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IS ~インフィニット・ストラトス~ 日常を奪い去られた少年

作者:Shine
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第04話

 
前書き
え~、すいません。思いのほか手間取って更新に時間がかかりました。

今回は、独自解釈がまた出てきます。

正直見なくても関係ないので最初の方は飛ばしてくれても構わないです。

それではどうぞ。
 

 
実機試験から早数日。俊吾はいつも通りの日常を送っていた。
試験の次の日はオルコットさんや篠ノ之さん、鳳さんまでもが、俺の事を褒めた。そんな褒められても嬉しくはないんだよな、どうせ負けたし。…………いや、多少は嬉しかった、正直言って。

その後は放課後の練習に付き合わされ、一夏と俺の練習試合の回しとか結構クタクタになった。いや、なんだかんだ言ってISの操縦は楽しいから良かったな、うん。

だが、今日の放課後は練習に付き合わない!何故なら、そろそろISをいじりたい!ってな訳で、只今整備室にいます。この学校に整備室は結構数があって、確か第7整備室まであったはず。今日は第7整備室が誰か使っているらしく、第6整備室を借りた。

「じゃ、早速いじるか」

ISを目の前に展開させ、コンソールを接続する。

「じゃあ、まずブースターの機体制御をいじるか……」

そういえば、ブースターってちゃんと見たことなかったな……。
黒天慟のブースターは少し特殊で、黒天慟と同じ縦の長さがある。だが、横幅が4センチくらいしかなくてとても薄い。初期設定の時は白式とほぼ一緒だったんだが、ファーストシフトに移行したらこういった形になった。おそらく、俊吾の操作スタイルに合わせて形状が変化したのだろう。

俊吾は急な加速やピーキーな特性をあまり好まない。だからこそ、黒天慟はそれに合わせた『滑らかな加速』と『スムーズな期待制御』が出来るようにブースターが進化したのだろうが、まだ俊吾にとっては扱いにくかった。それを直すために今日は整備室に来た。

「え~っと、エネルギーが直結に繋がっているのか……。出来れば並列にして、極端な加速は避けたいな…………」

ISのブースターの出力は、理科の豆電球の実験に似ている。電池を直列に繋げば繋ぐほど、出力が上がっていき、並列に繋げば長時間豆電球の光を灯すことができる。

これと同じようにISもエネルギー回路を直結に繋げば、爆発的な加速を生むことができる。だが、その代わりに燃費が悪い。瞬間加速などを使うとさらに燃費の悪さが加速する。爆発的な加速は敵の不意をついて、接近する接近タイプに向いている。例えば、一夏だ。

反対に並列に繋げば繋ぐほど、加速自体が滑らかになる。瞬間加速の時のシールドエネルギー自体もそこまで減らない。その分、加速が悪い。燃費自体はいいが、爆発的な攻撃を繰り出すには少し難しい。こちらを多く併用しているのは遠距離タイプの人たちだ。

今、黒天慟のエネルギー配列は直列が6割、並列が4割。正直言って、実戦での機体の動きを考えるとこれが限界だろう。だが俊吾は、黒点道を加速も出来て滑らかな機体制御を出来るようにしようとしていた。

「う~ん、どう言うふうに繋げば上手くいくかな……。多少は考えもあるんだけど」

しばらくの間、俊吾は試行錯誤をしていた。直列の回路を一度に多くのエネルギーを通るようにしたり、並列回路ではどれだけ少ないエネルギーで機体を制御できるか、など色々試した。

そして、三十分後。

「まぁ、こんな感じかな……。あとは実際に動かして見ないとどうも言えないけど……」

取り敢えず、今日の第一目的は完了。二つ目は、銃を使うときの反動処理、標準補正の調整だ。やはり、基本設定だとカバーできない部分が多い。現に実機試験の時もエイムを合わせるのに苦労した。

これは、特性が武器一つ一つ違うので、それぞれ設定していく。

これは中々、設定が固まらなくて一時間掛かった。

「はぁ……。首いてぇ……。姿勢悪かったなぁ…………」

首を回すとコキコキと小気味のいい音がした。立ってストレッチをしようとした時何かに気づいた。

「…………誰かに見られてる?」

それも入口の方から。視線を向けるが、人の姿は確認できない。とりあえず、用心して入口に近づき、ドアを開けた。

「…………ぁ」

そこには一人の女生徒がいた。リボンの色は同じなので一年だろう。知らないはずなんだが、何か見たことがあるような……しかも、最近…………。誰だ?
取り敢えず、何してたか聞いてみるか。

