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占術師速水丈太郎 白衣の悪魔

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13部分:第十三章


第十三章

「それと同じです。これもまた簡単に言いますが」
「私もそれはわかっているつもりです」
 ハンカチで手を拭きながら答える。
「伊達にこうした仕事をしているわけではありません。色々な犯罪者を見てきましたし今速水さんが仰ったような犯罪者も実際に見てきました」
「その中に快楽殺人者はいませんでしたか」
「運がいいことにそうした輩には会っていません」
 項垂れたような顔でそう述べた。
「この事件までは。しかも」
「その犯人の正体はまだ何もわかっていません」
「そうね」
 その言葉に沙耶香が頷いてきた。
「人の姿をしていながら妖気に満ちた魔人という以外は何も」
「はい。モンタージュも残っていないのですよね」
「全く」
 警部は速水の言葉に首を横に振って答える。
「目撃者がいないのです。何故なら」
「姿を見た者が皆死んでいるからね。思えば簡単な話ね」
 沙耶香は溜息をついて述べる。
「簡単にはいかない話だけれど」
「はい、そういうことです」
 今度は沙耶香に答える。見れば彼の周りのスタッフ達も首を横に振って項垂れるだけであった。
「目撃例もないのです。ただ異常な犯人だとはわかっていますが」
「それでは警部」
 速水は考える目で述べてきた。
「何でしょうか」
「この事件については私達に全て委任して下さると仰いましたね」
「ええ、まあ」
 速水のその言葉に頷く。ハンカチで手を拭くのを止めていた。
「そうですが」
「ではここはお任せ下さい」
 彼はこう言ってきた。
「私達にね」
「何か御考えがあるのですか?」
 速水の右目を見ながら問うた。その目は一つであるが光の強さは警部の二つの目と比べても全く劣らないものであった。その右目だけでかなりの強さがあった。
「そうでなければ出しません」
 速水は言ってきた。
「違いますか?」
「いえ」
 警部はその言葉に首を横に振る。
「確かにその通りです。それならば」
「はい」
 毅然とした声で答えてきた。
「お任せします。貴方達の御考え、見せて頂きます」
「有り難うございます」
 速水はその言葉を聞いて満足げに右目と唇の両端を細めさせてきた。穏やかでかつ気品のある笑みを警部に見せてきていた。
「それではすぐにでも」
「はい、御願いします」
「私も」
 沙耶香もすっと立って名乗り出てきた。
「私達という言葉が出たからには」
「やって頂けるのですね」
「それが黒魔術師というものです」
 これが沙耶香の返事であった。
「ですから」
「それでは。御二人にはここは」
「はい、是非共」
「お任せ下さい」
 こうして二人は独自で捜査に当たることになった。二人は会議室を後にするとすぐに札幌の市内に出たのであった。街は少しずつ陽が落ちだしておりオレンジが混じりだした太陽の光が白い雪を照らしていた。
「さて」
 速水はそのオレンジと白の混じった街の中で沙耶香に声をかけてきた。二人は並んで街を歩いていた。
「私にとっては不本意ですが今はデートではありません」
「私にとっては別に不本意なことではないけれど」
 沙耶香はまたしても妖しい笑みで言葉を返す。
「別にね」
「冷たいことで」
「貴方も。また諦めないのね」
「諦められるものでしたらそれは想いではないのではないですか?」
 またカードをポケットから出してきた。それは恋人のカードであった。
「ほら、カードも言っています」
「本当に見事な占いね」
 それには感心する言葉を述べる。
「外れたことはないのかしら」
「私の占いは決して外れることはありません」
 それは豪語ではなかったがしなやなか自信があった。そうした言葉であった。
「何があろうとも」
「恋でも事件でも」
「そうです。とりわけ魔性を語る場合には」
 しなやかな、鞭の如き強さの言葉であった。その言葉こそが彼の自信だったのだ。自信は何も鉄の棒の如く強いものばかりではないのだ。しなやかなものもある。彼の自信はそうしたしなやかなものであった。それがまた彼らしいと言えた。
「それでは占って欲しいことがあるの」
「それは何でしょうか」
「犯人は。何者かしら」
「そうですね」
 またカードを出してきた。出て来たのは悪魔のカードであった。最早何を意味するのか言うまでもない、あからさまとも言える不気味なカードであった。
 
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