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勇者番長ダイバンチョウ

作者:sibugaki
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第5話 強敵、スケ番登場!男は女を殴っちゃいけねぇ!

 強敵、リフレクト星人との激闘を終えた轟番ではあったが、彼に安らぎの時間は無いに等しいの一言であった。
 自宅へと帰宅した番を出迎えたのは息子の真と母の恵であった。しかも母の恵に至っては少しご立腹だったりする。
「ま、真! それにお袋……」
「番、少し話があります」
 真剣な母の目線に番は弱かった。幼い頃より祖父を失い父もまた行方が分からなくなってから、母である恵が女手一つで番と真を育て上げて来た肝っ玉な母であった。
 番はそんな母により此処まで丈夫に育てられた恩を決して忘れてはいないのだ。それは如何にに喧嘩最強と謡われている番でさえも彼女に敵うどころか反抗する事すらも出来なかったのだ。
 そんな母に呼ばれ、番は逆らう事なく居間の方へと導かれた。
「番、貴方私達に何か隠し事をしているんじゃないの?」
「べ、別にそんなこたぁしてねぇよ!」
「それじゃ、何故お爺さんのデコトラがあんなにボロボロなの?」
「う……」
 番は言葉に詰まった。ゴクアク組との激闘により軽トラのバンチョウも、デコトラの番トラも徐々に傷を負って来ているのだ。
 幸い両者とも多少の傷でなら時間を置けば回復してくれるのだが、恵にはそれが気掛かりになってしまったのだろう。
 流石は番の母親だ。その眼力たるや、向う所敵無しと誇っている番が小さくなってしまう程であった。
 元々物静かで穏やかな性格の母だが、いざと言う時のその気迫と眼力は番を震え上がらせるには充分過ぎる程であった。
「兄ちゃん、俺達に隠し事なんて水臭いぞぉ!」
「番、私達三人家族で力を合わせて生きていこう、ってお父さんが行方不明になってから決めた事でしょ? それなのに隠し事って言うのは良くないわ」
 母の恵と弟の真の二人に睨まれてしまい、二進も三進も行けない状況に陥ってしまっていた。現在、番の脳内ではこの状況をどう切り抜ければ良いか必死に模索をしていた。
 下手な言い訳は出来ない。した所で恵には一発でばれてしまう。
 子供の嘘ほど親にとって見抜き易い嘘はないと言うのは本当のようである。
 番は腹を括った。こうなればどう転ぼうと構うものか。覚悟を決めて番は両の手を床に叩き付けて二人に向かい頭を下げた。
「すまねぇ。お袋、真。今は言う事が出来ねぇ。だけど、何時か必ず話す! だから、それまで待っててくれねぇか」
「兄ちゃん……」
 番が人に頭を下げる事など滅多になかった。彼が頭を下げるのと言えば亡き祖父位にである。そんな番が母と弟に対し頭を下げたのである。
 そんな姿の番を見た母の眼力がふと消え去っていく。
「顔を上げなさい、番」
 聞こえてきたのは優しい母の声であった。その声を聞き、番も顔をそっと上げる。
「男がそう簡単に頭を下げては駄目よ。死んだ御爺ちゃんもそう言ってたでしょ」
「あ、あぁ……」
「理由は分からないけど、貴方が頭を下げる程の事だと言うのは良く分かったわ。貴方が言いたくなった時に教えて頂戴」
「有り難う、お袋」
 寛大な判断に番は頭が上がらなかった。
「その代わり、怪我だけは注意しなさいね」
「心配すんなって! 俺は体だけは丈夫だからな」
 自身の胸を叩いて自分自身をアピールする番。そんな番を見て、笑みを浮かべる母恵なのであった。




