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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic14-Dそれはもうジュエルシードの回収は大変で~StrangE~

†††Sideイリス†††

なのは達との午前の模擬戦を終えての休憩途中、上司であるクロノに呼び出されたわたしはブリッジへ来ている。赴いたブリッジでわたしは、クロノから悪い報せを聴くことになった。
昨日、わたしとなのは達は2つのジュエルシードを回収した。アースラの仲間が寝ずに頑張って、ようやく在処を特定してくれたからこその収穫。なのにフェイト達は昨日の内に3つもジュエルシードを回収していた。そしてたった今。残り5つの内の1つを回収されたということを聴かされた。

「――フェイト組はどうやらジュエルシードの位置を既に特定しているようだ」

「テスタメントちゃんがわずか数日で10個も集めてるって話を、なのはちゃん達から聞いた時からそんな気はしてたけど」

これはもうクロノやエイミィの言う通りフェイト組はジュエルシードの在処を特定してると見ていい。

「回収率では圧倒的に負けている。これはもう先を取るのではなく後を――彼女たちから直接回収した方が早そうだな」

「戦って奪えってことね」

「別に戦うことが全てじゃないさ。とは言え、なのは達の話じゃまともに説得も出来ないようだが」

フェイト達は話し合いに応じない。それはもう理解してる。だから力づくで押さえ込むしかない。別に無理な話じゃない。なのはとアリサとすずか。あの3人は呑み込みがすごく早くて、教えたことをすぐに吸収、実用段階にまで昇華する天賦の才を持ってる。あれなら今日明日をフルで特訓に使えばフェイトには勝てるはず。テスタメントに関してはまだ難しいかもだけど。

「で? ジュエルシードの回収はフェイト達に任せて、最終的にわたし達があの子たちから奪うってことでいいの?」

「それではまるで僕たちの方が悪者のようだな」

「そだね~」

クロノやエイミィと3人で苦笑する。半ば強盗に近いことをしようとしてるわたし達。でも元はと言えばフェイト達が仕掛けてきたことだ。ちょっと可哀想な気もするけど、これも次元世界の安寧の為。フェイト達を打ち倒し、あの子たちが頑張って必死に回収したジュエルシードを奪う。

「テスタメントに危険が迫れば、他のテスタメントやレーゼフェア達が来るかもしれない、というのが今のところのネックだな」

「うん。数では勝てそうだけど、質では負けちゃいそうだよね」

4th――4番目であるらしいあの紅髪の子は推定AAAランクでありながら11人いる中での下から3番目。以前までならわたしとクロノで何とかなるって思ってたけど、AAAランク以上の魔導師を何人も有していると思われるテスタメント部隊、それにシュヴァリエルっていう戦力を知った今、武装隊を含めた現状のアースラ戦力で渡り合えるとは思えない。
たとえそれらがあの子の嘘だとしても、何かしらの後ろ盾は絶対に在る・・・はず。でないと単独でこんな辺境世界に訪れることが出来、なおかつジュエルシードの在処を短期間で把握できるなんて無理だもん。

「脅威対策室が動くだけの確証が無いから、現状は僕たちで何とかするしかない・・・」

脅威対策室。大規模テロや小規模戦乱の鎮圧などを担当する本局の部署の1つだ。その部署の名の下に編成された部隊は、事案の脅威度によってピンキリだけど、脅威度最大である場合はその戦力は正しく管理局最強。彼らが動けば何とかなるとは思うんだけど。テスタメント部隊、レーゼフェアやシュヴァリエルの実態も判らない以上は夢のまた夢。

「もしテスタメント部隊やレーゼフェア達が出て来た場合、なんとしても僕と君で迎え撃つぞ」

「うん。民間協力者のなのは達にそこまでは頼めないし、これ以上危険な目に遭わせたくもないもん」

絶対にあの子たちを守り切って見せる。意気込んでたその時、ブリッジに警報が鳴り響いた。

「エイミィ!」

「はい! 海鳴市にて魔力反応を探知! メインモニターに表示します!」

リンディ艦長に応じたエイミィがキーボードを操作してメインモニターに海鳴市のマップを表示。フェイトとアルフ、テスタメントの魔力を表す光点がマップの片隅に表示された。それとは別にジュエルシードの魔力の光点が現れて、すぐに消滅した。それが示す意味は「また回収されちゃったみたいです」ジュエルシードがフェイト達に回収されたってこと。

