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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-Final 最終話

Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-Final
新たなる旅立ち
最終話

空気が美味しいと思ったのは生まれて初めてかもしれない。
僕は大きな仕事を成し遂げたのだ。
いつか再び、悪がこの世界に手を伸ばす時が来るであろう。しかし、暫くはこの世界は安泰だろう。少なくとも数十年は平和な時が続くはずだ。
「さて、挨拶回りにでも行こうかな」
僕は手を空に掲げ、ルーラを唱える。
太陽が眩しい。けれどそれが素晴らしい事である。

リムルダール。
僕が町に入ると、人々は一斉に湧き出す。
拍手をする者、踊る者。
「勇者ロト万歳!勇者ハルカ万歳!」
一体この短時間でどうやって僕が竜王を倒したか……なんて、分かるだろう。今までに感じなかった清々しい空気と美しい天気。そしてそこに入る一人の戦士。……なんとなく想像はつくだろう。
中には僕と握手をしてくださいという人までいた(とりあえず応じた)。
「早速お祭りの準備だな」
「こっちは安売りだ!」
商人もご機嫌であった。相変わらず大根が安売りされている。
リムルダール町長も陽気に笑いながらで僕を迎えてくれた。馬を届けに行ったっきりである。
「お久しぶりだな。勇者ハルカよ。いやあ、気持ちがいい!またお前にお礼をしないとな……といいたい所だが、あいにく良い物が…」
「いえ、良いんです。僕はやるべきことをやっただけですから。あなたが元気でいることが、嬉しいのですよ」
「そうか。勇者ハルカ、本当にありがとな!」
町長さんはしっかりと、僕の手を握る。その手は何か物語っているのかもしれない。これから二度と会えないとか……。いや、僕の考えすぎだろうか?
「あまり長居は出来ないだろう?勇者ハルカ、じゃあな!」
「ええ!」
その後、僕はダンさんのいる教会に併設してある診療所を訪れた。
ダンさんは大分良くなっているようだ。ただ、自由に動けるようになるまでにはまだ時間がかかるという。しかし、全快する日もそれほど遠くないと僕は思う。ダンさんは、かなり嬉しそうだったから。
それともう一つ、あの二人――ロッコさんとナナさんのことである――の様子。ロッコさんはナナさんに「私がしっかりしなきゃね」とウィンクつきで言われていた。なんだかんだでラブラブなのだ。
ラブラブですね、と二人に言ったら、ロッコさんとナナさんは「あなたとローラ姫には負けるけどね」と言われた……。

次に訪れたのはマイラだ。
ここにも僕が竜王を倒したと知るものは多い。様子で分かるものだろうな。
クレアさん、セリアさんは僕に何度も頭を下げていた。
「本当に、ありがとうございました。しばらくしたら、様子を見てダンさんのところへ行ってみようかと思います。もう大丈夫ですよね?」
「ええ。これで魔物は人を襲うことはなくなるはずですから」
「まあ、心配だからあたしもついていくけど」
クレアさんの性格ゆえなのか、単について行きたいだけなのか。
「セリアさん!私は大丈夫ですよ!」
クレアさんは顔を赤らめて豪快に笑うクレアさんに言い返していた。クレアさん、以前より表情豊かになった気がする。
「あら、魔物じゃなくて悪い虫によ。勇者ハルカさんは彼女持ちだし、優しいから問題ないけど」
「もう…あら、ハルカさん、顔赤いですよ?」
確かに体が熱い気がする。理由は言うまでもない。
「……あはは。で、では、僕はこれで!」
「あら、もう行っちゃうのかい?まあ、忙しいんだね」
セリアさん、ニヤニヤしないでくださいよ。
「ハルカさん、ありがとうございました!」
名残惜しそうにクレアさんは僕に手を振ってくれた。セリアさんは相変わらず豪華に笑いながら手を振った。
そしてもう一人。ぱふぱふ娘として利用されていたところを助けた女性、セアラさんだ。
「ハルカさん!あなたのおかげなのね?ありがとう!メルキドに帰れる日もそう遠くないって、土産屋のおばちゃんが言ってくれたわ。楽しみなの。こんな気持ちになれるなんて思わなかったわ!」
セアラさんは楽しそうに嬉しそうにくるくる回る。家族と彼氏と離れ離れになっているのだ。再会できることに喜んでいる。
「楽しみなんだね」
「当然よ!本当に感謝だわ!ハルカさんには色々助けてもらった気がするわ」
それは初めてマイラに訪れた時、もう一つは僕が竜王を倒したから、ということなのだろう。
「さて、僕はもう少しここをまわってから行くね」
「ええ、ハルカ、ありがとう。ローラ姫とお幸せに!」
と言って、セアラさんはウィンクした。そういえば、ローラ姫を連れて、マイラにも来たっけな…。セアラさんも僕とローラ姫の姿を見ているのだろう。
マイラの温泉街はこの日はそれほど人は多くなかった。けれど、これから訪れる人は増えるだろう。ここへ来やすくなっている筈だから。
温泉施設はおじいさんやおばあさんが次々と入っていく。僕の姿を見ると、微笑んで挨拶してくれる。中には拝む人までいる。僕は神様でもルビス様でもないんだけど。
既に入った者は、「前より効果があった気がするよ。勇者が竜王を倒してくれたおかげじゃ、ねえ」とほとんどの人が口々に言う。
そんな効果があるのかと思うのだが、気分が良くなったから、とも言えるかもしれない。
……さて、ガライやメルキドも言っても良いが、ここはラダトームへ戻ろう。


