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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-6 第24話

 
前書き
いよいよ最終決戦へ。この回と次回は主人公のハルカ一人称です。 

 
Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-6
決戦
第24話

いま、僕の目の前にいる奴、そう、竜王だ。
体の大きさは少し前に出会った竜王子より少し大きい。
息子の竜王子とは異なり、頭の角のような突起物が上に向かっていた。
格好はいかにも魔術を得意とするような、紫色のローブに、首飾り。手に持っているのは竜を象った木製の杖。
竜王は僕を見ると、ニヤリと笑みを浮かべた。余裕の笑みか不敵な笑みか。
「お前がロトの血を引く勇者ハルカか」
「……ああ。そうだ」僕は低い声で答えた。
竜王は椅子に座って、動かずに僕を見据えている。表情は不敵な笑みのまま。
「わしはお前のような若者が来るのを待っていたぞ」
そう言うと、竜王は突然大声で笑い出した。
「何が可笑しい!」
「いや、なかなか面白そうだと思ったんだ。……勇者ハルカよ、わしから提案がある」
杖を一度トン、と鳴らす。そして、僕にもう少し近寄るよう言った。
僕は警戒しながら、少し前に進んだ。
「警戒心の強い奴だな。まあいい。わしの味方にならぬか?」
「はあっ!?」
「もしわしの味方になれば世界の半分をお前にやろう。悪い話ではないと思うぞ?勇者ロトの子孫などと言ったたわけた血筋など捨てて、わしと共に世界征服でもしようじゃないか、なあ、ハルカよ?」
竜王はヒッヒッと不気味に笑う。こいつの真意とは何なのだろうか?
まあ、それがどんなことにせよ、僕の答えはとっくに決まっている。
「ふざけるんじゃねえ!最低の極悪人のお前の味方など願い下げだ!」
僕は即答した。更に続ける。
「僕は知っているんだぜ?幾つかの村や町を滅ぼし、僕の両親、ローラ姫の母親の命を奪った。いや、父さん達を始めとした多くの人々の命を奪った!お前は自分の妻を亡き者とした!息子は殺しはしなかったが、力を奪っただろう?そんなお前の味方など……頑固願い下げだ!!僕はお前を倒す!僕の命をなげうってでも、絶対にお前に息をさせなくしてやる!!」
僕は叫んだ。怒り、憎しみ、決意。様々な感情が混じっていた。
「ほう」
竜王は表情を変えなかった。余裕こいているのか?
そして竜王は嘲笑しながら言った。
「お前の言うとおりだ。わしは野望の邪魔となる妻を殺し、息子を再起不能にさせた。あいつは運のいい奴だ。攻撃しても死にはしなかったのだからな。まあいい。邪魔者はこれで片付けた。あいつはわしの跡を継いでくれると信じていたのに、妻の肩を持ち、わしら竜王一族は悪に染まってはいけないとぬかしおった。馬鹿馬鹿しい。世界を闇に染めることがそれだけ素晴らしい事かあいつらはわかっておらん!あいつらもお前もとんだ馬鹿者だな!はははは!」
僕はぶちギレそうになりながら叫ぶ。
「笑うな!お前こそ馬鹿者だろう!?そんなの、僕だって解りたくねえよ。ところでお前は何故ローラ姫をさらった、何故ローラ姫を妻としようとした!答えろ!」
「フフフ、世界征服する際に新しい王妃が欲しかったのだ。あのローラ姫はとても美しい。わしの妻にふさわしいと思ったわけだ。しかし、お前はわしの忠実な部下を殺した。……わしはお前が憎い」
「それは僕の台詞だ!てめえより僕等の方が損害が大きかったんだぜ!?ふざけるな!」
僕は腰からロトの剣を抜いた。睨み、叫んだ。
「戦うのか愚か者め。思い知るが良い!わしの強さを、恐ろしさを」
竜王は椅子から立ち上がった。
「望む所だ竜王!僕は貴様を倒し、光の玉を奪還する!」
僕もロトの剣を構える。

戦闘、開始だ。

先制攻撃は僕だった。剣で竜王を斬りつける。
竜王に手傷を負わせたが、竜王はすかさず反撃としてベギラマを唱える。
熱さは感じたが、水鏡の盾とロトの鎧のおかげで大したダメージは無かった。
僕も竜王に負けじと「ベギラマ・スパーク」を放つ。
「なっ!?」
期待したダメージではなかったが、竜王の表情に驚きの色が見られた。
そして僕を憎むような目で睨む。
「なぜ、そんな能力を持つ!魔術ならばわしも負けてはおらん!ベギラマ!!」
「ベギラマ・スパーク!!」
僕と竜王がほぼ同時に魔法を放つ。威力は僕の勝ちだ。竜王のベギラマは僕のベギラマ・スパークの前に敗れ去る。
「ふん、それで勝ったつもりか!」
竜王は怒りに震え、持っていた杖を上に掲げた。
すると、上から黒い稲妻が降りかかってくるではないか。
それは落ちると大爆発を起こす。
その様子を見て竜王は笑った。
「ざまあみろ!わしに勝とうなどと甘いのだよ!……ん?」
煙が去ると、竜王の目に映ったのは、ロトの剣を掲げたまま立っている僕の姿であった。
「何を!」
「ぎりぎりの所でマホトーンを唱え無効化したんだよ」
「くっ!貴様!こうなったら力ずくでも…」
竜王は杖を構えた。そして僕と竜王は同時に近づく。
そして、
「……“死十閃”!!」
僕はロトの剣で黒十字を描く。
「なっ…」
竜王は目を見開いた。自分の姿を見て愕然としていた。
体に、真っ黒な十字が刻まれているのだ。
「貴様ぁ……!!」
僕の技は会心の一撃だったようだ。竜王はゆっくりと仰向けに倒れる。悲鳴を上げながら。
「勝った……のか?」
決着はついた、はずだった。しかし、僕は剣を鞘に戻そうとはしなかった。

