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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
ロアナプラ編
  導入編 5.5-R話 閑話 レインという少女

俺はバオ、このロアナプラでイエローフラッグって言う酒場をやってる。

「バオさん、ミードのソーダ割りとナッツの盛り合わせお願い」
店を開けた直後、今日最初の客がそう言ってカウンターに座る。

「あいよ」
そう言って蜂蜜酒をソーダで割って塩味のナッツ盛りと出してやる。
それを笑顔で飲む二桁に達してるか怪しいガキ…レイン
それを見て心の中で溜め息をつく。
いつからうちはエレメンタリースクールになったんだ、と

…只の子供ならほっといてもそのうち客の誰かが痛い目にあわせて終いだ。
だが問題はレインはこの街でガンマンとして3ヶ月間生き延びている事だ。
この街に女子供だからと手加減する奴はいねぇ。(居たとしてもすぐにお陀仏だろう)
つまりこいつにはそれだけの実力があるって事だ。

こいつがこの街にやってきたのは8月の事だから…4ヶ月前だ。
最初はロボスの野郎の所の連中がうちで話した
「アホを始末しにいったらそこは既にブラッドバスで、その中からブラッディガールが飛び出してきた」
って感じの与太話だった。

誘拐もその後の強姦もよくあるが、ブラッドバスを作って生き延びるのは珍しい、
その話はレインって名前らしいからとブラッドレイン(血の雨)にかけてブラッディレイン、或いはtendergirlって名前で酒の肴になっていた。
まあtender(慈悲深い)の理由が見せしめで苦しんで死ぬ所を楽に殺してやったからとか、
ファックが終わった直後にファックしてやったから、とかいうネタに丁度よかったんだろうな。
…自分が殺した死体で作った血の池の中でぐっすり寝てたらしい、ってのはさすがに話を盛ったんだろう。



その数日後に次の話が入った
merchant of death、死の商人の名でよばれるアンブレラ社と言えば、この街でも一目置かれる国際組織だ。

連中は連絡会の協定を尊重して湾口の仏像からハンギングロープの橋の間でこそ武器を売らないが、
暴力教会やマフィア相手に武器の卸売りをし、莫大な利益を得ていると噂されている。

話ってのはそのアンブレラのロアナプラでの窓口のアイシャの話だ。
何でも、第二次性徴が始まってるかも怪しい少女をあちこちに仲介しているらしい。
それも、ガンスミスや暴力教会なんかにまで。

最初はアイシャが気でも狂ったかと思ったが、一週間程してそいつが例のレインって言うガキで、
アホから奪った金と銃を持っている事がわかった。
まあガキが、ってのは珍しいがアンブレラが金を持ってるヤツに紹介状を書くのはいつもの事だ。
そしてそう言うアンブレラを頼る様なコネがない奴が直ぐに消えていくのも。



さらに2週間たって続報があった。
ブラッディレインの話の少女らしきガキが掃除屋に死体の後始末を頼んだって話だ。
どうやら人浚いだか路上強盗だかを返り討ちにして身ぐるみ剥いだらしい。



…そしてさらに数日後、その日の事はまだ覚えている。

その日は開店後少ししてロボスから仕事の集合場所に使うと連絡が入った。
まあ、飲むもん飲んでくれて、店を壊さないでくれればなんの問題もない、何時もの事だ。

その日の5発目位の銃声が響いた頃、新しい客?が入って来た。
そいつは恐ろしく場違いな深紅のワンピースを着たモンゴロイドのガキだった。

栗色の長髪を後ろで一括りにしたそいつは店内を見回すと怯えた様子もなく俺の所にやってきた。
「コークをお願いします、Mr.バオ」
「…ここは酒場だ、ガキの来る所じゃねぇ」
思わずそうは言った物の、引っ掛かる事があった。
迷い込んだだけのガキなら俺の名前なんざしらないはずだ。
「そうだぞ、お嬢ちゃん、さっさと帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」
周りの客が囃し立てる

ガキは最初は黙って聞いていたが暫くすると立ち上がって言った。
「おっぱい吸わせてくれる親がいたらこんな街にいるわけないだろうが。
そんな事もわかんねぇ位酒を堪能したならさっさと二階にいっちまえ。
そしたら払った金の分だけ女がおっぱい吸わせてくれるだろうよ!」
ざわめきが消えた。

「…生意気なくそガキを犯してやりたい気分なんだがいくらだ?お嬢ちゃん」
囃し立てていた客の一人がそう言った…今なら命だけは助かるぜ、処女はしらんがな。

「私はコールガールじゃないんでね。まあどうしてもって言うなら体に穴開けてやるから自分で処理したら?」
死体が一つ出来上がり、掃除する身にもなってくれ。

そう思った直後、銃声が『2つ』なった。

そこには右腕を押さえる男と床に転がって銃を構えた無傷の少女がいた。

少女は男に銃を向けながら立ち上がる。

…光の加減で深紅のワンピースが血染めにみえた

そいつは先程までとまったく同じ調子の声で言った。

「ほらお望みの穴、一つ目だ。まだ足りないのなら次は額に開けてやるけど、どうする」

予想外の結末に酒場の時間が止まった。



酒場の扉が開いた。

ロボスだ。

「…おい、レイン、おまえ何やってんだ?」
ロボスの野郎、このガキをなんて呼んだ?まさか

「ああ、お早いお着きで、Mr.ロボス。
言われた通りにここに来たらこの通り、決闘騒ぎになりました。
アイシャさんの言ってた西部劇の酒場の方が幾分平和ってのは事実ですね」