「残り3つか・・・。一応、このままジュエルシードを探すが、見つけた頃にはもう連中に回収されるのがオチだろう」

悔しそうに唸っているクロノに「だね」って同意を示す。もう回収戦のスピードで勝てるとは思えない。

「・・・エイミィ。フェイトさん達を追える?」

「・・・・・・ダメです艦長。強力なジャミングが効いてる所為で追跡できません」

「テスタメントの魔法だろうな。連中の追跡はもう諦めた方が良いと思う。エイミィ。ジュエルシードの探索範囲を広げてくれ。念のために海の方まで」

クロノがエイミィにそう指示を出したあと、「テスタロッサ、か」って呟いた。

「テスタロッサってあれだよね? かつての大魔導師・・・プレシア女史と同じファミリーネーム」

テスタロッサってファミリーネームには心当たりがあったからちょこっと調べてみた。初めて聞いた時、すぐにプレシア・テスタロッサ女史の名前と当時の事故が脳裏に過ぎったから。やっぱり歴史の勉強はしておくべきだね。こういう時に意外な形で役に立つ。

「ああ。プレシア・テスタロッサ。26年ほど前、ミッドの中央都市で次元航行エネルギーの駆動炉の実験で次元干渉事故を起こし、追放された女性だ」

「そうなんだ・・・。じゃあフェイトちゃんってその人の関係者なのかなぁ・・・」

「さあね。本名とも限らない」

わたしが調べた、プレシア女史の起こした次元干渉事故による犠牲者はたった1人。その犠牲者の名前と顔写真を見て、わたしは胸が締め付けられるような痛みを憶えた。プレシア。事故の犠牲者。ジュエルシード。強大過ぎる魔力。何故かわたしはある1つの推測を労することなくパッと思いついた。
それはあまりにも馬鹿馬鹿しくて、現実味が無くて、否定したくて、それなのにそれが正解のように思えてしまう。時折生まれる強烈なデジャヴ。ここ最近、頻繁に起こるようになってきた。

(それもこれも良い意味でなのは、悪い意味でテスタメントと会った時から・・・)

「一応、その線で調査するけど・・・って、イリスちゃん? 大丈夫? 顔色悪いよ」

「え? あー、うん、大丈夫」

「陸戦のエースが体調管理を怠って撃墜、なんてことになってくれるな?」

クロノがわたしの右肩に手をポンッと置いてそんな寝言を言ってきた。わたしは溜め息1つ吐いて「寝言を言うには早くない?」って笑みで返す。

「ああ、そうだな。じゃあエイミィ。何かあったら通信をくれ。僕は自室で事務処理をしてる」

「ん。頑張ってねクロノ君♪」

そうしてクロノはリンディ艦長に会釈してからブリッジを出て行った。そんじゃわたしもそろそろトレーニングルームに戻ろうかな。なのは達も待ってるだろうし。エイミィの肩をポンッと叩いて「頑張ってね」踵を返してブリッジの出口へ向かう。わたしもリンディ艦長に会釈してからブリッジを後にして、トレーニングルームへ歩みを進める中、わたしの目の前にいきなりモニターが展開。

「おわっと!」

立ち止まるのがもうちょっと遅かったら、クロノとモニター越しのキスをするところだった。危ねぇ・・・。

『っと、すまないイリス』

「ん。で、どうしたの? 事務処理、手伝う?」

『いや間に合ってる。・・・イリス。今後の方針を決めた。ジュエルシード探索を打ち切ってフェイト達の魔力探索にのみ労力を割く。発見次第・・・戦闘開始だ』

「・・・そ。じゃあそれまではなのは達の魔導師としての腕を鍛え上げるよ」

『ああ。基本は待機だ。状況が動き次第、招集をかける』

「了解」

通信が切れ、わたしは改めてトレーニングルームへと歩みを進めた。それから午後と夕食後になのは達を鍛えたけど、その日はもうフェイト達がジュエルシードを回収することはなかった。

†††Sideイリス⇒ルシリオン†††

「用意はいい?」

「うん」「ああ」

頭上に広がる薄い曇天、眼下に広がる薄暗い海。その間に、私とフェイトとアルフは居る。31個とふざけた、そして嬉しい誤算である数のジュエルシード。その残りである最後の3つを回収しに来たのだ。海の底に眠る3つ。一度に3つを封印するため、昨日は2つだけの回収に留めておいた。フェイトからは少しばかり不満をプレゼントされたが、アルフの助力もあって説得に成功。そして今、行動に移すためにここに居る。

