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IS ~インフィニット・ストラトス~ 日常を奪い去られた少年

作者:Shine
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第03話

 
前書き
学校が始まってしまいました……

結構欝だったりします

更新は3日に一回できればいいな、と思っています

もしかしたら、4日とか5日掛かるかもしれませんが

最低限、一週間に一話は絶対に更新します。

そういえば、今回の話は実機試験です

アクションって得意なようで苦手です

それでは、第03話どうぞ
 

 
さて、時は流れ、俊吾のIS適正試験が始まる数分前。俊吾は、既に第三アリーナのカタパルト控えにいる。だが、問題が発生していた。

「IS来ねぇ……」

予想はしていた。確かに、昨日の時点で予想はしていた。遅れるんじゃないかって。織斑先生の話を聞いている限り、完全に時間足りないよなって思ってました。

「はぁ、一夏も待ってるし、何か悪いなぁ」

というか、さっきから山田先生の声がスピーカーから聞こえるんだが。
内容はというと「何で来ないのぉ……予定時間過ぎてるのにぃ…………織斑君の時と一緒ってどういう事ぉ…………」などなど。不安にさせる内容しかない。

しばらく来そうにないし、一夏に戻ってもらうように山田先生に言おうか。

「山田先生~」

突然のびっくりしたのか、スピーカーから「ひゃっ!」という声が聞こえた。どんだけ、焦ってるんだよ……。

「お、大海君、どうしました?」

焦ってるのは無視して話を進めるか。

「俺のISしばらく来そうにないし、一夏に一回カタパルトに戻るように言ったらどうですか?」

「た、確かに、しばらく来そうにありませんし……そうしましょうか。織斑先生」

麻耶は千冬に確認するように名前を言った。
ちなみに、織斑先生は俺の付き添いみたいな形で、俺と一緒にカタパルトに居る。補足だが、篠ノ之さん達は一夏側のピットです、はい。

「……それも、致し方ないか。山田先生、お願いします」

「分かりました」

カチャカチャと操作している音が聞こえる。一夏のISにつなげているのだろう。

「織斑先生。流石に無理があったんじゃないですかね。俺の専用機の準備」

「昨日の時点で完成度が5割と聞いていたが……」

「それで完成させるって言った奴アホなんじゃ……」

「まぁ、あいつらが完成させると言ったんだ。完成させるだろう」

「そういうもんですかね……」

スピーカーから麻耶の声が聞こえる。

『織斑君、時間が空きそうなので、一度カタパルトに……』

―――ピピピ

電子音が鳴り響いた。おそらく、連絡用の電話の音だろう。

『あ、ごめんなさい。ちょっと待ってくださいね!』

麻耶は一度、一夏との通信を切って電話に出た。

『はい、こちら第三アリーナです。はい……はい…………っ!……分かりました!』

何だ?何か嬉しそうな声が聞こえたが……。

「大海君大海君!来ました!大海くんの専用機が届きました!」

麻耶がそういうのと同時に、コンテナが運び込まれてきた。大きさは2メートル半くらい。これにISが入っているのだろう。
俊吾がそう思うと、コンテナのハッチが開いた。

『これが大海くんの専用機『黒天慟(こくてんどう)弐式』です!』

「弐式って事は壱式と言うかオリジナルがあるんですか?」

名前を聞いた瞬間の疑問に千冬が答える。

「黒天慟自体の開発は第二世代機の時から続けられていて、開発のコンセプト『膨大の量の拡張領域』が実現できなかったらしくてな。お蔵入りになったんだ。だが、大海と言う世界で二番目の男のIS操縦者が出てきて、拡張領域の方もラファールリヴァイブを元にリヴァイブよりも多い拡張領域を確保。それで、再開発プロジェクトが始まったわけだ。日本のラファールリヴァイブと言ったところだ」

「なるほど……」

大容量の拡張領域はフランスが一番最初に開発。それを真似て作られたのが黒天慟というわけか。
フォルムを見る限り、特に目立つものはないように思われる。が、特筆すべきものは色だろうか。黒を主張としたカラー、スラスターや腕の部分に入っている灰色の線、そして、見ていて気づいたがスラスターの形が普通とは違っていた。

