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IS<インフィニット・ストラトス> ‐Blessed Wings‐ 

作者:やつき
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第一章 『学園』 ‐欠片‐
  第26話 『クラス対抗戦』 中編

――砂は零れ落ち続ける 現実と真実と言う名前の砂は、世界と言う砂時計の中でただこぼれ続ける。

――零れ落ちた砂の中に、一体何を見るのか。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

5月。それは多くの人間が五月病という魔の手に襲われる時期である。
と、前にも同じ事を考えた気がするのでスルーしておこう。

5月に入り暫く、そして一夏と凰さんがあの時喧嘩してから暫く。
とうとう、クラス対抗戦の当日がやってきてしまった。

結構前から告知されていただけあってか、アリーナの観客席にはかなりの人だかりが出来ていた。
席に座りきれずに、立って見ている人も見るだけで確認できるし、そして聞く限り入りきれなかった人はライブモニターで観戦をするらしい。
そんな状況を俺は見て、聞いて、その上で判断したのはかなりの人がいるのは明確だという現実であった。

イベントなんだし人が沢山す居るのは当たり前、と思われるかもしれない。
だけど普段、アリーナといえば俺達のように練習で使用するか、授業で使うか、またはイベントの時に使用されるのが殆どだ。
なのでこうして人がかなり居るというのはなんというか珍しい。

少し前の朝のSHRで織斑先生から告知もあったが、IS学園の1年以外の生徒だけではなく外部からの来賓・観客もかなり大勢居る。

まあ、考える事というか、目的は恐らく一夏や凰さんなどの専用機持ちなのだろう。
IS学園という場所で、要するに他国の技術の結晶が見られるのだ、だとしたらデータをサンプリングする為に見に来る人間だって多いだろう。

そして、データを集めてまた国は兵器としてISを強化する。
他国に負けたくない、遅れたくない。
そんな競争のような気持ちで、目前の利益と目的だけに囚われてISを兵器としてしか見ない。
のるで子供の喧嘩みたいに、子供の競争みたいに、ただひたすらにISを強化し続ける、『兵器』として。

そう考えたら、少なくとも俺はいい気分はしなかった。
どうせ、その矛先が自分達に向けられたらただ開き直るのだろう、自分は悪くないというのだろう。ISを兵器として扱ってきた人間は。

『そんな人間を全て粛清できたら、どれだけいいだろうな? 武力と力を見せ付けることで恐怖心を与えて、ISを兵器として使えなくさせればいいだろう?お前には、力がある』

そんな、自分の中から湧き上がってきたどす黒い憎しみや憎悪にも似た感情を俺は否定する。
そんな事をしてしまえば、本当にISはただの『ひとごろし』の道具だ。

己のそんな意識を振り払い、アリーナの様子を表示しているモニターを見る、そこには
『第一回戦 織斑一夏 対 凰鈴音』
とアリーナの電光掲示板には表示されており、1回戦目からアリーナは活気と熱気に溢れていた。

俺とアリア、そしてオルコットさんに篠ノ之さんはアリーナの前の方の席をすぐに確保しようとしたのだが、現在は管制室に居る。
それは何故か、朝早くからアリーナのいい席を確保しようとして動いた俺達だが、そこに織斑先生から声が掛かった。

『なんだ、早いなお前達――どうせ席の確保だろう? ならば、私が特等席を用意してやる、ついて来い』

そう言われて連れて来られたのが管制室だ。
確かに特等席と言われれば特等席だ。アリーナ内部の状況をリアルタイムで閲覧できて、しかも管制室のモニターは一般のものとは違い大型で高性能だ。
データベースなども完備されていることから、戦闘を見るという面ではこれ以上いい場所は無いだろう。

織斑先生に『関係者以外ダメなんでしょう? いいんですか?』
と聞いたら、何だそんなことかというように返事が返された
『私の関係者だ。ほら、関係者だろう? だからいいんだよ。 それにお前達があの馬鹿者を鍛えてやってくれているのは知っている。それに対しての私からのちょっとした礼だよ』
と返された。