     ***




 リフレクト星人との戦闘から暫くの間はゴクアク組の襲撃はなく、平和な日常が戻って来た。番は珍しく早めに学校へと向った。
 余り長居していてはまた母と弟に要らぬ心配を掛けてしまうかも知れないと思ったからだ。
 それに、その日は何故か余り寝たいとは思えなかったのである。
「おはよう、番」
 背後から声がした。その声を聞き、番は頭をかきながら振り返った。
 後ろに居たのは一人の女子生徒だった。学校指定の制服を身に纏い、茶色の髪に長い髪を後ろで三つ編みで束ねている。少し気弱そうな顔立ちで丸めがねを掛けたその少女は番を見上げるようにして立っていた。
「珍しいね、何時も遅刻常習犯の番がこんな早めに登校するなんて」
「別に良いだろ。俺にだってたまにはこんな日もあるんだよ」
「へぇ~、たまにはねぇ」
「……」
 含みのある笑みを浮かべながら、その少女、長瀬美智【ながせ みち】は番と歩幅を会わせるようにして隣を歩いていた。
 美智と番は小さい頃からの幼馴染である。どうやって知り合ったかは、今は二人共覚えてはいないがとにかく、番と美智の二人が連なって歩く事はさほど珍しい事ではない。
 だが、その事をネタにしてからかおうものなら、その後に番の手により血の海を泳ぐ羽目になるので、これを読んでいる人達も決して下手にからかうような真似はしないように。
 そんなこんなで番と美智の二人で珍しく登校した今日この頃。玄関口へと移動し、ゲタから上履きへ履き変えようとしている時である。
 一応番も校内をゲタで歩き回るような真似はしない。ちゃんと履き変える事はしている。
 番が自分のゲタ箱を開けると、その中にある自分の上履きの上に一枚の手紙が置かれていた。
 ご丁寧に封までしてある仕様であった。
「何だこりゃ?」
「手紙だねぇ……もしかしてラブレターとか?」
「んな訳あるか!」
 美智の意見を全力で番は否定した。実は言うと番は、何よりも女が苦手なのである。幼馴染の美智は別だが、他の女とは余り関わりを持とうとしていないのである。
 それは彼曰く【男がそう簡単に女に声を掛けるのは軟弱者のする事也。男はどっしり構えて女が話掛けてきた時だけ答えるべし!】と言う、これまた祖父の教えを守っているからである。
 何はともあれ、中身を見ない事には始まらない。封を解き放ち、中を確認する。
 其処には筆でこう書かれていた。
【果たし状】と。
「果たし状? 何これ」
「へぇ、この俺に名指しで喧嘩を売るなんざぁ度胸のある奴も居たもんだぜ」
 番の顔に闘志が沸きあがってきた。此処最近平和で鈍っていたせいか、こう言った類の事にはとても嬉しくなってしまうのも番の特徴と言える。
 果たし状と書かれた他に、細かい場所が記載されており、しかも地図までもが書かれていた。
 まぁ、地図と言っても一本線を引いた簡素過ぎる地図なのだが。
「上等だ。この喧嘩買ってやるぜ!」
 果たし状を手の中でグシャリと握り締め、番はゲタ箱を閉めた。
 そして、折角入ってきた玄関口を出て行こうとする。
「あれ? 学校はどうするの?」
「それよりも喧嘩だ喧嘩! 男が名指しされた喧嘩をほっぽれるかよ!」
 何とも自分勝手な理屈を並べて、番は学校を出て行ってしまった。
 俗に言うエスケープである。
 美智は追い掛けようとはせずに、そのまま校内へと入っていった。彼の性格は美智が一番良く知っているのだ。
 あぁなってしまった番は、誰にも止められないと言う事を―――




