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コシ=ファン=トゥッテ

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第一幕その十五


第一幕その十五

「これを飲んでもう」
「それで楽に」
「!?何を」
「何をなさるおつもりで?」
「決まっています、もうそれなら」
「せめてこれで」
 その蓋を開ける。そして口につけようとしたその時であった。
「いかん、いかんぞ」
 アルフォンソまで来た。必死な顔をしてはいる。
「まだ望みはある。だから」
「アルフォンソさんまで」
「どうしてなの?」
「アルフォンソさん、御言葉は有り難いのですが」
「もう僕達は」
 二人は彼の制止を聞こうとはしない。
「何の希望もなくなりました」
「ですからお気遣いなく」
「ですから待たれよ」
 しかしアルフォンソも止める演技を続ける。
「どうかここは」
「この砒素で」
「もうそれで」
「砒素!?」
「じゃあやっぱり」
 姉妹は砒素と聞いて血相を変える。砒素といえば毒、これはもう常識である。
「死ぬつもりなの?」
「あの毒を飲んで」
「そうです、立派な毒です」
 アルフォンソはその姉妹に顔を向けて言う。ここぞとばかりに。
「あれを飲めば本当に」
「どうしたらいいの?」
「もしかしたら本当に」
「最後に御覧になって下さい」
「私達の死を」
 二人はまたここぞとばかりに言ってきた。
「捨てられた愛の惨めな結末を」
「せめて憐れみで」
「どうしたらいいの?」
「私達は」
 姉妹はもうどうしていいかわからない。そして遂に二人は薬を飲むのだった。
「ああっ!」
「飲んでは」
「もう終わりです」
「これで」
 二人は飲んでから無念の顔を見せてきた。
「太陽の光も暗く見えてきた」
「身体が奮えて魂も気力も抜けていく」
「唇も舌ももつれて」
「もう言うことすら」
 ここまで言って庭に倒れる。アルフォンソはその彼等を仰向けにさせてそのうえで言うのだった。
「間も無く死んでしまいます」
「は、はい」
「砒素ですから」
「ですからせめてです」
 そして姉妹にさらに言うのだった。
「僅かの憐れみでも。なりませんか?」
「誰か来て」
「デスピーナ、来て」
 姉妹は蒼白になって必死にデスピーナを呼ぶのだった。
「早くここに」
「庭に来て」
「どうしたんですか?」
 そのデスピーナが何食わぬ顔で庭に出て来たのだった。
「そんなに騒がれて」
「どうしたもこうしたもないわよ」
「大変なことになったのよ」
「あれ、亡くなられたのですか?」
 ここで倒れている二人に気付いたのだった。
「またどうして」
「薬を飲んでしまったのだよ」
 アルフォンソは困った顔になってみせて彼女に語った。
 
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