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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epic14-Aそれはもうジュエルシードの回収は大変で~StrangE~

 
前書き
Strange/力の正位置/力を発揮できる。それにかける想いの強さは、誰にも負けない。その真摯なエネルギーこそが、何よりの力となる。
 

 
†††Sideイリス†††

「で? 僕が寝込んでいる間に、民間人を協力者として迎え入れたわけなんだな?」

「そうだよ。現地協力の魔導師、なのは、アリサ、すずか。そしてスクライアのユーノ、セレネ、エオスね」

ジュエルシードの回収に専念するために、学校を休めるよう家族を説得しにリンディ艦長と一緒になのは達が帰宅した後、ようやく我が上司、クロノ執務官がお目覚め。そして今、これまでの事情をわたしともう1人の執務官補でアースラ通信主任でもあるエイミィを交えて、モニタールームでクロノに説明中。モニタールームの唯一の席に座っているエイミィは、操作キーをリズムよく押して映像をモニターに映し出させる。

「クロノ君が眠ってる間に起きたのがこの映像だよ」

正面のモニターに映ってるのは、さっきの樹の暴走体となのは達の戦闘。クロノは映し出される映像を無言で見てる。そしてわたしがフェイトって子を撃墜したのを見て「まあまあだな」なんて辛口評価。で、次に流れたテスタメントの登場と、その子に負けたわたしの映像を見て「イリスの斬撃を見切ったのか・・!?」そこは驚いて見せた。

「フェイトちゃんって子には問題なく対処できたけど、次に姿を見せたテスタメントちゃんって子に、イリスちゃんは負けちゃったんだよね」

「わっはっは。綺麗に見切られちゃいました~♪」

てへ❤と舌を出してコツンと頭に軽い拳骨。するとクロノは「変に誤魔化すな」ってわたしの額を人差し指で突いてきた。お見通しってわけか。クロノと同じ現場に立って時間はまだ1年にも満たないけど、知り合ってからは2年。だからこそバレちゃうみたいだなぁ、わたしの隠してる本心が。

(今でもあのショックから立ち直れ切ってないことが・・・)

でもそれが嬉しいって思える。だからわたしのことを気に掛けてくれる仲間の為にも。

「次は負けない!」

「ああ。そうだな」

「それでこそ最年少で、しかも一発で試験を合格して執務官補になった、古代ベルカ式の超天才騎士♪」

「今は茶化すなエイミィ。それにしてもイリスや艦長の判断は正しいかも知れないな。このテスタメントって魔導師には妙な気配がある。名前からして偽名であるのは間違いない。もしかするとジュエルシードを運搬していた船を襲った奴の仲間かも知れない」

「船の護衛に就いてた第零技術部のシスターズの2人を撃墜したって魔導師だよね」

新しく出したモニターに第零技術部所属の専務戦闘員、トーレ・スカリエッティとチンク・スカリエッティの顔写真と能力値を表示。そして第零技術部のジェイル・スカリエッティ部長から提供された、その2人を墜とした際の女魔導師の戦闘映像を表示させた。
トーレはオーバーSで、チンクはAA。戦闘能力にはなんにも問題ないのに、そんな2人をたった1人で圧倒した影を操る魔導師。チンクは本局で初めて出来た友達でもあるから、チンクが倒された時のシーンはかなり辛い。

「僕とイリス、それに武装隊の包囲網で押さえ込むことが出来るかも怪しいな。確かにジュエルシードの封印で魔力を消費した中で、こんな奴を相手にしたくない。高町なのはとユーノ・スクライア及びその友人たちには悪いが、僕たちの魔力消費を抑える役を担ってもらおう」

「うわぁ。しょうがないとは言え、クロノ君が外道発言を・・・」

「んなっ! 人聞きの悪いことを言うなよエイミィ! 元はイリスの発案だろう!?」

「ちょっ、なんてこと言うの! それは建前で、わたしの本心はただ、なのは達ともっと一緒に居たいなぁ、なの!」

失礼しちゃう。そんなゲスいことを本心で考えるわけないじゃないの。プンプン頬を膨らませて怒っていると「それはそれで問題があるような・・・」なんてエイミィがぼやく。クロノも頭痛を起こしたかのように額に手を当てて「あのなぁ・・・」って呻くし。

「ま、いいじゃん。わたし、同年代の魔導師の友達って、そんなにいないし・・・」

聖王教会にならたくさん居るけど、管理局はやっぱり大人が多いから、局内で友達と言えるのはクロノやエイミィ、それにあの子たちくらい。だからこの一件が終わって別れることになるとしても、なのは達のような同年代の友達が出来るのは嬉しい。

