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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
ロアナプラ編
  導入編 第4-R話 bloody girl

俺は俺の縄張りで馬鹿をやったチンピラを始末しに来ていた。
雇った連中以外に、一緒に突入させていたうちの組織の構成員の一人が戻ってきた。
「おわったか」
「ボス、面倒なことになりました」
「…何?どういう事だ」
今日の仕事は馬鹿五人組を皆殺しにする簡単な話のはずなんだが…

「はい、室内には冷たくなった5つの死体が血の海に浮かんでました。
監視の報告と死後硬直の具合を合わせて考えると、昨日の朝殺されたようです」
「…それで?」
別に死体にしようとした奴がすでに死体だったとして、それは面倒でもなんでもねぇ、
確かにそいつらの死体だったんなら雇った連中の弾代が浮いただけだ。

「はい、推測も入るんですが…どうも、ブラッドバスをやらかした野郎はあの部屋で晩を明かしたようで…
いかれた野郎だと、殺すか尋問するかしようとしたんですが…」
「それで?」
「それが…そいつは死体を集めた部屋の、それも死体に囲まれたベッドの下で寝てたみたいで、
しかもそいつ、血塗れのワンピースを着たガキなんです!他には誰もいやしなかったんです!」
「ふざけんな!ブラッドバスからブラッディガールが飛び出してきた?
仕事前にヤクでもやったんじゃネェだろうな!」
「いえ…何人か部屋に残して追いかけたんですが、裏路地に走りこむ所を全員見てるんです」
「チッ…部屋に戻って部屋の状況を調べておけ、誰が追った?俺はそっちに行く」
奴の話が本当だとしたら…そうだな、才能と性格次第でうちで飼ってみてもいいかもしれないな。
可能性としては、犯人とは別のよくわかってないガキが上がりこんだ、という可能性の方が高いと思うが。









「はぁ、はぁ…」
私は裏路地を走っていた。
「まて!待ちやがれ!」
部屋を襲撃した連中が私を追いかけてくる。

銃を持っている筈だがなかなか撃ってこない。
まあ、あの部屋の惨状の経緯を聞き出したいのだろう。
だが直に痺れを切らして撃って来る筈だ。

エンジン音がする…不味い、回り込まれたか

とっさに近くの建物に飛び込み、廊下を走って進む…そこには人がいた
その人はオフィス街にいてもおかしくない様なスーツ姿のアラブ系女性で薄い色のサングラスをかけていた。

「お姉さん!逃げて!」

私は思わずそう叫んでいた。
しかしそう言い終わる前にその人は銃を抜き、私に向けた。

チクショウ、この街じゃこんな人まで銃を持ってるのかよ
内心でそう毒づき、転がるように横移動して射線をずらして銃に手をかけようとした

「動くな!」
お姉さんの銃の片方は私を、もう片方は追手を狙っていた。

「ロボス、我々の物件に目の色変えて何のよう?」
お姉さんが不機嫌そうに言った。

「すまねぇ、アイシャ。決してあんたに喧嘩売るつもりはない。」
ロボスと呼ばれた追っ手のボスらしき人物がどこか怯えた様に言った。

「ならどうしたの?この血塗れのガキに部下を喰われたの?」
「うちに舐めた真似してくれた野郎共に落とし前つけに行ったらそこはブラットバスで全員死んでやがった。
そのガキがそいつらの部屋にいて逃げやがったから事情を聞こうとおってたんだ。」

「なるほど…ね、じゃあ貴女は何か言う事がある?そのブラッドバスについて何か知ってるの?
あるいは…何か逃げる理由があるのかしらね、ブラッディガール(血塗れのお嬢ちゃん)」
アイシャとロボス一味の視線が一斉に私に集まる。

「あ…えっと、あの五人は私が殺しました。
その、逃げたのは…寝床に銃撃してきた相手から逃げるのは当然かなって…思う」

一瞬空気が凍った。そんなに意外だっただろうか?この姿で予想がついていると思ったのだが。

(後に聞いたには、
アイシャはまるで摘まみ食いを指摘されたかのような軽い調子で幼い子供が殺人を自白した事に、
ロボス達は幼い子供がわざわざ死体を集めた部屋で寝てた事にそれぞれ引いてたそうな。
そういえば、自分でも好んでやってたとしたら真性の変態だという認識はあったな)

「お嬢ちゃん、お兄さん達は冗談を聞きたい訳じゃないんだよ」
ひきつった顔でロボスの部下が言う

「嘘じゃない、五人とも私が殺したの!
あの豚どもは私の手で始末してやったんだから!」
そう、あの殺人は私の義務だ。
命懸けで義務を果たした事を否定されてたまるか。

「どうやって始末したんだ?」
「ボス!こんなガキの戯れ言なんざ」
部下の言葉を無視してロボスはもう一度言った。
「ブラッディガール、君が始末したと言うなら説明できるな?話してくれ、アイシャもそれで構わないかな?」
「構わないわよ、この子が何をやらかしたか少し興味がわいたわ」
そう言ってアイシャは一度銃を納めてくれた。

私は一人目を殺した所からロボス達に銃撃されるまでの事を簡単に話した。

「はあ…とんでもないお嬢ちゃんだ」
「その方が安全だと考えたとして、本当に死体を集めた部屋で寝ちまうか、普通」
「いや、そもそも皆殺しまでが普通のガキにできる事じゃねぇよ…」
ロボスの部下がそんな感想を漏らす。

