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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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A's編 その想いを力に変えて
A's~オリジナル 日常編
  45話:冬といえば雪

 
前書き
 
帰ってきました!皆さん、お久しぶりです!

今回からのいくつかは、サウンドステージまでの数ヶ月の話です。ぶっちゃけ言うと、糖分増やしていきます(笑)
甘めなのはあまり慣れていないので、変な感じになるかもしれませんが……その時は感想くださいね。

では、どうぞ。
  

 
 

一日中騒がしかったクリスマスパーティーから数週間が経った。

除夜の鐘を皆で聞いたり、初詣に皆で行ったり、俺が雑煮の餅をのどに詰まらせあわやという所まで行ったりと、年末年始を色々とのんびり過ごしていた。
因にのどを詰まらせた時、キラキラ光る川と綺麗な花畑を一瞬見た気がしたのは、ここだけの秘密。

そして現在、俺達…いや、正確には俺は……


「イィィィヤッフゥゥゥゥゥーーー!!」


日光で白銀に光る斜面を、奇声を発しながら駆け下りていた。
俺の両足には一枚の板。体の状態を横向きにして、バランスをうまく取りながら左右に動く。

そこへ目の前に小さく盛り上がっている斜面を確認。すぐさま体勢を低くし、板が乗り上げたと同時に、

「はっ!」

飛び上がるように跳ねる。板は斜面から離れ、一瞬飛んでいるような錯覚に陥る。
板の先端を掴み、着地直前には放す。膝を曲げて着地の衝撃を和らげる。

「よし…!」

体が温まってきたのを感じ始めていると、今度は視界の先にしっかりと整備された大きく盛り上がった斜面がある。

「行くか…!」

俺はニヤリと笑いながらその丘の正面へと移動する。斜面を登る前に体勢を低くし、少し速度を上げる。

「はぁあっ!」

そのスピードをそのままに、斜面を登り一気に飛び出す。先程よりも高く飛び上がった事を実感しながら、今度は先に地から離れた先端を上げて、後ろ向きに一回転してから着地。

「よっ!ほっと!」

続いて同じように盛り上がっている斜面から二度ジャンプを決める。一回は横に回りながら、二回目は先端を掴みながらのジャンプだった。

そのまま斜面を滑りきり、板を横にして動きを止める。それと同時にゴーグルを外す。

「ふぃ~、上手くいった…!」
「す、すごいね士!」
「さすがよね。ほんと、あり得ないぐらいだわ」
「お褒めに預かり光栄だよ」

一息入れていると、すぐ後方に止まったフェイトとアリサの二人から声をかけられる。どうやらこの二人はそれなりの速度で着いて来られたようだ。

「ていうか、フェイトは初挑戦だってぇのに上手く滑れるじゃねぇか」
「そ、そうかな?」
「あぁ。少なくとも、あそこで戯れている奴よりかはずっと」

俺はフェイトにそう言いながら、自分が立つ斜面よりも先に見える場所にいる人物を見る。

そこには毛糸の帽子を深めにかぶり、心配そうに後方を見るすずかと……相変わらず運動系が残念な子、なのはがいた。
そう思考している間にも、なのはは上手くバランスを取れず横に倒れてしまう。しかも顔が雪につくおまけ付き。

「毎年やってるけど、あれはもう仕様がないわよ」
「大切な親友に見限られるとは、彼奴も哀れだな…」
「あ、あははは…」

それを俺と一緒に見ていたアリサは呆れ、フェイトは力なく笑う。まぁ最初よりもマシであろう。当初は滑れもしなかったんだからな。

「うわっ!?」
「みぎゅぅ!?」

そこへ後方から変な奇声が聞こえてくる。誰かが到着したと思い振り返ってみると……

「お前らは何楽しそうに乳繰り合ってるんだ?」
「「楽しそうじゃない!それに乳繰り合ってもない!」」

そこにはウェアを着込んだユーノとクロノが転がっていた。しかも重なり合うように。

「ユーノとクロノって仲がいいよね」
「フェイト違うぞ。僕はこんな淫獣とは仲良くなった覚えはない」
「まだ言うか!」
「事実を言っただけだが?」

フェイトがその光景を見ながら言葉を漏らすと、上に乗っかっていたクロノはすぐに立ち上がり雪を払いながら言う。
ユーノもそれに対して立ち上がり、クロノとお互いに睨み合う。これはこれは……