     ***




 記されていた場所はすぐ近くの空き地であった。広さ的には野球で言うダイヤモンドと同じ位の大きさであり、三段積みされたコンクリート製の土管が置かれており、それ以外は何もない質素な場所でもある。
 正に絶好の喧嘩場所とも言えた。その場所の丁度真ん中辺りで、番は腕を組み仁王立ちしていた。
 どうやら先に喧嘩場所に辿り着いてしまったようだ。少し気が早かったのだろう。
 まぁ、それは仕方ない。後は果たし状の送り主が来るのを待つだけだ。
「さぁ、早く来い! 腕がウズウズしてきたぜ」
 番の両腕が今か今かと打ち震えているのが分かる。早く喧嘩がしたいのだ。
 侵略者達がパタリと消えてからと言うもの、こう言った一触即発な喧嘩はなかったのだ。それが番には退屈で仕方なかったのである。
 三度の飯も大事だが喧嘩も大事。それが番なのである。
 突如、風向きが変わった。それと同時に、番の鼻をくすぐるような匂いの変化を感じた。
 今まで感じなかった匂いだ。それは即ち、近くに何かが居る事を示している。
 咄嗟に番は身を翻して山積みにされている土管の方を向いた。
 そして絶句した。其処に居たのは番にとって予想外の存在だったのだから。
「あんたが、番町高校の番長、轟番だね?」
 其処には土管の上に乗りこちらを睨みつけている一人の女子生徒が居たのだ。
 番町高校とはこれまた違った制服を身に纏っている。が、彼女のはスカートの丈がかなり長く、色も黒いセーラー服になっている。
 結構昔風の制服だ。
 そして、そんな彼女の左右には数人の同じ服装をした女子生徒達が腕を組んで番を睨んでいた。
「て、てめぇは……」
「あたいは木戸 茜【きど あかね】。私立輔番高校の番長、言い換えればスケ番だよ」
「ま、まさか……俺に果たし状を送りつけたのって―――」
「そう、このあたいだ!」
 自身を指差して応じる茜。番にとっては最悪な展開であった。
 番が最も苦手とする女。その女が事もあろうに喧嘩を吹っ掛けてきたのだ。
「轟番。てめぇ、最近この町でデカイ面してるみたいだけど、あんま調子に乗ってると痛い目に遭うって事を、このあたいが教え込んでやるよ」
「姉御がわざわざ出向くまでもありませんよ!」
「そうっすよ! こんな奴、あたい等で袋にしてやりますよ!」
 周囲のスケ番達が意気揚々とこちらに向かい腕を鳴らして迫ってきた。
 そんなスケ番達相手に番は拳を構える事など出来ずに後ずさりし始める。
 出来る筈がない。男同士の喧嘩であれば血沸き、肉が踊る接戦が出来るだろうが、女は別だ。
「さぁ、あたいらと勝負しな!」
「で、出来る訳ねぇだろうが!」
「なんだてめぇ、怖気づいたってのか?」
「冗談じゃねぇ! 俺は死んでも女は殴らないって決めてんだよ! それなのにお前等の喧嘩なんて買える訳ねぇだろうが!」
 番の心の叫びであった。まぁ、中には女だろうと関係無しに殴りつける野蛮人も居るだろうが番は違う。彼は決して女は殴らないのだ。
 これも【男は決して自分より弱い者は傷つけてはいけない。まして女を殴る奴は男じゃない!】と言う亡き祖父の格言を頑なに守り続けてきたからなのだ。
 その発言に、迫ってきていたスケ番達は呆れたような顔をしていた。
 そして、大きな声で笑い出し始める。
「聞きましたかぁ姉御ぉ。こいつ喧嘩しないって言ってますぜぇ。あたいらが女だから出来ないってさぁ」
「どうせでまかせだろ? 本当は怖くて喧嘩も出来ないもやし君だからそうやって言い訳してんだろ?」