「ほら、さっさと乗り込め。ただでさえ時間を押しているんだ」

機体の観察をしていると、千冬に促された。まだ、機体を見終えているわけではないが仕方ない。言われたとおり、俊吾は黒天慟に乗り込んだ。

「背中を預けるように。そうだ、あとはシステムが最適化をする」

カシュカシュと空気が抜ける音と共に、ISが体に装備されていく。全てが終わると、初めてISを起動した時のように情報が流れ込んできた。

見ている限り、異常はないな。

「ハイパーセンサーも問題なく作動しているな」

ハイパーセンサーのおかげで360度見わたすことができる。だけど、これちょっと気持ち悪いな。

「気分も大丈夫だな?」

「まぁ、ハイパーセンサーに慣れなくて少し気持ち悪いってくらいですかね」

「それだったら操縦中になれる。ほら、行け」

「って、フォーマットとフィッティングはしないんですか!?」

「そんなもの試合の間に行え。時間を押していると言っただろう」

「そんな無茶な……」

「いいから、行け」

そう言いながら睨むその目は、有無を言わさない目をしていた。

「わ、分かりました。あ、武器はどこにあるんですか?もう、拡張領域に入ってるんですか?」

「ああ、武器は全部拡張領域にインストール済みだ」

「了解です」

それを確認できれば、何とかなるだろう。

俊吾はカタパルトに足を置き、ピットゲートから飛び出した。

◇   ◆   ◇   ◆

「お、やっと来たか俊吾」

アリーナ中央に居る一夏がそう言った。俊吾は取り敢えず、一夏と一緒のアリーナ中央に行った。

「悪い悪い、今さっき届いたばかりだからさ」

飛びながらそう言ったが、いまいち空を飛ぶ感覚がまだ掴めないな。

「って、それ俺と一緒じゃないか」

「さっき山田先生も言ってたけど、どういうことだ?」

「いや、俺がセシリアと試合した時も似たような感じだったんだよ……」

一夏がしみじみと言った。

「そういえば、俊吾。フォーマットとフィッティングは終わったのか?」

「いや、まだだ。織斑先生に言ったらさっさと行けって言われた」

「ははは、それも俺と一緒か……」

二人で話していると、怒号が飛んできた。

『お前たち何をいつまでも話している!!!時間が押してるんだ!!!さっさと始めろ!!!!!』

ISのインカムに大声でそう言われた。

「だってさ。始めるしかないでしょ?こりゃ」

「だな。そういえば、俊吾。今日、アリーナ一般生徒いるの知ってるか?」

一夏が言ったとおり、観客席にはたくさんの生徒がいた。まぁ、カタパルトから出てきた時に嫌でも目に入ったけどさ。

「下手な試合はできないな、俊吾」

「お手柔らかに頼むよ、一夏」

「それは出来ない、な!」

一夏は瞬間加速(イグニッションブースト)を使い、突進してきた。手には雪片弐型が握られている。俊吾は何となく、それが読めていたので下に避ける。

「ええっと、武器は……」

そう言うと、武器一覧が表示された。

・ミサイル 弾5
・サブマシンガン(弾薬数 30) 2丁  予備マガジン10個
・スナイパーライフル(弾薬数 5) 1丁 予備マガジン5個
・アサルトライフル(弾薬数 20) 1丁 予備マガジン5個
・ショットガン(弾薬数 7) 1丁 予備マガジン5個
・グレネードランチャー(弾薬数 6) 1丁 弾18
・ハンドガン(弾薬数 12) 2丁 予備マガジン10個
・ショートブレード 1つ
・ダガーナイフ 5つ
・近接ブレード 2つ
・シールド 1つ