ラダトーム城下町。ラダトームへ戻ってくるのは何日ぶりだろう。竜王城でも長い時間もぐっていたようだし。
「ただいま戻りました!」
僕は叫んだ。すると、あの時――ローラ姫を救出して戻ってきた時――以上に盛り上がっていた。
「勇者ハルカ万歳!ラダトームの誇り!」
「勇者ロトの再来だ!」
「勇者ハルカさん、握手してください!」
街の人々は少し興奮気味で、僕は一気に人々に取り囲まれる。
下手すれば身動きが取れなくなる……。
「あ、あの……」
困惑した僕は必死に人をかき分け、何とか進む。
「と、ところで今日は何日、です、か……?」
更に何を思ったのか僕は日付を聞いた。
「ああ、ガーネットの月の25日ですよ。長く帰ってこないので心配してました」
「そうですか、ありがとうございます」
少し歩くとようやく人ごみから開放された。ふと見ると、旅立った時に僕についてきた少女、マーラが。
マーラは別の男といい感じになっていた。新しい彼氏が出来てうれしそうだ。
「あら、勇者ハルカさん、ローラ姫とお幸せに!」
……なんか僕、同じような事言われている気がする。まあ、僕とローラ姫の仲が公認されていると考えると、悪い気は全くしないが。
そうだ、会いに行かなければならない人たちがいる。
僕は足早にそこへと向かった。
そこ、そう、イアンさんたちの家(食堂)である。
「イアンさん!イアンさん!」
「おお!帰ってきた!!勇者ハルカの凱旋だ!」
「お帰りなさい!ハルカさん!」
「私、嬉しいです!竜王を倒されたのですね!」
イアンさんはもちろんのこと、サユリさんもエリカちゃんも幸せそうな笑顔だった。
「ハルカ、もうすっかり大人だな。旅立ちの時とは別人みたいだ……」
「いえ、僕はまだ…」
しかし、イアンさんは寂しそうな表情を浮かべた。一年も経っていないのに、老けた気がする。気のせいだろうか。
「俺もだいぶ衰えてきたな。死ぬ気はさらさら無いがな」
「衰えたなんてそんな事。僕にとっては今でも大切な友人ですから!」
「ああ、ありがとう、ハルカ!俺も同じだぜ!」
イアンさんは笑顔を見せる。良かった。笑顔は変わっていない。
「サユリさん、お世話になりました。保存食、美味しかったです」
「あらあら、お役に立てて光栄だわ」
「ハルカさん、私はお父さんとお母さんと違って力になれなかったけど……」
「そんな事無いよ。君も僕のこと信じてくれて嬉しかった」
「えへへ」
エリカちゃんは照れ笑いをする。
僕はそれからイアンさん一家と少し話をした。僕はいずれかここを離れることを話した。
3人とも寂しそうな表情を浮かべたが、「頑張って」と声援を送ってくれた。
「……あ、そうだ、ラダトーム国王が再婚するって聞いたな」
「え!?」
「いつかは解らないが、勇者ハルカが竜王を倒した後にすると言っていたぜ」
「あの、僕、城へ行ってきます!」
「ああ、気をつけていけよ!」
僕はイアンさん一家に手を振った。笑顔で。

