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コシ=ファン=トゥッテ

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第一幕その十七


第一幕その十七

「それに手も」
「脈が弱くなってるわ」
 フィオルディリージは脈を見ていた。しかし実際はそう思い込んでいるだけでそうではない。そうしたこともわからなくなる程焦っていたのである。
「早く誰か来てくれないと」
「お医者様は」
「何か静かになってきたな」
「そうだな」
 二人はまた姉妹の様子を見てひそひそと話す。
「どうにもこうにも」
「風向きが変わったのかな」
「だとしたら問題かな?」
 フェランドはそっと二人を見ながら述べた。
「このままいくと」
「死んだら泣いてしまうわ」
「何て可哀想なの」
 姉妹の嘆きも強くなっていく。グリエルモもそれを見て言うのだった。
「それが問題なんだよ。同情の心が次第に愛に変わるがどうか」
「だよな。これが愛に変わると」
 そんなことを危惧しているとだった。アルフォンソが戻ってきたのだった。
「やあ。お待たせしました」
「アルフォンソさん」
「お医者様は?」
「はい、こちらに」
 ここで早速その医者を案内してきた。そうしてやって来たのは。
 白衣に眼鏡にもじゃもじゃの鬘で武装している。しかし見てみればそれは。
「デスピーナだよな」
「間違いない」
 二人はすぐにわかったのだった。
「しかし。物凄い変装だな」
「どんなセンスしてるんだ?」
「グーテンモーゲン、フロイライン」
 そして当然イタリア語とは別の言葉を出してきた。
「何、これ」
「ドイツ語!?」
「何でも話せますので」
 デスピーナは声色を使って話すのだった。一応男のものに聞こえなくもない。
「ギリシア語にアラビア語にトルコ語に古代ヴァンダル語」
「何でもですのね」
「しかも聞いたことのない言葉まで」
「それにスワビア語に韃靼語。何でも話せますよ」
「うむ、素晴らしい博識の方です」
 アルフォンソはデスピーナの演技に感心してみせてきた。
「それではです。患者ですか」
「この御二人ですね」
「そうです。診て頂けますか」
 その仰向けにされている二人を指し示して芝居を続ける。
「どうか」
「それでどうされたのですか?」
「毒を飲みました」
 デスピーナは勿体ぶってその二人を見下ろしている。真相をわかったうえでだ。
「それで今この有様です」
「左様ですか」
「それで先生」
「どうなのでしょうか」
 姉妹は怪訝な顔でデスピーナが化けている医者に尋ねるのだった。
「御二人はこのまま」
「まさか」
「最初に動機を知らないといけません」
 やはりデスピーナは勿体ぶっている。
「その次に毒の性質です」
「毒のですか」
「それを」
「そう、つまり」
 確かに本物の医者に見える程である。
「熱いか冷たいか」
「熱いかですか」
「そして冷たいか」
「多いか少ないか」
 デスピーナはさらに話す。
「一度に飲んだか少しずつか。どうなのでしょうか」
「まず飲んだのはです」
 ここでアルフォンソがデスピーナに話した。
「砒素です」
「猛毒ですね」
「はい、残念なことに」
 まずは毒の種類を話した。
 
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