「それじゃあ手筈通り、私が魔力流を撃ち込んで強制発動させる」

「あたしはフェイトのサポート。で、テスタメント、あんたが封印だ」

「ええ、判ってる。管理局が来るのは間違いないはずだから、アルフは時間稼ぎにも頑張ってもらうよ」

「期待はしないでおくれよ。数じゃ負けてるんだからさ。あ、でもフェイトだけ(・・)は守りきるから安心しておくれ♪」

アルフはそう言ってフェイトに背後から抱きつき、彼女の頭に頬ずりする。別に助けてもらおうとは思っていない。ただ、ちょっと寂しいかなぁ、って思うだけだ。コホンと咳払いを1つ吐き、「雨が降って来た。そろそろ」と本音を隠して急がせる。残り3つをなのは達と分けるわけにはいかない。だからこそ急ぐ必要がある。コクリと頷いたフェイトは大きく深呼吸し、足元に広大な魔法陣を展開させた。

「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。いま導きのもと降り来たれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス」

儀式魔法に分類される、局地的に雷を落とす天候操作魔法の詠唱に終えるフェイト。魔法陣直下から生まれる幾条もの落雷。周囲にもゴロゴロバリバリと轟音が鳴り響く。そして魔法陣上、つまり私たちの周囲に黄金に輝く雷光の目玉が9つ発生し、雷光がそれらを繋ぐ。

「サンダー・・・フォォォーーールッッ!!」

“バルディッシュ”のヘッドを魔法陣に打ち付けたと同時、9本の雷撃が海面へ放たれた。雷撃を受けた海面が大きく爆ぜ、数秒のあと・・・海面から3本の青い光の柱が立ち上った。ジュエルシードの数と一致。3つでありながらその覚醒率はかなり高い。渦潮や海水の竜巻が発生し、竜巻に至っては空に居る私たちを吹き飛ばそうとする程の風圧を伴っている。

「テスタメント。本当に1人で大丈夫?」

「大丈夫。さぁ、始めようか。輝ける命を夜明けの竈にくべ燃やし、魔を成す贄とする。天へと昇るは封を解き放つ至高の浄煙。其は棺に眠りし炎王を呼び覚ます烽火(ほうか)――」

直径10mほどの魔法陣を展開。さらにその魔法陣の周囲に12の魔法陣を展開。久しぶりだなこの大魔術を使うのは。管理局に見られるだろうが、彼らの前で正体――ルシリオン・セインテストを晒してこの魔術を使うことはないから気にはしない。

「・・・っ。フェイト・テスタロッサ。アルフ。管理局が来た。迎撃をお願い」

「判った」

「出来るだけ早く頼むよ!」

転移反応を感知。なのはとアリサとすずか。そしてイリスとユーノ。スクライア姉妹は出てこない。ま、あの厄介なバインド弾と二属性の砲撃が無いのは救いだ。フェイトとアルフが、こちらへ向かって来るなのは達の迎撃へ向かった。それを横目に、私の固有魔術における炎熱系最強の魔術を発動させるための詠唱を続行。

「封じられし棺は鳴動し、その振えは夕暮より宵闇へと進めるが為の虚無の鐘を鎮かに鳴らす――」

計13の魔法陣の直下に直径8mほどの炎球が発生する。フェイトとジュエルシードの魔力が大気に満ちているからこそ現状の私でも発動できるこの術式。本来の威力に比べて2割もあればいいとこだ。が、それで十分だ、今はな。

『テスタメント! そっちに局員ともう1人行った!』

アルフから緊急の念話。続けて『すぐ援護に――』と送ってきたフェイトに『結構』と一言だけで却下した。フェイトにはなのは。アルフにはアリサとすずか。私の所へはイリスとユーノか。ユーノに背中から抱かえられるようにして飛んできたイリスが「すごい風」私の魔法陣へ降り立った。

「テスタメント!」

「この前は名乗れなかったよね。時空管理局、イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト執務官補です。今すぐ武装を解除し、魔法を停止し、そして投降しなさい。もちろん拒否権は無し」

暴風によって波打つアクアブルーの長髪とスカートをそれぞれ押さえ、イリスはそう促してきた。

「かくして王の眠りし棺の蓋は開き、溢れ出す烈火は天を燃やし、地を焼き、世界を浄化する」

それを無視して詠唱を続行すると、イリスはデバイス、“キルシュブリューテ”の剣先を私に向け「再度告げます。投降しなさい」2度目の警告。ユーノは私とイリスを交互に見、いつでも魔法が発動できると言った風な構えを取っている。