ラダトーム城。
当然の如く、僕が入ってきた途端、人々は大いに沸いた。
歌う者、踊る者、早速酒盛りする者。
「勇者ハルカ凱旋だ!そうだ!めでたい事続き!国王の再婚と勇者ハルカの凱旋!」
ラルス王の再婚は本当だった。そういえば、前々から何かそれを匂わせることはあったが、まさか本当に実現するとは。
と、なると心配なのがローラ姫である。反対している素振りは無かった気はするが…。
「あの、ローラ姫は……」
「私なら、ここに!」
階段にローラ姫が立っていた。嬉しそうに手を振っている。
「ローラ姫!あの、」
僕は急いでローラ姫のところへ駆け寄った。今のところ、嬉しそうなのだが。
「ハルカ様!竜王を倒されたのですね!私は嬉しゅうございます!」
「ええ。僕も嬉しいのですが……あなたのお父様が」
「ええ。知っていますわ。私にも紹介してくれました。マリサという名前で、私にも優しく接してくださいました。目の色が私とかつてのお母様と同じ緑色なんです。きっと、私が成長したと思ったのでしょうね。私は受け入れます。お父様も元気になってくれました。お父様には新しい王妃と幸せになってくれることが、私の願いです」
やわらかな優しい笑みを浮かべたローラ姫。
「優しいのですね」
「ええ。それに、お父様はハルカ様と私の中も分かってくれたからなのかも知れませんしね」
「ラルス王……」
もしかしたら、僕の気持ちを読んだのかもしれない(だとすればスゴイ?)。
「そうだ、ラルス王にも報告しなければ!解っているかもしれませんが、やはり顔見せですね」
「ええ」
僕達は一緒に謁見の間へ行く。

ラルス王の隣には、女性が立っていた。彼女がマリサという女性だろう。
髪は銀色、目はローラ姫といったとおり緑色。やや釣り目だが、気が強そうという感じではなかった。
「あら、ローラちゃん、彼氏、近い未来の旦那様かしら?ふふ、格好いいわね」
うふふと、上品に笑う。
「マリサお母様……」
ローラ姫は照れ笑いをする。僕もつられて赤くなる。
「おお。勇者ハルカか!全ては古い言い伝えのままであった!さすが勇者ロトの血を引くものだな。そこでお願いがある。そなたこそこのラダトーム王国を治めるにふさわしいお方だと私は思う。私に代わってこの国を治めてくれないか?」
え?確かラルス王、新しい王妃と結婚すると言って……。僕に王位を譲ると言うのか!?
まあ、僕の答えは決まっているのだが。
「いいえ。もし私の治める国があるのなら、それは私自身で探したいのです」
「やはりそうか。もしかしたらと思ったが、やはりここを出て行くのだな?私は止めない。恐らく、ローラ、お前もハルカについていくのだろう?」
「…………ハルカ様が良いと言ってくれたらですが」
そう言うと、ローラ姫は僕のほうを見る。
「ハルカ様、あなたの旅に私もお供しとうございます。私も……連れてってくださいますか?」
「決して楽ではありません、恐らく厳しい旅になると思いますよ。それでも宜しいのなら、私は貴女を連れて行きますよ」
「はい!私、負けません!どんな事があっても……私はハルカ様についていきます!」
僕は大きく頷いた。
「そう言うと思いましたよ」
「ありがとうございます!」
「そうか。決まったか。……しかし、今はまだ許されないな」
「……え?」
僕とローラ姫はラルス王のほうを見る。仲は認めてもらった。しかし、何かが足りないと言うのだろうか。
「春になってから旅立ちなさい。今の時期は海が荒れている。もう少ししたら航海がしやすくなるだろうからな」
なるほど、アレフガルド地方の周りの海は、冬の時期、荒れているから、危険だと言うわけか。
「解りました。……ところで、王様、新しい王妃との結婚式は何時ですか?」
「アメジストの月の最初あたりの日だ」
「なるほど」
「ハルカよ。ローラと共に旅立つまで、この城にとどまると良い。そして、旅立つ前日……いや、その話は後にしておこう」
ラルス王は何故か言葉を濁していた。
「……?ありがとうございます」
僕は首を傾げつつ、礼を言った。

