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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
  第27話 『クラス対抗戦』 後編

――『砂』という世界の1つ1つの『欠片』を拾い集める

探して、拾って、否定して。 そんな繰り返し。

『砂という真実の欠片、真実への第一歩目が 今動き出す』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アリーナでの正体不明の襲撃者、その状況は1つの変化を迎えていた。
アリーナの空で飛び交う閃光と、鉄と鉄がぶつかり合う音、そして――その空を駆ける3つの影。

1つは織斑一夏と白式、機体の高い加速力と性能を生かしてただひたすらに『異形』の攻撃を避けながら攻撃のタイミングを伺う。
1つは凰鈴音と甲龍、接近戦を仕掛ける一夏の後方から非固定浮遊部位――『龍砲』で援護し続け戦っている。

そして最後の1つは『異形』だ。
両手に装備された高出力のレーザー砲、アリーナへのシールドを貫通し、巨大な爪痕を残したそれを撃ちながら、同じエネルギー兵器のレーザーバルカンを二機に対して連射する。

「糞ッ! 辛いな――なんだよアイツの機動力は、早すぎて中々追いつけない!」
「それだけじゃないわね――奴の兵装、あの両手のゲテモノもそうだけど、撃ってきてるあのレーザーバルカン、あれだってかなり規格外の武装よ、一夏」

状況は、あまり良くないという状況から『最悪』という方向に変わりつつあった。
圧倒的な性能と出力を誇る白式ですらも、一夏が完全に使いこなせていないというのもあるが『異形』との追いかけ合いでは後手に回るしかなかった。
そして、鈴の甲龍もまた、簡単にはその異形に追いつけずにいた。

2人が2対1の状況下で劣勢なのにはまだ理由がある。
その理由は『2人が試合をしていた』という事だ。

「鈴、エネルギー残量は後どれくらいだ?」
「……180くらいね。正直、比較的燃費のいい甲龍でも長く持つとは思えない―― 一夏は?」
「俺は後130くらいってとこか――そして俺も、あんまり長くは持たないと思う」

エネルギー残量が最大であって、お互いに消耗していない状態での2対1なら、まだ勝機はあったのかもしれない。

だがしかし、対抗戦というイベントで試合を行っていた2人は、肉体的にも精神的にも、そして機体自体もかなり消耗していた。

マシンスペック上の話をすれば甲龍と違い、白式はその圧倒的な機動力と性能の代償としてかなり燃費が良くない。

燃費が良くない上に、既に一夏は試合でイグニッション・ブーストに、不発に終わったが一度零落白夜(れいらくびゃくや)を使用している。
恐らく、零落白夜を使用できるのは良くて後2回――このまま戦闘を継続すると考えた場合、相手の攻撃をほぼ受けないと考えたとしても発動できて1回だろう。

「本当、ちょっと不味いかな」
「何よ一夏、まさか怖気づいたの? じゃあアンタだけでも逃げなさい――後はあたしがやっといてあげる」
「ぬかせよ鈴、誰が怖気づいたって? 千冬姉に正面から『時間稼ぎます』って言ったのは俺だぞ? それに……ここで引く訳には行かない。引いたら、男が廃る」
「まったく―― 一夏のそういう所が私は惹かれたんだから」
「え? 鈴、今なんて――」
「教えてあげない、そうね――全部終わって、気が向いたら教えてあげてもいいかな?―― 一夏! 正面!」

異形の腕から放たれるその閃光を回避し、一夏は前に出る。
そして雪片で一撃を叩き込むが、巨大な腕で防御されて有効打を与える事はできなかった。

「くっそ、硬いッ! しかもあんなデカイ図体して尋常じゃないくらい早いぞ!某粒子生成装置でも積んでるのか? 大気圏をマッハ2で飛行できるアイツなのか!?」
「一夏、それ色々不味いから! というかそれ結構前に出てた小説に出てくる機体でしょうが! あんなゲテモノ機体なんて誰も相手にしたくないわよ!」
「だよなぁ――追尾式の化け物ミサイル積んでないだけマシだよなっ!」

異形の攻撃を回避しながら、そんな日常的なふざけた会話を繰り広げる2人だが、そんな会話でもしなければ内心やってられなかった。

余裕があるわけじゃない、むしろ無いというか最悪だ。
だからこそ、何でもいいから会話をすることで『諦める』という事だけは避ける。
どちらかが諦めたら、きっと相手に撃墜される。2人の内心にはそんな思いがあった。

「なぁ鈴、さっきから思ってたんだけどさ――アイツ、何かおかしくないか?」
「おかしい? 何がよ」
「なんというか……そう、そうだよ――動きが機械じみてないか?」
「はぁ? 一夏、アンタ何言ってるのよ――ISは機械……」