「…まだ肝心な事を聞いてねぇ、そもそもなんであそこにいた?どうやって一人目を殺ったんだ」
「そうね、そこが肝心な所よね」
ロボスとアイシャが言う。

「どうしても話さないと駄目…ですよね、はい」
少し恥ずかしいが仕方がない

「あそこに居たのは多分さらわれたから。
あいつら、よってたかってケツまで使って私をファックしてそれを肴に呑んでやがった。
意識を取り戻したら一人目が懲りずにファックしてたから私の中で果てた隙に枕元の銃でファックしてやったんだ」
「それは災難だったな、少しまってくれ」
ロボスはまるでお菓子を落として駄目にした子供に対する様な口調でわたしにそう言うと何処かに連絡をとる。

どうやらあの部屋に残した部下に話の裏をとっているようだ

「状況はお嬢ちゃんの話を支持してる、俺は信じよう。ブラッディガール、名前は?」
「レインです、Mr.ロボス」
話を信じてくれた感謝を込めて名を名乗った…本名ではない筈だが『私』の名前だ。

「よし、レイン。食うに困ったらうちに来い、仕事を回してやる。
あと、その鞄の中身は金と銃だっただけだったな?
鞄の中身は確認させてもらうが、持ち出した金と銃はレインにやろう。
あの部屋の掃除はこっちでやっておく、あの部屋には戻るな」

そう言ってロボスは名刺をくれた。

「アイシャ、今回の件は…」
「そうね、明日の取引は楽しみにしてるわ…なんてね、ロボス、怒ってないから安心して」
アイシャとロボスが笑い会う

ロボス達と私はアイシャに会議室のような部屋に通され、
そこで私はアイシャと追っ手の女かばんの中身と包帯の下を改められた。
そしてロボスは言葉通り、あの部屋から持ち出した金の全てを私にくれた。
「野郎共、引き上げだ。そうそう、レイン、アイシャは商人だ、傘(アンブレラ)を売って貰っておけ、必ず役に立つ」
そう言い残してロボス達は去って行った

「まったく、ロボスも甘いんだから…」
「Ms.アイシャ、貴女は商人なんですか?」
「そうね、私はWBI社のエージェントだから商人でもあるわね」
WBI社、World Basic Industry社か…確か第三世界や貧困層向け衣食住を主力とする多国籍企業だったはず…
ロボスの言っていた『アンブレラ(傘)』は何かの符丁だろうか
「どうするの?レイン」

そう言ってアイシャは銀のペンダントを弄る。
傘とその傘に入っている犬…いや狼の意匠で狼の眼には紅い宝石がはまっている。

「Mr.ロボスの言っていた『アンブレラ』を買いたいんですが…」
恐る恐るそう言った。

「…OK、座って」
アイシャと机を挟む様に座る。

「さて、取引と行きましょうか。雨(rain)に傘(umbrella)を売るのは奇妙な気もするけどね」
私は展開について行けず、キョトンとしていた。
理解しているのは傘を買いたい、が何かの符合だと言うことだけだ。

「まあ、訳がわからないでしょうね。
改めて名乗ると、私は総合武器商社アンブレラ社東南アジア支社のエージェント、アイシャよ。
…ある理由でこの街の中では貴女に武器を売るわけにはいかないから、今売れるのは情報と技術だけだけどね」
そう言ってアイシャは笑った

「…いくらですか?」
「欲しい情報や技術次第でピンキリね」
微妙に答えになってるようななっていないような

「リストとかは…」
「それを売れる、つまり存在するって事自体が情報だから不要な情報のせいで無駄に高くつくわ。
まあ、特定の事柄について指定してくれたら安くリストを作れる場合も有るけどね」
そうか…ならまず私が知るべきことは…
「…ならこの街について、基本的な事を教えてください」
「え?」
アイシャがそんな声を上げる
「貴女、この街の、ロアナプラの住人じゃないの!?」
「え?違いますよ、そもそもさらわれた後に船でこの街に運ばれて来たみたいです」
「…じゃあ、まずはお家に帰る場合の費用かしら、これは只で良いわ。
…よく見たら血やらなんやらで台無しになってるだけで髪質もストリートチルドレンのそれじゃ無いわね」
アイシャは溜め息をついて続けた。

「よくもまあ、外の子供がブラッドバスなんてやらかせた物ね…さて、お家はどこなの?レインちゃん。
お家までの旅行の見積書はただで出してあげるから」

さて…困った。でもこう答えるしかない。

「その…わかりません」
「え?どういう事?」
アイシャがふざけてんの?とでも言いたげな声で言った。

「だからわからないんです。多分日本に住んでたんだとは思うんですが…」
だからだろう、思わず素直にそう自白していた。

「多分!?ちょと待ちなさいレイン、貴女は…」
『いえ、こっちの方がはっきりするわね』
『アイシャさん、日本語話せるんですね』
『まあね…もし私から何を買うべきかわからないなら事情を話してみなさいな。
オススメ商品くらいアドバイスくらいして上げるわ』

『…私の情報を誰かに売ったりしませんか?』
『そうね、調べてすぐわかる様な事以外は売らないわよ』
アイシャが笑う。

何処かに『普通じゃない』が何処かに『私と似たにおい』がする。
だからだろうか、私は自分の事を話始めていた、両親を殺された事、記憶が無いこと、
日本に住んでいたと推測した理由…
流石に夢で見た『泣いている私』や血の匂いに感じた甘さなんかは話さなかったが。
 
 

 
後書き
アイシャと遭遇せずにいたら、ロボスに拾われてガンマンになるガチロアナプラ堕ちルートに入る所でした。

ロボスはあの状況でアイシャの機嫌を損なう(大金持ったカモを奪う)リスクを冒して自分で育てるよりも、
それなりに恩を売ったフリーランスが一人できれば十分と判断しました。
私の勝手な考えですが、ロボスは表でニコニコしながら実は…というタイプのマフィアだと思ってます。 
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