「喧嘩する程なんとやら…」
「「士、それは違う!」」
「面白い程息ぴったりだなぁ」

実は仲いいだろお前ら。

「それはそれとして、クロノもユーノも滑れるんだな」
「あ、うん。なんとかね」
「君達のようにはいかないけど、な」

いやいや、それでも始めて数十分である程度滑れるのは、それなりにすごい方だと思うぞ?軽く説明してすぐ実践に移行したが、フェイトも含めた三人はすぐに順応してみせた。なのはに見せてやりたいぐらいだな……

因に、エイミィやリンディさんは美由希さんや桃子さんと一緒に滑っている。板はスキーで。
なのはは「今年こそと士君に付いていく!」と意気込んでいたが、結果は先程の通り。一人だとかわいそうだとすずかが残ってくれているが、成果はあまり見られない。

「まぁ、これでも発掘調査してたから、それなりに運動神経はあると自覚していたし…」
「僕もそれなりにな」
「そうかい。それはよかったな」

俺はそう言いながら外していたゴーグルを装着し、前を見据える。

「さて、それじゃ下まで行ってなのはとすずかを拾って上に行くか」
「なのは、大丈夫かな?」
「ま、それは上に行ってから心配することね」
「またぶつかってくるなよ淫獣」
「ぶつかって来たのはクロノの方だろ」

俺が軽くジャンプしながら後方に声をかけると、それぞれ反応を示す。まぁ。これなら心配ないな。

「それじゃ、行くぜ!」

ジャンプで前に飛び、そのまま斜面へ。重心を上手く操りスピードを上げていく。


















「うぅ…冷たい…」
「まぁあんだけ転けてれば、当然だわな」

リフトの上で頬を摩るなのは。俺はポケットを探りながら、隣に座るなのはに言い放つ。それが何か癇に障ったのか、なのは頬を膨らませた。

「だって上手く滑れないんだもん…」
「何年も滑ってるのにな」

カッカッカ、と笑いながら言った俺の一言にさすがに怒ったのか、頬を膨らませたまま今度はそっぽを向いた。はぁ…それぐらいで怒るなよ。

「なのは」
「……何…?」
「ほい。これやるよ」

そう言って俺はポケットの中から取り出した物をなのはに差し出す。
なのははそれをむくれたまま受け取り、視界に入れると少し驚いた様子でこっちを見て来た。

「チョコレート?」
「あぁ。いやだったらアメもあるが?」

ポケットの中からさらに取り出したアメを見せる。なのははそれを見るなり不思議そうに首を傾げる。

「なんでアメとかチョコを?」
「スキーとかスノボーって意外と体力持っていかれるんだよ。だからチョコとかアメを携帯しておいた方がいい。特に、体力にあまり自身のない奴は」
「むっ…」

持ってないなら数個持ってろ、と言いながらチョコとアメを数個渡す。

「ちゃんとポケットに入れて、時々食っとけ。主にリフトの上とかでな」
「ふ~ん……士君のは?」
「まだ十分ある」

なのはは納得した様子で受け取った菓子をウェアのポケットに仕舞い、一つのチョコの袋を開け口に入れる。

「…ありがとう、士君」
「どういたしたしまして」

少しは機嫌をよくしてくれたらしく、小さく礼を言ってくる。俺はウェアの下からトイカメラを取り出し、チョコを食べるなのはを撮る。

「やっぱ持って来てたんだ、それ」
「はやてに頼まれててな。撮ってきたやつ欲しいからできるだけ多く撮っておいてくれ、てな」
「そっか」

そう、今回の旅行には、月村家とバニングス家、俺を含めた高町家、フェイト、エイミィを含むハラオウン家の四家族合同の旅行となっているが……ヴォルケンリッターを含む八神家は不参加となった。はやて曰く自粛らしい。

「はやてちゃんも来ればよかったのにね」
「まぁ、本人達がああ言ってるんだ。しかたねぇだろ」

闇の書事件の後、はやてとヴォルケンリッターの四人は、クロノの計らいで管理局から保護観察を受ける事になった。管理局への従事、それが五人に提示された条件だ。
それに向け、五人はそれぞれ面接や試験などをこの年末年始に受けており、色々と忙しい身だったりする。