「ここで何してたんだ?」

「あの……隣の整備室に……誰かいるって聞いて……」

「隣……ってことは君が第7整備室使ってた人か」

女生徒は頷いた。
う~ん、この子はあれか。口数が少ないタイプの子か。どういう風に接すればいいんだろ……。とりあえず、自己紹介だけはしとくか。

「あ~、俺、大海俊吾。最近、男でISが使える2番目の男って事でニュースで流れてたりしたんだ」

補足を付け足して自己紹介をする。正直言って自分がそこまでの有名人になったという自覚はない。むしろ、名は知られてない方だろ。現に、鳳さんみたいな人もいるわけで。って、言ってて悲しくなってきたわ……。どうせ、一夏の方がイケメンですから…………。

「知ってる…………ISについて……ちゃんと出来る人って結構有名……」

それはどういう意味なんだ?あれか、一夏は壊滅的にISがダメとかそんな感じか。でも、出来る人の方って認識もどうなんだろ……。

「私は……更識簪…………一年四組のクラス代表……あと日本の代表候補生…………」

日本にも代表候補生いたんだ……。って、現に俺と一夏が代表候補生か。というか、ちゃんと女子もいたんだ。…………いやいや、それよりも驚くことがあるだろう、俺。今、更識って言ったか?この子。

「更識ってことは、生徒会長の妹か……?」

「うん…………一応、ね」

一応って言葉がやけに引っかかるが、変な詮索はしないでおこう。言いたくないのなら聞かない。いい人間関係を作るのに必要なスキルだ。

まぁ、大体は予想はつくけどな。あんな、良く分からんハイスペックな姉がいたら悩みの一つでもあるだろう。
さて、ここでただ立っているのは疲れる。要件があるならさっさと終わらせたい。

「それで、更識さん。何か要件があるなら聞くけど?」

簪は一瞬、更識と呼ばれたとき嫌な顔をした。そして、こう言った。

「更識って呼ぶの…………やめて……」

「……え?」

「簪って……呼んで……」

これは、あれか。俺の予想大当たりか。このまま、更識って呼ぶのも良いが、もしかしたら嫌がらせをされたみたいな感じで俺にいじめが帰ってきそうだな。さて、腹くくるか。

「じゃあ、改めて。か、簪さん、何か要件あったなら聞くけど?」

くそ、一瞬どもった。名前で呼べってハードル高すぎだろ……。でもまぁ、一夏なら躊躇いなく呼べるんだろうな…………。

「大海君が……何してたのか気になって……覗いてた……」

気になって覗いてたって……お前はストーカーか。いや、覗き魔か……。どっちでもいいけど。
さて、気を取り直して……。

確かに、二人の男子の一人が(冴えない方が)いたら気になりはするか……。だけど、聞かれたからといって自信満々に言えることでもないからな……。

「俺は、機体の微調整と武器の設定いじってただけだけど……。あ、気になってたんだけど、簪さんは整備室借りて何やってたの?」

よし、今度は普通に言えたぞ。多分だけど。

「私は……ISの組立……かな……」

「え?ISの組立ってことは、ISを作ってるの?」

それって結構大変なんじゃ……。

「うん……でも、あんまり進んでない……」

訂正、すごく難しそうです。こんな頭良さそうな子が手こずるってよっぽどやな。

「手伝う……って言いたいところだけど、俺じゃ足でまといになりそうだしな」

「そんな事ないと思う……機体の微調整も武器の設定も…………普通なら研究所の人に頼むものだから……」

あ、そうなの?俺はてっきりみんな自分でやってるものかと……。

「だから……その…………」

簪はモジモジししている。次の言葉が出ないもどかしさと恥ずかしさが葛藤しているのだろう。そして、言葉を紡ぐ。

「手伝ってもらえると……嬉しい……」

上目遣いと恥ずかしさのあまり顔を赤く染めている。かなりの破壊力だ。

…………。っは!?おう、やべぇ。今、一瞬意識が飛んでた。いやまぁ、気を取り直そう。……この申し出を受けるべきだろうか?正直言って足でまといになるのは目に見えてる。