パッと見、こんな感じだった。やっぱり、これだけ多いと迷うな。ま、無難にアサルトライフルでいいか。

「確か、武器を呼び出すときはイメージを強くすればいいんだっけ……」

俊吾は頭の中でアサルトライフルのイメージを強めた。すると、手に光が集まり、一瞬光ったと思うと手にアサルトライフルが握られていた。

「お、出来た出来た。じゃ、攻撃開始と行きますか」

攻撃しようと反転すると、5メートル先に一夏がいた。

「うわ、もう来てるし」

俊吾は上昇する。

「待て!」

一夏も俊吾を追い掛け上昇する。
一夏が着いてきていることを、俊吾は瞬時に反転。アサルトライフルを構える。

「フッ!」

弾が発射される。その弾は一夏に吸い込まれるかのように当たった。

「よし、初弾命中!」

俊吾は続けて、2、3と弾を撃ち続ける。それは全て一夏に当たっているが、直ぐに一夏も横に回避し俊吾に接近した。

「せいっ!」

一夏が雪片を振り下ろす。俊吾も回避しようとしたが、操縦が思い通りにいかなかった。

「まずっ……」

雪片が直撃する。一夏は続けて切り返そうとするが、俊吾はダガーナイフをコールし一夏に投げつける。

「うわっ!」

ダガーナイフに驚いた一夏は一度、後ろに下がった。
俊吾はシールドエネルギーを確認する。

―――シールドエネルギー残量 580 実体ダメージ 無

シールドエネルギーの最大値は700。雪片のひと振り(ただし直撃)で120も持って行かれた。

「うわ~、これ中々危ないんじゃないのかな…………」

そんな言葉が、無意識のうちに出てしまった。

「俊吾、中々やるじゃないか」

ふと、一夏がそんな事を言ってきた。さっきの呟きは聞かれていないらしい。

「一夏こそ流石だな」

「操縦二回目でそれは、凄いよ。俺なんてもっと酷かったし」

二回目?起動は確かに二回目だけど操縦は……。

「さて、もう一回攻めさせてもらうぜ」

一夏がまた突進してきた。俊吾は、瞬時にミサイルをコール。そして、発射。

「そんなの当たらねぇよ!」

一夏はそう言いながら、瞬間加速を使い、さらに加速。だが、俊吾自身ミサイルが当たるとは思っていない。そもそも、当てるつもりがないのだ。
俊吾はミサイルを投げ捨て、スナイパーライフルをコール。直ぐにスコープを覗き、ミサイルの弾を撃った。
打たれたミサイルの弾は、一夏の目の前で爆発した。

「うおっ!」

一夏も予想外だったのだろう。爆発のせいで止まってしまった。そして、爆発の煙で一夏が見えなくなる。だが、おおよその場所はハイパーセンサーのお陰で分かる。
俊吾はサブマシンガン2丁を即座にコール。煙の中にいる一夏に銃弾の雨を浴びせた。だが、サブマシンガンの弾薬装填数は少ない。直ぐに弾切れを起こす。

―――カチン

無機質な音が響く。一夏もそれが弾切れだと気づき、ここぞとばかりに突進してくる。

だが、俊吾は即座にショットガンに切り替え、後ろに下がりながら連射する。またもや、銃弾の雨を浴びせられた一夏だったが、お構いなしに突っ込んでくる。俊吾の後退スピードより一夏の前進スピードの方が早い。

「うおぉおおおおおおおおお!!!」

一夏が雄叫びを上げながら、俊吾に迫る。俊吾も回避行動を取るが、遅い。すれ違いざまに、目にも鮮やかな一夏の三連続切りが決まった。

「ッ!!!」

俊吾は、即座に一夏の進行方向の逆に移動した。

「はぁ……はぁ…………。今のは、マジで危なかった」

俊吾はシールドエネルギーの残量を確認した。

―――シールドエネルギー残量 300 実体ダメージ 中

さっきの連撃だけで280のシールドエネルギーを持って行かれた。しかも、実体ダメージもかなり蓄積している。実体ダメージは初期設定で無理な行動をすることで溜まっていた。初期設定ではかなりガタがくるのだ。

