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DQ1長編小説―ハルカ・クロニクル

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Chapter-2 第7話

Dragon Quest 1 ハルカ・クロニクル

Chapter-2
勇者としての始動
第7話

マイラの朝は穏やかで平和的であった。朝風呂を楽しむ者もいれば、帰りにお土産買う者、護身用に武器を買う者も居る。
ハルカは支度を済ませ、イアン一家や戦士団へのお土産を買うことにした。国王には買わなかった(大臣にあったときにお土産はいるかと尋ねたが、大臣は国王にみやげ物は買わなくて良い、報告だけでよいと断られたから)。
キメラの翼は町の外れまで行ってからにしようと考え、しばらく街を散策していた。
その時、“ぱふぱふ娘”にされたセアラに出会った。
セアラはハルカより小柄だが年上で、20代前半の女性だった。メルキドには両親と住んでおり、ずっと心残りだったとの事。
「心配してるだろうから、手紙を書いておいたわ。《キメラ便》で送っておいたの。お父さんもお母さんも、彼も安心してくれるわ。こうなったのもハルカさんのおかげよ。ありがとう」
セアラはぱふぱふ娘にされた原因の胸を隠すため、体のラインが出ない服を着ていた。そして、昨晩に比べると明るい表情になっていた。
「良かった。帰るのですか?」
「いいえ。まだ体調がいまいちだから、土産物屋のおばちゃんのところにしばらくお世話になったの。手紙にも書いたから大丈夫よ。じゃ、あたしはこれで。ハルカさん、ありがとう!」
しばらく“ぱふぱふ娘”として働かされたので、少し体調が良くない、とのこと。
「はい、お元気で!」
ハルカは笑顔で手を振るセアラを微笑みながら小さく手を振り返した。

そして、次はクレアとセリアに挨拶をした。
「昨日は助かりましたよ」
クレアとセリアのおかげで、手間が幾らか省けたのだ。マイラの警備団は《キメラ便》でぱふぱふ屋の違反を報告しておいたのだ。逮捕された男は現在護送中。
「いえ。ハルカさんのお詫びをしなければと思いまして」
「いや、僕は別に……クレアさん、あなたの言葉を夫に伝えます。名前は?」
もし、どこかで倒れているか、リムルダールに運ばれていたとしたら、せめてクレアの言葉を伝えておこうかとハルカは考えていたのだ。
「ダンです。伝言は、“私はあなたの事を忘れません。私は大丈夫だから、安心して”です。……ハルカさん、町長から聞きましたが、大変な旅をしておられるのですね。私はあまり力になれなくてすいません」
「あたしも同じ気持ちだよ。ただ、あんたの旅の無事を祈らせてくれよ」
「分かりました。では、僕は行きますね。またここに寄る事があると思います」
「その時はご挨拶しに行きますね」
「はい。ではまた!」
ハルカはキメラの翼を放り投げた。そして宙に浮きながら、クレアとセリアに手を振った。
もちろん、クレアとセリアもてを振り返した。

ラダトーム。
まずイアン一家にお土産付きで挨拶をした。
イアンが何か情報はあったか?というと、ローラ姫は沼地の洞窟にいるかもしれないと答えた。
「行くのか?」
「当たり前でしょう?長い間暗い洞窟に閉じ込められているのですから。何か目的があって攫ったでしょうから、ローラ姫は殺されてはいない。生きている。しかし、救出しなければ、ローラ姫は苦しみ続けるでしょう」
「そうだな」
「イアンさん、僕はしばらくラダトームを離れます。少なくとも、ローラ姫救出までは帰ってきません」
ハルカの言葉に、解っていたようにイアン一家は表情を変えなかった。
「そうか。サユリ、沢山の保存食を作ってくれ」
「わかってます」
サユリはとっくに調理を始めていた。いつハルカが帰ってきてもいいように、常に材料のチェックは怠らなかったという。
「ハルカさん、絶対に帰ってきてね」
エリカはハルカが買ってきたお土産の袋を握り締め、それでも真剣な顔で言った。
「解ってる。僕は絶対にローラ姫を助け、帰還する」
「ああ。俺は信じてるからな」
「私もです!」
「もちろん、私もです!……あ、ハルカさん、少し時間がかかるから、どこかで時間潰ししてくれませんか?」
サユリは力強く言った後、一呼吸してハルカに頼み事をしていた。
「ラダトーム城へ行こうとしてたので、ちょうど良いですね。ではまた」
イアン達に応えるように、ハルカは一例をして、ラダトーム城へ向かった。