だが、俺はメカニックになりたい。ISの組み立てが出来なくてなれるわけがない。普通はそれなりの専門学校に行って、初めてやるものだが……。こんな機会は滅多にない。申し出を受けよう。

「ああ、俺でよければ手伝うよ」

簪はその言葉を聞くと嬉しそうに微笑んで

「……ありがとう」

と言った。
何だろう…………。俺って、こういう子が好みなのか…………?というより、俺女子苦手のはずだろうが……。気の迷いだな、うん。一瞬の気の迷いだ。

というか、あれだな。一夏と仲良くなるために俺に話しかけたんだよな。そう考えると、不思議と納得できるが、何とも言えない気持ちになる。

俊吾は一人で心の中で納得し、完結した。その様子をみて簪はキョトンとしていたが、付いてきて、と言って歩きだした。俊吾は一瞬遅れてそれについていった。

◇   ◆   ◇   ◆

簪についていき、第7整備室に到着。中に入ると、第6整備室と同じ様な部屋の作りだった。ちなみに、第6整備室は鍵を締めてきた。あとで戻るのも面倒なので。

部屋の中を見回していると、ISが鎮座していた。黒と灰色、そして緑を主張としたデザインで腕や足の装甲がまだ完全に出来ていないようだ。作り途中というのは本当らしい。

というか、この色……というかデザイン見たことがあるような、ないような。

俊吾がそんな事を考えていると、簪が口を開いた。

「これが私のIS……『打鉄 弐式』……」

なるほど、見たことがあると思っていたけど打鉄か……。納得した。それに弐式って

「……お揃いか」

「え?」

あ、やべ、口に出てた。ここで黙るのも変だし、素直に言うか。

「あ、いや、俺のISも『黒天慟 弐式』って言うから、弐式なのがお揃いだな、って思っただけだ。忘れてくれ」

「そうなんだ……」

何だ、沈黙が重い。いや、俺が勝手に思っているだけなんだろうけどさ。
俊吾は、息苦しさをなくすために口を開いた。

「それで、俺は何を手伝えばいいんだ?」

「エネルギー回路全般的に……私、回路系統は全然ダメで…………」

あぁ、なるほど。だから、腕と足の装甲の部分が取れているのか。コンソールだけで足りるかな……。

俊吾はそこらへんにあったコンソールを取り、打鉄弐式に接続した。確認すると、そこにはエネルギーを送るための基本の回路すらなくて、驚いた。

「これは…………」

中々面倒くさそうだな。そもそも、基礎すらないから最初に取り敢えず回路を繋ぐだけ繋いで、後で調整をしよう。

そう考えながら、コンソールを操作していると

「何とかなりそう……?」

簪が近くに来てそう言った。

「あぁ、今日は時間がないから仮の回路しかできないけど、明日には何とか…………っ!?」

「?……どうしたの…………?」

俊吾は驚いた。コンソールを操作していて気づかなかったが、簪の顔が横にあるのだ。それも10センチ先に。

「い、いや、何でもないよ」

緊張はするが、心を無心にすれば何とかなる。そう思い込んで、何とかコンソールの操作を続行した。

だが、意外にも回路が複雑で集中してしまい、簪が隣にいることなんてすぐに忘れた。

そのまま作業をすること30分。

「……ふぅ、取り敢えずこんなもんか…………」

「終わったの…………?」

「うわっ!」

すぐ隣で声が聞こえた為、俊吾は声を上げながら後ろに移動した。

「あ、ごめん……驚かせるつもりはなかった…………」

「あ、いや、こちらこそ、変に驚いちゃったし……ごめん」

あれ、俺なんで謝ってるんだ?まぁ、良いか。わざわざ言った謝罪の言葉を取り消すわけにもいかないし。

「そういえば、簪さんはずっと俺のコンソールの操作見てたの?」

さっきの状況を思い出し、率直な疑問を投げかけてみた。

「うん……少しでも参考になればいいと思ったから…………」

……意識が高いなぁ、この子。素直にすごいと思う。

「それで、参考になった?」