「あの武器卑怯くせぇ……今の状態じゃどうしようもないじゃんか…………」

先程の行動から一夏は、対処法を見つけた。

実弾はダメージが通りにくいのだ。

それに一夏も気づいたのだろう。だからさっきも、無理に突進してきた。
一夏のシールドエネルギーはおそらく400を切っていない。かなりの銃弾を浴びせたのにだ。

「あぁ、どうすっかなぁ……」

俊吾の顔には冷や汗が流れていた。

◇   ◆   ◇   ◆

二人の試合をモニター室で見ていた麻耶は開いた口が塞がらないでいた。

「す、凄いですね、大海君。起動2回目だとは到底思えません」

千冬自身も試合の様子を見て、驚いていた。それは、あることを知っているから余計に、である。

「山田君、その起動二回目とはどう言う意味かな」

突然の問いかけに、麻耶は驚いたが直ぐに返答した。

「え、えっと、単純に起動二回目とはISの操縦自体の二回目という意味で言いました」

千冬にとってもは予想通りの回答だったのだろう。直ぐに麻耶の言葉に返す。

「あいつ―――俊吾はあれがISの初操縦だ。起動は確かに二回目だがな」

「え……そ、それってどういう…………」

信じられないといった感じで、聞き返していた。

「その言葉通りだ。あいつは初操縦であそこまでやってるんだ。私も正直驚いている」

その言葉が指す意味を麻耶は理解した。目の前で凄いことが繰り広げられているということに。

◇   ◆   ◇   ◆

俊吾は恐るべき速さでISに慣れていっていた。だが、一夏やセシリアほどの慣れ程のそれには到底及ばない。先程から、戦況は俊吾の防戦一方になっていた。慣れの差が出てきたのである。

逃げる俊吾に対し、一夏は責め立てていた。今まで、何とか避けきっていたが俊吾も限界が近かった。ISの操縦に全神経を研ぎ澄まし、神経はボロボロになりつつある。このままでは、負ける。それを直感的に悟った。

くそっ、どうする?今のままじゃ、あっけなくお釈迦だ。何とか戦況を打開しないと……!

打開策は無い。そう、本能が告げていた。だが、昨日の座学で勉強していたある単語を思い出した。

―――クロス・グリットターン

クロス・グリットターンは回避を三次元的に考え、相手との距離を保ちながら戦う方法だ。どうしても回避は二次元的―――横や縦に取りがちなもの。それを奥ゆきを捉えながら行う操作。
だが、これはある程度の慣れが必要と書いてあった。いわば、中~上級者向けの回避方法だ。

だけど、今の状況じゃそんなことは言ってられない。次、一夏が攻めてきたときが勝負時だ。

そう思い、俊吾はスナイパーライフルをコール。残弾を確認。残り5発、予備マガジン4つ。

痺れを切らせ、一夏が突進してくる。それを完全に見越していた俊吾は、ライフルの弾を撃ち込む。だが、直ぐに弾切れを起こす。俊吾がリロードを行う。
そこを狙い、一夏が瞬間加速を使う。

―――来た!

瞬間加速は直線的な加速。いわば、銃の銃弾そのもの。回避は容易い。しかも、タイミングと速さにも慣れた。
俊吾も一夏に突進する。会場の誰しもが、勝負が決まったと思った。

だが、俊吾は一夏が攻撃をする前、時間にして0、2秒の間を狙い、体をできる限り捻り、下に急降下した。


一瞬、ISが自分の体かのように思われた。


その回避は結果的に、一夏の下に潜り込む形になった。一夏の目からは突如消えたかのように見えただろう。

俊吾もただ事では済まなかった。今の回避でシールドエネルギー残量は100を切った。完全に一夏の攻撃を避けきれなかった。

完全にすれ違ってから、即座に反転。ライフルを連射する。

的を失った、一夏はバランスを崩している。そこにライフル銃の銃弾が決まっていく。

撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。

五発で弾切れを起こすが、即座にマガジンを空中にコール。ライフル銃に付いているマガジンを外し、銃を縦に振る。振り抜かれた銃には新しいマガジンが装填されている。

クイックリロード。

空中にあるマガジンを銃のマガジンをセットする部分に振り抜いて装填する。俊吾オリジナルのリロード法だ。

それを駆使し、スナイパーライフルの弾を使い切る。

そして、牽制用のダガーナイフを一夏に投げ距離を取る。
次にコールするは、サブマシンガン。一夏に銃弾の雨を浴びせる。だが、一夏も銃弾の雨をものともせず特攻してくる。だが、俊吾はクロス・グリットターンを駆使し一定の距離を取る。その距離で銃弾を浴びせる。弾が切れるとクイックリロードを駆使する。