そこで再び異形からの砲撃。
そして一夏はそこで思う。 
やはり、先程と同じではないか? と。
砲撃を回避した後に、再び回線を開き自分の意思を伝える。

「そうじゃなくてさ、アイツの動き――パターンがあるというか、パターンに基づいた動きしかしてこない気がしてさ」
「……何が言いたいのよ」
「『本当にアレは人が乗ってるのか?』、あんな異常な形の上にパターンとしか思えない行動、それに――奴のあの尋常じゃない加速に人が耐えられると思うか? いくらISを使用していたとしても、あんな常時イグニッション・ブーストに近い速度出してたら確実に人は死ぬぞ」
「――確かに、アイツはさっきからあたし達が会話している時はあまり攻撃してこない。 そして『あたし達しか狙っていない』。一夏の言いたい事はわかる、でも――」
「でも、何だよ?」
「『無人機なんてありえない』、だってISは――人が乗らなければ動かすことなんて出来ないからよ。仮に無人機ってものが存在してるとしたら、そんなものあたしは聞いたこともないし、もし存在するなら世間でも有名になってる筈よ? 無人化されたISの使い道なんて、ほぼ無限じゃない」
「だけど、俺は奴がどうにもパターンに沿ってしか行動しない機械にしか思えない。可能性の話だ、もし――奴が無人機だとしたらどうする?」
「何よ、勝てるって言うの?」
「チャンスを作れば、な――あれが人じゃないと考えるなら、容赦なく攻撃できる。俺の雪片の零落白夜を使ってバリアーを切り裂いて、奴を真っ二つに出来る」
「仮にそうだとして、奴にそれを当てるのは……至難の業よ? 確立で言えば――数パーセント、ううん……もっと低いかもしれない」

確かにそうだ。
ただですら化け物じみた動きと火力を持っているあの異形は、一瞬のこちらのミスで俺達を殺すだろう。

今は何とか避けているし、エネルギーが残っているおかげで絶えているが、エネルギー残量がデッドラインを超えた状態で奴の攻撃をかすりでもしたら、即死だ。

しかしやるしかない、そう一夏が思考した時だった


「じゃ、そんな数パーセントの確立を――限りなく確定に近づけてやろうか? そして一夏、鈴、その話オレにも噛ませろよ」

聞き覚えのある声に反応して、一夏と鈴は声の主の方を向く。

そこに存在したのは、『灰』だった。
どこか打鉄を思わせるというか、戦国時代の鎧をスマートに、ISとしてデザインしたようなアーマーに、両腰にマウントされている2本の刀。
そして――己の身体より巨大で、機械的な弓を左手に持った『梓姫』が、不敵な笑みと共に、そこに存在した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「一夏、お前中々的を射たことを言うな――オレも、『アレ』は人じゃない、無人機だと思うぜ?」

オレは、自身の専用機――特殊第3世代型IS『天姫』”アマツキ”を纏い、今同じアリーナ内部に居る一夏と鈴に対してそう言った。

特殊第3世代型IS『天姫』”アマツキ”自分で言うのもなんだが結構自重していないISだと思う。

開発・製作は『倉橋重工』。
悠とアリアが所属している仏蘭西国企業連の『ネクスト・インダストリー社』にも劣らないくらいの変態共、つまり へんたい(もものふ) の集団だ。

コンセプトは『即座に状況対応できて、オールレンジに対しての攻撃を行うことができる』というもの。

万能型、と言ってしまえば悠のIS『Tempest_Dragoon』と似ているかもしれない。
ただ違うのは、アイツのISは総合的に見て『高機動かつ、全ての状況に対して対応できる万能機』に対してこちらはコンセプトが『全ての状況においてオールレンジに対しての攻撃が即座に行える』という違いだ。

機体の搭載武装はそこまで多くない。まず、2本の近接専用武装であるブレード『黒狼』”こくろう”。

そしてこのの機体の最も特徴的とも言えるのは、今自身が持っているこの巨大な機械弓『弓姫・天』だ。

さて、状況を確認しよう。
先程一夏も言っていたが恐らくあの化け物は無人機だろう。

理由は簡単、まず先程一夏も同じ事を言っていたが『攻撃を避けたり対応する時以外はまるでイグニッション・ブースト』の状態で動いているのだ、あの機体は。

通常、ISにはある程度のGや衝撃を緩和したりする機能がついている。
元々宇宙空間での運用を考えられていた訳だし当然なんだが。
だけど、完全にGや衝撃を打ち消せるわけが無い。
それこそ尋常じゃない速度で常時飛行していたら、ISの機能では完全には打ち消せないし、まずその速度に人の脳が対応できずに衝突してスクラップか、殺しきれないGでそのままお陀仏だろう。
今目の前に居るあの機体――異形はそんな速度を常時出しているのだ、もし有人ならよっぽどの何かが無い限りはとっくに人は死んでいる。

そして次、こちらも一夏が言っていたが、『奴はパターンに沿ってしか行動しない』。
アリーナへの突入準備をしている時にもモニターでの状況確認を行ったが、奴は特定のパターンに対応して特定の動きしかしないのだ。

例えば、一夏や鈴が離れれは最初にあのゲテモノレーザーを放って、そして空中戦を繰り広げつつバルカンで掃射。
で、そこから相手の動きのパターンに応じて特定の攻撃しかしてこない。
人がそんな動きを完璧にこなすだろうか? 無理だろう。
それこそ完全に機械として育てられたような人間でも人である以上呼吸や疲労で動きには必ずムラが出る。
そんな人らしいものが、奴には無いのだ。

そう考えれば、大体結論も見えたし一夏の言っていることの信憑性が確実になってくる。
鈴の言うこともごもっともだ。
もし無人機のISというものが存在するならば、世間は大騒ぎだろうし使い道は無限大だ。
それこそ何にだって使える。だけど、『そんな存在今まで無かったし、生みの親である篠ノ之束博士はISについて全てを明かしていない』のだ。
完全には完成していない技術、それがISだ。そして、そんな不完全の技術から世間全体に広げられるような無人ISが生まれるだろうか?