城に着くと、戦士団にお土産を渡した後、国王の謁見の間へ足を運んだ。
「おお、ハルカか。話は聞いた。そなたが違反者を成敗したな。よくやった。褒美をやろう。大したものではないが」
大臣がハルカに手渡したのは鋼の剣。銅の剣より圧倒的に威力は強い。
「ありがとうございます」
喜ぶべきなのだが、城にあるのなら何故最初から渡さないのか?とハルカは少し呆れた。……少しだが。
まあ、強い武器が手に入ったから良しとするが。
「あ、それと頼みごとがある」
「……は?」
ラルス16世は大臣に何か話をしていた。大臣は少し呆れながら、ハルカを外に連れ出した。
そこは十数頭の馬が放し飼いにされている城所有の牧場。大臣はそのうちの一頭を連れ出した。
その馬はクリーム色の毛並みのいい、若々しい馬だ。見たところ、大人しそうな性格だ。
「……僕はその馬に乗れと?確かに僕は乗馬の心得もありますけど……」
「ああ、この馬、ついでにリムルダールに連れて行ってくれ。頼めるのはハルカ殿しかいないんじゃ」
苦笑いしながら大臣は腰を丸め、ハルカに言った。
(やっぱり……まあ、時間短縮にはなるから好都合だから、断ることもないな)
同じ道をまた徒歩で行くのもつまらないだろうし時間がかかる。魔物との戦闘を避ければ少しは短縮にはなるものの、……徒歩以外でもアレフガルドを駆けてみたいのだ。
「分かりました。持ち主は?」
「リムルダール町長だ。大きなお屋敷に住んでおるからすぐ判るだろう。乗馬で行けば2週間近くかかるリムルダールも数日で済むだろう」
「そうですね。分かりました。お引き受けいたします」
「そうか、すまないな。国王のわがままに付き合ってもらって」
「ローラ姫が攫われて自棄になっているのでしょうね……では、僕は失礼します。国王に引き受けたと伝えておいてください」
「ああ。頼んだぞ」

ハルカはイアン一家を訪れ、サユリの保存食を受け取ると、四人で固い握手をし、ラダトームを離れた。
慣れた手つきでハルカは馬の手綱を引く。颯爽と駆け抜けていく。時々下馬し、仮眠や戦闘を行った。
(乗馬も気持ちいいものだな。体を鍛える為には徒歩のほうがいいが、……楽しいものだな)
ハルカはフッと笑う。
風が気持ちいいのか、時には夜通し駆け抜ける時もあった。戦士団の時は牧場外を走らせてはもらえなかった。相手が馬とはいえ、少しの間だけでも、フィールドでは孤独でない時を過ごしたかったのかもしれない。
そして3日で沼地の洞窟へとたどり着いた。

沼地の洞窟の前は毒沼になっており、馬もいくらかダメージを受けた。
ハルカはそのことを知っていたので、ホイミを何度かかけてあげた。
(僕は薬草で十分だ。敵も剣術と魔術で何とかなる。
さすがに、洞窟の中では下馬して、馬を連れて徒歩で歩いた。
洞窟の中は案の定暗闇だった。
レミーラを試みたが、数秒光を照らしただけで終わった。
「駄目か」チッとしたうちをしながら松明を取り出し、火をつける。
(……そうだ、ここには恐らく、ローラ姫が閉じ込められている。……)
ハルカは馬の方を見る。馬はただ、大人しく目を閉じた。
「悪い、少し付き合ってもらうぞ。大丈夫。君は見守るだけでいい」
そういうと、直線に行けば出口にいけるところを左に曲がった。
そして奥へ進んでいく。

底には石で作られた扉があった。頑丈そうだが、何か開けるような条件のような物はあるのだろうか。鍵穴は見当たらない。
(……開けられるのか?いや、開けられなければ、僕はローラ姫を助けることは出来ない!……行かなければ!)
ハルカの意思は固い。ローラ姫は一刻も早く救出しなければ、そんな気持ちがあった。
都合よく床に突き刺さった岩に、馬の手綱をくくりくけると、ハルカは力一杯、石の扉を押した。
(開け!…………!?)
何か違和感を感じた直後だった。
「無駄だ。今の貧弱なお前に、ローラは渡さぬ」
低い声とともに、眩い光がハルカを包んだ。
「……うっ、……あああああっ!!」
それは一瞬の出来事だった。2、3秒もかからなかった。
突然、ハルカの体に衝撃が走る。激痛が走る。勢いよく叩きつけられたような痛み。
「なっ…………お前……は……」
ハルカが受けたダメージは大きかった。言葉がかすり声になっている。そしてハルカの意識は遠のいていく。最後に聞いたのは、
「お前にはローラ姫を救出する資格はない。私の名はセサヴァー、ドラゴンだ……ただ、もう二度とこの声は聞けないと思うがな」
であった。ハルカは崩れ落ちるようにしてその場に倒れた。