次にアサルトライフルをコールしようとするが、中々コールできない。イメージが固まらないのだ。疲れが蓄積され、そのような状況に陥っていた。

俊吾は完全に無防備であった。

一夏は、チャンスと思いワンオフアビリティーの『零落百夜』を使用し、突っ込んでくる。俊吾もそれに気づくが、時すでに遅し。勝敗が決した。

―――勝者 織斑一夏

俊吾の初試合は黒星となった。

◇   ◆   ◇   ◆

「…………負けた?」

ブザー音とアナウンス、歓声が聞こえる。それが試合が終わったことを示していた。
負け……た…………?あれ、考えがまとまらない。息も整わない。

「ふ~、危なかった~」

後ろから一夏の声が聞こえた。

「俊吾、いい試合だった。すごく楽しかったぜ!」

一夏が手を差し出す。俊吾もそれに答えようと手を伸ばすが、視界が急激にぼやけた。

「お…、…吾!………た!?」

体の平衡感覚までもが無くなり、バランスを崩す。そして、体が下に落ちていく。

下ってどっちだ…………?

俊吾は落ちながらそう思った。落下途中にISも解除される。

完全に意識が混濁している。何が何だか分からない。周りから悲鳴が聞こえる。

俊吾は一夏の叫びを聞きながら、意識を手放した。

◇   ◆   ◇   ◆

最初に目についたのは白い天井だった。そして、鼻につく消毒液の匂いがして、ここが保健室だという事が分かる。

「あれ……俺、試合してたはず…………」

と、そこで思い出した。

あぁ、俺は試合が終わったあと、意識が無くなったんだ。詳しいことはわからないけど、ここに運ばれたのだろう。

「何か一夏に悪いことしたな……」

おそらく、意識がなくなった俊吾をここまで運んでくれたのは一夏だろう。そんな気がする。
すると、誰かが保健室に入ってきた。その人物は千冬だった。千冬は俊吾が起きていることに気づき言った。

「起きたか……。あぁ、無理に体を起こさなくていい」

俊吾は体を起こそうとしたが、そう言われまた寝転んだ。

「……俺、何で意識が?」

「極度の緊張による疲れだそうだ。一日寝ていれば治る」

「そうですか……」

それを聞くと変に安心した。取り敢えず、変な病気とかそう言った類のものではないのなら、問題ない。
安心したせいか、少し眠くなってきた……。

「ISは待機状態になっている。ISについては規約があるから確認しておくように」

俊吾はそう言われ、首に違和感を覚えた。確認すると、五方星のペンダントがあった。これが黒天慟の待機状態らしい。
千冬は俊吾がペンダントに気づいたのを確認すると続けた。