「はん、興醒めだ興醒め」
 周囲のスケ番達は散々番に野次を飛ばしまくる。だが、それで済むなら番はじっと耐えられた。ただ野次を受ける位なら幾らでも受けて立とう。だが、殴るのだけは勘弁だ。
 そう思い、こうしてずっと立っていたのだ。
 だが、そんな中、最奥に居た茜の雰囲気が一変していた。
 遠目からでも分かる位に、茜が不機嫌になっていたのだ。
「あ、姉御?」
 茜の雰囲気が変わった事に気付いた周囲のスケ番達が青ざめながら振り返る。
 それを見た時には、既に茜は怒りMAX状態へと変貌してしまっていた。
「あたいはなぁ、女扱いをされんのが一番嫌いなんだよぉ! ふざけやがってぇぇぇ! ぶっ殺してやるよ!」
 そう言い、茜がスカートの裾から取り出したのは赤く染められたヨーヨーであった。
 両手にそれを持ち、主室に番目掛けて投げつけてきたのだ。
「どわぁっ!」
 咄嗟に番はそれをかわす。
 頬にかすかな痛みを感じた。触れるとドロリとした感触がした。
 触れた箇所が赤くぬれている。血が出たのだ。
 だが、ヨーヨーに触れただけでこうなるのだろうか?
 そう思い、戻っていくヨーヨーを見て、その真相が分かった。
 あのヨーヨーには四枚の仕込み刃がついているのだ。
 投げつけた瞬間にそれが飛び出し、相手を切り付ける仕様になっている。
 恐ろしい凶器であった。
「ちょ、ちょっと待て! そりゃ何だ!」
「こいつがあたいの得物だよ! 悔しかったらあんたも自分の得物を使ったらどうだい?」
「出来る訳ねぇだろうが! 女相手に得物なんざ使えるかってんだ!」
「まだ言うかてめえええええええええええ!」
 その一言が起爆剤となったのだろう。茜が一心不乱にヨーヨーを飛ばしまくる。それを必死になって避けながら逃げる番。
 男が喧嘩相手に背中を向けるのは恥ではないのか?
 と、言う疑問を思う人達も居るだろうが、今回は相手が相手なので無理なのである。
 流石に女相手では喧嘩などできる筈がない。それが強敵であったとしても、番には出来ないのだ。
「待て、轟番! あたいと勝負しろぉ!」
「無理だぁぁ! 俺は死んでも女は殴らないって心に決めてんだよぉ!」
「じゃぁいっそ死ねぇ!」
「それも嫌だぁぁ!」
 ヨーヨーを両手に追いかけまくる茜と、必死に逃げまくる番の何時果てるとも知れない追いかけっこが展開されていた。
 空き地唯一の出入り口では茜の部下であるスケ番達が張っていて出られそうにない。
 しかも、立ち止まれば忽ち茜の放つヨーヨーの餌食となってしまうのは明白だと言える。
 どの道このままではいずれ倒されてしまうだろう。と思っていた矢先、突如クラクションが鳴り響く。
「な、何だ!?」
 動揺する茜の目の前で入り口を固めていたスケ番達が突如クモの子を散らしたかの様に離れていく。
 その直後に、こちらに向かい一台の軽トラックが突っ込んできたのだ。
「バンチョウ! 良いタイミングだぜ!」
 番はそう言い放ち、こちらに向かい突っ込んで来る軽トラックの荷台の中に飛び乗る。番が荷台の上に乗ったのとほぼ同時に軽トラックは猛スピードで空き地を後にするのであった。
「す、すみませんでした。姉御」
「怪我はなかったかい?」
 集まってきたスケ番達の身を案ずる茜。その頃には、既に番も例の軽トラックも姿が見えなくなってしまっていた。
「あの野郎……あんな軽トラで逃げ切れると思うんじゃないよぉ」
 茜の目が獲物を駆る獣の様な目をしだした。しかし、その目を番は後に見る事になる。案外すぐに……