「王よ醒めよ――」

「やめなさいって言ってるでしょ!」

「テスタメント!」

――チェーンバインド――

“キルシュブリューテ”が振り下ろされるより早く私を拘束する、ユーノが発動したチェーンバインド。私を袈裟切りしようとしていた刃がギリギリで止められる。イリスと至近距離で見詰め合う。

「今すぐ魔法を破棄してテスタメント」

「馬鹿を言わないでよ。ジュエルシード3つが同時に発動している今、すぐにでも停止させないとダメでしょ」

「シャル。テスタメントの言う通りかもしれない。なんか・・・まずいことになりそう」

何かしらの願望が叶う前に封印したかったのに邪魔をされてしまった。海より天を衝くジュエルシードが放つ3本の光の柱が同時に集束し、大きく爆ぜた。私は「ユーノ・スクライア! バインドを解いて!」と叫ぶ。バインドブレイクで無駄な魔力を消費したくない。

「あ、うん!」

チェーンバインドが砕ける。さすがのイリスも状況変化を察し、邪魔はしてこない。すぐさま魔法陣に片膝立ちし「今こそ主の神火を奮う時。世の滅びの果てに待つ、再誕を担うがために!」詠唱を完遂。

――大炎帝の劫火(コード・スルト)――

足元の魔法陣に左手の平を叩きつけ、13の魔法陣に発射を告げる魔力を流す。と同時。13の炎球は計104の砲撃となって海面に降り注いだ。連続で発生する水蒸気爆発。爆発によって立ち上る水煙が私たちの居る空にまで届く。邪魔が無ければ確実に終わっていた一撃だ。水煙で視界が潰される中、ピリッと肌で感じる最悪の結末。

「『全員、現高度から緊急上昇!!』」

口頭と念話の両方で叫ぶ。空を飛べないであろうイリスの腰に腕を回して抱き寄せ、「ひゃあ!?」悲鳴を上げるイリスと共に空へ飛び立つ。水煙の上にまで上がり、周りになのは達全員が揃っているのを確認。

「テスタメントちゃん! あの・・・」

「話はあと! 来るよ!」

なのはの呼びかけを遮り眼下を見据える。濛々と立ち上る水煙の動きに変化。グルグルと渦を巻きだして竜巻と化し、それを突き破って現れたのは・・・

「「「タコぉぉぉぉぉぉッ!!?」」」

なのはとアリサとすずかが絶叫した。現れたのは巨大なタコ。イリスはポカーンとだらしなく口を開けて呆け、ユーノは「うわぁ」とちょっと及び腰だ。

「タコ焼き、タコ飯、タコのから揚げ、タコのバター焼き。何人分になるだろうね~♪」

はやてと一緒に食べるタコ料理を想像してつい頬が緩んでしまう。抱えたままのイリスが「アレ食べるの!?」と驚愕。

「タコ焼きは好きだけど、あのタコを使ったのは食べたくないなぁ」

「あたしも。ていうかテスタメント。あんた、ちゃんと仕留めなさいよ!」

「はぁ。あなた達が邪魔をしなければ、今の多弾集束砲で一気に封印出来たはずだったんだけど・・・」

アリサに怒鳴られ、その責任を押し付けられようとしたが、私はすぐさま反論。イリスをジト目で見ると、彼女は「う゛っ」と居心地悪そうに顔ごと目を逸らした。私から逃れるためか足元に真紅に光り輝くベルカ魔法陣を展開し、「離して」ともがいたため腕を放す。

「ま、こうなった以上は焼きダコにしてジュエルシードを引っ張り出す。フェイト・テスタロッサ、アルフ。手伝って。あなた達は邪魔にならないところに居て」

「うん」「あいよ」

フェイトとアルフを引き連れて降下。頭上から「私たちも手伝う!」なのはの声が掛けられた。そんな彼女たちに「お好きにどうぞ」とだけ言い、タコが吐いた墨を一斉に回避。まずアルフが「ファイア!」複数のフォトンランサーを発射するマルチショットでタコの8本の触腕を襲撃。

「バルディッシュ!」

――アークセイバー――

ランサーの着弾点にピンポイントで魔力刃を当てたフェイト。触腕を横一線に斬り裂いていく。間髪入れずに私は「第四聖典!」を具現させ、横棒の先端に炎を付加。そしてハンマーの如く「破ッ!」と、魔力刃が裂いた部分に第四聖典を打ち下ろした。着弾点より傷口に沿って炎が走り、タコの触腕を焼く。タコは炎を消すためにその触腕を海の中へ沈めた。