ラルス王の結婚式まで、僕はスライムの家族に会ったり、ガライの町に挨拶をしに行った。
スライムの家族は大喜びで。僕に何度もお礼を言っていた。そして今度は大きな草餅を貰った。
「ありがとう。さようなら」
僕がアレフガルドを離れると言うと、スライムの家族は寂しそうだったが、応援してくれた。
ガライの街では、やはり人々は陽気に歌っていた。
仲には僕をたたえる歌もあり、僕としては、何だか照れくさかった。
ガライの墓の前のホールに居た人たちはいつの間にか街へ出てきていた。
外の空気を吸いたかった、らしい。
何がともあれ、元気な街の人々を見るのも、良いものだと僕は思った。

ラダトームへ戻ってから数日後、アメジストの月。ラルス王とマリサ新王妃の結婚式が行われた。
城の皆、街の皆は彼らを祝った。僕とローラ姫も精一杯祝った。
その披露宴パーティの際、マリサ王妃はローラ姫に、
「貴女も勇者ハルカさんの妻となり、勇者ハルカさんが王となったとき、貴女は王妃になるのでしょう?」
と笑顔で言った。
「……そうですね……」
ローラ姫は赤い顔でもじもじしながら答えたという。
すると、披露宴の最中、ラルス王が賑わっている中、叫んだ。
「このラルス王からお知らせがある!」
宴会場は一気に静まり返る。
「実は、アクアマリンの月に結婚式を挙げようと思うのだ!」
「…いや、王様、今挙げたじゃないですか」
大臣が突っ込んだ。しかし、
「私のではない!……ハルカとローラ姫の結婚式を行う!」
「……!?」
寝耳に水だった。もしかして、あの時言葉を濁していたのって……。
すると宴会場は大盛り上がり。この場に居た者は「幸せ続きだ!」と口々に叫ぶ。
「お、お父様……!そんな!」
「僕、いえ私も聞いては……」
「ハルカよ。旅立つ前に、折角だから、わが娘ローラを妻として、迎えないか?……そなた次第だがな。と言うより、そなたの誠意、プロポーズを見せてくれ」
「は、はいっ!」
「ハルカ様……?」
ラルス王は恐らく、ローラ姫の晴れ姿を見たいからなのかもしれない。父親として、娘のウェディングドレス姿を見ておきたかったのかもしれない。僕は決心した。
人々は固唾を呑んで見守っている。
「ローラ姫。……僕の妻となってください!」
「ハルカ様…………はい。よろしくお願いします……!」
ローラ姫は涙ぐんでいた。そして僕に微笑みかける。
再び、この場所が沸いた。
僕とローラ姫の結婚が、決まったのだ。
「ハルカ様、私、わたし……!」
こんなことになるとは正直思わなかった。僕も、ローラ姫も。
でも、僕もローラ姫も、幸せだった。
ローラ姫は嬉し泣きで、僕の胸に顔をうずめる。僕はそっと、マントでローラ姫を包んだ。

僕の左手の薬指には、指輪があった。ローラ姫にも勿論指輪が。
結婚式にはお互いの指輪を交換するのだ。このアイディアはマリサ新王妃が考え付いたものだった(魔法の力が込められているので、サイズに関しては問題ないとも言っていた)。
今はアメジストの月。あと1カ月時間がある。
僕はその時間で、まだ行っていない、メルキド、そしてドムドーラへ行くことにした。
その際、ラルス王は僕の為に白い馬を用意してくれた。
まず、ルーラを唱え、メルキドへ向かう。

「おお、勇者ハルカ!ありがとう!」
街の人々は僕を温かく出迎える。
「ゴーレムなんかいなくても、この街は安泰だ!」
「いや、俺達見張りの疲れも取れるぞ!」
そう言っていた。
その中に、あの兵士が居た。セアラさんの恋人の兵士が。
「勇者ハルカ!セアラからもうすぐ帰るって連絡があったんだ!君のおかげだよ!セアラの両親も本当に嬉しそうで……」
彼は《キメラ便》で送られてきた手紙を手に、子供のようにはしゃいでいた。
本当に嬉しそうで、良かった。
「おっと、ロトの勇者にこんな口の利き方はいけませんね」
「いえ、僕は別にかまいませんよ。確かに僕は、勇者ですが、それ以前に、一人の人間なので」
「そうか。とにかく、私はお前にお礼を言う。ありがとう。そして、おめでとう」
僕の左手の薬指に気がついたようだ。僕はアクアマリンの月ですよ、と言ったら、彼は「そうか私は行けないが、ここからお前とローラ姫を祝うよ」と言ってくれた。
他に、僕はあの時お祈りをしていたシスターに話しかけた。
シスターは僕に何度もお礼を言った。
「ハルカさん。貴方が竜王を言う忌まわしきものを倒してくれたおかげで、ここで眠っている者たちも、安心しているようです。私も、心が安らぎました。ありがとうございます。……そして、おめでとうございます。ここで眠っている者たちも、ああなたを祝ってくれているようですわ」
シスターも僕の指輪に気がついていた。グローブの上に指輪をはめているのはおかしいかなとは思ってはいたが、誰も変だとは言わなかった。
僕はしばらくメルキドの街を歩いた後、白い馬に乗って、あの場所に向かうことにした。

