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五里火中

 さて、そんなこんなでそろそろ一年になりそうな頃、エリカのお腹が大きくなってきた。
 あれ以来夜は盛んでしたから、いつかはなるだろうなと思っていたがとうとう来てしまったよ。
 なかなか動けない彼女の代わりにクエストに出たり家事をしたりする。そうそう、新しく家も買う予定だし、これを機に結婚しようかとエリカと相談も。

 新家はギルドが斡旋してくれたし、仕事もあんしんできる。生命(物理)の危機は日常だが。

「そろそろか、エリカ元気にしてるかな。」

 一週間ぶりの帰還、少し遠くの村での害獣駆除、帰り道でゴブリン退治のはずがオーク退治になって余計な時間を喰ってしまった。

 この丘を越えれば街が見えてくるな。日差しも穏やかでどこからか小鳥の声も聞こえる小道をのんびり歩を進める。
 
 丘の頂上に近づいてきたころ急に辺りが静かになった。小鳥の声すら聞こえないし、なんだか胸騒ぎもする。静かすぎる。
 盗賊でもいるのだろうか。辺りを警戒しつつ丘を登る。
 すると、

「っ!?」

 地面が強く揺れだし轟音が森中に響く。地震か?かなり強い。
 おおよそ5分くらい揺れていたか、感覚的に震度は5弱以上だな。

 この世界に来て初めての地震だった。火山活動が盛んな火山もあるにはあるが気になるような地震は起きない。せめて、「揺れたか?」と思う程度の物ばかり。

 地震なんて滅多に起きないから家屋の耐震性もそんなに高くない。石造りの家屋が大半を占める。

「大丈夫かな。これ位じゃギルドは崩れないと思うけど。」

 ギルドを始めとする公共施設は組織強化の魔法がかかっており一般家屋より丈夫に出来ている。
 しかし、エリカの場合はそうはいかない。

 彼女は新居に移動したばっかりで、まだ組織強化の魔法をかけていない。下手をしたらクローゼットの下敷きになっているかも。

「急がねえと!」

 急いで荷物をまとめ、再び丘を登り始める。アニメであるように丘を越えると森が開けて街が見える。特に被害は見えない。
 ひとまず安堵の息を漏らしたそのとき、俺から見て左にあるドレル火山が爆発した。
 ドレル火山は俺だ生まれた?所だ。
 黒々とした噴煙を上げゴマ粒のような物がたくさん飛んでいる。

「マジかよ……。」

 ドレル火山は街のすぐ近くにあり火山弾が街の近くにも落ちている。溶岩は見まだ見えないな。というか、出てこないでほしい。
 これより小規模なモノなら日常茶飯事だったしここから見る限り街に混乱は見えない。

「まーた派手に爆発したな。」
「ホントホント、こんなとこいつまでの居られっかよ。危ないったらありゃしない。」

 行商人風の男たちが俺の横を通り過ぎて街から離れて行った。あいつらの顔は見たことがないからきっと外の人間なんだろう。オレだって外の人間だがあの町に愛着も湧いたから離れたいなんて思いもしなかった。
 そうだ、エリカを連れて避難しよう。
 だが、今日は運がついてない。
 山の崖が崩れたのだ。瓦礫を巻き込みながら吹き出る黒い火山ガスは史料で見た火砕流にそっくりだった。しかも街の方に流れている。山から町まではわずかに10㎞ほど。間に合わない。
 幸いオレがいる丘の方には流れてこなかったが、火砕流は轟音を立てて街を流していった。粉塵が辺りを覆い何も見えない。
 空は黒く濁り、夜のように暗い。晴れた時には町は灰色に塗られ所どころで火災が発生している。
 人の息吹も感じられない。

「うそ、だろ……?」

 目の前で起こった光景は史料でしか見たことのないポンペイのようだった。ギリシャの古代都市ポンペイ、確かあの街はポムレイ。どこか似ている、地理条件も似ている。これは必然だったのか?
 どうなんだよ、神さんよぉ……。 
 

 
後書き
夢と現を分かつとき
世界は刻の涙を見る

最終回 時空の狭間で 
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