だとしたら、あれは『世間に知られてはまずい』何かだ。
世界に知られてはいけない何かがあるからこそ、あんな奴の存在が今まで知られてこなかった。

そしてオレは対暗部の人間だ。少なくとも黒い情報なんて色々知っている。
篠ノ之束博士の動きが最近少し変だということ、先日の襲撃者、消えた鈴の父親、そして――恐らく全ての元凶であろうとオレが睨む『亡国機業』。

先日の襲撃者についてはオレも楯無も知らない。だけど――コイツについては噂程度なら聞いたことがある。
無人で動く戦争用のIS、それの製作計画があって亡国機業がそれを実行しようとしている。
そういう話だ。
実際、目の前に実物が居るんだ――だったら、噂ではなく本当の可能性が出てきた。

何でそんなもんがIS学園を襲ってるのかはまったくわからん。
学園を襲うメリットらしいメリットが、オレには無い気がするからだ。
考えても奴がここにいる理由はわからなかった。だけど――

「簡単だよな、奴は少なくとも友人二人の命と奪おうとしたんだ――悪いが、理由としてはオレはそれでいい。だから……恐らく無人機なんだし、加減はなしだ」

ガチャン、と言う音と共に右手に持っていた巨大な機械弓『弓姫・天』の上下の姫反部分がそんな機械的な音を立てて伸びて、完全な姿を表す。
そして、驚きながらも状況を続けている一夏と鈴に対して言葉を放つ。

「一夏! 鈴! シールドの残量は!」
「俺は残り70ってとこだ。流石に削られすぎた……」
「あたしは残り120ってとこね。かなり辛いのは変わらないままね」

オレのエネルギー残量は最大の状態。
だけど、それでも状況が変わらないのが現実だ。

何故か?
一夏の持つ雪片、あれはあいつの持っているバリアー無効化攻撃……つまりは零落白夜を使用しなくてもかなりの威力と性能を誇る。
そんな雪片の一撃を受けたにも拘らず傷はほぼなし、それどころか片手で一夏の一撃をいとも簡単に防御したあの『異形』の防御力は半端じゃない。

つまり、生半可な攻撃では奴に有効打撃を与える事は不可能だ。
オレの『天姫』にも、恐らく奴にダメージを入れることの出来る武装はあるが――恐らく奴はみすみすそれを受けるとは思えない。

機械だとしても、あの速度だ。ただそれを使うだけでは当たらないし、一歩間違えばこちらが奴の攻撃を叩き込まれて即撃墜だ。
そんな状況で、どうしたら奴を倒せるか――そう考えた場合、今この3人と言う状況を利用するのが一番効率的だとオレは考えた。

「一夏、さっきも言ったがアレは恐らく無人機だ。鈴も信じられないかもしれないが信じてくれ。だから――オレがチャンスを作る、そしてチャンスが出来たら遠慮はいらん、奴に零落白夜の一撃を叩き込め」
「……梓姫――分かった、お前を信じるぜ!」

一夏が通信越しにこちら対して頷くのを確認して、オレは鈴にも確認する。

「鈴、悪いんだがオレの準備が出来るまで一夏と一緒に奴の意識を逸らしてくれ――そして、合図をしたら全力で退避しろ、いいか?」
「ああもう、わかったわよ! あたしで出来ることならなんだってするわよ! それに――あたしも、あいつは気に食わないの」
「ははっ、じゃあ頼むぜ――それから鈴、合図をしたら退避と同時に奴に最大出力の龍砲をぶっ放してくれ―― 一夏、この意味がわかるな?」

オレの言葉で、一夏は一瞬考えた後にハッとした表情になった。

「――そうか、失念してたぜ! 了解だ、それなら……奴を倒せる!」
「な、なんだかよくわからないけど……わかったわ、合図されたら最大出力で叩き込むけど――当たっても知らないわよ?」

よし、これが上手くいけば――確実に奴を落とせる。
なら後は行動するだけだ。

「じゃあ行くか、一夏、鈴! 作戦通りにな! 散開して行動開始だ!」

オレがそう合図すると同時に散開、そして再びあの異形との交戦が開始される。
散会して、奴が真っ先に狙ったのは―― 一夏と鈴だ。
こちらに対して奴の意識は向いていない、やはり考えたとおりだ。
だったら、遠慮なくやらせてもらうしかない。

俺はその場で足を開き、空中でISの姿勢制御を利用して地を固め、拡張領域にストックしてあった矢、いや――はたから見たら巨大な剣を弓に番える。
視線は前方へ、狙うのは――今2人を追っているあの異形だ。

「一回、言ってみたかったんだけどな――『ズドン』、とか。『あいましたあっ!!!』とかな。まあ、今の状況はそんなふざけてる場合じゃないけど」

オレは集中しながら、そんなどこか場違いな事を考える。
そう、今は――この瞬間だけは、絶対にミスは許されない。
ミスをすれば、オレも、一夏も、鈴も奴に『殺される』。
だからこそ躊躇わない、奴がオレ達を殺そうって言うなら――オレは奴を殺す。恐らく機械だから『壊す』だろうか。