「まぁ、まだ友達とも言える関係じゃないけど。必ず友達になって見せる!!」

フンッと気合いを入れる。と、「おお、やる気満々だねイリスちゃん♪」って笑ってくれたエイミィだけど、クロノからは「別の方向にそのやる気を見せてくれ」って嘆息。もちろんジュエルシードの一件にも全力で取り組むつもりだ。でも今は、何もすることがないんだも~ん。

「ジュエルシードの在る場所はいま全力で探してるから、発見次第動いてもらうよ」

「なのは達が、でしょ?」

「艦長や高町なのは達がご家族の説得に成功すれば、だ」

クロノの言うことはもっともだけど「たぶん大丈夫じゃないかな」って思う。

「どうしてそう思う?」「ん? なんで?」

2人から同時に訊かれて、「勘♪」そう即答する。苦笑してる2人に背を向けて、わたしはモニタールームを出る。向かうはトランスポーター。ブリッジのじゃなくて複数人を同時に転送できるエントランスだ。

「早く逢いたいなぁ、なのは。それにアリサとすずかにも♪」

気付けばルンルンスキップなわたし。成功しても失敗してもリンディ艦長から連絡が来るのに、その前にエントランスで待つなんて。

「わたしってバカよね~♪ そうだよね~♪ そうなのよ~♪」

すれ違う仲間たちに微笑ましく見られているのも気にせず、わたしはただスキップなのだ。

†††Sideイリス⇒なのは†††

「まさか一切反対されずに外泊許可が出るなんて思わなかったわ・・・」

「うん。でも、それはそれで助かったよね」

「信じてもらってるってことだから嬉しいことだよ」

ジュエルシードの回収に集中したいと決めた私とアリサちゃんとすずかちゃんは、学校を無期で休みたいってことを私たちの家族に話すことにした。魔法のことだけをぼかしてユーノ君との出会いからこれまでのこと、ある探し物を巡ってフェイトちゃんやテスタメントちゃん(テスタちゃんって呼び方を変えて)とケンカしてるけど、仲良くなって友達になりたいこと、そのためには家を空けないといけないこと、ちょっと危ないことをするかもしれないこととかって。
普通、そんなことで学校を休んだり、危ないことをするってなれば反対されると思ってた。そこを保護者役としてリンディさんと一緒にどう説得するか考えていたんだけど・・・。

――なのはに迷いがあったら反対したけど、もう決めちゃってるんでしょ。最後までやり通すって。だったら後悔しないために、いってらっしゃい――

お母さんは心配はしてくれたけど、でも送り出してくれた。

――確かに学校は大事だが、それよりもっと大事なものも在る。友達が困っているなら助けてあげなさい――

アリサちゃんのお父さんが言ってくれた言葉。

――なのはちゃんやアリサちゃんも一緒なんでしょ。だったらお姉ちゃんは反対しない。みんなで納得のいくようにすればいいと思うわ。父さん達は私が説得しておくから。気を付けてね――

すずかちゃんのお姉さん、忍さんもまた反対せずにすずかちゃんを送り出した。家族に快く送り出されてた私たちは今アースラへ戻るため、アリサちゃん家のリムジンに乗って海鳴臨海公園に向かってる。外はもう真っ暗で、道路の街灯が流れていくのを窓から眺めていると、「っ!」ドクンと跳ねる心臓。

『アリサちゃん、すずかちゃん!』

『ええ。ジュエルシードの気配ね』

『発動直前だよ。急いで封印しにいかないと!』

3人で顔を見合わせて頷き合う。アリサちゃんが「鮫島、ここで降ろして!」バニングス家のドライバーさんの鮫島さんに車を停めるように指示。車は緩やかに停まって、それと同時にアリサちゃんが「行くわよッ!」って飛び出して行っちゃった。私とすずかちゃん、そしてリンディさんは鮫島さんにここまで送ってもらったことへのお礼を言ってから、アリサちゃんの後を追った。

『艦長! クロノです。艦長たちの付近からジュエルシードの反応があります』

リンディさんの側に浮かび上がった空間モニターに、シャルちゃんの話に出て来たクロノ君が映って、そう報告した。

「ええ。今、なのはさん達と現場に向かってるわ。周囲を警戒しておいて。フェイトさんとテスタメントさんが姿を見せるかもしれないわ。追跡の用意も怠らずに」

『了解しました。念のため、イリスをトランスポーター前に待機させておきます』

それを最後にモニターが消えた。リンディさんの横顔を見ていると、「あの子、私の息子なのよ♪」って微笑んだ。その話にビックリしちゃった。だってリンディさんってクロノ君みたいな大きな子供が居るとは思えないほどに若いんだもん。だからそう言ってみると、リンディさんは頬に手を添えて「まあ。嬉しい♪」ってすっごく嬉しそうに笑顔になった。