「今日の試合は、上には好評だ。操縦二回目であそこまで出来るなんて素晴らしい、とのことだ」

俊吾は試合中もずっと疑問に思っていたことを口にした。

「あの、先生。何で俺が操縦二回目ってみんな言ってるんですか?」

「あぁ、それは一夏がそうだったから、お前もそうだと変な先入観があったのだろう」

「なるほど、そういうことですか……」

実質、操縦一回目なんだよな、俺。よく、あそこまで出来たもんだよ、ホント。

「そういえば、大海。お前、試合の途中でフォーマットとフィッティングが終わっていたことに気づいたか?」

「え、終わってたんですか?」

「やはりな……。丁度、お前がクロス・グリットターンを使い始めたとき辺りだな。操縦が滑らかにならなかったか?」

「そういえば……」

ISが自分の体のように感じたな。今思えば、機動力で劣る黒天慟なのに、あの後距離を詰められなかったな……。前半はどうしても距離を詰められてたのに。

「しかし……」

千冬は少し呆れ気味に言った。

「良くも、初操縦でクロス・グリットターンを使う気になったな」

「ははは……距離を保ちながら攻撃できる方法が、あれしか思いつかなかったんで」

「まぁ、選択としては間違っていなかったがな」

「でも、負けましたけどね」

「……お前は勝つ気でいたのか?」

「やるからには勝ちたいですよ」

それに、ISに乗って分かった。俺、この分野では負けたくない。そう思った。

「IS操縦の熟練度は起動時間に比例する。それはお前も良く分かっているだろう?最初から、勝負は決まっているような状態だ。その状態で勝とうとするのは、無理に近い」

「でも、それでも勝ちたかった」

俊吾はそう言い切った。敬語も外れている。

「…………」

俊吾の言葉を聞いて、千冬は何も言わなかった。呆れたような、それでいて嬉しそうな。そんな顔をしていた。

「……まぁ、今回の試合については以上だ。それでだ、大海」

千冬は俊吾の目を見て言った。

「お前は強くなりたいか?」

その質問の意図が何であるか、俊吾は知らない。だが、思ったことをそのまま言った。

「はい、強くなりたいです」

その言葉は予想通りだったのか、千冬は微笑んだ。

「そうか…………。ならば、励めよ若人」

千冬はそう言って、保健室から出ていった。

「あの質問、どういう意味なんだろう。つか…………すごく……眠い…………」

急激にくる眠気に、やっぱり疲れてたんだな、と思い直す俊吾。だけど、これも悪くない。

そう思い、意識を手放した。

◇   ◆   ◇   ◆

突如、目を覚ます。目の前は真っ暗だ。

「…………今、何時だ?」

枕元の携帯を取ろうとするが、中々取れない。そして、その途中で気づいた。

「あ、ここ保健室だ」

俊吾は、時間を確認するかこのまま寝てしまうかで迷った。だが、喉が渇いていたので起き上がって時間を確認することに決めた。

「……あ、そいや水道とかってどこだ?」

暗くて良く分からない。取り敢えず、夜中なんだろうが電気をつけるのも面倒くさい。という訳で。

「寝るか。別に一晩くらい飲み物飲まなくても死にはしない」

俊吾は、ベットに戻った。

―――カツン カツン カツン

すると、廊下の方から足音が聞こえた。おそらく、警備の人なのだろうが……。

「……ちょっと、見てみるか」

変な好奇心に負け、俊吾は廊下に向かう。
廊下に出ると、廊下は非常口の案内の照明しかなく、暗かった。

「おお、暗い学校ってのもの中々面白いな。印象が全然違うし」

だが、おかしなことな事があった。
警備の人ならば、懐中電灯の光が見えてもおかしくないはず。ここはT字路になっていて見晴らしがいいから余計に、だ。それに不可思議なことがもう一つ。

今思い出したけど、この学校警備員いないや。

防犯セキュリティーで全てをまかなっているらしい。しかも、死角がないと聞く。
じゃあ、さっきの足音は?
幽霊、はたまた、侵入者か……。侵入者だったら、かなりの手練だろう。セキュリティーを抜けてきているんだ。

警戒しなければならない。
と思ったが、さっさと保健室戻って鍵締めれば問題ないやん。学園側に被害出ても俺は知らない、うん知らない。ってな訳で、戻ろう。

俊吾は保健室に戻ろうと振り返ると、首に何か当てられた。しかも、ヒヤリとしている。おそらく、刃物の部類か……。完全に後ろを取られてしまった。ISを展開するのも良いが、相手がかなりの強者だと展開する前に首をサクッとやられてしまう。ここは大人しくしよう。

「……随分、落ち着いてるのね」

女性の声だった。ここは、返事をするべきか、黙るべきか……。よし、黙ろう。

「……さて」

首に当てられている物が強く押し当てられる。

「あなたは、何者?こんなところで何してるの?」

……ん?何か、おかしいような……。俺が侵入者だと思われてる……?どう言えば、勘違いが解ける?
どうやって、誤解を解こうかと考えてると後ろから話しかけられた。

「強情ね……私は、今あなたを直ぐに殺すことも出来るのよ?」

何て言おうか考えているのが黙秘していると思われたようだ。
やべぇ、本格的にまずいかもしれない。どうする?マジでどうする……?

「それでも黙秘、ね。随分仲間思いなのね……?」

うわぁ、まずいまずい!早く何か言わないと本当に殺されるかもしれない!