俊吾がそう言うと、少し口篭りながら言った。

「良く……分からなかった……やっぱり私は回路に向いてないみたい…………」

いや、あなたの本職はISを操縦することでしょう。自分でIS作ってるけども。

「まぁ、その何だ」

俊吾はコンソールを片付けながら言った。

「分からないことはそれでいいんじゃないかな。人間、誰しもが苦手分野ってのがあるわけだしさ。だから、そういうことがあったら誰かに頼ればいいんじゃないかな」

説教臭くなりそうだから、面と向かって言わなかったけど、正解だったな。今、凄い恥ずかしいし。まぁ、でもここまで言ったら最後まで格好つけないと……。

「俺は頼られれば絶対に助けるからさ」

俊吾は簪の方向に振り返りながら言った。簪はある一点を見つめており、俊吾の言葉を聞いてないように思われたが、少しすると

「うん……ありがとう……少し…………気が楽になった……」

「ま、今日の所は寮に戻ろう。時間も時間だし」

簪はそう言われ、時間を確認すると時計は6時半を指していた。外も既に薄暗い。
時間を確認し、忘れ物もないか確認して二人は整備室を出た。

「さて、鍵返して寮に戻るか」

「うん……」

しばらく二人で歩いていると

「あ……あの…………」

と簪が言った。どうしたと思いながら、俊吾は立ち止まる。

「大海君……ううん…………俊吾君……」

名前に言い換える意味はあったんだろうか……。いや、野暮なことはやめよう。
簪は言葉を紡ぐ。

「明日も……手伝ってくれない…………?」

俊吾は一瞬呆けたが、その質問の意図に気づき微笑みながら言った。

「ああ、もちろん」

それを聞くと、簪は安心したように笑い、二人は寮に向かった。

◇   ◆   ◇   ◆

二人は寮に着くと、それぞれの部屋に行くために別れた。俊吾は自分の部屋に戻ってきた。
部屋のドアノブに手を掛け、開けると

「あ、やっと帰って来た。遅かったわね」

何て声が聞こえ、直ぐにドアを閉めた。
……俺の目が間違ってなければ、会長がいた。よし、一夏が帰ってくるまでどこかで時間潰そう。あれに関わるとろくなことがない。そうと決まれば、Uター……。

「俊吾君♪逃げようなんて思わないでね♪」

ドアを開けながら、楯無は言った。
……先手打たれました。どうしようもないです。

「……で、会長は何しに来たんですか?」

俊吾は諦めたように言った。

「ま~だ会長なんて他人行儀な言い方してるの?お姉さん、悲しいな~」

「会長、要件があるなら早く願いします」

「あ、そっちがその気なら今すぐここで叫ぶわよ。そうなったら、どうなるか分かるわよね?」

……本当に何しに来んだ、この人。というか、この人ほっとくと本当に叫びそうだな……。そもそも、何でこんな人に絡まれてるんだろう。

「……それで。何て呼べばいいんですか?」

「う~ん、一番はお姉ちゃんだけど……名前でも妥協点かな~」

「楯無さん。……これで良いですか?」

「うむうむ、よろしい」

あんたはおっさんか。

「失礼なこと考えてると……」

「分かりました分かりましたよ。それで何の用ですか、楯無さん」

何でこの学校は読心術が出来る人がいるんだか……。

「う~ん、ちょっと長くなるから中に入って」

楯無はそう言って、部屋の中に手招きした。

……ここ、俺の部屋なんですけど。気にしたら負けなのかなぁ…………。

俊吾は言われた通りに部屋の中に入る。楯無はベットに座った。手を体の横でポンポンとやっているのを見ると、隣に座れと言っているらしい。それを無視し、俊吾は机の備え付けの椅子に座った。

「あら、いけず」

「別に座る所は個人の自由でしょう」

「確かにそうね。じゃあ、本題ね」

ふぅ、と一息ついて楯無は話し始めた。

「話っていうのは、私の妹のことなの」

妹ってことは、簪さんの事か……。一体、どんなことだ?