なにかが、おかしい。そう思った。
あまりにもあっさりと戦闘が終わるはずが無い。僕はそう思った。
そして、その予感は的中する。

竜王の人型としての姿は薄れていく。
そしてその影はみるみるうちに巨大化していく。
「な……」
そいつは暫くすると、巨大な紫色のドラゴンへと変化したのだ。
「そうか、それが……竜王、お前の真の姿か!」
「ギャオオオオオオオオオ!!!」
ドラゴンと化した竜王は鋭い爪を持ち、口からは高温の炎を吐いていた。
そう、これが本当の、最後の戦いなのだ。
絶対に、負けられない。

ドラゴンと化した竜王は爪を振り回す。
僕は咄嗟に避けた。が、頬をかすり、血が出る。痛みが走る。
反撃に出る僕はロトの剣を竜王の腹に突き立てる。竜王はけたたましい叫びをあげる。
どの位ダメージを与えられただろう?たいしたダメージではないかもしれないが…。
僕は剣を抜く。いくらか傷を負わせることには成功しているようだが、竜王は倒れる様子など微塵も感じられない。
当然だろう。あれくらいで倒れるわけがない。まだ、序盤だということは僕も分かっている。
竜王は炎を吐く。人型のときとは比べ物にならないくらい、威力は上がっている。
「ぐっ……結構来たな……」
僕はすかさずベホイミを唱える。そして、
「受けてみよ!“ラーミア・クロス”!!」
高くジャンプする。そして竜王に向けて、白い十字の光を発射する。
ラーミアとは伝説の不死鳥の名。今でも、どこかの世界で眠り続けているという。一説によると、ロトの紋章は不死鳥ラーミアを象っていると聞く。本当かどうかははっきりとは解らないが、勇者ロトの力を借りたと書かれた文献もあり、信憑性は高い。
白十字は竜王の姿を捕らえる。
「ギャアアアアアアア!!」
耳を劈くような、叫び声。ダメージは与えられたようだ。
しかし、これで倒せたとは思っていない。悲鳴や断末魔には聞こえない。
僕は何事もなく着地する。煙が立ち込めた先にあるのは胸部に十字型の傷がある竜王の姿である。
竜王は鋭い爪を振り回す。下手に当たったら首が吹っ飛んでしまいそうだ。僕は避ける、剣で弾き返す、盾で弾き返す。
僕は剣で竜王を攻撃する。ベギラマもベキラマ・スパークもたいした効果はなかった。ラリホーも恐らく耐性持ちだろう。剣で攻撃することが最も良い方法だと思うのだ。
竜王は燃え盛るような炎と鋭い爪、僕は少しばかりの魔力と伝説の勇者ロト様から受け継がれる剣で体力の削りあいのような戦いをしていた。

……あれからどれくらいの時間がたったのだろうか?
僕の鎧兜も、竜王の体も、お互いボロボロになっているはずなのに、まだ、倒れない。
いや、僕は倒れるわけには行かない。約束したんだ。絶対に竜王を倒して帰ってくる、と。
僕はまだ戦える。今、ここにある全ての力を使い切ってでも、竜王を倒してみせる。
「うおらあああああああ!!」
「ギャアアアアアア!!」
戦場となった城の内部、最初に乗り込んできた時はまだ綺麗だった。しかし、瓦礫が転がり、椅子もすっかり壊れてしまった。原型はかろうじて残っているという感じであろう。
「……オワリ、ダ」
「……!?」
一瞬の油断だった。
竜王は尻尾で僕を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた僕は壁に激突した。
「うっ……」
意識が薄れていく。
そんな僕に勝ち誇ったような表情を浮かべ、尻尾で何度も僕を打ち付ける。
いたい、痛い!僕は叫ぼうにも声が出ない。
ヤバイ……!!
僕は負けてしまうのか?ここまで来て、憎きあいつに負けてしまうのか!?
「っは……」
必死に声を出そうとする。しかしでない。意識が遠のいていく。
もう……駄目なのか?僕は、死んでしまうのか……?

嫌だ!死にたくない!!