そして、梓姫が居ないのには理由がある。それは、梓姫は今アリーナの警備をしているからだ。
元々、梓姫は対暗部の人間であり、彼女の仕事の1つは『織斑一夏の護衛』だ。

今日、この第三アリーナで行われるクラス対抗戦は新入生だけでの試合ではあるが、学園としてはそこそこ大きなイベントの1つである。
学園としての1つの大きなイベントであり、そしてそこには来賓や外部からの来客も当然だが来ている。

つまり、何が言いたいかといえば『そんな中で男性操縦者でバックの薄い一夏は狙われてもおかしくない』ということだ。

無論、考えすぎかもしれないし警戒しすぎかもしれない。
だが、可能性としてはゼロではないし、むしろ何があってもおかしくない状況なのだ。
ご丁寧に1回戦はその一夏と中国の代表候補生である凰さんの対戦だ。
本音を言ってしまえば、意図的と言うか作為的なものしか感じない。こんな状況で、そして一夏は狙われている立場だから俺が勝手にそう考えているだけなのかもしれないが、だがあまりにも出来すぎている。

凰さんの転入、先日の一夏と凰さんの喧嘩、そこまではいい。
だがこうしてその喧嘩の直後に今表示されている組み合わせを見ると、どうしても意図的なものしか感じられなかった。

……考えすぎか。というか、そうやって何でも疑ってしまうのは俺の悪い癖だ。
そう自分に言い聞かせる。

梓姫だが、そんな理由もあって生徒会長の楯無の命令で今日は一夏の護衛と会場の警備のために別行動を取っている。

今朝、俺とアリアが彼女と会った時には
『まぁ、オレの仕事だしな―― 一緒に観戦できないのは残念だが、仕事をしながらオレも観戦するさ』

と返答していた。本人曰く、余程のことが無い限りは自分が直接動くことは無いんだけどな らしい。


まあ、難しい事は置いておこう――とりあえず一夏、お前は一度凰さんにボコられるといい。
俺は内心でそう考えていると、先程から飲み物を買いに言っていた3人が戻ってきた。

「はいユウ、ブラックコーヒーでよかったんだっけ?」
「おう、サンキュ――というか俺ただコーヒーって言っただけなのによく分かったな」
「そりゃあ、なんだかんだでユウとは付き合い長いからね」

アリアから缶コーヒーのブラックを受け取ると俺はそう答える。
確かに、よくよく考えたら俺はコーヒーが大好きな人間だ。それも中毒者と言われてもおかしくないくらいに。

そしていつも飲んでいるのは大抵ブラックだから、アリアはそれを見ていたのかもしれない。
よく見てるよなあとふと感心してしまう。

「よく見てるなあ、って……何だよオルコットさんに篠ノ之さん、そのニヤニヤした顔は」
「ふふ、いいえ? 仲がいいんですのね、そう思っただけですわ」
「ああ、そうだなセシリア――悠とアリア、前々から思っていたが非常に仲がいいんだな」

俺とアリアは頭の上に疑問符を浮かべて顔を見合わせた後に、また疑問符を浮かべるしかなかった。
そりゃあ、アリアと出会って結構な期間一緒に行動していたし、フランスでの生活も一緒だったしこっちの生活でも同室だし。

というか、エディさんがアリアを保護してからは本当に家族みたいなもんだったし、お互いの事は結構知っていて当たり前という感じだった。

「仲がいいのは普通じゃないか? それに俺とアリアはフランスに居た頃からずっと行動を共にしてきたんだし」
「ん……そうだよね、私がユウと仲がいいのは当たり前だと思うよ? それに、セシリアやホウキとも仲がいいでしょ?」

そんな俺とアリアに対して2人は
『ええ、そうですわね』 『ああ、そうだな』
とニコニコしながら返答するだけで、よくわからなかった。
何かしらの意味があったのだろうか。
アリアにも聞いてみたが『わからない』との返答だった。

とにかく、一夏と凰さんの試合をしっかりと見ておこうじゃないか。
一夏に頭冷やせ云々抜きでも、専用機持ち同士の公式対戦というのは勉強にもなるし、訓練と違って何が起こるかわからない。だからこそ、楽しみに思ってしまうのだろう。