まあそんなことはどうでもいい――ただ、奴は俺の逆鱗に触れた。ぶっ壊す理由なんて、それだけだ。それだけで十分だ。

<<『弓姫・天』起動を確認。 ターゲット、ロックオン。姿勢制御・弾道計算、補正開始――クリア、続いてエネルギーチャージ開始>>

――オレの弓姫・天であれば、自動照準だけに任せても中るだろうが――今は、確実に中てなければならない。

機械任せでは無い、己の身に刻んだ業を以って、この敵を制す――!
だったら、オレ自身の、オレの意思で奴を貫く。二の手などいらない……この一撃で!

<<――――担い手の意思により補正・演算拒否を確認。照準補正を解除。 『弓姫・天』、正常稼動を確認。四節をどうぞ>>

機械的なマシンボイスが、今やろうとしている攻撃の状況をを伝えてくる。
オレの殺気の篭らない視線は既に堕すべき、『破壊』すべき敵を見据えており、自分で言うのもなんだが、細められた瞳は鋭利な刃物のようだと思う。

――弓が上がる。

ゆっくりと左手を前へと伸ばし、右手は後ろへ。
キリキリと音をたて、機械的な弓が引き絞られる。
その過程で、頭上にあった弓は引き下ろされ、零度という、弓では本来有り得ない射角で狙いを定めている。

和弓――いや、機械弓の半月は既に満ち、真昼の空には綺麗な満月が咲いている。

<<全シーケンス、クリア。『弓姫・天』のコンディションクリア。 問題発生による不発の可能性は無いと判断―― 『弓姫・天』、撃てます >>




己の愛機、『天姫』からそんなマシンボイスが告げられて、オレはニヤリと口端を吊り上げる。

「――――中りだ」

そう小さく呟くと、オレはその巨大な矢、『剣』を放った。
中り――つまりオレにとっては、矢を射る前に命中がわかっていたって事だ。
別に特別理論とか理由があってそう思っていたわけじゃない、単純な話――当たるという根拠の無い確信だ。

「一夏! 鈴! 退避しろ! それから――直撃確認したら鈴、一夏、二人に任せるからな!」

オレは、そんな言葉を『剣』を放つと同時に2人に通信を飛ばす。
通信を受けて『異形』の周囲から退避する一夏と鈴。
そして放たれた『剣』は空に直線の軌跡を残し、重力に引かれる事すら無く――オレの思っていた通り、2人が退避した瞬間目標へと的中していた。
『異形』にその一撃が直撃して、大きな爆発音と共にその『閃光』は異形の左腕と左半身の一部を文字通り『消し飛ばした』。
だが、奴はまだ動いている――しかし、今の一撃で奴の動きは今停止している。

「行け! 一夏、鈴!」
「応ッ!」
「任せなさい!」

オレがそう叫ぶと同時に、二人が動く。
一気に最大加速で奴に対して雪片を構えて突撃する一夏、そして作戦通り最大威力の『龍砲』をチャージした鈴から、それが放たれる――

オレが鈴に龍砲を最大威力で撃てと言ったのには理由がある。
一夏の白式、そして白式とイグニッション・ブーストという技術は非常に相性がいい。
が、問題も抱えている。それはエネルギーの燃費の問題だ。
瞬間的に最大の加速力を発揮できる代償としての大幅なエネルギー消費、それが問題点であった。

しかし、これを解決する方法がある。
イグニッション・ブーストは白式の後部スラスター翼によりエネルギーの吸収・放出・圧縮を行い完成エネルギーを利用して爆発的に加速する。といったものだ。
繰り返しになるが『後部スラスター翼よりエネルギーの吸収・放出・圧縮』を行うのだ、つまり――そのエネルギーが白式のものである必要は無い。
外部から何らかの方法でエネルギーを取り込めば、それを利用してイグニッション・ブースト使用する事は可能だ。
そして、鈴の龍砲は……空気と言うエネルギーの塊だ。

オレが一夏に対して伝えたことを直訳すれば『最大出力の龍砲を吸収して、限界まで加速状態で零落白夜による一撃必殺を叩き込め』ということだ。
そして、オレが機械弓『弓姫・天』の構えを解いて、2人を見ると――

一夏が全力で加速している背後から最大威力の龍砲が放たれて、それを一夏が背面から受ける。
激痛を感じているのか、顔をしかめる一夏だが――そのまま龍砲を背中のスラスター翼で吸収、限界まで加速したイグニッション・ブーストで、『異形』へと接近する。

「これで――終わりだぁぁぁああ!!」

一夏がそう叫ぶと同時に、アイツの構えた雪片が強く光を放ち、エネルギー刀を生成する。
龍砲のエネルギーをも取り込んだ故か、そのエネルギー刀は既に刀ではなく大剣といってもいい程の大きさのものへとなっていた。
その瞬間が、まるでスローモーションのように見える。

