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転生者になりました。

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時空の狭間で

 ここは、どこだ……。
 あたり一面白一色だ。なにもない、いや、二つだけ存在している。

『久しぶりですね、和也さん。』
「あんた、オレを転生させた神か?」
『ええ。そうですよ。』
「ここはどこだ?」
『和也さんの夢の中、と言えばいいでしょうか。』

 天地無用の空間で半年の間にもやしから大根に成長した俺と相変わらずの乳神が相対している。

「あれからどうなった。」
『……聴きたいですか?』
「教えてくれ。」

 女神はわかりましたと言って頷き、とつとつと話し出す。

『ポムレイは滅びました。生存者はいません。』
「そうか。」

 あの高熱の雲からは誰も逃げられなかったか。

「エリカは、エリカも死んだのか?」
 
 俺の問いに対して少し間を空けて、

『はい。』

 また、大切な人を失った。違うな。一度目はオレが大切な人たちの前から消えた。今回は消えるべくして消えたのか。

「彼らの魂はどうなる。」
『然るべき者は転生の輪に入ります。エリカさんとお腹の子も入ります。』
「まだ彼女はあんたの所に?」
『はい、いまは待機状態にありますが。』
「逢えないか?」

 まだ彼女の魂が女神の手元にあるなら逢えるはずだ。ここが俺の夢の中でも。女神の力を使えば。

『……彼女はすでに肉体という概念を持たない存在。魂のみ存在するだけです。生前の姿は見れませんよ。』
「構いません。逢わせてください。」
『わかりました。』

 縦に首を振った女神は即座にいくつかの印を結んで呪を唱えだした。
 すると女神の胸の前にほのかに光るぼやけた球が出現した。あれがエリカの魂なのか。

『誠意を見せてください。』

 印を解いて掌に球を乗せそれを俺の掌に乗せる。
 そっとそれを包んで顔を近づける。温かい鼓動を感じる。

「エリカ、なのか?」
『……カズヤ?』
「そうだよ。カズヤだよ、エリカ。」
『ここは?なにがあったの?』

 エリカの魂は点滅して言葉を発する。

「エリカ、驚かないでほしい。君は死んでしまった。火山が噴火したんだ。」
『そんな──!じゃあここは天国?』
「ここは俺の夢の中だ。女神が特別にエリカに逢わせてくれたんだ。」
『……うれしい。最後にカズヤに逢えるなんて。』

 彼女の魂が静かにしかし強く輝いた。

「オレはまだ行けない。お腹の子と先に行っててくれ。」
『先に行くなんて出来ないよ。』
「でも、女神は転生の輪に入ると。」
『執念で生き返ってやるわ。例え体がなくても。亡霊になっても。』

 それは恐ろしいな。だが、本心では生き返ってほしい。もう一度愛をささやきたい。

『カズヤ、待っててね。すぐに戻るから。』
「……わかった。」

 オレの体を彼女の魂が優しい光で包む。それは温かく心地が良く安心できた。

『和也さん、そろそろ。』
「わかりました。」

 名残惜しいが時間切れのようだ。女神の掌にエリカの魂を移すが、オレの目は彼女の魂をずっと見つめる。

「エリカ、また逢えたらいいな。」
『絶対に逢いに行くよ。待ってて。』
「ああ。」

 一際強く輝いた彼女の魂は女神の掌の上で残滓を残さず消えた。だが、消滅した訳ではないはずだ。

『時として魂は元の世界に戻ることもあります。あなたはそれに賭けますか?』
「賭けてやるさ。どんなに可能性が低くてもな。」

 女神は口角をわずかに上げる。

『心残りは無いですね。』
「暫くは皆の喪に服すよ。」
『よろしい。では、』

 再び世界は白く染まり意識が暗転する。

 見慣れた天井、ポムレイ消滅から一週間、隣町の宿に長期滞在していたオレは気持ちを新たに歩き出そうとしていた。

「エリカ……。」

 オレは、行くよ。悲しみを力に変えて。可能性を信じて。 
 

 
後書き
神と人の集いおおらかに
世を思う心は虚しく

次回 座談会 
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