の上に足を踏み入れる。
視界の先には背もたれに頭を乗せて、ボケ~ッと夜空を見ているはやてがいる。

「…今日の星はどうだ?」
「…ん~、そやね。よぉ見えるよ。こんな豪邸だと、こんなにも綺麗に見えるなんて知らんかったわ」

急に声をかけられたにも関わらず、はやての対応は意外に冷静なものだった。
はやては車いすを動かして、俺の正面にやってくる。

「よう来てくれたな、士君」
「別に断る理由もないしな。礼は言わなくていいからな」

ほいよ、と俺は脱いだ上着をはやての膝の上にかける。

「え…?」
「寒いだろ?これで少しは足しになるだろ」
「えぇのにそんなん…」
「ていうか大体、外で会うっていうのがあれだろ。中で話はできなかったのか?」
「まぁえぇやん。こっちの方が雰囲気出るし」

そう言ってはやては俺の顔を覗いてくる。

「…あんな、士君―――」


「ごめん」


「―――ありが…ふぇ?」

頭を下げて礼を言おうとしたはやてより前に、俺は腰を曲げて謝罪をする。自分の言葉が遮られた事に、はやては驚いて目を丸くした。

「え?……えっと、え…?」
「話はクロノから概ね聞いてる。結局俺は……何も、できなかった」

俺は頭を下げたままそう言う。

はやての新たな家族となる筈だった存在……“夜天の書”の管制融合騎、リインフォース。
彼女は“闇の書”の完全破壊に伴い、その存在も消えてしまった。闇の書のプログラムだったヴォルケンリッターが残っているのは、リインフォースが闇の書から彼等を切り離したおかげだそうだ。

「俺が起きてれば、何かしてやれたかもしれないのに……俺は、また何もできずに…すまない…」


「―――…ほんま、クロノ君が言った通りになった」


「……は?」

先程まで黙って聞いていたはやてが唐突に発した言葉に、俺は戸惑いながら顔を上げる。そこには腕を組んで、明らかに怒ってますという表情のはやてがいた。

「クロノ君言うとったよ?『アイツの事だ。リインフォースの消滅を変に抱え込んで、バカな事を言ってくると思う』って」
「っ……」

クロノに先を読まれたのは癪だが、図星をつかれたのは確か。さすがに顔をしかめてしまう。

「それと、『そんなことがあった時は……』」
「……?」

はやてはそう言って俺の間近までやってくる。

「……こうやぁぁぁぁぁぁ!!」
「ぶべらっ!?」

そして次の瞬間、俺の視界に火花が散る。その衝撃に耐えきれず、尻餅をつく。そこでようやく、俺は頬をぶたれた事を自覚した。
原因は、と前を見ると、目の前にいるはやてがユーノを叩いていたハリセンを振り切っている姿があった。ていうか、どっから取り出した?!

「『思いっきりぶっ飛ばしとけ』とも言うとったよ!」
「あ、あの野郎…いつか絶対ムッコロす…!」

俺はハリセンで叩かれた頬を摩りながら、ゆっくり立ち上がる。

「それにしてもや…ほんと士君ってバカな人やね」
「は…?」
「何もリインフォースがいなくなったのは、士君の所為じゃないやないか」
「だ、だが俺がいたらリインフォースが救えたかも…!」
「そんな“たら”とか“れば”とか“かも”とか、一々考えてたらきりがないよ?」

それとも何か、と言いながらハリセンをトントンと手で弄ぶ。

「もう一発殴らなきゃわからんのか?」
「いえ、もう十分です…」

俺の一言に、はやては笑いながらハリセンをしまう。

「…私だって悔いがない訳やない。リインとの生活は、本当にこれからやった筈なんやから」
「はやて……」
「でもな…あの子、笑って逝ったんや。色んなもんを残して、な」

はやてはそう言いながら、首に下げられた剣十字に触れる。

「だからあの子の分も私達は幸せにならなきゃならへん」
「………」
「……まぁ、暗い話になってもうたけど、今はそんなん無しや!なんてったって今日は、クリスマス会なんやから」