     ***




 その頃、番はバンチョウの荷台の上に乗りひと心地ついていた。
「ふぃ~、助かったぜぇ。バンチョウ」
【良いって事よ。お前の欠点は俺の欠点でもあるからな】
 どうやらバンチョウもまた番と同じで女相手に拳を出す事が出来ない性格らしい。その為に番の窮地を察知し、助けに駆けつけたのだろう。
 今回はそのお陰で助かったのだが。
【それで、この後は何所へ行く予定なんだ?】
「そうだな……ん?」
 ふと、荷台に乗っていた番は見る。それは、後方から物凄いスピードで迫ってくる一台の赤いスポーツカーが見えたのだ。
 形からしてフェラーリタイプだろう。結構洒落た外観をしている。
「何だ? あの車は」
 疑問に思う番。すると、迫ってきたスポーツカーがバンチョウと並ぶ。
「追いついたよぉ、轟番!」
「げぇっ、てめぇは!」
 そのスポーツカーを運転していたのは事もあろうに木戸茜であった。
 慣れた手つきでハンドルを握り、こちらに向かいメンチを切っている。しかもかなりご立腹だったりする。
「まだ懲りてねぇのかよぉ!」
「あったり前だろうが! あたいとの喧嘩を逃げるなんざぁお天道様でも出来やしないよぉ!」
「勘弁してくれぇぇ!」
 そんな訳でバンチョウと茜の運転するスポーツカーとの壮絶なデッドヒートが開始されようとしている。だが、そうなれば軽トラではまず勝ち目がない。
 馬力の時点で差があるからだ。
【番、どうする?】
「こうなったら、バンチョウにチェンジしてあいつを驚かしてやるしかねぇ。このままじゃこいつ地の果てまで追い掛けるつもりだぜぇきっと」
【そうするしかねぇか】
 満場一致の元、番は運転席へと移動する。そしてハンドルを握り締めて気合を込めて叫ぶ。
「男チェンジ!」
 叫びと同時にバンチョウが飛翔し、巨大ロボットバンチョウへと変形を果たした。
 変形したバンチョウが茜の運転するスポーツカーの前に舞い降りる。
「どうだ? 驚いたか?」
「はん、たかが変形した位でこのあたいがビクつくとでも思ってたのかい? それに、それが出来るのはあんただけじゃないんだよ」
「へ?」
「行くよ、スケバンチョウ」
【待ってました!】
「紅チェンジ!」
 茜が叫ぶ。すると、そのスポーツカーもまた空高く飛翔し、変形を始めた。
 バンチョウのとは違いこちらは明らかに女性型とも言えるフォルムをしていた。
「スケバンチョウ! 此処に登場!」
「て、てめぇも……変形出来たってのかぁ?」
「そう言う事だよ。さぁて、条件も同じになったんだし、そろそろ決着をつけようじゃないのさぁ~」
 腕を鳴らしながら迫ってくるスケバンチョウ。それに対しバンチョウは完全に尻込みしている状態であった。
 ジリジリとバンチョウが下がれば、同時にジリジリとスケバンチョウが迫ってくる。そんな感じの動きが展開されていた。
「さぁ、とっととおっぱじめようじゃないのさぁ?」
「どうする? どうすりゃ良いんだ……俺に、俺に女を殴れって言うのかよぉ?」
 番にはどうしてもそれが出来なかった。幾ら目の前に殺気を立てた敵が立ち塞がろうとも、それが女であれば決して殴る事が出来ない。それが轟番なのだ。
「こうなったら、ダイバンチョウへ合体するしかねぇ!」
【無茶言うな番! ダイバンチョウへの合体には熱血エネルギーが必要なのを忘れたのか?】
 読者の皆様には今まで説明していなかったのですが、此処でご説明致しましょう。
 バンチョウがダイバンチョウへ合体する為には合体パーツである番トラを呼ぶ事ともう一つ、それは番とバンチョウの体内にある熱血エネルギーが一定量蓄積されていなければ出来ないのだ。
 その熱血エネルギーを蓄積する方法と言うのが、早い話が燃え上がる事だ。
 つまり、今回の戦いでは番自身が逃げ腰になっている為に全然熱血エネルギーが蓄積されていないのだ。
 今のこの状態ではとてもダイバンチョウへ合体出来るとは思えない。もし出来たとしても本来の力の30パーセントも出せないだろう。
「だが、それ以外にこの状況を打破する方法はねぇ。バンチョウ、覚悟を決めろ!」
【しょうがねぇ、分かったよ!】
「やるぞ、根性合体!」
 番トラを呼び、バンチョウと番トラが合体を果たす。こうして、最強の勇者番長こと、ダイバンチョウが姿を現す。
 だが、その姿は何所か弱弱しく見える。
「ちっ、やっぱり何時もよりパワーが出ねぇか」