「お話し中、すいません。なのはちゃん。そろそろ戦いの準備をした方が・・・」

すずかちゃんに言われて、「あ、うん、そうだね。レイジングハート」シューティングモードで起動して、バリアジャケットに変身。すずかちゃんも変身。先を走るアリサちゃんはすでに変身し終えていて、「来るわよ!」“フレイムアイズ”を構えた。私たちそれぞれの肩に乗ってたユーノ君たちが一斉に降りて、

「セレネ、エオス!」

「「うんっ!」」

元の人の姿に戻った。私とすずかちゃんは初めて見た、セレネちゃんとエオスちゃんの本当の姿を。ミルクティのような色をした髪は、セレネちゃんは腰まであるロングで、エオスちゃんが肩までのセミロング、目の色は一緒でピンク色。バリアジャケットはユーノ君のと似ているけど、セレネちゃん達のはスカートで色違い。

「封時結界!」

ユーノ君が結界を張って、全員が臨戦態勢に入ったとほぼ同時、林の中から一頭の「ドラゴン!?」が飛び出してきた。

「違うわ! コイツは・・・(マムシ)よ!!」

そう。アリサちゃんの言う通りそれはドラゴンじゃなくて毒蛇のマムシ。ジュエルシードの影響で巨大化してて、それはもう大変恐ろしいモノになっちゃってる。大口を開けて突進してきた巨大マムシから逃げるために、「レイジングハート!」飛行魔法フライアーフィンで空に上がる。
ユーノ君は自力で、飛べないアリサちゃんはすずかちゃんに後ろから抱かれて空へ。セレネちゃんとエオスちゃんは「離れます」ってリンディさんの腕を両側から取って大きくジャンプ、距離を開けた。

「ディバインシューター・・・。シューット!」

地中に潜って行こうとしてるマムシにシューター6基を放つ。だけど着弾するより早くマムシは地中へ消えて行っちゃった。

「速いわね。・・・サポート班!」

「「「「うんっ!!」」」」

アリサちゃんの指示にすずかちゃん達が力強く応えて、それぞれ足元に魔法陣を展開。サポート班は、私とアリサちゃんが攻撃に専念出来るようにバインドや結界発動などの補助魔法を担当するチームで、すずかちゃんやユーノ君たちが決めて作ったもの。

「地鳴り近くなってきた。なのはちゃん、アリサちゃん! 私たちがマムシを捕縛したら・・・!」

「うんっ!」「ええっ!」

すずかちゃん達がマムシを捕まえて身動きを封じた瞬間、私とアリサちゃんで仕留める。そして一瞬地鳴りが止んだ直後、ドォン!と土煙を発生させて突き出て来たマムシに、

「スノーホワイト!」

≪参りますわ!≫

「「補助機能端末(アストライオス)が無くたって。・・・近距離機能端末(ペルセース)!」」

「はあっ!」

――チェーンサークル――

ユーノ君、すずかちゃん、セレネちゃんとエオスちゃんの前面に展開された魔法陣から3本ずつ、計9本のチェーンバインドが伸びてマムシを捕縛した。動きを止めた今こそチャンス。

「ディバイィィ・・・ン」

「フレイム・・・」

「バスタァァァーーーーッッ!」「ウィップ!!」

茜色の魔法陣の上に立つアリサちゃんと頷き合って、ディバインバスターとフレイムウィップの同時挟撃。チェーンバインドから逃れようともがいていたマムシに直撃して、大爆発を起こした。頭の方を覆い隠す煙。完全に直撃だったから、よほどの防御力がないと耐えられないはず。
でも体から力が抜ける気配がない。それどころか「何か来る・・・!」アリサちゃんが魔法陣から飛び降りた。それと同時、煙の中からなんか液体っぽいのが飛んできて、アリサちゃんが立っていた所を通り過ぎて行った。

「っく・・・!」

≪Round Shield≫

そんな私の所にも飛んできた液体。“レイジングハート”が咄嗟にラウンドシールドを展開してくれたおかげで直撃はしなかった。けど、「うぇ? バリアジャケットが溶けた!?」ジュージューいいながらスカートの裾に穴が開いていた。

