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コシ=ファン=トゥッテ

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第一幕その十四


第一幕その十四

「それで上は七十歳までね。老若色々よ」
「ないのは女性だけか」
「そういうことよ。何でもござれよ」
「恋は天の摂理というが」
「自然の法則よ」
 彼女にとってはまさにそれであった。
「嬉しくて心地よくて楽しくて面白くて」
「何でもあるのだね」
「晴れ晴れして気が紛れて喜ばしいものじゃない」
 満面の笑みで語るデスピーナだった。
「それが面白くなくなって楽しみの代わりに悩みや苦しみがあったら」
「その時は?」
「それはもう恋じゃないわ」
 これが彼女の恋愛観だった。
「そういうことよ」
「ではあのお嬢様方は」
「思う壺ね」
 きっぱりと言い切った。
「あれじゃあね」
「ふむ。思う壺かね」
「そうだな。もう愛は見た」
「愛されたら愛するようになるものよ」
 それまでわかっているデスピーナだった。
「後はもう自然に動いていくわ」
「では後は」
「私に任せて」
 小柄だがわりかし以上にある胸をそらせていた。
「私は恋の鞘当では負けたことはないのよ」
「不敗かね」
「百戦百勝よ。鋼鉄の霊将と呼んでね」
「その言い方はよくないな」
「そうね。センスの欠片もないわね」
 それで言葉を替えることにした。
「ここはあれね。恋愛博士ね」
「博士は私なんだがね」
「まあいいじゃない。ここは恋愛博士に任せてね」
「うむ。ではな」
「鼻先一つでどんな男も操れるわ」
 どう考えても十六歳の言葉ではないが言うのだった。
「完全にね。それであの殿方達は大金持ちだったわよね」
「たんまりとな」
「それを聞いてさらに安心したわ。まずはお金だから」」
「そうじゃな。それではな」
「うむ。任せるよ」
「明日の朝にはよ」
 彼女もまた勝利を確信しているのだった。
「あの殿方達は鼻歌を歌っていて私も大勝利よ」
「では庭に」
「ええ、行きましょう」
 二人もまた庭に向かう。そしてその庭では。姉妹が嘆いているのだった。
「こんなことって」
「そうよ。ないわ」
 ドラベッラが姉に応えていた。二人とも両手で顔をの横を覆っている。
「私の心はあの方のものなのに」
「それなのにこんな」
「苦しみに満ちた海のようなもの」
 二人で言うのだった。
「今の私の運命は意地悪な星が照らしているのね」
「あの方といた時はこんな苦しみは知らなかったのに。こんなに悩まなかったのに」
「それなのに今は」
「どうしてこんな」
「ここにおられたのですか」
「探しました」 
 しかしここでであった。二人が庭に来たのだった。
「どうか憐れみを」
「お慈悲を」
「いけません」
「決して」
 しかし二人の態度は変わらない。
「何があろうともです」
「私の心は絶対にです」
「そうですか。それなら」
「私達はもう」
 二人は懐から何かを出してきた。見ればそれは黒い小瓶だった。
 
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