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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
ロアナプラ編
  導入編 5-R話 買い物

『なるほどね、事情は概ね理解したわ。
そうそう、日本語と英語、どっちの方が話しやすいかしら』
『あまり変わりません、思考も会話もどちらも同じ様にできます』
「なら英語にしましょうか、私はこっちの方が慣れてるから。
で…そうね、レインはこれからどうしたいの?…一応聞いておくわ」
アイシャにはなんとなく想像はついている様だ。

「…本来の『私』なら、日本に行って記憶を探すのが一番だと思う」
普通に考えればこうだろう

「でも『その私』は『この私』に後を託して引きこもってしまっている。
ならどう生きるかは『私』が決めて良い筈」
目を閉じて一度深呼吸をする。

「『私』は…レインと言う人格は日本でまっとうに生きていける様に出来ていない」
そうだ、私はあの状況を生き残る為に『普通にできていない』のだ。

「私は進んで殺さない、でも殺す事を躊躇えない。
食事と寝床を得る為だけに私は人を殺せる様に出来ている…
私は銃の力を知り、硝煙と血に酔う事を覚えてしまった。
私は人間の恐ろしさの断片を知ってしまった。
私はもう銃を手放す事が出来ない、
身を守る術を持たずに他人と会う事が恐ろしくてしょうがない…」
無意識に私は銃を撫でていた。

「それはわかったわ、結論を聞かせて頂戴」
「だから『私』は日本に行っても結局は苦しんで此処に戻って来ると思う。
なら私は最初からこの街に生きてこの街で死にたい。
私は、レインとしての私は日本に行きたくない」

アイシャが深く頷いた。

「やっぱりそういう選択しか出来ないわよね。
もし記憶が戻ればその時またどうするか考えれば良いわね」
無言で頷く

「なら…そうね、まずは私から情報と技術を買って貴女の進路とジョブを決めるまでの拠点ね。
比較的安全な素泊まり安宿の紹介と仲介、七泊分の宿泊費込みで500ドル、
この街の基礎情報と住人なら誰でも知っている事で…500ドル…ここまでは良いかしら?」
アイシャが言うが…

「待った、基礎知識と誰でも知っている事の範囲と宿の安全性について詳しく」
ここを誤魔化されると情報を買う価値がない。

「うん、その確認は大切ね」
アイシャがニヤリと笑った。
試されていたのかもしれない。

「宿は鍵のかかる個室で、宿の人間に危害を加えられる心配をしなくていい。
また、金庫に入れておけば何かを盗まれる心配がない。
逆に言えば協力はしないにしても襲撃者から守ってくれないし、
貴重品を出しっぱなしにして外出すれば掃除婦に盗まれる可能性が高い」
こんな街でそれくらい安全なら十分だろう。

「この街の情報は…そうね、この街で生きている一般人(堅気の人間)なら誰でも知っている事全て。
これは一般人も知っている様な犯罪の手口と対策も含まれるわ」
欲しい情報には足りない。

「Mr.ロボスの様な人種については?」
「マフィアなんかについてはできるだけかかわり合いにならない様に生きる方法かしらね。
あと、やっちゃいけない事や近寄るべきではない場所ね」
「そっちの知識はいくらだ?」
「この街で生き残ってる裏の人間なら皆知っている、と言うレベルなら5000ドル、
知らずに裏社会に関わればその日のうちに死体になるような本当の基礎の基礎だけなら1000ドルね
ま、どうせ一般人の基礎知識と合わせたら1日で読みきれないだろうし、基礎の基礎までにしたら?
一週間以内に追加購入するなら4000で基礎まで売ってあげる。
うちの事務所の電話番号を教えておくから追加注文したら良いでしょ?
あと、ここまでの2000ドル分の情報を買うなら宿まで送ってあげるわよ、しばらく時間が空いてしまった事だし。
そうそう、途中でその血塗れのアロハシャツの代わりのまっとうな着替えも買える様に寄り道もしてあげるわ」
アイシャはそう言ってニコリと笑った。