「うっ。すごい美味しそうな匂いが・・・!」

「くんくん。これはお腹が空くね」

アリサとすずかが周囲に漂う焼きダコの香りに鼻をひくつかせる。そういう私も「これは堪らないな~」今すぐにでもタコを食べたい衝動に駆られる。こんな腹の空くような香りの中で戦闘など、緊張感が薄らいでしまうな。そんな中、焼かれ、美味そうな香りを漂わせるタコは完全に私たちを敵と見なしたようで、私を叩き潰そうと2本の触腕を振るってきた。

「ディバイン・・・バスタァァーーーーッ!」

「バスター・・・ラァァーーッシュ!」

左右から迫って来ていた2本の触腕を撃ったのは、桜色と藤紫色の砲撃2本。攻撃を受けた触腕は大きくしなり、片方は着弾点より凍結され、共にチェックマークのような形のまま着水。空を見上げると、“レイジングハート”の先端をこちらへ向けたなのはと、前面にミッド魔法陣を展開したすずかの姿が在った。バスターラッシュ。スクライア姉妹の砲撃魔法。凍結効果と言うことはセレネバージョンの方だ。

「ありがとう、2人とも」

何故すずかが扱えるのかは判らないが、使えるようになったという事実には警戒しておいた方が良いな。とりあえず礼を言い、海面から槍のように突き出してきた別の触腕を避け、炎を纏わせた第四聖典で打ち払う。着弾地点が爆発し燃え、また良い香りが漂ってきた。

「ちょっとテスタメント! あんたが攻撃すると、余計にお腹が空くじゃない!」

「だったら私とあなた――アリサ・バニングスは戦闘に参加せずに観戦する?」

アリサの元へと飛び、彼女が展開している魔法陣、フローターフィールドへと降り立つ。炎熱変換資質持ちのアリサ。彼女は“フレイムアイズ”と私を交互に見、「むぅ」と唸った。その最中にもなのは達が暴れ狂うタコの触腕を相手に魔法を撃ち放っている。

「べ、別に問題ないわよ。だって――」

「変換しなければいいんだから、でしょ」

「そ、そういうこと!」

アリサが魔法陣より飛び降り、私も続いて飛び降りた。

†††Sideルシリオン⇒なのは†††

31個あるジュエルシードの最後の3つが、フェイトちゃんの魔法によって同時に発動。それを見た私たちは、クロノ君の指示で先に封印するために現場に転移した。テスタメントちゃんがとんでもない魔法で同時封印しようとしていたところに私たちが介入。
私はフェイトちゃんを、アリサちゃんとすずかちゃんはアルフさんを、そしてシャルちゃんとユーノ君がテスタメントちゃんを止めるため。けどそれがまずかった。魔法の発動が遅れて、ジュエルシードは封印される前に何かしらの願いを叶えちゃった。

「その結果が・・・あの大きなタコ・・・」

≪Divine Buster≫

暴れ回るタコの足に砲撃を撃ち込む。大きく反り返って動きを止めたところに、「斬ッ!」シャルちゃんがベルカ魔法陣から飛び降りて“キルシュブリューテ”で切断。すぐさま足下に別の魔法陣を展開、「あーらよっと♪」足場として降り立った。

「シャルちゃん!」

そんなシャルちゃんに向かう別の足が2本。1本は槍のように、1本は鞭のように。シャルちゃんは慌てることなく「カートリッジロード」“キルシュブリューテ”のカートリッジをロード。刀身に燈る真紅の魔力。「光牙・・・!」目の前に迫り来ていた足に向かって“キルシュブリューテ”を薙ぎ払おうと振りかぶった瞬間。

「「あ」」

≪げっせんじ~~~ん♪≫

シャルちゃんの攻撃が届くより早く真上からテスタメントちゃんが落ちて来て、タコの足を十字架(第四聖典って名前みたい)で薙ぎ払った。そしてその直後、シャルちゃんの一撃がテスタメントちゃんを襲撃。運が悪かった、としか言いようがない。ちなみにもう片方の足は、アリサちゃんが“フレイムアイズ”で斬って、すぐにすずかちゃんの砲撃で凍結して処理された。