一夏が巨大なエネルギー刀を生成した雪片を振り上げる。
異形が、それに反応し――左上半身をほぼ消し飛ばされた状態で、応戦しようとする。
だが、遅すぎる。
限界まで加速した一夏は、相手に反応させるチャンス等与えないというように、次の瞬間には『異形』の懐へと潜り込んでいた。
ゼロ距離、そんな状況で雪片を振りかぶる一夏に対して――異形は残った右腕のレーザー砲撃を行うつもりだろう。
だけど、そのチャージは間に合わない。なぜならば――

「一夏のほうが、圧倒的に早すぎるからな」

オレはそう呟く、そしてその次の瞬間には。
一夏の一撃が、その『異形』を真っ二つにした。

真っ二つなのだ、当然かもしれないが機能を停止したのだろう。
チャージされていたレーザー砲は機能を停止し、『異形』だった残骸はアリーナの地面へと叩き落された。

「やった……のか?」

完全に息が切れていて満身創痍の状態の一夏がそう呟く。
鈴もエネルギー残量がかなりヤバかったためか、同様に満身創痍の状態だ。
あんな状態なのだ――確実に機能は停止しているだろうとは思うがオレは念のためにスキャニングを行う。

「……反応消失、大丈夫だ。撃墜に成功してる」
「よ、良かった――」
「一気に気が抜けたわ……ああ、疲れた――」

2人がその状況を確認すると、一気に身体の力が抜けたのか、ため息をついて肩を落とす。

まあ、なんとかなったか――オレもさっきの一撃、自身の切り札と言ってもいい攻撃『弓姫・天』を放ったせいで、エネルギー残量は既に残り3割を切っていた。
かなり自分達3人全員は危なかったが、なんとか撃墜できた。
後は、アリーナの状況の沈静化を待って戻るだけか、そう思っていると――


<<警告! 上空に所属不明ISを確認――『白式』、『甲龍』、『天姫』共にロックされています。 対象から高エネルギーチャージを確認、緊急回避を推奨>>


現実とは理不尽だ。
オレ達はそんな警告メッセージを確認すると、再び気を入れなおしてアリーナの空へと散開する。
そして、再び放たれた――『先程と同じアリーナのシールドを破った砲撃』が上空からから放たれる。
再び放たれたその砲撃はまたアリーナへと傷跡を残し、着弾点には傷跡と共に炎上が発生する。

「はは――冗談キツぜ、これは」
「マジかよ……あり得ないっての」
「そんな、もう――あたし達は戦えないわよ……」

オレ、一夏、鈴がそう言って、上空へと向けた視線の先――そこには 先程なんとか撃破した『異形』が無傷で存在していた。

ああ、これは無理だなあ――オレは、内心でそう思う。
戦えるなら戦いたい、だが……オレも一夏も鈴も、もう戦えるだけのエネルギーと気力は残っていない。

そして決め手となる一夏も、もう零落白夜を撃てる状態ではない。
なんとかならないか、そうオレは考えるが――
アリーナのピット・ゲートはオレが利用した非常用のゲートを含めて先程あの異形によってロックされてしまっているし、確認する限り未だに解除されていない。
シールドレベル4となっているシールドを破り脱出しようにも、破壊できるだけの兵装はないし、恐らくそんなことをしていたら目の前に居る異形に撃墜される。
万事休す、か。

「一夏、鈴――わかってるな?」
「ああ……せめて、時間くらいは稼いで見せるさ」
「そうね――少しでも時間を稼げば、きっと皆が何とかしてくれる」

どうやら、オレ達の考えている事は一致しているようだ。
恐らくこのまま再度戦闘に入れば、奴を相手に勝つ事は不可能だろう。
それこそ、勝てる見込みなどゼロだ。

そこそこの状態で偶然が重なってなんとか勝てた相手に、満身創痍の状態で勝てるだろうか?
無理だろう。冷静に考えれば、そんな事は奇跡でも起こらない限り不可能だ。

奇跡なんて不確実なものをオレはあんまり信じちゃいないし、しんなものをこの状況で信じるくらいなら――現実的にやれることをやる。
新たに現れた異形の右腕のレーザー砲がこちらへと向けられて、チャージされる。
恐らく、あの砲撃はオレ達に対する会戦の合図になるだろう。
そして、そのまま戦闘をまともにしてもしなくても、確実にオレ達は撃墜される。

こんな事ならば、あの時ふざけて死亡フラグなんて立てるんじゃなかったなあ、ああクソ――色々成したい事とか、気になることとかあるんだけどな。
今にも右腕のレーザー砲を放とうとしている異形を見て、オレが思ったのは――悠とアリア、2人の事だった。

――後は、頼むぜ? 悠、アリア。

そう考えて覚悟を決めた瞬間だった。


状況が――変化した。


「……は?」

死んだものだとばかり思っていたオレが、次の瞬間にはまだ生きており、そして口から出たのはそんな間抜けな言葉だった。
そして――今現実として起こっている、ハイパーセンサーを通して見えるその事態を信じられずに居た。

オレ達より高度の高い上空に居た異形が、ドゴォン!という爆発音と共に両手を何か鋭利なもので切断され、空中でひるんだかと思うと――

異形の上空から放たれた『極太の赤い閃光』が異形を消し飛ばした。

あり得ない、そんな思いは一体何に向けられたのか。
攻撃してくるものだと思っていた異形が、異形の放つレーザー砲など比にならないくらいの閃光で消しさばされた事だろうか?
それとも、今自分達が見ている――ハイパーセンサーを通して見える、『先程まで存在すら感知できなかった』、遥か上空に浮かぶその存在を見てだろうか。
恐らく、両方だろう、何故ならば――