【当然だろうが! 体内の熱血エネルギーが圧倒的に不足してんだ。今の状態じゃ本来の力の30パーセントも出せねぇし、防御力も大きく低下しているぞ!】
 熱血エネルギーの不足したダイバンチョウは攻撃力も防御力も大きく減少してしまったようだ。これでははっきり言ってバンチョウで戦った方がまだマシと呼べる状態とも言える。
「ふん、合体をしたみたいだねぇ。だったらこっちも行かせて貰うとするよ! 来い、紅燕!」
 スケバンチョウがその名を大声で呼ぶ。すると、遥か上空から一機の飛行機がやってきた。
 それは、大型のステルス戦闘機であった。しかも、本来は黒い色の筈なのに全身が真っ赤になっているのだ。
「な、何だありゃぁ!」
「見せてやるよ。あたいの真の姿をねぇ」
 笑みを浮かべて、スケバンチョウは飛翔する。そして、スケバンチョウと紅燕が同じ高さになった時、それは起こった。
「紅合体!」
 スケバンチョウと紅燕が互いに合体を果たす。その結果生まれたのは、ダイバンチョウと同じ全長を持つ全く別の巨人であった。
 違う点と言えば、この巨人はダイバンチョウとは違い空戦能力を有している事だ。
「クレナイバンチョウ!」
「く、クレナイバンチョウだとぉ!」
「さぁ、喧嘩をおっぱじめようじゃないのさぁ!」
 怒号を上げて、クレナイバンチョウが怒涛のラッシュを叩き込んできた。
 ダイバンチョウとは違い威力こそないがその分手数が半端ない。それにかなり鋭いと来ている。
 その上、ダイバンチョウの防御力も大きく低下している為に何時もより痛く感じてしまうのだ。
「ほらほらどうしたんだい? まさかこんなジャブでダウンしちゃうんじゃないだろうねぇ?」
「ば、馬鹿言うんじゃねぇ! 天下のダイバンチョウ様が女の拳で倒れたとあっちゃそれこそ名折れだぜ!」
「言ってくれるじゃないのさ。だったら、あたいも本気を出させて貰うよ!」
 すると、さっきまで怒涛のラッシュを放っていた筈の拳を収めてしまった。
 何事かと思い眼前のクレナイバンチョウを見た時、それは飛んできた。
 今度は右回しに遠心力を備えて放ってきた蹴りだったのだ。
 威力が段違いに高い。拳などまるで撫でているようにしか感じないのだ。
 その蹴りを諸に食らい、ダイバンチョウは思い切り地面に倒れこんでしまった。
「ぐっ、がはぁっ! な、何だ今のは……」
「驚いたかい? あたぃはねぇ、こう見えても蹴りの方が得意でねぇ。生身でも岩盤位なら軽く砕けるよ」
「ど、どおりで……効く訳だぜ……づっ!」
 起き上がろうとしたが、どうにも無理そうだ。何時ものダイバンチョウならいざ知らず。大きくパワーダウンしているダイバンチョウではまるで話にならない。
 たった一発のキックを受けただけでこのざまである。何とも情けない話であった。
「駄目だ、起きれねぇや……体に力が入らねぇ」
「ちょ、ちょっと待ちなよ! そんなのないじゃないのさぁ! あたぃに倒れた人間をやれってのかいぃ?」
「んな事言ったってしょうがねぇだろ? 俺にゃもう立ち上がる力すらねぇんだよ。こうなりゃ俺も腹括るしかねぇや。煮るなり焼くなり好きにしな」
「ふ、ふざけんじゃないよ! あたぃは其処まで落ちぶれちゃいないってんだよ! 誰が倒れた奴を甚振れるかってんだ! この勝負はなしだ! あんたが全快になった時、その時に改めて勝負を申し込まさせてもらうからね!」
 何故か勝手にそう言い、そのままクレナイバンチョウは大空へと去って行ってしまった。
 どうやらこの場は見逃してくれたのだろう。窮地をどうにか脱したようだが、はっきり言って余り喜べる事態ではない。
 もしまた、あいつがやってきたら相当不味い事になりそうだ。
 だが、この弱点は恐らく一生消える事はないだろう。
 それが、轟番と言う人間でもあり、ダイバンチョウと言う勇者なのだから。




     つづく 
 

 
後書き
次回予告


「また別の宇宙人が現れたってぇ? しかも今度は消防車ぁ?
と思ったら、町でゴクアク組が放火し始めやがった!
こうなったらお前の力を借りるしかねぇ! 頼むぜ」

次回、勇者番長ダイバンチョウ

【男は死ぬまで男を貫く! 古き極道の古き喧嘩道】

次回も、宜しくぅ! 
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