「簪ちゃん、私にコンプレックスと言うか、それに似た感じの感情を抱いてるでしょ?それを何とかしてもらいたいの」

ああ。この人はちゃんと分かっているんだ、簪さんが自分のことが苦手っていうことを。

「……具体的にどんな事を?」

「何も、私への苦手意識を無くして欲しいってわけじゃないの。あの子は、私と自分を比べてるから、私に対抗しようとしてるの。今だってISを自分の手で作ってるでしょ?あれ、私が自分でISを作ったからやってることなのよ」

さらっと凄いこと言われた気がする。だけど、この人にとってはそれくらいのことでしかないんだろうな。
楯無はさらに続ける。

「だけど、人間の価値っていうのは、実績だけじゃないでしょ?私なんて褒めらえた人生送ってないし……。それを簪ちゃんに分かってもらいたいの」

「まぁ、言いたいことは分かりましたけど、何で俺なんですか?こういうことは、一夏の方が向いてると思うんですが」

明らかに俺には不向きな依頼だ。誰かと悟らせるとか励ますとかそう言うのは全く出来ない。それに引き換え、一夏は自然とそういったことが出来るタイプだろう。一種のカリスマ性というやつだろう。

「確かにそうなんだけど、一夏君ってちょっとズレてるところあるでしょ?それに鈍感だし」

確かに、一夏の鈍感は空気読めないとかそう言うレベル超えてるからなぁ……。逆に怒らせることもあるかもしれない。いや、だからと言って納得はできないが。

「それだけで、俺に任せるのもどうかと思いますけどね」

「大丈夫よ、俊吾君なら。もう、実績もあるし」

実績?一体何のことだ?

「『分からないことはそれでいいんじゃないかな。人間、誰しもが苦手分野ってのがあるわけだしさ。だから、そういうことがあったら誰かに頼ればいいんじゃないかな』だっけ?」

…………………………おい、それは。

「お姉さんも、中々心にグッと来たわよ~、これは」

「………………あの、何でそのセリフを?」

「私、丁度教室の外にいたの。簪ちゃんが気になって」

「あんたはシスコンか!!!」

あ、やべ。つい本音が。……怒られるよな。

「……やっと本音出たわね」

怒られると思い、言葉を待っていると帰ってきたのはそんな言葉だった。しかも、楯無さんは笑っている。

「俊吾君はもっと自分に正直でいいと思うわよ。いっつも、心の中に溜め込んでさ。そんなんじゃ、窮屈でしょ?だから、自由に生きなさい」

「…………善処します」

何で会って間もない人に説教されてるんだろ、俺。あ、俺もさっきやったか。

「それで、話戻すけど」

あ、そいや、一夏そろそろ帰ってくるんじゃ……。

「ただいま~」

あ、帰ってきた。

「お、やっぱり俊吾は先に戻って…………誰!?」

「初めまして、織斑一夏君。私は、更識楯無よ」

「いや、ここで普通に自己紹介するのはおかしいと思いますよ、楯無さん」

「あらそう?でも、初めて会ったら自己紹介するものでしょう?」

「状況を考えてください……」

「???」

一夏は完全に置いてけぼりである。仕方ない、取り敢えず説明するか。

「一夏、この人はこの学園の生徒会長の更識楯無さん、2年生だ」

楯無さんは手をヒラヒラ~と振っていた。この人は……。

「何でまた、生徒会長が……それに俊吾、お前名前…………」

それについては、さっきのやり取りで気づいて欲しいものだが、無理があるか。

「あ、一夏君。私と俊吾君、大事な話をしてるからあと10分くらい外で時間を潰してきてくれない?」

「あ、はい。分かりました」

一夏は部屋の外に出ていった。

「自分の部屋なのに追い出される……シュールだな…………」

「そうね~」

「いや、やった張本人が何言ってるんですか」

「まぁまぁ、細かいことは気にしないで。それよりも、話戻しましょう」

「……もう、どうでもいいです」

俊吾の呟きを無視し、楯無は続ける。

「『分からないことはそれでいいんじゃないかな。人間、誰しもが苦手分野ってのがあるわけだしさ。だから、そういうことがあったら誰かに頼ればいいんじゃないかな』」

「いや、もうそれ良いですよ。恥ずかしいから」

「そう?私は素敵なセリフだと思うけどな」

「……好きにしてください」

「そうさせてもらうわ。私ね、あなたの言葉を聞くまでは簪ちゃんとの関係は自分で何とかしようとしてたの。だけど、この言葉を聞いて人に頼ってもいいんだ、って思えて。それにこの後の『俺は頼られれば絶対に助けるからさ』なんて、言われたらもうイチコロよ」

何なの、これ。公開処刑ですか?俺を辱めるだけのパートですか?