『みんな! この液体、バリアジャケットを溶かすから気を付けて!』

連射されて来る毒液。皮膚に触れた場合のことは考えたくない。みんなからの返事を確認し終えたその時、『例の魔導師2人と使い魔が来るぞ!』クロノ君から通信が入った。

「火は命の光にして死の影。十方世界を悉く照らしては焼き滅ぼす。生ける者よ、一天四海を燈す希望の光り火を見よ。死せる者よ、冥土幽界を焼く絶望の禍つ火を見よ」

その直後、テスタメントちゃんの声で、一発で何かの呪文だと判るフレーズが周りから反響して聞こえてきた。暴走気味だったマムシがまるでテスタメントちゃんに怯えたかのように地面に潜ろうとした。でもまだチェーンバインドで捕縛されたままだから、逃げることが出来ない。

「さぁ、ミディアムレアで丸焼きの時間だ!」

――煉獄之火宴――

それは一瞬の出来事だった。地面から炎の竜巻が噴き上がって、マムシを呑み込んだ。炎の竜巻が起こってた時間は3秒くらい。けどそれで十分だっていうのが、マムシの様子から見て判る。プスプス黒い煙が上がってる。意識がないみたいで、チェーンバインドに支えられてる状態。そしてマムシの額から浮かび上がってきたジュエルシード。

「今だよフェイト・テスタロッサ!」

「うん・・・!」

凄い速さで姿を現したフェイトちゃん。夕方の時とは全然違って、目に強い光がある。元に戻ってくれた嬉しさと、「どうして・・!?」テスタメントちゃんとだけ仲良くなってることへの悲しさが、私を襲った。

「ボサッとしてる暇はないわよ、なのは!」

――フレイムウィップ――

そうだ。ショックを受けてる場合じゃない。今は戦ってでもフェイトちゃん達を止める。だから「止まって!」ディバインシューター5基を、アリサちゃんの攻撃をかわしたフェイトちゃんへ向けて発射。フェイトちゃんの側面へ向かうシューターは、「悪いね!」空から落ちて来たアルフさんがシールドで防いだ。それでフェイトちゃんとジュエルシードを繋ぐ道が通った。

「ジュエルシード、シリアル5・・・封印!」

目の前で封印されたジュエルシード。ふぅって息を吐いてるフェイトちゃんにアルフさんとテスタメントちゃんがそっと寄り添った。

「ちょっとテスタメント! なんであんたがフェイト達の仲間になってんのよ!」

「私独りで集めるか、高町なのは達と共に集めるか、フェイト・テスタロッサ達と共に集めるか、それらを天秤にかけた上で判断したんだ。ジュエルシードを再封印して、保管するだけの管理局側に付いたメリットは無いって。だけどこの子たち側なら、全部じゃなくてもある程度のジュエルシードを受け取ることが出来る」

アリサちゃんの問いに簡潔に答えたテスタメントちゃんは「だからさ、あなた達のジュエルシード、ちょうだい?」そう言って、右手に真っ黒で大きな十字架を出現させた。アノ十字架がきっとテスタメントちゃんのデバイスなんだ。神父さんの服着てるし。フェイトちゃんも“バルディッシュ”を構えて、アルフさんも構えを取った。

「なのは! すずか達も! この場で決着をつけるわよ! フレイムアイズ!」

アリサちゃんが“フレイムアイズ”の弾丸を装填して、刀身に炎を燃え上がらせた。フェイトちゃんの“バルディッシュ”も変形して、金に輝く電撃の刃を生み出した。

「アリサちゃん! フェイトちゃん!」

魔法陣の上に立って戦うアリサちゃんと、空を自由に翔け回るフェイトちゃんが何度もぶつかる。アルフさんはすずかちゃんやユーノ君たちと戦い始めて、「高町なのは。戦うんでしょ? 私たちと。あなた自身の目的の為に」テスタメントちゃんが私の所に来た。振り上げられた真っ黒な十字架を後退することで避けるけど、すぐに振り降ろされた十字架は避けれそうにない。

――ラウンドシールド――

「へぇ。やっぱり良いデバイスだよ、ソレ」

「ぅく・・・」

「でも・・・あなたはまだ使いこなせてない」

“レイジングハート”の張ってくれたシールドで何とか防御した・・・のに。すぐにピシピシひび割れて行って「きゃああああ!」砕かれちゃって、地面に向かって大きく弾かれ飛ばされちゃう。

「なのはちゃん!」

――ホールディングネット――

すずかちゃんが発動してくれた網のようなものが私を優しく受け止めてくれた。けどすぐにそこから飛び立つ。テスタメントちゃんが十字架を振り上げながら高速で降りて来たから。宙でテスタメントちゃんとすれ違う。仮面の奥、見えないけど・・・テスタメントちゃんが笑ったように感じた、体が自然に動く。“レイジングハート”の先端をテスタメントちゃんに向け、「ごめんね!」一言謝ってから、