思う事もあるが安全を買うべきだろう、そこらで合計100ドルもはずめば聞けそうな気もするが。
「2000ドルですね…それに銃の手入れ方法を買いたい」
「拳銃の手入れ方法は手順書と最低限の道具で100ドルかな」
真偽の判断と手間、なにも知らずに行動するリスクを考えれば…幸いこれくらいの投資ができる金は持ち出している。

アイシャが信用できるかに関しては信用するしかないだろう。
すでに私は心を許してしまっているのだから…ん?

「まった、先に買いたい情報がある。相場の情報だ。
表の物価だけじゃなく、こう言う情報や技術の相場も含めて知りたい」
さっき試された事を思い出した。
教えてくれるかはともかく知らなければいけない。

「相場を知る事はこの街で買い物をする鉄則、一般人の知識の範疇よ。
本当は本人に聞いても意味ないんだけどね、特別に合格にしましょうか。
うちの斡旋するルートでロアナプラに入る連中には宿と基礎の基礎までで1000ドル貰ってるわ。
まあ、さっきの価格は少し足元みてるけどバラ売りならあり得る価格ね。
って事で2000ドルに裏表の主な物品とサービスの相場、
それにおまけで銃の簡易整備の道具とマニュアルと技術指導一回を付けてあげるわ。
裏の基礎知識までなら4000ね。今度はアンブレラ社の定価通りよ」
…つまり裏の情報は相場の倍だったか。

倍も吹っ掛けられてた、と言うべきか倍ですんでて良心的なのか。
…きっとこの街では後者だ、指摘すれば戻してくれたし。

「…まあThank Youと言っておきます。4000ドルの方でお願いします」
そう言って4000ドル払った。

「うん、まいど。宿に着いた時に渡せる様に手配しておくわ。
一応言っておくけどこの街の普通はこんなに優しくもないし、素直でもないからね」
やはりアイシャはロアナプラの人間にしては優しいのだろう。

「それじゃあ行きましょうか」
その後、私はアイシャと安い服と下着を数セットと保存食と日用品をWBI社系(と言うかアイシャの傘下)の商店で買い、宿に入った。
宿の部屋で銃の手入れを教えてもらった。

アイシャが置いていった冊子は全て合わせるともはや鈍器だった。
…情報は本当に基本的な事までのっていた、それこそ単純な置き引きとその対策(荷物から目を離さない)から。

その後に色々と買ったり紹介を頼んだ時に聞いたのだが、マフィア達にとっては外でも常識である事も多いので、
ロアナプラについてだけ纏めたもう少し安い情報もあるそうだ。

…まあ、大抵はそれすら買わず、あるいは買っても軽く見て地元組織を怒らせて消えていくそうだ、あの5人組の様に。

結局知るべき事(応急手当法、ガンファイトの基礎、銃火器の知識、偽札の目利き等)、
やるべき事(ガンスミスや武器屋…暴力教会への紹介、警察への賄賂なんかに…あと傷の手当て)
を済ませるのに3週間かかった。

…記憶はまだ欠片も戻らない。
職業はガンマン、つまり人を殺してご飯を食べる仕事にした。

…実質児童売春とストリートチルドレンとの三択だったんだから仕方がない。

児童売春ならあそこで豚に犯されてたのと大して変わらないし、
ストリートチルドレンするなら殺しの方が幾分ましだ。

寝床は安宿からワンルームの下宿に移り、一応仕事せずとも慎ましく生きて行くなら1ヶ月半生きていく金はある。
つまり再来月の家賃は払えない。

…あと一週間だけ待ってやる。

それでも記憶が戻らないなら…

汚れ仕事で金を稼いで『私』としてこの街で生きていく。

それが嫌なら…泣くのを止めて立ち上がれ、『私』
 
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