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友人フリッツ

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第二幕その三


第二幕その三

「それじゃあだけれど」
「うん。何だい?」
「これからちょっと行くかい?」
「行くとは?」
「いや、馬車が来たから」
 彼等が今乗っているその馬車を見ての言葉である。
「だからね。農場や他の場所を見回ろうと思ってね」
「そうだね。ただ僕は」
「どうしたんだい?」
「遊び過ぎて少し疲れたよ」
 ちらりとスーゼルを見てから言うのだった。
「それで休みたいのだけれど」
「ここでかい」
「うん、いいかな」
 こうフリッツに対して問うのだった。
「それで」
「いいとも」
 断る理由なぞないといった言葉だった。
「それじゃあ僕は皆と見回りに行くから」
「僕はここに残って」
「交代しよう」
 笑顔で言いながら馬車に向かう。そしてダヴィッドは降りフリッツは乗った。丁度いい具合に人が入れ替わった形になったのである。
 こうしてフリッツは馬車を進ませダヴィッドは残った。ダヴィッドはスーゼルから水筒の水を一杯貰った。それを飲んで彼は言うのだった。
「いや、スーゼルは」
「はい」
「リベカみたいだね」
 彼女のその可愛らしい顔を見て優しい声で言うのだった。
「聖書のね」
「そんな、私は」
「いや、本当だよ」
 あくまでこう言うのだった。旧約聖書の創世記第二十四章に出て来るそのリベカだというのである。
「本当にね」
「そのリベカとはどんなことをしたのですか?」
「水を与えてくれて疲れを癒してくれた」
 彼女を見ながらの言葉だった。
「もっともそれは井戸の水で水筒ではなかったけれど」
「では私とは違うのではないですか?」
「いや、同じだよ」
 しかし彼がこう答えるのだった。
「それはね」
「私がその人と同じになるんですか」
「疲れを癒す水をくれたからね」
 だからだというのである。
「同じだよ。本当に」
「そうですか」
「そうさ。そしてね」
 さらに話すダヴィッドだった。
「若しもだよ」
「若しも?」
「若し君がリベカだったら」
 その聖書の心優しい女だとしたらだというのである。
「その時はどうするんだい?」
「どうするかですか」
「そうだよ。君はどう応えるかな」
 やはりスーゼルを見ながらの言葉であった。
「君が想う人がいたならば」
「やはり同じです」
 その問いにこう答えるリベカだった。
「こうしてお水を差し上げたいと思います」
「そうか、お水をだね」
 今の返答に目を細めさせたダヴィッドだった。
「そうだよ。それでいいんだよ」
「有り難うございます」
「それでだけれど」
 さらに言おうとした。しかしであった。
 
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