≪Divine Busuter≫

至近距離での本気の砲撃を当てる。直撃の爆発が起きて、テスタメントちゃんが煙の中に消える。でもすぐに「結構容赦ないね、高町なのは!」煙の中からそんな声が聞こえてきた。そしてそれと一緒にボワッとものすごい白煙が生まれて、私の周りが真っ白になる。
咄嗟に口と鼻を手で塞ぐけど、“レイジングハート”にただの煙幕だってことを教えられた。とにかく周り全部が煙で何も見えないから出ないと。煙の中を飛んでいると、“レイジングハート”から≪上空から来ます!≫って警告が。

――ラウンドシールド――

何も見えない今、回避は難しい。だから防御を選択する。空に向かって手を伸ばして、シールドを展開。
その直後、煙を斬り裂いて現れたのはテスタメントちゃんじゃなくて「フェイトちゃん!?」だった。シールドを挟んでフェイトちゃんと対峙する。

「テスタメントに言われた。君と戦うのは私の方がいいって」

≪Photon Lancer≫

シールドから離れたフェイトちゃんの周囲に、放電する魔力スフィアが6基展開された。シールドを解除しながらフェイトちゃんから距離を開けて、私も魔力スフィアを5基と展開する。

「シューット!」「ファイア!」

同時に号令を下して一斉に射出。フェイトちゃんの攻撃はシールドで防ぎ切り、フェイトちゃんは高速で移動してかわした。高速移動のヒットアンドアウェイ。中でも背後へ回り込んでの急襲が、フェイトちゃんの基本的な戦術だっていうのはもう判ってる。後ろへ振り向きざまにシールドを展開。でもそこにフェイトちゃんはいなかった。

「後ろばかりを取るのが私じゃない・・・!」

「え?・・・移動してなかった・・・!?」

フェイトちゃんは移動したように見せて、またすぐに元の場所に戻ってたんだ。振るわれる“バルディッシュ”。シールドを張るには懐に入られ過ぎてるからダメ。咄嗟に“レイジングハート”を掲げて、フェイトちゃんの攻撃を受け止める。

「(アリサちゃんと練習しておいてよかった・・・!)うぐ・・・、でも・・・!」

アリサちゃんと練習で何度か打ち合った(レイジングハートは剣じゃなくて杖なのに・・・)けど、やっぱり本気で全力の一撃は重くて強い。何とか弾かれずに耐えているところに、フェイトちゃんがキックを繰り出してきたのが目に映った。でもどうすることも出来ずに「きゃああああ!」脇腹を蹴り飛ばされちゃった。視界がグルグル回って、どっちが上か下か、右か左かも判らなくなって、でも・・・。

「ファイア!!」

――フォトンランサー・マルチショット――

フェイトちゃんが攻撃を連射してくるのだけはしっかりと見ることが出来た。

≪Protection≫

“レイジングハート”が張ってくれたバリアが防いでくれる。攻撃を防いでいてくれている間に体勢を整えて、フェイトちゃんの居るところを見た時、そこにはもうフェイトちゃんは居なかった。そして今度こそ「もらった」背後から聞こえてきた、フェイトちゃんの声。

「はああッ!」

――アークセイバー――

私に向かってもう一度振るわれる魔力の刃。どうしてかスローで見える最悪の光景。ダメ。防御も回避も全部が間に合わない。今の私に出来ることは目を瞑って、すぐに襲ってくる痛みに耐えるために歯を食いしばることだけ。

「「そう上手くいかないのが現実(リアル)!!」」

≪Buster Rush.ver,SELENE≫

「「え・・・!?」」

地上から放たれて来た砲撃がフェイトちゃんを呑み込んだ。というか「寒っ! 凍ってる!?」私のスカートの裾が凍りついてるのが判る。そしてフェイトちゃんもまたマントが凍りついていて、ガシャァンと音を立てて崩れた。

「氷結効果の魔力砲撃・・・!」

フェイトちゃんは驚きでいっぱいの目で、地上に居るセレネちゃんとエオスちゃんを見た。私も2人を見る。2人は仲良く手を繋いでいて、握っている手をこっちに向かって伸ばしてた。繋がれてる2人の手の前にクリーム色の魔法陣が展開されて、