「あ痛ぁぁぁぁぁぁっ!?」

シャルちゃんの一撃を受けて弾き飛ばされたテスタメントちゃん。その先には別の足が在って、テスタメントちゃんをバチンと叩いた。テスタメントちゃんは錐揉みしながら空を舞い、タコの顔の前に。で、タコが吐いた墨の直撃を受けて海に落ちた。この時間。わずか2秒弱。あまりの惨劇に私たちは呆けることしか出来なかった・・・。

「みんな気を付けて!」

――バインドバレット――

すずかちゃんの大声にハッと我に返る。すずかちゃんの4発の魔力弾が、私に向かって伸ばされようとしてた足に着弾すると、魔力弾はバインドとなって足を拘束。すぐさま私と同じように動き出したシャルちゃんが“キルシュブリューテ”で一刀両断。

「ていうかテスタメントは無事なのかしら・・・?」

「ねえ。あれってわたしの所為かな・・・?」

「ただ、運が悪かったとしか言いようがない、かも・・・?」

「助けた方が良いよねやっぱり・・・?」

なかなか海から出てこないテスタメントちゃんをみんなで心配する。離れたところに居るフェイトちゃんとアルフさんをチラッと見ると、2人は意に介さず残りの足を魔法で倒していた。フェイトちゃん達はテスタメントちゃんのことを心配していないのかな・・・? それとも「心配する必要もないほど信じてる・・・?」だったら、羨ましい反面悔しいかも。

『イリス・ド・シャルロッテ・フライハイトぉぉ・・・!』

海から頭だけを出したテスタメントちゃんが呻き声を念話で送って来た。

『あ、あなたがわたしの前に落ちて来るから悪いんじゃない?』

『文句は無い。あなたの言う通りだから。でもちょっと納得できない・・・』

――瓦解せる喰飲の龍咆(アルティフォドス)――

タコの周りに魔法陣が7つ展開されて、そこから海水の龍が現れた。龍は一斉にタコの足や頭にかぶり付いて、引き千切ったりしているけど、私たちが今まで倒した足も含めて再生した。

「『まぁいいや』フェイト・テスタロッサ! 高町なのは!と言うより、砲撃を使える魔導師!」

念話を切り上げたテスタメントちゃんが私たちにそう呼びかけた。

「再生が追加された今、半端な魔法はもう通用しない。なら――」

「大火力魔法で一気に片を付ける、だね」

「つうことは、あたしゃ見学組だね」

私たちの近くに来たフェイトちゃんとアルフさんは、テスタメントちゃんの案にすぐ乗った。そしてテスタメントちゃんも私たちの所まで上がって来た。

「言わずともフェイト・テスタロッサは判ってるようで何より。バラけて四方八方から撃つより一点集中の方が力が通りやすい」

テスタメントちゃんは私たちを順繰りに見た後、砲撃魔法を扱える私たちの一斉砲撃で強制封印するっていうことを説明した。タコの方を横目で見てみる。海水の龍に食い千切られた足をすぐさま再生させて、別の足で龍を倒しちゃったりしてる。でもまた新しい龍が生まれて、その足を食い千切ったりする。終わりの見えない攻防戦。

「あの、テスタメントちゃん。顔色、悪くなってない・・?」

すずかちゃんが心配そうにテスタメントちゃんの顔を覗き込んだ。確かによく見ると少し苦しそう。けど「大丈夫。タコを倒せば治る」って言って、第四聖典の先端をタコに向けた。それに続いて「じゃあ今すぐやろう」フェイトちゃんもタコの方へ左手を翳して前面に魔法陣を展開。

「あたしは砲撃魔法を持ってないから――」

龍が討ち漏らした足が私たちに向かって伸ばされてきたのを、「コイツらをぶった斬ってやるわ!」アリサちゃんが魔法陣から飛び降りて迎撃。

「僕も手伝うよ!」

「あたしも手伝おうかね! テスタメント。あの龍に回してる魔力を戻しな。ぶっ倒れるよ」

ユーノ君とアルフさんもタコの足にバインドを掛けたり魔力弾の弾幕を張って、私たちに向かわないようにしてくれた。テスタメントちゃんが「感謝」と一言お礼を言った後、龍が7つから3つへ減った。

「じゃ、じゃあ私とすずかちゃん、シャルちゃん、そしてフェイトちゃんとテスタメントちゃんの一斉砲撃で・・・」

「うん。ジュエルシードを一気に封印だね」

「ま、今回だけは共闘してあげる」

すずかちゃんもタコへ向けて両手を翳して、シャルちゃんは“キルシュブリューテ”の柄を両手で握りしめて頭上に掲げた。それぞれ砲撃の準備を始める。“レイジングハート”に纏わりつくように展開される環状魔法陣、そして先端には魔力。すずかちゃんの魔法陣の前方にも魔力の球が、シャルちゃんの“キルシュブリューテ”の刀身に真紅の魔力が生まれる。