そんな自分に俺は気がついて、人のことをいえないなと思うと、再びアリーナの内部を移すモニターへと意識を傾けた。

『それでは、両者アリーナへ入場した後規定の位置へ移動し、待機してください』

そんなアナウンスが流れ2つのビット・ゲートからは2機がアリーナへと進入する。
1機は、一夏と白式。そしてもう1機は――凰さんと、凰さんの専用機『甲龍』だった。

それまで雑談をしていたオルコットさんや篠ノ之さん、アリアもそれを確認すると真剣な表情になりモニターと意識を傾けた。
一夏と凰さんの戦いが始まる、そう俺は思うと同時に、できれば何もないでくれよ、代表決定戦の時のようにはなるなよ、と心の中で言った。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

場所は変わり、アリーナに設置してある非常用のピット。
オレはそこでISスーツを纏い、モニターを見ていた。
今はオレ一人だからそう思えるが……その、ISスーツっていうのはなんというか、自分のボディラインとかが凄くわかるからオレも少し恥ずかしい。

先程、アナウンスの指示により一夏と鈴はアリーナへと進入を完了し、現在は試合のルールに則った定位置でお互い待機していた。
まぁ、案の定と言うか――モニターを見ただけでもわかる、一夏の真剣な表情に対して鈴は少し怒っているような表情をしていた。

まぁ……あんな事があれば怒りもするよな。
確かに、第三者の観点で見て判断するなら、全て一夏が悪いとは言えないとオレは思う。

理由としては第一に、口約束だったこと。変な話だが、口約束と言うのは『契約』や『約束』と考えた場合非常に信頼性が薄い。
まあ、つまりは簡単に反故にできる。鈴の気持ちや一夏の考え抜きで考えた場合、口約束は簡単に反故にできるのだ。そして、一夏と鈴のそれは口約束だ。
つまりは反故にされてもおかしくはないという事。

理由としての第二として、お互いの考え方の相違。
鈴がその言葉、つまりは『大きくなったら、毎日酢豚を食べてもらう』という言葉に対しての想いの持ち方と一夏のその言葉に対しての想いの持ち方の相違だ。

こっちも客観的な視点から言えば鈴は『一夏に対して好意を持っている』という事を伝えたかもしれない。

だが、一夏はその言葉を受け取ったとして『どういった意味として受け取ったのか』。
そして2人の間で相違が発生しており、それを解消できないままあの一件が起こったのだとしたら、結論として言える事は――

「一概に一夏が悪いって訳じゃないよな、悪くないとも言わんけど。ただ、オレとしては鈴にも非があったように思える――だけど」

モニターの中で試合開始の合図を待ちながら、何やら会話をしている2人を見ながら、独り言のようにオレは続けた。

「そんな理屈とか理由はどうだっていいんだよ、一夏――お前は鈴を泣かせた。オレとしては、理由はそれでいい。お前には確かに理不尽かもしれないな、だけど……少なくともオレは同じ女として、鈴を泣かせたお前に対して怒ってるんだぜ?」

そんな自分自身の気持ちを、誰も居ないこの非常用のピットで独り言として吐く。
オレとしては同室だし、同性だし、後友人でもあり気持ちもある程度理解できる鈴を応援したい。

できればこのまま平和に試合が最後まで終わってくれればいいが、そうもいかないんだろうな。
不謹慎かもしれないが、オレは内心でそう思った。

仕事柄のカンというか、予測と言うか。どうにも嫌な予感ほどよく当たる。
まあとにかく、普段の学園とは違い警備がザラになるのだ。
つまり、最も狙われやすい『織斑一夏』を狙うには最もいいチャンスなのだ。
だからオレは楯無からの命令で会場周囲と内部の警備をしてる。無論、ISを保有してだ。
……ま、何も無いほうがいいんだけどな。普通に終わってオレも終わった後に悠やアリア、皆と普通に会話していたい。

「できれば、何もないでくれよ。オレとしてはそのほうが都合がいい――そうだろ? 『天姫』"アマツキ"」

そうオレは呟くと、自身のISの待機状態、己の髪の毛を後ろで束ねている装飾のついたヘアゴムに触れる。

「どうやら、始まるみたいだな」

モニターの中ではアナウンスにより試合開始のカウントが開始され、そして――試合が始まった。
さて、一夏――いや、織斑一夏。お前が本当にオレが護衛するに相応しいか、そしてオレには関係ないが鈴に相応しいか見せてくれよな?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第三アリーナ、その中では今『白式』と『甲龍』、織斑一夏と凰鈴音がアリーナの空を舞っていた。
そしてそんなアリーナの空で行われている戦いは、現状では凰鈴音の優位にあった。