ドムドーラ。竜王が滅んだ今でも廃墟のままである。……当然なのだが。
しかし、微かに美しい音色が聞こえる。よく見ると、人がいるではないか!
「あの、何をしているんですか?」
近づいてよく見ると、その人は半透明になっていた。……霊?
「ああ。貴方は勇者ロトの血を引くもの、ハルカさんですか」
「ええ。貴方は?」
「私はガライ。北の方に町があるでしょう?それが私が造った町ですよ」
何と、伝説の吟遊詩人ガライだった。ロトの時代に生きた人。ロト様――レイル様が上の世界に帰った後、ガライは街づくりを始めたという。
「何故ここに?」
「ええ。かつて賑わっていたドムドーラの町並みを思い出していたのですよ、かつては本当に、たくさんの人がいて、賑わっていました……」
そう、ドムドーラもかつては賑わっていたのだ。ロト様の居た時代はもっと賑わっていたと言う。
ガライはまた楽器で演奏を始めた。美しい声だ。
……賑わっていた町並みが見えた気がした。
「おや、皆、貴方に感謝しているようですよ。竜王を倒してくれてありがとうって」
僕にも見えた。今は亡き、ドムドーラの人々……。皆笑顔だった。
「安心して、眠れますわ」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
「そうだ、ハルカさん、貴方に会いたい人も着ているのですよ」
「え?」
ガライの方を見て再び人々のほうを向く、すると、若い男の人と女の人が居た。まさか……。
「父さん、母さん……?」
その男女は頷いた。僕の父さんと母さん……。父さんはどことなく、僕に似ている気がする。いや、僕が父さんに似たんだ。母さんはとても綺麗な人だ。
「ハルカ、本当に大きくなったな。僕達は嬉しいよ。こんなに立派になってくれて……」
「ハルカ、私達の願ったとおりになってくれた。本当に嬉しいわ」
「父さん、母さん……僕は……」
僕はそっと兜を脱ぐ。
「ああ、やはりハルカは僕に似たんだね。でも、目の色は母さん似かな」
「そうね。貴方は茶色の目ですものね」
僕は泣きそうな気持ちを抑え、必死に笑顔を向けた。
「ハルカ。お前は僕達の立派な息子だ。これからも、僕達の分まで精一杯生きてくれ」
「そして、幸せになるのよ……。まあ、あなたもいつか父親になるのね?」
「指輪、か。確か、ハルカのお嫁さんはとても綺麗なお姫様だったね」
「はい。父さん母さん、僕を生んでくれてありがとう。僕は父さん母さんの分まで生きていくよ。ローラ姫と、いつか生まれる子供達と……」
すると、父さんは僕の頭を撫でた。
「ハルカ、可愛い僕達の息子、自慢の息子だな。さて、僕達はもういかなければ。ハルカ、ありがとうな」
「ハルカ、大好きよ」
父さん母さんを始めとしたドムドーラの人々、ガライの姿が薄れていく。
「私も行きます。ハルカさん、何度もお礼を言いますが、ありがとうございました」
「はい、ありがとうございました!!」
人たちは消えた。また、何もないドムドーラに戻る。
僕は兜を被り、そっと、一筋の涙を流した……。
本当に、ここへ来てよかった。

少しずつ暖かくなってきた。アクアマリンの月に入る。
ラダトーム城は少しずつ、式の準備が始まっている。
「ハルカ様……いろんな気持ちが混じっていますの。勿論、嬉しいのです。でも」
「……寂しいのですね?僕ともにここを離れるから、ラダトームにいられるのが残りわずかだから」
「ええ。でも、皆さん優しいのねハルカ様と私を祝福してくださるの」
ローラ姫は顔を赤らめながら、左手薬指の指輪を見つめる。僕も照れている。
「僕達、夫婦になって、ここを旅立つんだよね」
「ええ、ハルカ様」
僕とローラ姫はそっと口付けをした。