その異形を一撃で消し飛ばした存在は――オレが映像だけで見たことがある、竜面を被った文字通りの『バケモノ』。以前に悠とアリア、そしてセシリアを襲った

「<Unknown>――だと!?」

――悠のISと同じ姿をした、ソイツなのだから。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

何だ、どういうことだ――これは。
俺とアリア、そしてオルコットさんと篠ノ之さんは管制室のモニターを通して見えるそれを見て驚くしかなかった。
そしてそれは、織斑先生と山田先生も同じなのか、モニターを見たまま硬直し、驚愕の表情を作っていた。

何が起こったのか。
まず、アリーナ内部の3人が今アリーナの地面で真っ二つになっている残骸、つまりは異形を撃墜したこと。
それを確認して、俺達と先生達は全員それを確認した瞬間安心した。
これで後はアリーナのロックを解除して、3人を救出するだけだ。そう思っていたからだ。

しかし、状況は変化した。
撃墜に成功したと思っていると――無傷の『異形』がアリーナの上空に現れて、また砲撃を放ってきた。
状況は再び最悪を通り越して、絶望的にまでなった。
アリーナのロックは未だに殆ど解除されておらず、そしてシールドのレベルも4のままだ。
梓姫が突入に使用した緊急用のピット・ゲートも梓姫の出撃と同時にあの異形によりロックさてれしまった。

アリーナの内部の状況、それに対して俺達が出来る事は――無かった。
受け入れたくない現実だが、満身創痍といってもも3人が無傷の異形に対して勝てるとは、思えなかった。

管制室で慌てて声を荒げながら叫ぶオルコットさんに篠ノ之さん。
悔しそうにしながら眼を瞑っているアリア、そして――この状況で見ていることしか出来ない俺は、自分に対して怒りを感じた。

本来ならそんな事をすれば大変なことになるが、もう――無理矢理管理者権限でリミッターを解除、アリーナのシールドを破壊して内部に突入するしかないのか。
そんな事をすれば自分がとうなるかなど、わかっていた――だが、もう俺にはそれしか手段は残されていないと判断した。3人がやられるくらいなら、俺などどうなってもいいと考えた。

織斑先生に対して、話をしてリミッターの解除を実行しようとした時、それは起こった。

アリーナの上空に存在していた異形が――両手を切断されたかと思ったら、一条の赤い閃光で消し飛ばされたのだ。
そして俺は、その赤い閃光には見覚えがあった――そう、俺があの時戦った奴だ。

新たに現れた異形が消し飛ばされて、そして――アリーナの様子を写すモニターに移っていたのは……
上空で2本の<インフェルノ>に似た武装を束ねたライフルを左手に持つ<Unknown>だった。

「お、織斑先生ッ!」

そんな状況を見て、唖然としていた俺を現実に引き戻したのは山田先生のそんな声だった。

「どうした、山田先生――なんだ、これは!?」

珍しく織斑先生が取り乱しており、先生が見ているアリーナのステータスを映す画面を俺も見ると、そこでは信じられないことが発生していた。

「アリーナのロックが次々に解除されて――そしてアリーナのシールドレベルが1に変更だと!? 馬鹿な、IS学園の精鋭を揃えても解除できなかったのだぞ!?」

アリーナのロックされていた扉が次々に解除され、そしてステータスがレッドからグリーンへと戻っていく、そんな状況が画面に映し出されていた。
それも、学園の精鋭が時間をかけても解除できなかったものをこれだけの速度でだ。
更にはもっとも大きな問題だった、アリーナのシールドレベルが4から1へと変更され、全ピット・ゲートのロックが解除される。

――まさか、<Unknown>がこれをやっているとでも言うのか!? だが……奴は俺達に対して敵対行動を取っていた、敵ではないのか?

自分自身の中で多くの疑問と疑念が交差する。
何故だ? 何故<Unknown>は俺達を助けるようなことをした?
確かにあの時、奴は俺達に対して攻撃を仕掛けてきたのだ。
だからきっと、敵であると思っていた。しかし――今奴は、俺達を助けている。

それはどうしてだ? 奴の目的は―― 一体なんだ?
わからない、だったら――直接訊くのが一番早いだろうが。

そう考えた俺の行動は早かった。

「織斑先生ッ!」
「――わかっている、月代、お前にISの使用を許可する。 命令は――あの<Unknown>を追いかけろ」

俺自身の意図を察していたのか、俺が先生に対して許可を取ろうとしたら、先生はそう俺に対して言った。
推測だが――先生も、どうして<Unknown>がこのようなことをしたのか気になっているのだろう。

「了解!」

俺はそう叫ぶように言うと、管制室を後にして、最も近いAピットから飛び立ち、上空へと飛翔していく<Unknown>を追いかけた。
モニターを通して見えた奴は――管制室を見ながら何かを呟いたのだ。
なんと言ったのかはわからない、だが――奴は俺を呼んでいるんじゃないかと、そう思ったから。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