「良い感じの魔力だね。フェイト・テスタロッサ。私たちも負けてられないよ」

「判ってる・・・!」

テスタメントちゃんの第四聖典の先端に燃える魔力球が生まれた。フェイトちゃんの魔法陣にも強い魔力が満ちていくのが判る。これで準備完了だ。

「アルフ! それにアリサ・バニングス、ユーノ・スクライア! 退避!」

テスタメントちゃんがそれを確認してアリサちゃん達をタコから遠ざけさせる。タコは離れ始めたアリサちゃん達を攻撃しようと足を伸ばすけど、海水の龍が壁のように並んで防御。

「撃てぇぇぇぇぇぇぇッッ!!」

――煌き示せ(コード)汝の閃輝(アダメル)――

「ディバイン・・・バスタァァァーーーーッッ!」

「サンダー・・・スマッシャァァァーーーーッッ!」

「バスター・・・ラァァーーッシュ!」

「光牙・・烈閃刃!!」

5つの砲撃が1つに束ねられたような巨大な砲撃になって、一直線にタコへ向かう。そして砲撃はタコを呑み込んで大爆発を起こした。爆ぜた海水が空にまで上がって、まるで雨のように私たちに降り注ぐ。水煙が晴れるまで待って、ようやく収まってきたところで「あ・・・!」うっすらと水煙の奥に輝くジュエルシードの光を見た。その瞬間、テスタメントちゃんとフェイトちゃんがジュエルシードに向かって飛んで行った。

「クロノ!」

シャルちゃんが叫ぶ。それと同時。テスタメントちゃんとフェイトちゃんにバインドを掛けられた。それを見たアルフさんが「フェイト!? テスタメント!?」驚きながらも2人を助けようと向かうけど、3人の間にクロノ君が転送されてきた。

「時空名管理局、クロノ・ハラオウン執務官だ」

「邪魔すんなぁぁぁぁぁッ!」

アルフさんの繰り出した右のパンチを左腕で下から掬い上げるように上に弾いて、「すまないな」がら空きになったアルフさんの右脇腹をデバイスで薙いだ。

「うぐっ!?」

アルフさんの体がくの字に折れ曲がる。クロノ君がそのままデバイスを振り抜けば弾き飛ばせるけど、その前にアルフさんはクロノ君の後頭部を鷲掴んで頭突き。それより早くクロノ君は額に小さなバリアを張って防御。逆に「ぐぁ・・!」アルフさんの方にダメージが。アルフさんがよろめいてクロノ君から離れたところを、クロノ君がデバイスの先端を向けて、

――リングバインド――

「っ! この・・・!」

「君も大人しく捕縛されてくれ。イリス! 今のうちにジュエルシードを封印しろ!」

「了解! みんな!」

――シュヴァーベン・マギークライス――

シャルちゃんは幾つもの魔法陣を階段状の道にしてジュエルシードを目指してダッシュ。ユーノ君はアリサちゃんを抱えて飛んで目指す。私もすずかちゃんと一緒に目指す。そんな時、「甘いよ。クロノ・ハラオウン執務官」テスタメントちゃんの声が静かに響いた。

――バインドブレイク――

「なに!?」

「3対象同時にバインドブレイク!?」

テスタメントちゃん、それだけじゃなくてフェイトちゃんとアルフさんのバインドまで砕けた。同時に3人のバインドを破壊したテスタメントちゃんに驚いたシャルちゃんとクロノ君の2人は動きを止めた。

「はい次は、バインド返し!」

――テリトリー・オブ・スフィアケージ――

「「っ・・・!」」

「「「「え・・・!?」」」」

私、ユーノ君、アリサちゃん、すずかちゃん、4人が一斉に魔力の球体に閉じ込められた。シャルちゃんとクロノ君だけはギリギリ避けて無事だ。でも向こうは3人。数じゃ負けてる。私は加勢するために球体を壊そうとするけど、ポヨンポヨン柔らかくて打撃じゃ効かない。
“レイジングハート”の尖った部分で破ろうとしてもゴムのように伸びるだけ。見ればアリサちゃんも“フレイムアイズ”で斬り破ろうとしてるけど、やっぱり伸びるだけ。