少し俯いていたはやては、顔を上げて笑顔で言ってくる。

「…はやて……」
「だ〜か〜ら!そんな顔、クリスマス会には似合わへんよ!」
「あでっ」

眉を寄せていると、はやては再びハリセンを取り出し、今度は軽めに叩いてくる。
俺は側頭部を抑えていると、はやてに手を引っ張られた。

「さ、せっかくのパーティーや!楽しまな損や。士君、行こか!」
「あ、あぁ…そうだな…」

そして俺ははやてに手を引かれながら、再び月村邸へと戻った。








「主、戻られましたか」
「うん、ただいまシグナム」

パーティー会場の部屋へ戻ると、すぐ側にシグナムが立っていた。

「それじゃ、私もなのはちゃん達に混ざろうかな!」

はやてはそう言って車いすを転がして、ガヤガヤと話しているなのは達の所へ向かっていった。

「………」
「…どうした門寺。浮かない顔をして」
「…いや……」

俺の顔を見たシグナムはそう言ってくる。俺はシグナムのいる側とは別の方向へ顔を背ける。

「リインフォースを救えなかった事を、悔いているのか?」
「っ……」
「…図星、か」

またも図星をつかれ、しかもそれを言葉にされた。

「…そう言えば、お前にリインフォースからの伝言を言付かっている」
「リインフォース…から?」
「あぁ」

シグナムの言葉に反応して、シグナムに向き直る。シグナムはというと、先程までこちらに向けていた視線を、はやて達のいる方向へ向けていた。

「…『お前には、主の事を気遣ってくれた事に感謝している。お前のお陰で、主の心に大きな光がある。その光は、そこにあるだけで主を支えてくれるだろう』、と」
「……そう、か…」

『光』、か…。そんな大それたもんが、俺のお陰で生まれたとは考えがたいな。

「―――…それとな」
「…?」

顔を俯かせていた俺に、シグナムは尚も続けて口を開く。俺は顔を上げて、再びシグナムの顔を見る。

「『主の事を、よろしく頼む。無茶をしないよう、支えていて欲しい』…とな」
「っ!?」

シグナムの言葉に、俺は声を詰まらせた。そして視線をシグナムからはやてへと向ける。
なのは達としゃべりながら、笑い声を上げるはやて。最初に会った頃とは、全く違う笑顔だ。

「…門寺。私達もお前に感謝している」
「え…?」
「主と私達が出会って、さらにお前が主と再開されてから、お前の話をするときの表情が柔らかくなった」

そう言いながら、シグナムは静かに笑う。

「これも、お前のお陰だ」
「………」

シグナムに向けていた視線を、またもはやてへ向ける。
そしてそうだな、と目を瞑りながら小さく呟く。

「俺も、少しは覚悟を決めないと、な…」
「門寺…」
「ありがとよ、シグナム。リインフォースの伝言を伝えてくれて」

俺は小さく微笑みながらシグナムに礼を言う。シグナムは少し目を見開くが、すぐに表情を和らげる。

「礼には及ばん。あいつの…リインフォースの願いだからな」
「家族に甘いのな」
「…そういうつもりではないが」

まぁ、それはあんたらしいよ。そう言いながら頭の中で考える。

(はやてを守る、か…)

それ以前に、俺はこいつらを傷つけさせるつもりはない。元より、アイツらの脅威からは必ず守るつもりだ。
そのうちに…勿論はやてもいる。彼女も俺にとっては、とても大切な存在なのだから。


「―――…守ってみせるさ。はやては勿論、フェイトも…なのはも…」


「…ん?」
「いや、なんでもない」

小さく呟いた声は、シグナムの耳には雑音のように聞こえたらしく、俺を見てくるが、俺は軽くあしらう。

「士〜!もうすぐビンゴ大会やるって〜!」
「こっち来なさいよ〜!」

そのとき、フェイトとアリサから手招きされる。

「お、それは楽しそうだな。…だが、ビンゴの紙もらってねぇぞ!?」
「紙なら私が持ってるよ!」
「ささ、早く早く!」

俺は少し焦りながら言うと、なのはとはやてが言ってくる。
ならいいか、と呟き、俺はシグナムに振り向く。

「お前はいいのか?」
「あぁ、私は遠慮しておく」
「そうか…」

俺はそう言って、なのは達の元へ走っていった。

  
 

 
後書き
 
しかし、作者はもう直き中間試験。更新が先になると思います。
  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