織斑先生からISの使用許可が下りて、俺は――アリーナの上空から一定速度で離脱していく<Unknown>を追った。
一夏達の事は心配ではあったが、既に教師陣も動いているらしく、アリア達もそちらの方向に動いてくれるということで、俺はそんな背中を押してくれたアリア達に感謝すとる空へと飛び立った。


とにかく、<Unknown>の速度は遅かった。
まるで、俺を誘って、誘導しているかのように――<Unknown>の離脱する速度は遅かった。

どうして<Unknown>が俺達を助けたのか。
どうして奴が今ここに現れたのか。
そして――どうして俺に対して攻撃を仕掛けずに、今こうして離脱しているのか。
とにかく、わからないことだらけだった。


学園から大分離れた海の上空、そこで俺は奴、<Unknown>に追いついた。
高度としてはかなり高い位置、既に地上を見下ろしても下の海に浮かぶ島々は小さく見えるだけであった。

追いついた俺に対して、<Unknown>は特に何かするというわけでもなく――その場で停止すると、こちらを振り向いた。
俺の相棒とそっくりなIS、そして顔を隠す為につけているのか――竜を模した仮面。
聞きたい事は沢山ある、そして確かめたいことも。
そんな事を俺は思っていたが――最初に言葉を放ったのは、<Unknown>だった。

「――来ましたか」

やはり、俺を誘導していたのか。
そう思ったが、それと同時にその声に俺は違和感を感じた。
前にコイツと戦った時、あの時に放ったこいつの声は――完全に機械みたいだった。
しかし、今のコイツの声はなんというか、少し違う。

確かに事務的だし、機械的だとも思うが――どこか人らしいというか、感情が篭っている言葉。
今の<Unknown>、コイツの言葉にはそんな人らしさというか、人の感情みたいものが感じられた。
そんな事も思ったが、俺は言葉を<Unknown>に対して放った。

「――聞きたい事は山ほどある。だがきっと、この質問に集約されると思う……お前の目的は、何だ? そして一体お前は何者だ?」

この際、あの時戦闘をした事や攻撃をしてきた事は一度置いておこう。
俺は、自身の疑問と疑念、その全てが詰まったその問いかけを――空中で対峙する<Unknown>に対して問いかけた。

「――周囲に対して最大限の警戒は行っています。恐らく私達の会話を盗聴している存在は居ません。 もっと訊きたいことがあるのではないですか?」
「……そうだな、確かにそうだ。だけど、そもそも俺はお前が何者で、どうして俺の相棒と同じ姿のそれを纏っているのかがわからない、目的もわからないしな」

そう、俺は<Unknown>について何も知らないのだ。
だからこそ、理由・目的・そして何者なのかという最低限の情報、まずはそれが欲しかった。

「――残念ですが、その全てについて私は詳細まで回答する事はで来ません。ですが、幾つかについては返答します」
「何――?」
「まず、私が貴方達を助けた理由、それは私の意志と『マスター』の命令があったからです。そして私は――」
「ま、待て! マスター? お前にはマスター……つまりは、主が居るのか?」
「その質問はYesです。回答を続けても?」
「……ああ」

俺は得た断片的な情報から、多くの事を思考する。
マスター?一体それは誰だ? アリーナのあの状況、あれだけの速度でシステムクラックを行えるマスターとは誰なのか。
思考し、自分の中で答えが出そうになるのを俺は否定し、そしてまた思考する。
そんな思考している俺に対して、<Unknown>は言葉を続けた。

「今申し上げたように、私はマスターの命令と私自身の感情で貴方達を助けました。それが、理由と目的です。 そして――マスターから伝言を預かっています」
「伝言?」
「ええ、ですが――その前に」

すると、目の前の<Unknown>――少女は、被っていた仮面に触れて、その仮面を量子化する。
そして俺は、『彼女』の素顔を見て――言葉を失った。

嘘だ。
あり得ない。
そんな事、現実的にあり得るはずが無い。

「貴方は私に聞きましたね? 『私は何者であるか』と。申し訳ありませんが、私にはその質問に明確に答える事はで来ません。私も私自身、一体何者なのかよく理解していないのですから」
「お前は、一体――?」

仮面を外した少女に対して、まず俺が感じたのは『嘘だ』という言葉。
普通に出会っていれば彼女に対してかわいいだとか、綺麗だとか、そんなありきたりの言葉が出てくるんだろう。
だけど、今の俺の中にあるのは、信じられないという感情だけだった。

ふわり、と風に舞う腰まである茶の色をしたロングの髪、凛々しいと言っても過言ではないような目つきに蒼い瞳。
普通に見たら、ただ綺麗だとかそんな言葉が出てくると思われる容姿だが――俺は『その容姿を知っていた』

その理由は、1つであった。
そう、彼女の容姿は――あの時に死んだ自身の母親……最愛の肉親でもある『アリス・ルノー』に酷似していたからだ。

バカな、だって母さんは――あの時、あの事件で死んだ筈なんだ。
それに、目の前に居る少女はどう見ても俺と同年代くらいだ。よって彼女が自分の母親であるなどあり得ない。
疑問ばかり残る心を落ち着かせて、俺は言葉を続けた。