「ほらほら一夏ァ! 最初の威勢はどうしたのよっ! さっきから防戦一方じゃないッ!」
「言ってろ! これから反撃するんだよ!」

とは言ったものの、かなり辛いと俺は内心で思った。

あの時……鈴と喧嘩して、対抗戦で勝ったほうが言うことを聞くと約束した際にも鈴に強く言ったし、俺自身も悠やローレンスさん、皆の特訓を受けてそこそこ強くなっているものだと思っていた。

だけど、それは――俺のただの思い込みだったと今思い知らされている。
正直、鈴に啖呵を切った時は、今の俺なら代表候補生の鈴相手ならそこそこやれると思っていた。

代表候補生ではないものの、かなり高い技量を持っている悠、近接戦闘においては天才と称されたローレンスさん、そして遠距離戦闘のエキスパートであり代表候補生でもあるオルコットさん。

そんな一種の化け物、とまではいかないかもしれないがとんでもない集団に鍛えられてきたのだ、だから俺は皆の特訓を乗り切って強くなったと思っていた。

だけど、そんな俺の思いはこれっぽっちも正しくなくて、単なる自分自身の思い込みだと今思い知らされている。

悠は 『いいか、一夏? 訓練と実戦は違う、訓練では相手も訓練だと理解しているが実戦だと相手は実戦と言う認識で来るからな?』と言っていた。
まさにその通りだ、今の鈴は――実戦の相手であり、鈴も実戦の気でこちらに向かってきている。

今の状況は、一方的といっていい。
最初の鈴の攻撃――あの両手に持っている2本の異型とも呼べる巨大な青龍刀。
見た目でも分かったが、実際に鈴からの攻撃を受けて分かった、あの青龍刀の威力は尋常じゃない。
一撃一撃に非常に高い威力が乗っており、俺自身も雪片で攻撃を受け止めてもその衝撃が直接身体に流れ込んでくる。

先程から自分の最も得意とする近接戦闘で鈴と戦っているが、現状ではこちらが不利だ。
ならばどうするか、こちらが不利になる可能性は高いが、このままこうして不利のまま戦闘を続けるより一度下がるほうが得策だと判断する。

そして、再び鈴からの攻撃を弾くと、そのまま白式のメインスラスターを吹かせて後ろに下がる。
だけど――それが命取りだった。

「かかったわね、一夏」

ニヤリ、と鈴が笑うのを俺はハイパーセンサーを通して確認する。
その瞬間、俺が取った行動は間違いであり、今の鈴の発言から罠であったと判断するがもう遅い。

距離を離した瞬間、少し離れた所に居る鈴のIS『甲龍』の肩の部分の非固定浮遊部位がスライドし、一瞬光ったかと思うと

「がっ……」

見えない何かに殴り飛ばされた。
そう、光ったと思った瞬間に俺は――何かによって殴り飛ばされたのだ。
何だ、今何が起こった?これだけ距離があるんだ、恐らく遠距離用の武装だろうけど――鈴は銃など持っていない

だとしたら何だ――まさか……

鈴が持っているのはあの異型の青龍刀、試合開始直後からはその武装しか使用していない。
しかし今こうして俺は、何かの遠距離攻撃を受けた。
今の攻撃はあの青龍刀によるものではないだろう、だとしたら――さっき見えたあの非固定浮遊部位。あれが何らかの攻撃をしてきたとしか思えない。

「今のはジャブ、次からは――本気で当てるからね、一夏」
「……なるほど――その肩の非固定浮遊部位、それが俺に対して何かをしてきたのか」

俺がそう言い返すと、一瞬驚いた後にニヤリと笑う鈴。

「ご名答、だけど――避けられないでしょ?一夏!」
「ぐぁッ……!」

再びあの肩の非固定浮遊部位が光ったかと思うと、俺は何かの直撃を受けて地面に叩き落される。
すぐさま体制を立て直すが、その一撃はかなりシールドエネルギーを削っていた。

考えろ、織斑一夏――あれは何だ?どうして俺は、先程から見えない何かに殴られている?
見えない何か、まるで――まるで空気みたいに…… 空気? そうか!