「それに、落ち着いて来たらまたやればいいんだからな、旅行ぐらい」
「そうだね。今度ははやてちゃんも誘って、また温泉でも行ければいいね」

そうこうしている間に、リフトはもうすぐ終着。俺はバーを上げてなのはを促す。

「それじゃ、今度はなのはに合わせて滑るかね」
「え、いいの士君?迷惑じゃない?」
「何を言うか。別にこんぐらいのことを迷惑に感じる程、俺は心が狭いつもりはない」

二人同時にリフトを降りて、板から外していた片足をきちんとはめる。

「それとも、俺だけ先に行って欲しいのか?」
「え、いやそんなんじゃ…」

そう言うと顔を少し俯かせて、手をもじもじさせながら小さく呟いた。

「お、お願いします…」
「はい、お願いされました」

とは言ったが、実はなのはの転倒シーンを撮ろうと思っていたりして。


















いや~、滑った滑った!やっぱ運動って気持ちいいな!

「んで、運動の後は…」
「温泉よね!」

俺の言葉を引き継ぐように言うアリサ。その後方にはまだ着ていない浴衣を持った面々が揃っていた。

「よし、安心して入ってこい」
「淫獣はこっちで取り押さえた」
「なんでストラグルバインドなんだぁぁ!?」

俺とクロノの足下には、水色のバインドがかけられたユーノが横たわっていた。

「僕はもうこの姿でもいられるんだから、ここまでしなくても…!」
「前科があるんだ。警戒しない訳にはいかんだろ」
「そうだ。外すのはせめて彼女達が温泉に入って、僕と士がちゃんと男湯に入れてからだな」
「あの~、そこまでしなくとも…」

その光景を見ていたなのはが口を出してくる。因にその側にはフェイトもいた。
まったくこいつらは……

「お前ら少しは人を疑うことを覚えた方がいいぞ。前科がある奴をよくもそんな風に許せるものだな」
「ごめんなさいごめんなさい反省してます許してくださいもうしませんのでその踏んでる足の力を緩めてくださいお腹にめり込んで痛いぃぃぃぃ!!」
「そ、そこまで反省してるんだし…ね?」
「う、うん…」

ふむ、確かに一理あるな。そう思った俺はユーノの腹から足をどかした。

「大丈夫よ、士」
「ん?何か対策があるのか、アリサ」

そこへアリサが結構自身あり気の顔をしてやってきた。

「こんな事もあろうかと、はやてからこれを借りて来てるわ」
「そ、そいつはいつぞやの…!」

アリサが取り出したのは、はやてが作り出したという例のハリセンだった。力加減で音の大きさが調節できるという、ネタとしてはかなりの代物だ。

「いざというときはこれでぶっ叩いてやるから」
「ふむ、それなら大丈夫か」
「いや甘いぞクロノ。防御魔法を使えば防げないこともない」
「あ、あの~…」

クロノと協議をしていると、すずかが恐る恐る手を挙げる。

「どうしたかしたか?」
「そこまでするんだったら、士君達が先に入ってくればいいんじゃ…」
「「……あぁ!」」

すずかの提案に、俺とクロノが声を上げる。確かにユーノを風呂に放り込んでからなのは達が入れば、万事OKという訳か!

「よし、それでいこう」
「そうだな。それじゃ悪いが、先にいかせてもらうよ」
「う、うん…」
「って士にクロノ!僕をバインドしたまま引きずって行くんじゃない!せめてバインド解いてよ!ねぇ!」

俺とクロノは手早く準備を済ませ、温泉へ向かう。勿論、大きな荷物(ユーノ)も忘れずに持って(引きずって)いく。足下が騒がしいが、この際気にしない。








綺麗にした体をゆっくりと湯船に沈めていき、同時に息を吐き出す。肩まで浸かったら、一度呼吸をして体の緊張を緩める。

「うん、やはりこの世界のこういう文化はいいもんだな」
「お、いい事言うなクロノ」

同時に入ってきたクロノも、リラックスした様子だ。そう言えばミッドでは温泉とかはあまりないのだろうか。さすがに風呂の概念はあるだろうが、そこら辺の事は聞いてないな。

