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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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12部分:第十二章


第十二章

 会議室に戻るとスタッフの数が減っていた。速水はそれを見て言う。
「倒れた方が多いようですね」
「ええ」
 警部は暗澹とした顔で速水に答える。
「事件の後はいつもこうなのです。卒倒する者が多くて」
「さもありなんです」
 速水はそれを聞いて言う。もう警部はハンカチで手を拭いてはいなかった。
「見ているだけで。あそこまでのものはね」
「そういうことです。ベテランの者でも吐いていましたから」
「そうですか。しかし」
 ここで速水はまた言う。
「お話は御聞きしたいです。既に事件の起こった時間と状況は少し御聞きしていますが」
 速水はそう言いながら沙耶香に顔を向けてきた。
「他にもわかっていますよね」
「普通はスタッフの方々に聞くのではないくて?」
 沙耶香は自分の方に顔を向けてきた速水に妖しく笑って言葉を返してきた。
「違うかしら」
「そうしたいのはやまやまなのですが」
 答える速水の顔は少し曇ったものであった。
「どうにも。それができそうにないので」
「そうね」
 見ればスタッフの数が少ないだけでなくそれを説明する者達も倒れている中に入ってしまっていたのだ。それだけ凄惨な事件であったという証拠である。
「これはね」
「ですから。今は仕方ありません」
 速水はそう沙耶香に答える。そのうえでまた言う。
「御願いできますか」
「いいわ。それじゃあ」
 沙耶香は早水野言葉に頷いた。そうした話をはじめるのであった。
「被害者は一人はお客さんね」
「お客さんといいますと・・・・・・ああ、成程」
 警部はその言葉で何のことかすぐにわかった。
「そうですか。では女の方は」
「ええ。娼婦です」
 そう警部に答える。
「丁度ホテルとか何処かへ行こうとしていたのでしょう。そこで」
「彼に出会ったと」
「その結果です」
 沙耶香は言う。
「ああなったのは。そうして」
「惨たらしい話です。売春はモグリならば摘発ですがそれでも」
 実はこの辺りは微妙なのである。届出をしていればデートクラブでも合法だ。もっともこうした風俗には裏の筋の人間が関わっているのが常であるが。しかし今回はそれどころの話ではなかったのである。
「こうした話はね。勘弁して欲しいものです」
「話が似ていますね」
 速水は沙耶香の話を聞いて述べてきた。
「切り裂きジャックとですか?」
「ええ。ただ相手は殺す対象は娼婦に限っているわけではないようです」
 そう答えてきた。それにはちゃんとした根拠があった。
「あの元木社長の件ですが」
 速水はそこを指摘してきた。これは警部も予測していた。
「ああしたものを見ていると犯人は相手は誰でもいいようです」
「ただ殺したいだけだと」
「そのようです。簡単に言うならば快楽殺人者です」
 快楽殺人者という言葉を出してきた。これは現代的なようでいてそうではない。昔からあるものだ。そうした者をえてして狂人と呼ぶのが歴史の常である。
「一番嫌な相手ですね」
 警部はその快楽殺人という言葉にまた嫌悪感を露骨に見せてきた。ついついまたハンカチを取り出してそれで手を拭く。
「楽しみだけで反抗を重ねるというのは」
「例えばです」
 速水はここで言う。
「犯罪のパターンでありますね。ただ万引きをしたい、痴漢をしたいというのは」
「はい」
 警部は速水のその言葉に頷く。

 
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