「「いっっけぇぇーーッ!」」

≪Buster Rush.ver,EOS≫

今度は炎の砲撃が放たれてきた。フェイトちゃんは「っく・・・」そう呻いて回避。卑怯だって言われてもいいから、今はフェイトちゃんに勝たせてもらうよ。私の周囲に5基の魔力スフィアを展開。そこに『負けちゃダメだよ!』セレネちゃんから応援の念話、それと『テスタメントが強いんだよ!』エオスちゃんからは弱音の念話が。

「『ごめんね、もうちょっとだけ待ってて!』・・・シューット!」

――ディバインシューター――

もうジッと見ていられないからよく判らないけど、テスタメントちゃんがアルフさんと合流して、アリサちゃんやユーノ君たちと戦い始めたのは判る。テスタメントちゃんの本気はきっと誰よりも強い。なんとなくだけど、それが判る。だからフェイトちゃんに勝って、アルフさん達に戦うことを止めてもらわないと。

「フェイトちゃん!」

放ったシューターを斬り裂きながら距離を詰めてこようとするフェイトちゃん。距離を取りつつ新しく魔力スフィア5基展開。

「シューット!」

すぐさま発射する。でもフェイトちゃんの飛ぶ速さは本当にすごくて、操作してもすぐに切り抜けられちゃうし斬り裂かれちゃう。だったら「レイジングハート!」動けないようにすればいいんだ。もう一度シューターを5基放って、フェイトちゃんの動きを出来るだけ抑える。その間に、「レストリクト・・・ロック!」私と“レイジングハート”が決めた一定の空間内に居る人や物を拘束する魔法、レストリクトロックを発動。

「しまった・・・!」

フェイトちゃんの両腕両足を拘束することに成功した。バインドから逃れようってもがいてるフェイトちゃんに「お話がしたいんだ!」語りかける。でも「話なんて、私には無い」って聞いてくれそうにない。だからと言って私はここで諦めない。

「私、フェイトちゃんと友達になりたいんだ!」

「え・・・?」

私の言葉に、もがくのをやめて呆けるフェイトちゃん。戸惑いが見えるその綺麗な紅い瞳をジッと見詰めて、私は想いを言葉にして続ける。

「アリサちゃんもすずかちゃんも、フェイトちゃんと友達になりたいって」

地上を見ると、アリサちゃん達全員がテスタメントちゃんの魔力の色、銀色のバインドで拘束されてた。けどそれだけ。その光景には驚いたけど、テスタメントちゃんはそれ以上アリサちゃん達に危害を加えようとはしないで私たちを見上げていた。
アルフさんもまたフェイトちゃんを見上げてるだけで、みんなに何もしようとしてない。たぶんテスタメントちゃんがお膳立てしてくれたんだ。私がフェイトちゃんに想いをぶつけることが出来るように。

「すぐにお返事が欲しいところだけど、たぶん今の状況じゃ難しいとも思ってる。だからこのジュエルシードの争奪戦が終わった後、私はもう一度言うよ。フェイトちゃん、アルフさん。そしてテスタメントちゃん。私たちと友達になってください!」

シーンと静まり返る。その静寂を真っ先に破ったのは「あなたの想い、聴かせてもらったよ、高町なのは」パチパチ拍手するテスタメントちゃんだった。そんなテスタメントちゃんは十字架の先端をフェイトちゃんに向けて「ほい」そう一言。たったそれだけで私のバインドが粉々に砕け散っちゃった。

「「っ!?」」

私も自由になったフェイトちゃんもそのあまりの呆気なさに呆けてしまう。テスタメントちゃんのすることはそれだけじゃなかった。

「アリサ・バニングスのデバイス、フレイムアイズに告ぐ。マスターの身の安全を守るため、あなたが内に封印しているジュエルシードを私に渡して」

十字架を首を刎ねる鎌のようにしてアリサちゃんの首に添えた。

「お断わりよ! あたしが初めて封印して手に入れたジュエルシードなのよ! いくらなんでも渡せな――ぅぐ、げほっ・・」

「「アリサちゃん!」」「「アリサ!」」「アリサさん!」

アリサちゃんが断ろうとしたら、テスタメントちゃんは十字架の横棒でアリサちゃんの首をグイッと引き上げた。私はすぐにアリサちゃんを助けるために“レイジングハート”を「テスタメントちゃん!」に向ける。

「高町なのは。争奪戦の間は、私たちはやっぱり競争相手なんだよ。でもま、あなたの友達になろうって言葉、フェイト・テスタロッサやアルフは困惑してるけど、悪い気はしてないんじゃないかな?」

フェイトちゃんの方にチラッと視線を向ける。確かに目に見えて拒絶感はないっぽい。それに今のテスタメントちゃんの様子に困惑しているようにも見える・・・かな。改めてテスタメントちゃんの意識を向け直して、「じゃあテスタメントちゃんは?」訊いてみる。