「あの後、簪ちゃん。俊吾くんを頼ったでしょ?あれ、簪ちゃんが誰かに頼る初めての瞬間なのよ?私も外で聞いててビックリしちゃったもん。あの言葉に心打たれたのは私だけじゃなかったのねって思ったわ」

楯無は続ける。

「簪ちゃん自身気づき始めてるんだと思う。だから、あとひと押しなのよ。お願い俊吾君」

そう言いながら、楯無は頭を下げた。

「……そこまでやられたら、断れないじゃないですか」

「ありがとう、そう言ってくれると思ったわ」

楯無は顔を上げながら、微笑んでいた。
そのセリフからして、全部計算してたんですね。まぁ、この人程頭がいいとここまで計算できるんだろうな。はぁ、上手く負かされたな。

「それじゃあ、話はこれで終わり。私は部屋に戻るわ」

そう言って楯無はベットから立ち、入口に向かった。

「……ありがとね、俊吾君」

扉のドアノブに手をかけながら楯無は言った。

「俺はまだ何もしてませんけど」

「いいえ、そんな事ないわ」

楯無は強く言う。

「私、あなたと一緒にいる時の簪ちゃん程驚いた事はないわ。私の前ではいつもムスっとしてるんですもの。覗き見てた全てが新鮮だったわ」

とても優しい表情をしながら楯無は言う。

「だから、私は簪ちゃんに普段からああいう表情をして欲しいの。私の前でもそういう表情をして欲しいなんて、我が儘は言わないけど……」

そう言う楯無の表情は、とても寂しげだった。
この人は、本当に簪さんが大切なんだろう。だから、こんな優しい顔とか悲しい顔が出来るんだろう。だけど、何故だろう。この人が悲しい顔をしていると何故か心が苦しくなる。楯無さんの事情を知っているから?それとも、簪さんの心の中を知っているから?

そのどちらでもあり、どちらでもないのだろう。

この姉妹には笑顔でいてもらいたい。それだけで十分だ。小難しい話なんていらない。

そう思うと、勝手に口が開いていた。

「……大丈夫です、楯無さん」

「え?」

「簪さんは多分、楯無さんが考えてることを分かってます。だから、自分自身で進むために自分自身を作るために、俺に頼ったんだと思います」

楯無はだまってその話を聞いている。

「だから、楯無さんがそんな顔することは無いんです。簪さんは自分自身で歩き出したんですから、楯無さんは簪さんが楯無さんと向かい合う勇気が出た時の準備をしておかないと。簪さんと話すとき、二人共仏頂面だと大変ですから」

俊吾は力強い笑みを浮かべながら言った。

「楯無さんは大船の乗ったつもりでいてください。俺が何とかしますから」

そう言われた楯無は面食らったような顔をしていたが、下を向いてしまった。

「…………はぁ、情けないなぁ、私」

何かつぶやき上を向いた彼女はとても強い顔をしていた。

「ありがと、俊吾君。お陰で楽になったわ」

「そうですか。それは良かったです」

「あなたに簪ちゃんの事、任せてよかった」

まだ、何もしてませんけどね。

「それじゃ、私は戻るわ」

「分かりました」

楯無は外に出てドアを閉めるときに

「私があなたの言葉に救われたのは本当だから」

と言った。問いただそうかと思ったが、直ぐにドアがしまってしまい、聞けなかった。その時の彼女の顔はほんのり赤かったとかなんとか。

俊吾は、自分のベットに座った。すると、直ぐ部屋のドアが開き一夏が入ってきた。

「俊吾、話終わったか~?」

一夏がそう言ってくるが、俊吾は応えない。一夏は直ぐに俊吾に気づいた。そして、こう言った。

「俊吾、顔凄く赤いけど大丈夫か?」

その後、俊吾が説明に色々戸惑ったのは別な話。

 
 

 
後書き
今回は意外と青春してますよね、書いてて自分で思いました。

あ、それと一つだけ補足を。

『ヒロインは基本的に俊吾に惚れないけど、逆はあるかもね!』

今のところはヒロインを俊吾に惚れさせない方向を書いています。

しばらくはこの調子で行きます。路線変更の可能性も大いにあります。

今、書き溜めてる話も以外に青春してるので。

だけど、惚れません。

では、今回はこれくらいで。

誤字脱字がありましたら報告お願いします。

普通の感想も待ってます。

それでは。
 
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