「いや、あの…………っ!」

首筋に当てられていたものが喉仏に当てられた。話すなと言っているらしい。
これは、死ぬの覚悟でISを展開したほうがいいかもしれない。
俊吾がISを展開しようと意識を向ける。が、展開できない。

「残念。あなたのISは展開できないわよ?」

そう言って、首筋に当てている物を持っている反対の手で五方星のペンダントを見せた。
やられた……。今まで話さなかったせいで時間を与えてしまったようだ。完全に万事休す。
俊吾が諦めムードを出すと、笑い声が聞こえた。

「あははは!ごめんごめん。そんなこれから死ぬなんて雰囲気出さないでよ。ちょっと、驚かそうとしただけなんだから」

首筋に当てられていたものが外され、拘束が解かれた。一体、誰がと思い後ろを見るとIS学園の制服を纏った一人の女性がいた。よく見ると、リボンの色が違うので上級生だろう。

「はい、これを返すわ」

ぽいっと投げられてきたのはペンダントだった。それを取り、首に掛ける。

「いくら足音が聞こえたからって外に出ちゃダメよ?大海俊吾君♪」

何で名前を……と思ったがIS学園で男は俺と一夏しかいないし当たり前か。まぁ、俺の覚え方は『一夏じゃないほう』だろうけど。
ともかく、この女性は誰なんだ?

「今日の試合すごかったわねぇ。お姉さんビックリしちゃった」

試合を見ていたのか……。結構、騒ぎになっていたから当たり前かもしれないが。

「初操縦であそこまで出来る人なんて、私見たことないわ」

……初操縦だって?その事を知っている生徒はいないはずなんだけどな、多分だけど。
少し、不審に思い体に力を入れる。

「そんな警戒しなくてもいいわよ。あ、そういえば自己紹介してなかったわね」

手に持っていた何かを開いて言った。

「私はIS学園の生徒会長。2年の更識楯無よ。よろしくね」

この人が生徒会長……。何で生徒会長がここに、なんて疑問持っちゃいけないだろうな。まぁ、取り敢えず挨拶しとくか。

「1年の大海俊吾です。よろしくおねがいします、会長」

「あら、会長なんて他人行儀な。楯無さんとか楯無って読んで欲しいわ。あ、私的にはお姉ちゃんがいいかな?」

いや他人行儀も何も、今日初めてですよね、会うの。まぁ、気にしたら負けか。この学校にいる人は普通とは違うし。

「それで、会長は何であんな事したんですか?」

「いけずねぇ。まぁ、良いわ。無防備な一年生がいたから教訓というか、ちょっとからかいたくなって」

おい、後半。本音漏れてるぞ。こっちは本気でヤバイと思ってたのに遊びか、ちくしょう。

「って言うのは嘘で、少し気になってたのよ、あなたが」

「……それはどういう意味で?」

普通すぎる男のIS操縦者を見に来たのか?あ、これはありえそう。一夏がイケメンなだけ俺の普通さが際立ってるし。

「何か下らないこと考えてない?」

「いえ、考えてませんよ」

何でこう変に感がいい人ばかりなんだ、この学園は。

「まぁ、良いわ。初操縦であそこまで出来るのは何故だって思ってね。正直、私も織斑先生も驚いてたわ」

「何故って……特に理由はないですよ。一生懸命だったせいで良く試合は覚えてませんし」

「ふ~ん……」

どこか試すような視線を俊吾に向けた楯無。しばらく、沈黙があたりを支配する。

「ふふ、あなたの目良いわ。私好みのいい目をしてるわ」

何か背筋に変なゾワゾワしたものが走ったんだが……。大丈夫だよね…………?

「織斑先生が気に入るのも頷けるわ。と、時間押してる忘れてたわ。それじゃあね」

楯無はそう言って、踵を返し歩きだした。そして、突き当りを曲がるときに

「早く寝なさいよ。お休み」

と言って消えていった。

「何だったんだ、あの人は……」

正直、十数分しか経ってないのに変に疲れた。早くベットに戻って寝よう。
俊吾は保健室に戻り、眠りについた。
 
 

 
後書き
今回は独自解釈が出ました

クロスグリットターンってあんなじゃないよね

ターンって付いてるからそれから想像してあんな感じにしました

納得いかなかったり、話おかしいだろ、と言う方は感想にてどうぞ

単純な感想もお待ちしてます

あと、誤字もありましたら感想でお願いします

それでは、次の更新にて会いましょう

 
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