「『どうしようみんな・・・!』・・・あれ? 念話が通じない・・・?」

何度試しても念話が通じない。だったら「ユーノ君! アリサちゃん! すずかちゃん!」大声を張り上げる。けど届いているようには見えない。すずかちゃんが私の方に向いて何か喋ってるようだけど聞こえない。

≪このケージタイプのバインドの効果かと思われます≫

「そんな・・・!」

テスタメントちゃんの魔法って大体そうだよね。通信封じっていうか。大きく溜め息を吐いて、諦めたくないけど今はシャルちゃん達の戦闘に目を向けることにする。シャルちゃんの攻撃を小さな動きだけで避け続けるテスタメントちゃんは、クロノ君の攻撃だけはしっかり迎撃・防御。
そんな2人へ向けて、フェイトちゃんとアルフさんが魔力弾の弾幕を張る。テスタメントちゃんがシャルちゃんとクロノ君の攻撃を一手に引き受ける囮、フェイトちゃんとアルフさんが2人を撃墜するための攻撃手。

(どっちもすごい・・・!)

特にシャルちゃんが普通じゃない。空を飛べないのに、魔法陣の足場を幾つも連続で展開して足場にして、空を縦横無尽に駆け回ってる。それでフェイトちゃんの攻撃を避けたり“キルシュブリューテ”で斬り裂いたりするなんて、「凄すぎる・・・」もう驚くことしか出来ない。

「ベルカ騎士ってこんなふざけた真似が出来るもんなのかい!?」

「イリスだけが特別なんだよ。最年少で執務官補となり、最年少でAAA+ランクとなり、最年少で陸戦のエースの称号を貰った、数ある最年少記録の保持者。僕の自慢の部下だ!」

テスタメントちゃんに集中砲火してるクロノ君が自慢げに言う。

「褒めても何も出ないよクロノ!」

――ブレイズキャノン――

――炎牙崩爆刃――

標的をテスタメントちゃんからアルフさんへ変えたシャルちゃんとクロノ君。クロノ君の砲撃を避けた先の場所にシャルちゃんの炎の斬撃が飛んできて・・・

「しま・・・っ!」

いきなり標的が変わっちゃった所為でアルフさんは対処しきれず直撃を受けた。爆発が起きて黒煙に呑まれたアルフさん。それを見て「アルフ!」フェイトちゃんが叫ぶ。黒煙の真下から落下を始めるアルフさんは意識が無いみたいで動かない。アルフさんを助けるためにフェイトちゃんが攻撃を止めて向かおうとした。けどそれが隙になっちゃった。

「これで撃墜2人目!」

――光牙閃衝刃――

離れているにも拘らず突きを繰り出したシャルちゃん。でも“キルシュブリューテ”の刀身から光の槍が放たれて、それは高速でフェイトちゃんを襲った。ギリギリで避けることが出来たけど、クロノ君のバインドがフェイトちゃんを捕えた。
アルフさんもバインドで落下が止まったけど、捕まったことには変わりない。シャルちゃんがすぐさまテスタメントちゃんの確保に動くけど、「10秒もあれば辿り着ける」テスタメントちゃんはすでにジュエルシードのすぐ側。

「最後の3つも私が・・・ううん。私たちが頂く」

ジュエルシードに伸ばされるテスタメントちゃんの手。負けた。そう思った時、「っ!?」背筋が凍るほどの嫌な感じが私を襲った。空から届くゴロゴロっていう雷の音。空を見上げてみると、そこには真っ黒な穴が開いてた。

「なんだこの強大な魔力は・・・!?」

「この魔法・・・。母さん・・・!」

小さいながらもフェイトちゃんの声がハッキリと聞こえた。どこか怯えたような・・・母さん、っていう言葉が。

――サンダーレイジO.D.J――

その直後、その黒い穴からとんでもない魔力を含んだ雷が落ちてきた。



 
 

 
後書き
ボケルトフ。シャローム。エレフトフ。
ようやく魔法少女たち+ルシルによるジュエルシード回収作業が終わりました。
最初の2つは描写無く回収させました。どういった感じの物だったのか、というイメージは一応、幾つか在ります。
1つは春に降る雪。1つは明けない夜。1つは暴走する剣道具or弓道具。
1つは不正不可の大迷路。1つはドッペルゲンガー・・・などなどですね。
しかしダラダラ続けると飽きさせてしまうと思い、もうサクサクッと終わらせました。
 
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