そして、アクアマリンの月の中旬。祝福の鐘が鳴った。
ローラ姫は美しい純白のウェディングドレス。僕はロトの鎧姿だった。
カーペットの上をゆっくりと歩く僕達。
人々は「おめでとう!」「奥さん大事にしろよ!」「お似合いだね!」と声をかけてくれる。
かつての戦士団の仲間達は、「出世したな!」「羨ましいぜ!」「幸せでいないとオレ達も困るぞ!」と彼らなりに僕を祝福してくれた。
参列者の中にはイアン一家も居た。当然の如く嬉しそうに楽しそうに僕達を祝福してくれた。
「ハルカ様……」
「ローラ姫、美しいですよ。あ、これはいつものことですね。今日は一段と美しいです」
「まあっ」
僕もローラ姫も嬉しそうで。幸せだった。
僕達は夫婦の誓いをし、指輪交換をし、そして誓いのキスをした。
暖かい気候、温かい祝福。
「おめでとう!お幸せに!」
花が舞う。ライスシャワーが降りかかる。
ローラ姫は僕に寄り添うようにして、一緒に歩いていた。
僕達は、今日から夫婦になったんだ。
ラルス王もマリサ王妃も僕とローラ姫の結婚を祝ってくれた。ラルス王は、
「ああ、生きているうちに娘のウェディングドレス姿を見られて良かったぞ!」
と嬉し泣きをしていた。ちょっとオーバーな気もするけれど…、でも喜んでくれてよかった、と僕は思う。

披露宴が行われた。宴会場は大いに賑わい、楽しい一時だった。
ローラ姫は泣きながら父親であるラルス王にお礼の手紙を読んだ。
イアン一家は僕にペアのレースのハンカチをくれた。僕とローラ姫の名前の刺繍付き。刺繍をしたのはエリカちゃんだと言う。
「上手だね」「素敵ですわ」僕とローラ姫がそれぞれほめると、エリカちゃんは、
「あ、お母さんに教わって頑張ったの、嬉しい」
とはにかんだ。
その晩は2人一つのベッドで眠った。

翌朝、ついに僕達の旅立ちが許された。
この日も多くの人たちが見送りに来てくれた。
ラダトームをいよいよ離れる時が来た。
短いような長かったような僕の冒険。
竜王を倒し、平和が戻った。
けれど僕、いや僕達の冒険はまだ終わらない。また新しい旅に出るんだ。
「さあ!ハルカとローラの新たなる旅立ちだ!!」
ファンファーレが青い空に響く。
僕はローラと手を繋ぐ。
「さあ、行こうか、ローラ」
昨晩色々会話して、呼び捨て、ため口OKということになった。夫婦になったことだし。
「ええ、ハルカさん」
「え?呼び捨てじゃないの?」
「……えっと……」
ローラは顔を真っ赤にしてもじもじした。
「は、は……」
どうやら恥ずかしいらしい。無理もない。ローラは他の人を呼び捨てで呼んだことはない。年下でも「さん」付けはするのだ。
「無理しなくて良いよ。でもいつか、僕の事、『ハルカ』って呼び捨てで呼んで欲しいかな」
「分かりましたわ、ハルカさん」
顔を赤くして笑うローラ。とても可愛い、僕の奥さん。
これから、長い時を大好きなローラと過ごすのだ。
僕もローラも幸せだ。
「皆さん、ありがとうございました!!」
「勇者ハルカ様!ローラ姫!行ってらっしゃいませ!!」


アレフガルド暦401年、勇者ロトの血を引く者、勇者ハルカ。
竜王を倒し、世界に光を取り戻した。
ここに、新たなる伝説が生まれた。
この勇者ハルカの功績は勇者ロトの功績と共に永遠に語り継がれるであろう。
そして、その妻となった王女ローラも勇者ハルカと共に肖像画、銅像として残される事となった。

――ハルカ・クロニクル END 
 

 
後書き
―――
これにてハルカ・クロニクルのストーリーはとりあえず終わりです。
長かった。期間こそそれほどではないのですが。長く感じました。
最終回なんかかなり長くなってしまいました(笑)。
私の自己満足のようなものですが、ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
これから番外編など、書くかもしれません。

最終回小話:勇者ハルカとローラ姫の結婚式は前から考えていたラストです。 
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