何か湿った感触がする。……舐められているような?
「あ……ううっ」
馬が心配そうにハルカの頬を舐めていたのだ。そしてハルカは意識を取り戻した。
(僕は……生きているのか!……しかし体が痛い……そうかさっき……)
ゆっくりと体を起こしながら、ハルカは先ほど起こった出来事を思い出す。
(セサヴァー……ローラ姫を見張っているのか!そして僕はなす術も無く負けた……。……くっ……畜生!……僕はまだ弱いというのか!……)
悔しさのあまり唇を噛み締める。血が出るほど。
隣では馬が心配そうにハルカを見つめる。ハルカは我に返った表情で馬を見る。
「あ、ゴメンね。君に心配かけて。僕は大丈夫だから。あ、リムルダールに行かなきゃね」
そして笑顔で薬草を口に含む。完治ではないが、だいぶ体の痛みも引いた。
立ち上がり砂埃を払うと、再びリムルダールに向けて馬と歩き出した。
(……鍛えなければ!絶対に、ローラ姫を助けなければ!さもなければ、僕は竜王さえ倒せないことになる……!)

そしてリムルダールのある島へ出た。ハルカは少し痛む体を引きずりながら、十数体のリカントなどの魔物を倒した後、再び乗馬に戻った。
「さて、もうすぐだな。あんなことがあった……。今日はあそこで身体を休めるか」
そして走ること数時間後、リムルダールに到着した。
ハルカはもう一度馬にホイミをかけてあげた。そして街の奥にある大きな屋敷に進む。
何人かハルカと馬をじろじろ見ていたが、ハルカは全く気に留めなかった。
変な目で見られようと、そんな事はハルカにとってはどうでもいい事なのだ。
「おお、お前は確かラダトームから来た者か!あんな厳しいところをよく来た!魔物も凶暴だというのに、よくやった!後でラダトーム城に《キメラ便》でお礼と報酬を送らねば」
屋敷の近くに来ると、中年の小太り男が笑いながらハルカを出迎えた。リムルダール町長である。ハルカが思っていたより、陽気で気前がいい男だ。
「お前はなんと言う名前だ?ハルカと言うのか。ハルカよ、わしは褒美をお前にあげたいと思う。何でも良いぞ。高価な物をよこせでも良い」
「いえ、僕はただ、身体を休めるところ、それと栄養のある食事が欲しいだけです」
「なんじゃ、謙虚だな。では、宿屋に頼んで今日の宿屋代はタダにしておこう。そして食事もよいものを頼んでおくぞ。おっとついでに、お前さんのその格好、ボロボロではないか。わしの知り合いの仕立て屋に頼んでおこう」
「え……あ、」
ハルカはリムルダール町長に言われてはじめて自分の衣裳がボロボロだと言うことに気がついた。あれ程痛い思いをして何故気付かなかったのだと苦笑いした。

夕方となり、水の街リムルダールの景色は美しい赤に包まれていた。
ハルカは宿屋に行く前に、大通りに面している仕立て屋に寄った。
「おお、お前がハルカか。実はここはラダトーム王室ご用達でな、ローラ姫のドレスを作った事だってあるんだぜ。お前さんのその鎧兜も任せときな。一晩で直す。代わりにこれを着るといい」
仕立て屋の男の言うことは本当である。ハルカが周りを見回すと、ラダトーム国家の紋章の入った盾や、国王から送られた認定証が飾られていたのだ。ラダトーム城にお世話になっているハルカが見ても、これは本物だ、と確信できる物である。
ハルカは男から、マントつきの服とズボン、丈夫な皮製のブーツを受け取った。
「一応守備力もあるぜ。まあ、町長さん曰く、お前さんは『休養が必要だ』と言っていたらしいから、どうでもいいかもしれないがな」
「ええ。まあ」
ハルカは麻布で仕切られた試着室で着替え、いつもの鎧兜とシャツとズボンとブーツを渡した。グローブはダメージが少なく、修繕の必要はないといわれたので渡さなかった。鋼の剣と鉄の盾はハルカの手元にある。剣はいつものように腰に挿している。
「ではまた明日来ますね。いつ頃がよろしいでしょうか」
「ああ、朝でかまわないぜ。なあに、仮眠は取ってあるから大丈夫だ」
歯を見せて大きく笑う仕立て屋の男につられてハルカも微笑んだ。
「では僕はこれで」

リムルダールの町は暗くなっても賑わっていた。しかしハルカはすぐに宿屋へと向かった。
(……悔しいな、やはりあの時は。……でも僕は決めたんだよ、ローラ姫を助けるまではラダトームに帰れないと、あのドラゴン、セサヴァーを絶対に……撃破する!!明日から鍛えなおす。強く、なる為に……僕は、勇者なのだから)
ハルカの足は力強く、リムルダールの地を踏みしめていた。


《キメラ便》……伝書鳩のようにキメラを用いて、手紙や軽い荷物を運ばせるもの。20年前(アレフガルド暦380年)から行われている。現在でも、人に好意的なキメラたちが人間たちを手伝っている。 
 

 
後書き
勇者ハルカの初敗北シーンです。もちろん後にリベンジします。 
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