「どうして僕ばっかあんな扱いをされなきゃいけないんだ……」

そう言って鼻の辺りまで浸るのは勿論ユーノ。その表情は、結構不満気であった。

「仕方ないだろ、何せ君には前科があるんだから」
「そもそも、お前がなのはに本当の事を言わなかったからあんな事になったんだろうが」

ユーノが元々人間で、性別が男だと知っていれば、なのはだってフォローしてくれただろうに。

「それは…そうだけど……」
「結局は自業自得だってことだ」
「ぐっ……」

俺の一言に声を詰まらせ、ユーノはそっぽを向く。

「まぁ事実だから擁護することもできないな…」
「………(ブクブク)」
「あ、沈んだ」

そしてクロノの言葉が止めだったのか、ユーノはそっぽを向いたまま頭まで湯船に浸ける。吐き出す息は泡となって浮き上がってくる。

「っておい、ユーノマナー違反だそれは」
「ぶはっ!」

さすがにそれは見過ごせず、頭を掴んで持ち上げる。息のできなかったユーノは、少し大げさに肩を上下させていた。

「温泉で頭まで浸かるのはダメだぞ」
「……はい…」

ユーノはそっぽを向いたまま返事を返す。そんなに気にしてんのかよ。

「過去は所詮過去。そこまで気にする必要はないんじゃないか?」
「気にさせているのは誰だとおもってるんだよ…」

その様子を見て笑みを浮かべながらクロノが述べる。

「にしてもよ」
「ん?」
「どうかした?」

湯船の淵に腕を置きながら、二人に声をかける。

「男三人の風呂シーンとか…絵にならんな」
「それは言わない方がいいじゃないかな…?」
「確かに…」

こうして男三人の湯煙物語はもう少し続いて行く。


















旅館の人々が寝静まる深夜。周りから聞こえる音は、木が風で揺れる音ぐらい。
しんしんと降る雪を眺めながら、旅館の自販機から拝借した炭酸飲料を口にする。

「ん……ふむ、やはり炭酸はマッ○が一番だな」

弱炭酸は偉大だ、と呟きながら、トイカメラを構える。そのレンズに捉えるのは、半円に光る月。
降りしきる雪も共に納めながら、シャッターを切る。

「ん~、雪の中に映る月もまた、味があるな~」

カメラを降ろし、再びペットボトルを持ち上げ口の中へ流し込む。

「ふ~…」
「……あれ、士?」

口からペットボトルを離しながら、息を吐く。するとそこへ背後から声をかけられる。
背後へ顔だけを向けて、その声の主を見る。そこにいたのは、いつもは二対に分けているその金色の髪を、今はまっすぐ降ろしているフェイトだった。