「私はそうだなぁ、嬉しいよやっぱり。友達。良い響きだよね。楽しそうだと思う。それはそうと、アリサ・バニングス。ジュエルシードを私に差し出すよう、フレイムアイズに早く命令して。この状況は心が痛むよ」

「ぁぐ・・い、嫌よ・・・!」

アリサちゃんの首が十字架の横棒でさらに絞められる。

「テスタメントちゃん! アリサちゃんを放して!」

「悪いけど出来ない。ジュエルシードは私たちが頂いていく。友達になる云々は、あなたの言う通り全部のジュエルシードを私たちが回収した後で、もう一度聞くよ。返事もその時で良いよね。ま、フェイト・テスタロッサ達はともかく、その時にはこんな私を友達にしたいなんて思うわけないと思うよ」

「テスタメントちゃん・・・! そんな悲しいこと・・・」

「判ってるんだよ。私に友達なんて必要ない」

「うぐ!」

アリサちゃんの首がさらに絞まった。これ以上はダメだ。

「テスタメントちゃん!」

魔力スフィア5基を展開。

「シュート!」

――ディバインシューター――

一直線にテスタメントちゃんへ向かうシューター。だけど「ダメ!!」シューターを操作して停止させる。

「ひ、卑怯者・・・!」

アリサちゃんがそう呻く。私がシューターを止めた理由、それはテスタメントちゃんがアリサちゃんの襟首を掴んで軽々持ち上げて、シューターから身を守る盾にしたから。停止したシューターは操作すれば再発射できるけど、今度は止めることが出来ずにアリサちゃんに当てちゃうかもしれないって恐怖があってそれが出来ない。

≪しょうがねぇ。アリサを守るためだ。約束は守れよ!≫

「フレイムアイズ!? ダメ! やめなさいってば!」

アリサちゃんの制止も空しく“フレイムアイズ”から浮き出るジュエルシード。テスタメントちゃんはジュエルシードを掴み取って、「もちろん果たすよ」そう言ってアリサちゃんを解放して、次いでみんなのバインドを破棄した。その瞬間、

「あたしのジュエルシードを返せぇぇぇーーーーッ!」

――フレイムウィップ――

「「このぉぉーーーーッ!」」

――バスターラッシュ・バージョン・エオス――

「シュートバレット!」

アリサちゃん、セレネちゃんとエオスちゃん、そしてユーノ君がテスタメントちゃんから離れて一斉に攻撃。私も続いて「シュート!」待機させていたシューターを一斉に再発射。

「自己の願望成就。その道程は他者の蹴落とし也。落とされし者等が築くは無残無念の敗衄(はいじく)の山。其の頂きに立つは望みを成し得た勝利の王。王は叶えし願いの頂で大いに笑う・・・!」

――火天之王――

「ふふふ、ははは・・・あーっはっはっはっはっはっはっ!」

テスタメントちゃんが呪文を唱えて十字架を地面に突き立てると、大爆発を起きた。私たちの攻撃はその爆発で完全に消し飛ばされて、5mほど離れてたアリサちゃん達が大きく吹き飛ばされた。そしてその衝撃と爆炎は、空に居る私にも届いた。フェイトちゃんとアルフさんはもう離脱済み。

「きゃぁぁぁぁ!」

爆風に耐えることが出来ずに私はその場所から大きく吹き飛ばされちゃう。視界いっぱいに広がる黒煙。その黒煙の揺らめきの中で、不自然な揺らめきを見た。そしてすぐに「今度はあなたのジュエルシードをちょうだい?」テスタメントちゃんがその揺らめきの中から飛び出してきた。

≪Protection≫

振り降ろされた十字架をバリアで防御した・・けど、「きゃあ!」また簡単に破壊された。私の“レイジングハート”に手を伸ばしてきたから、その手から逃れるために“レイジングハート”を持つ左腕を後ろに引いた。私の胸の前を横に素通りしていくテスタメントちゃんの左手。このまま距離を取ろうとした時、

――輝き流れる閃星(サピタル)――

「え・・・!?」

“レイジングハート”を持つ左手に衝撃。そして私の手から“レイジングハート”が離れる感覚。そのすぐにテスタメントちゃんが目の前から消える。フェイトちゃんの高速移動のように。何をされたのかさっぱりで混乱しちゃうけど、テスタメントちゃんが私の手から“レイジングハート”を弾き飛ばして、強制的に離させたってことだけは判る。