「勇者ハルカ。貴方はここで死んではいけません。生き続けなければならないのです」
「ハルカ!頑張って!……絶対に勝つんだ。大丈夫。ハルカなら勝てる。僕でさえ4人でないと旅が出来なかった。でも、君はひとりで闘ってこれた。ハルカ……死んでは駄目だよ…………!!」
そうだ。僕は死んではならない。皆のためにも、生き続けなければならない。

「……コレデ、トドメダ……!!」
竜王の爪が僕の首に振り下ろされようとしていた。
「そうはさせないぜ!!」
竜王の爪は僕の首ぎりぎり数センチのところで止まった。
僕はボロボロの体を引きずりながら立ち上がった。
「ベホマ!!」
剣を上に掲げ、僕は叫ぶ。
傷は消えた。……それだけではなかった。
僕は周りに光を感じた。力がわいてくるような不思議な光が。
光が消え、剣に移る僕の頭を見る。
なんと、兜の形が変化していたのだ!
バイザーの部分はロトの紋章がつき、角の部分もいつもの兜とは違い、曲がっていた。
「……ソンナ、バカ……ナ……!!」
「僕はなあ、死ぬわけにはいかないんだよ!生き残って、またロトの血筋を残して生きたいんだよ!!」
反撃に出る。
「“五重十文字斬り”!」
竜王の腕から緑色の血が流れてきた。
「“横一文字”!!」
竜王の首の皮が切れた。
竜王も黙ってはいない。僕に高熱の炎を浴びせた。
僕は喰らいながらも、何とか踏みとどまる。
「オレモ……ホンキダ……!!」
本気じゃない時があるとでも?この場に限って、そんなのはありえない。
僕は大きく息を吸った。そして、飛び上がった。
竜王は言葉を発する能力は残っているが、体力は大分減っているだろう。
僕はロトの剣に力を込めた。
大きく目を見開き、空中にいながら、剣の先を竜王に向ける。
そして……僕は今までに発したことのない呪文を、剣を振り回しながら、叫んだ。

「ギガデイン!!」

ギガデイン。それは伝説の勇者ロトが使用していた最強の呪文。今は失われたはすの呪文だった。なぜ、こんなことが出来たのかは、解らない。
ベギラマ・スパークの数倍輝く光の線が竜王を捕らえる。
そして、竜王を捕らえると、……大爆発を起こした。
そのさい、爆風が巻き起こり、空中から降りる途中の僕もそれに巻き込まれた。
再び壁に激突する。
「……!」
意識は何とか持った。
「竜王は!?」
僕はじっと爆風がおさまるのを待った。
竜王は……倒れていた。血を流し、ピクリとも動かない。
「倒した……のか?」
僕は竜王に近づいた。何の反応もない。
顔を見ると、竜王は白目をむいていた。
……もう、動き出すことはない。僕はそう確信した。

僕は、竜王を倒した。

コロン、と何かが転がってきた。
僕はそれを拾い上げる。これは……光の玉!
そう、僕の役目はもうすぐ終わりを迎える。
僕は光の玉を空に向かって掲げる。玉から眩い光があふれ出た。あまりの眩しさに、僕は思わず目を閉じる。
それと同時に、意識が一気に遠のいた。

気がつくと、僕は竜王の城の前で倒れていた。
「……終わった、のか」
「ああ…」
竜王の城の内部から影が現れた。竜王子だ。
「ハルカ……ついに、やったんだな。俺は……嬉しい」
「ああ。僕は竜王を倒した。紛れもない事実だよ」
いつの間にかいつもの鎧兜に戻っていた。ロトの鎧は魔法の道具袋に戻っていた。あの兜は見当たらなかった。
「良かった……見ろよ、周りは毒沼だったのにお花畑になっている!」
竜王子の言うとおり、毒沼だった場所はお花畑に変わっていた。もしかしたら、他のところもそうなのかもしれない。
そして空を見る。今まで見たことのない、澄んだ青空が僕の目に映る。
「綺麗だな」「ああ」
「ところで、竜王子。君はこれからどうするの?」
「俺は、ここにいる。ここで親父の罪を俺が償うんだ。城から動かずにな」
竜王子は笑いながら、そう言った。
「ハルカは、どうするんだ?」
「僕はね……しばらくしたら、アレフガルドを離れようと思うんだ」
「そうか。外の世界も、広いからな。さあ、ハルカ。ラダトーム城へ。みんな待ってると思うぜ」
「ああ。そうだね。……じゃあ、竜王子、さようなら。ありがとう!」
「ハルカ!俺も、ありがとう!!」
僕達は強く手を振った。竜王子は出会ったときよりも活き活きしていた。
これから、竜王子は大変な時を生きると思う。けれど、彼ならきっと、上手くいくと僕は思う。

僕は歩き出す。ルーラを唱えても良かったが、とりあえずしばらくは歩いていたかったのだ。


――次回、最終回。 
 

 
後書き
どうしてもギガデイン出したかったです。はい。
ちなみにハルカがギガデインを出すのはこれ一回きりという設定です。多分。 
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