「あぁ、フェイトか。どうした、こんな時間に?」
「それはこっちの台詞だよ、士。いつもこんなに遅くまで起きてるの?」
「んにゃ、いつもはもうちょい早いさ」

今日はいい月だったから、ついな。そう続けて俺はカメラを構え、そのレンズで今度はフェイトを捉え、シャッターを切る。

「…どうだもう一枚。今度は月と雪を背景に」
「いいね。お願いしていいかな?」
「勿論。こっちから誘ったんだからな」

そう言いながら縁側から立ち上がり、フェイトと立ち位置を入れ替える。

「それじゃ…」
「うん」

俺がそう言うと、フェイトは笑顔を見せる。同時に、カメラのシャッターを切る。

「うん、いい笑顔だ。意外とストレートも似合うんじゃないか?」
「え?そ、そうかな…?」

フェイトの笑顔が撮れた事に満足し、俺は再び縁側に腰をかける。
それを見てフェイトも、俺の隣に腰を下ろした。

「…どうした?眠れないのか?」
「ううん、ちょっと目が覚めちゃっただけ」

言いよどむフェイトに「そうか」、とだけ漏らして、ペットボトルに口を付ける。

「…飲むか?」
「え?」

一口飲んで、フェイトに差し出す。フェイトは意表を突かれたように声を上げる。

「無理にとは言わないが…」
「あ、えっと…それじゃあ…もらいます…」

弱々しく俺の手にあるペットボトルへと手を伸ばし、受け取る。両手で大事そうに持ちながら、何か変な雰囲気でペットボトルを見つめている。

「…大丈夫か?」
「ふぇ!?あ、だ、大丈夫大丈夫…!」

フェイトは慌てふためき、声を荒げる。だがすぐに先程の状態に戻る。

「じゃ、じゃあ…」

恐る恐る、といった様子で炭酸飲料を喉に通す。

「んっ……これって…」
「あ、そうか。お前炭酸は初か?」
「う、うん…」

何か変に引っかかる感覚があったか、口に手を当てている。まぁあまり炭酸に慣れてないと、そうなるわな。

「あ、ありがとう…」
「おう」

フェイトからペットボトルを返してもらい、俺も一口口にする。

「…これって、間接キス…だよね…(ブツブツ)」
「ん?どうかしたか?」
「い、いや…なんでも…!」

何かフェイトが言ったようだが、聞き取れなかった。まぁ、なんでもいいけど…

「………」
「……士?」
「ん~?」
「何か…悩んでる?」

随分とあっさり心の奥を突っ込まれ、俺は思わずフェイトの顔をのぞいてしまった。

「…図星?」
「…はぁ~…ポーカーフェイスには自身ある方なんだけどなぁ……なんでわかった?」
「なんとなくそう思った」

なんだよそれ、と思いながら俺は天を仰いだ。未だに降り続ける雪の中、ただ月だけが空に光っている。

「やっぱり、リインフォースの事まだ気にしてる?」
「そりゃあ、表立ってないにしろ、あの事件でいなくなったのは、アイツだけだからな」

あの状態ではリインフォースを助けられなかったのは確かだ。でも、頭ではわかっていても心では割り切れない時だってある。それが…今なんだ。

「どうにも心残りが消えない。頭の片隅で、変な違和感があるんだ。割り切ろうとしても、どっかで引っかかる」

俺の横顔をじっと見つめたまま、俺の言葉に耳を傾けるフェイト。何か思ってか、今度はまっすぐ月を見上げた。

「…クロノがね、私となのはが士と同じように落ち込んでたときにね、言ってた言葉があるんだ」
「……奴は、なんて言ってた?」
「『過ぎた事をいつまでも悔やんでも、前に進む事はできない。なら僕たちが見るべきなのは後ろじゃなくて、むしろこれから先のことなんじゃないか?』って」

クロノの口調をフェイトは真似しながら言う。なんかその光景が、少し微笑ましく見えた。

「先、かぁ…」
「うん……」

俺達の間を過ぎる数秒の静寂。目先に見える風景は、音もなく動き続けている。
口火を切ったのは、フェイトだった。

「……士、私決めた事があるんだ」
「?」
「私、ハラオウン家に…お世話になる事にしました」

何故かかしこまって言われたフェイトの言葉に、一瞬目を開く。が、すぐにそれもなくなり、俺は小さく笑みを浮かべた。

「そうか、ついに腹くくったか」
「腹をくくった、とはまた違うと思うけど……うん、そう決めた」

それとね、とフェイトは続ける。

「執務官を、目指す事にしたの」
「クロノと同じ、か?」
「うん…」
「いいのか?クロノも言っていたが、結構きつい仕事らしいが…」
「わかってる。でも、私と同じような境遇の子供達を…自分と同じ気持ちになっている人を助けたい、救いたいと思ったから」

フェイトはそう言って、今度は俺の顔を覗いてくる。


―――士は、これからどうしたい?


フェイトの口から放たれた言葉が、俺の胸に突き刺さる。あまりに急な一言に、隙を突かれたとでも言おうか。

「……まだ、決めかねてるかな」
「…そっか」
「でもま、大元は同じになるだろうよ」

それしか、今の俺にできることはないからな、と心の中で呟く。

「それは士にとって、前に進んでる?」
「…あぁ。少なくとも、ずっと後ろを向いているわけにはいかないだろ」

後ろばっか向いていたら、救えるもんも救えないから……
俺は両膝に手を置いて、立ち上がる。

「もしかしたら、なんかあって一緒に仕事する事もあるかもな。まぁそん時は、よろしくな」
「うん。私からも、よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げてくるフェイトに、「おうよ」と笑いながら返す。頭を下げていたフェイトも、顔を上げて笑顔を見せた。
じっとしていた体を刺激するように、両手を組んで上に伸ばす。

「さて、そろそろ寝るか。明日も滑るぞ~!」
「士、今日やってたやつ、私にもできるかな?」
「フェイトならすぐできるかもな。なんなら教えてやってもいいぞ」
「うん、お願いします。私がんばる」
「ハハハ、その意気だ」

そうして俺達はそれぞれの部屋へ戻っていった。

 
 
 

 
後書き
 
次回は小説では二月十四日となります。

そう、二月!十四日です!!

わかる人にはわかると思います、はい。
しかし作者は男子校高校生。縁もゆかりもない日であります。なので、上手く書けるかどうかちょっとわからないですが、頑張ります。
  
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