「待機モード!」

そう叫ぶ。振り返ると、数mほど離れた宙に舞ってた“レイジングハート”が赤い宝石に戻るのが見えて、そしてテスタメントちゃんが腕を空振りしているのも見えた。落ちて来た“レイジングハート”を掴もうと動いて腕を伸ばすけど、「残念だったね」テスタメントちゃんが十字架で打ってさらに弾き飛ばした。

「もらった!」

「ダメぇぇーーーッ!」

無意味だって思っててもテスタメントちゃんの背中に手を伸ばす。テスタメントちゃんの手があと十数cmほどで“レイジングハート”に届くと言ったところで、

「もう我慢なんない!」

「シャルちゃ・・・!?」「チッ・・・!」

シャルちゃんがいきなり“レイジングハート”の前に現れて、刀のデバイスの峰でテスタメントちゃんの頭を殴ろうとした。テスタメントちゃんは「ハズレだよ・・・!」ギリギリ首を反らしたことで避けた。

「逃がさない!!」

シャルちゃんのもう片方の手にはいつの間にか鞘が握られていて、真紅に光り輝いたその鞘でテスタメントちゃんの頭を横から殴りつけた。ガキィンって金属音が響く。テスタメントちゃんの顔の部分から黒い破片が飛び散った。仮面が割れたんだってすぐに判った。顔を押さえて「ぐ・・ぉぉ・・・」呻くテスタメントちゃんに向かって、

「これ以上、なのは達を傷つけることは許さないから!」

――光牙双月刃――

「あが・・・っ!」

テスタメントちゃんの両肩を思いっきりデバイスと鞘の両方で縦一線に斬った・・・というより殴った。顔の痛みの所為か避けることも出来なかったテスタメントちゃんは真っ逆さまに落ちて行って、地面に叩き付けられた。それを見たシャルちゃんは「即確保!!」ってユーノ君たちに指示を出す。けどユーノ君たちが動くよりも早くフェイトちゃんとアルフさんが、テスタメントちゃんを庇うように立ち塞がった。

「痛たたた。残念だけど、今回はここで退こう」

倒れていたテスタメントちゃんがフラ付きながらも立ち上がった。そして私たちは、テスタメントちゃんの素顔を初めて見ることになった。仮面は割られて、マントのフードも破れているから空からでもよく見える。燃えるような真っ赤な長い髪はサラサラなポニーテールで、瞳は海のように綺麗な青色。

「フェイト・テスタロッサ、アルフ。撤退するよ」

「あ、うん・・!」

「ま、いいんじゃないかい」

手に持つ十字架をバトンのようにくるくる回した後、ズンッと地面に突き刺した。するとテスタメントちゃんの足元に魔法陣が浮かび上がって、ボッと火が噴き上がった。またあの大爆発が起きるんじゃないかって身構える。

――光火之咆哮――

「「ぅぐ・・・!」」

起こったのは確かに爆発だったけど、それは炎じゃなくて音と光の爆発だった。プールの時にも似たようなモノを受けた。視界が真っ白になって、音が耳を壊しにかかってくる。時間にして10秒くらい。やっと光も音も収まったから目を開けると、やっぱりもうどこにもフェイトちゃん達は居なかった。

「アースラ。追跡の方は?」

『クロノだ。さっきの魔法の影響かその一帯にジャミング効果が生まれている。つまり――』

「逃げられちゃったか」

シャルちゃんが悔しそうに呻いた後、「なのは。今度は取られないようにね」って“レイジングハート”が乗った左手を差し出してきてくれた。シャルちゃんの手から“レイジングハート”を取って、「ありがとうシャルちゃん! ごめんね、レイジングハート」ギュッと胸に抱きしめた。

「とりあえずアースラに行こう。なのはやアリサ達の治療もしないといけないし」

「・・・うん」

ユーノ君やリンディさんに体を診てもらってるアリサちゃん達を見る。この場所とアリサちゃんのジュエルシードを取られた私たちは、フェイトちゃん達に完全に負けちゃったことになるんだよね・・・。

「テスタメントちゃん・・・」

とても綺麗で、そして強かった赤い髪の女の子。きっとテスタメントちゃんに勝つことが、このジュエルシードの争奪戦に勝つことなんだと、そう強く思えた。


 
 

 
後書き
ドブロホ・ランクゥ。ドブリイ・デニ。ドブリイ・ヴェチル。
ようやく本格的に魔法戦という形で衝突した魔法少女たち+ルシル。
初戦はフェイト達ジュエルシード同盟の勝利で終わりました。
やはりルシルは、フェイトやアルフと共に戦うと羽目を外すようです。
 
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