「……1ついいか」
「ええ、私で回答できることなら」
「――名前、なんていうんだ?」

そうだ、俺は彼女について、名前も知らないのだ。
もしかしたら、名前から何か分かるかもしれない。
その質問に対して目の前の少女は、考えるような仕草をした後に回答した。

「――申し訳ありませんが、未確定な情報が多すぎて明確な回答は出来ません。ですが、そうですね……名前と聞かれましたら、私の事は『ソラ』とでも呼んで下さい」

まるで皮肉か何かだとも思った。
出来過ぎている、まるでお芝居みたいに。
世界が、運命が俺を嗤っているのではないかとも思った。
俺が最も愛する、護りたいと思った『空』。
その名前を――目の前の少女は持っていたのだから。

これは偶然か?
目の前の少女は、自分の母親と瓜二つで、その姿も声も――どこか自分の母親と重なる。
そして自分が愛した『空』。その空という名前をこの少女は持っている。

偶然にしては、出来過ぎている。
もしかしたら、俺は――彼女を知っているのではないか?
だが、彼女を俺は知らない。空軍時代も、ISを動かしてからも俺は彼女とは面識がない。
そもそも初めて出会ったのがあの時、代表決定戦の時なのだ。
だから俺は、彼女を知らない。

「じゃあソラ――そう呼ばせてもらうがいいか? そして、聞いてもいいだろうか」
「ええ、そう呼んで下さい――それで、何でしょうか?」
「……先程、伝言と言ったな? それは、何だ?」
「ああ、それは――」

彼女は、自分の母親と同じ顔で、ぎこちなくこちらに対して笑いかけながら言った。
その――俺を突き動かすことになる言葉を。
俺を未来へと、真実を求める為に動かせることになる言葉を。


「過去を、追って下さい――そして、過去を追って、どんな真実があっても『それでも』と言い続けてください」


そう、彼女は俺に対して言った。
過去?それは――どういうことだろうか。
彼女は過去を追えと、今俺にそう言った。
つまり――『やはり俺は彼女を知っている?』

「以前、貴方達を攻撃した事は謝罪します。ですが、こちらにも事情がありましたから。 それから――私も過去を追います。『記憶』と、真実を求めて」
「一体さっきからお前は何を言って――」

何を言っているんだ彼女は、記憶?真実? そして――過去の中に何かがあるだと?
ひたすらに俺は内心で疑問し続けた。
しかし心の中で疑問し、俺が言葉を終える前に、その少女、ソラは俺に対して再びぎこちない笑顔を向けると――相棒と同じ姿をしたISの真紅の翼を広げた。
そして――エネルギーウングを広げると同時に彼女はそのまま空へと翼を羽ばたかせた。

「待て!――ソラッ!」
「……貴方にその名前を呼ばれると、何故かは理解できませんがどこか暖かさと懐かしさを覚えてしまいます。ですが――今回はここまでです。今の会話についてどうするかは、貴方の自由です、好きにしてください。それから、先程も言いましたが『過去を追って下さい』。そうすれば、きっとまた会えますし、それに――また近いうちに、会う事になるかもしれませんから」

その言葉だけを残して、彼女――ソラは真紅の翼を広げて今度こそ最大加速で、あの時やったみたいにまるで瞬間移動したみたいに、今居る空域から離脱してしまった。
レーダーを確認しても、既に彼女の反応は無かった。
『近いうちに会う事になるかもしれない?』それは、どういった意味だろうか。

今の会話で、俺の心は――大きく動いた。
自分の知らないことが、知らなければならない事がやはりあるのだと。
そしてそれは己と周囲の『過去』の中に、何かしらの手がかりや情報があるのだと。
彼女が去った後、俺は暫くその場で滞空しながら、そんな事を考えて――ふと、呟いた

「過去を追え、か」

彼女のマスターというのが誰かは知らない。
そして彼女についても、現段階では俺は知らない。
けれど、もしかしたら――というよりきっと、俺は彼女と何かのつながりがあるんじゃないのか?

自分の母親と瓜二つの彼女で、声もどこか母さんに似ていた。
己が知らないだけで、何かしらの関わりがあるんじゃないか。
そして、その真実や手がかりは――過去の中にある。

亡国機業に謎の少女ソラ、彼女の言うマスターという人物に、そして自身のISの真実。
ISの可能性というものを追い続けながら、俺はその真実を探しに行こう、そして……

「ソラ、俺は――君が言ったようにどんなことがあっても『それでも』って言い続けるよ。そして、真実と未来を求め続けてやるよ」

そうすれば、全てについて何かが分かると信じているから、彼女と再び会うことが出来ると思うから。
彼女とちゃんとした出会い方、といえば少しおかしいかもしれないが、面と向かって戦いではなく言葉で対峙して、話をして――今日この瞬間に、俺の歯車は大きく動き始めた。
未来と真実を求める為に、俺は――己の知らぬ過去を求めて『運命』に抗おうと、そう決めた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


――その日、少年は少女と出会う。 同じ翼を持つ彼女に対して少年は何を思ったのか。

――少女が告げた言葉で少年の心は大きく動く。 そして、求めに行こうと決める。

『過去を追おう その先にはきっと、全ての手かがかりと真実があるから そしてそれを知った上で進んでいこう、抗っていこう』
 
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