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コシ=ファン=トゥッテ

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第一幕その十六


第一幕その十六

「砒素を」
「砒素!?またそんなものをどうして」
「恋に破れたのを悲観してだよ」
 あえて姉妹に聞こえるようにして話す。この時ちらりと彼女達を見るのも忘れない。
「それでね」
「何てことなのかしら」
 デスピーナも演技で嘆いてみせる。
「じゃあもう死んだのね」
「いや、まだ生きておられる」
 これは言うのだった。
「しかしこのままでは」
「そうね。まずは何とかしないといけないけれど」
「どうすればいいの?」
「私達にできることはあるかしら」
 姉妹は蒼白になった顔でデスピーナに問うてきた。デスピーナは彼女達のその顔を見てすぐに仕掛けるのだった。
「それではですね」
「え、ええ」
「何をしたらいいの?それで」
「支えて下さい」
 こう姉妹に告げるのだった。
「どうかここは」
「支えるの?」
「そうです」
 姉妹をそっと誘い込む。
「ここは。そうですよね」
「うむ、その通り」
 アルフォンソもそれに応えて頷くのだった。
「心は大事ですぞ」
「けれど」
「それでも」
「それで博士」
 デスピーナは戸惑う姉妹をまずは置いてまたアルフォンソに声をかけた。
「お医者様と解毒剤を」
「そうだな。ここはな」
「はい、それでは」
 こうして二人はその場を後にした。こうして姉妹をわざと置いていく。残された姉妹は二人の側に立つと余計に焦る。焦りながら言い合うのだった。
「どうしたらいいの?」
「あの人を裏切ることはできない」
 姉妹は顔を見合わせて言い合う。
「それでもこの人達は死にそうだし」
「お姉様、どうしたらいいのかしら」
「私にもわからないわ」
 フィオルディリージも困り果てていた。
「このままじゃ死んでしまうし」
「けれどあの人は」
「何か面白いことになってきたな」
「確かに」
 死にそうな筈の二人もこっそり顔を見合わせて話をする。
「お芝居でもこんな面白いものは滅多にないよな」
「そうだよ。見せてもらおうか」
「こんな悲しいことはないわ」
「こんな事件は」
 姉妹は姉妹で困り果てていた。
「何が何だか。もう」
「これじゃあ」
「苦しそうよ、とても」
「本当に死にそうだし」
 姉妹は全く気付いていないのだった。二人の芝居に。
「そんな状態で放り出してもあれだし」
「人としておかしいわ」
 ここでドラベッラは二人の顔を少し見る。見てみると。
「あれ、この人達って」
「どうしたの?」
「見てお髭はあるけれど」
 姉にもその顔を見るように勧めるのだった。
「結構男前でないかしら」
「あら、そうね」
 緊張から緩和に向かっていた。
「そういえば結構。けれど」
「何て冷たくなってるのかしら」
 ドラベッラがグリエルモの顔に手をやって呟く。
 
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