ああ、やっぱりこいつは

「なあ、ロボス、もしかしてこいつは最近噂のブラッディガールか?」
「ああバオ、その通りだ」
「…まさかこいつにも仕事を?」
「そのまさかだよ。なぁに、まだ子供だがなかなか肝が座ってるんでな、仕事をまわしてみる事にしたんだ。
既に五人…いや七人殺ってる、運だけじゃなく実力も期待できるだろうさ」
ロボスが軽い調子で言った。

「さあ、レイン、遊びは終いにしろ。うちの仕事に来た奴は集まってくれ!」
ロボスの掛け声を切っ掛けに時間が再び動き出した。

その日のロボスの仕事はこの街にやって来てロボスの縄張りに手を出した田舎者の排除。
それなりに武器を持ち込んでいたらしいがロボス側に死者、重傷者なし。
数時間後に帰って来た。

レインもそれなりに活躍した様で酒を奢られていた…初めの酒はエールで、苦かったらしく殆ど残しやがった。

ならば甘いのを、半ば冗談ですすめられた極甘のミードを気に入ったらしく、
週に一度はうちでミードを飲んでいくようになった。

その後もうちに来る度に絡まれてはいたが、決闘騒ぎはあれっきりで
何度も仕事をこなすうちにそう言った事も無くなって言った。



「よう、ブラッディガール。またそんな物飲んでんのかよ」
そんな過去を思い出していると次の客が来たようだ。
「トゥーハンド…レヴィ姉さん、エールは苦い、ワインは渋いし、ラムは辛い、だから嫌い」
「ったく、ガンの腕は大人顔負けなのに、味覚はお子ちゃまなんだから…
そんなんだからいつまでも babester だとかmy lambって言われるんだよ」
やれやれ、と言った顔で二丁拳銃…ラグーンのレヴィが言った。

「別に気にしてない…事実だから。
二連発のスリングショット(double-barreled slingshot)か綿の銃弾(ammunition made of the cotton)が必要になったら考えるよ」
まあ、確かにレインの胸は真っ平らでまったく膨らんでないし、初潮が来るのももうちょい先だろう。

「本人が気にしてないなら別にいいじゃないか、レヴィ」
「そのとおりさ、好きな酒を好きに飲みゃ良い、人に迷惑かけないならな。
パオ、まずはバカルディのゴールドラムをボトルでくれ、グラスは三つだ」
「あいよ、ダッチ。今日はラグーンで慰労会かい?」
ラグーン商会にボトルとグラスを出す。
「ああ、今回の仕事はそれなりに面倒なトラブルがあったからな、雇用主の義務ってやつさ」
そういってダッチは肩をすくめた。



しばらくしてほかの客も入り始め、二階の女どもも客引きに降りてき始めた。
「バオさん、ミードのお代わり、次はレモン風味のやつ、ソーダ割りでお願い。それとおつまみの追加も」
ラグーンと話してたレインがお代わりを要求する。
確か、先月ラグーン関係で仕事を受けて仲良くなったとか言ってたか。
「摘みはまたナッツか?」
「チーズの盛り合わせと…ポップコーンの塩味、なければポテチで」
今日はポップコーンは無い。だからチーズの盛り合わせとポテトチップスの盛り合わせを出す。



「そういえば、イエローフラッグはカクテルやらないの?」
ラグーンとカードを始めたレインが出し抜けに聞いてくる。
「うちの客はそんな上品な物の飲まないからな。なんだ?レイン、お気に入りのカクテルでもできたか?」
こいつがうちに来るのは大体週に一度か二度、稼ぎの総額は知らねぇがよそでも飲んでたっておかしくない。

…アンブレラで情報を買った旅行者が入っても無事に出てこれるような表通りのバーに行ったら、
ジュースとミルクしか出してくれなかったと三合会の仕事の打ち上げで飲んでた時に話して笑われてた気もする。

「この前、ホテル・モスクワの仕事の後に、系列のカリビアン・バーっていうお店で飲んだんだけど、
カルアミルクとかゴディバミルク、あとカシスオレンジあたりがおいしかったよ」
「案の定ジュースかケーキみたいに甘いもんばっかじゃねぇか!ほら、私はスリーセブン(7のスリーカード)だ」
「だね、僕はワンペアだよ」
「残念、絵柄のが強い。俺はジャックのスリーカードだ」
「なら私の勝ちね、Mr.ダッチ。私はキングのスリーカードだから」
「畜生、スロットなら大フィーバーだったのによ」
「レヴィ姉さん、今はポーカー。
バオさん、お代わりをお願い、今度は一番甘いのロックで」
まったく、このお子ちゃま、ミードなら1瓶くらい平気であけるんだからなぁ…
そう思いながら俺はレインに反吐が出るほど甘いミードを出してやった。
「うん、甘くておいしい。カクテルもいいけど、やっぱりここで飲むミードが一番好き」
屈託のない笑顔でレインが笑う。
「…そうかい、ありがとよ」
いっそ、蜂蜜とスピリタスでも混ぜて出してやったら気に入るだろうか。

元は二階に行く客がたまに飲んでいく以外に殆ど売れなかったが、こいつのせいでミードの仕入れ量が鰻登りだ。

まったく、こいつが生きてる間はよく売れるんだろうが、おっちんじまったらあっという間に不良在庫だ。
ミードが日持ちするからと言って、どれだけ仕入れていいものやらな。 
 

 
後書き
レインはお酒が気に入った様です。そしてちゃっかりあちこちに顔をつないでいます。
未成年の飲酒は日本国内において法律で禁止されています、確かタイでも。
でも、殺しでご飯食べてる奴がそんなこと気にするわけはないですね。 
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