続けざまに見えない何かをこちらに撃ちながら近接戦闘を挑もうとしてくる鈴から逃げながら俺は思考する。

そして、1つの結論に至った。

「なるほど、ようやくタネが分かったぞ、鈴」
「何ですって?」

俺は今まで逃げに転じていたのを一転、そのままスラスターを吹かせて鈴へと突撃していく。
そして――再び放たれたその『空気』を雪片で打ち払った。

「う、嘘ッ!?」
「見えたぞ、鈴――そのよくわからない肩の非固定浮遊部位は、俺に対して何かを打ち出している。そしてそれは見えない――さっきから俺が一方的に何かに殴られ続けているのは、お前のそれが一瞬光った時だ。そしてその何かの正体――それは、『空気』じゃないか?」

俺がそれに気がつけたのには理由があった。
毎日欠かさすにやっていた皆との特訓。
その中で悠とローレンスさんから教えられた『相手の情報をまず得ること』という事があれの正体を理解するための一歩目となった。
鈴から逃げ続けていてわかったこと、俺が遠距離から『殴り飛ばされた』ということ。重要なのは『殴り飛ばされたこと』これだ。

レーザーライフルと実弾を使用するオルコットさんに特訓で何度も撃たれているから理解できたが、あの鈴からの攻撃は銃特有の衝撃や痛みではない。
つまり『撃たれた感覚』ではないのだ。だが俺は何かに攻撃されていた、銃ではない何か――そして眼に見えない、そう考えたら結論として出てきたのは『空気』だった。

恐らく空気であろう、という事までは分かった。そこまでわかれば――後は鈴のあの攻撃を覚えるだけだ。
特訓でローレンスさんがオルコットさな相手にやって見せた『銃撃の切り払い』、理論と考え方だけは教えてもらっていたので実際にやったのは今回が初めてだったが――上手くいってよかったと内心でホッとする。
まあ、ローレンスさんほどの完璧なものではないんだろうけど……

「そして鈴ッ! お前はその非固定浮遊部位を撃つ時に『俺の方向を見ている』。ならその目線から撃つタイミングをおおまかに予測して、対応すればいいだけだ!」
「くっ……一夏の癖にッ!」
「はっ……じゃあ鈴――本気で行くからな!」
「行ったわね一夏ッ! あたしも格の違いって奴を見せてあげるわ!」

再び肩の非固定浮遊部位からの砲撃――だけど、もう俺には見えてる!
鈴が俺を見た瞬間に俺は雪片を振り、恐らく『来ているであろう』砲撃を切り払い続ける。

ここまで来たら、後は――千冬姉から教えてもらったアレを使って、バリアー無効化攻撃……『零落白夜(れいらくびゃくや)』を鈴に当てるだけだ。

悠達との特訓中、顔を出しに来た千冬姉が俺に教えた事は――『イグニッション・ブースト(瞬時加速)』だった。そして俺は、千冬姉からの特訓でこれをマスターすることが出来た。

イグニッション・ブースト、簡単に言ってしまえば、大量のエネルギーを消耗してゼロの状態からマックススピードの加速力を出せる、という技術だ。

だけどこの技術には欠点がある。
まず、大量のエネルギーを消耗するという点。だから連続的に多用する事はできないし、そもそも多用して使用できるほどの技量はまだ俺には無い。

そして、イグニッション・ブーストは爆発的な加速力を瞬間的に出すため『直線的な動きしかできない』という事。つまり、相手に読まれれば当然対応されて不発に終わる。

つまり、恐らく鈴相手には一度しか通用しない。
そしてもし外せば、そこまでだ。次はないだろうし、撃てたとして鈴は対応してくる。

だから俺は――ずっとあの非固定浮遊部位の正体を探りながら、その対応とどのタイミングでイグニッション・ブーストを使用するかをひたすらに考えていた。
そうしなければ俺は鈴には勝てない。いいからチャンスを作らなければ、鈴には勝てない。
正直、戦いの中では既に鈴との喧嘩の事や、鈴に俺が説明しろよと言った事は忘れていた。そんな事、考える余裕すらなかったから。

鈴の青龍刀と俺の雪片がぶつかり合い、金属同士がぶつかり合うあまり耳にいいとは思えない音が何度も響く。
距離をとっては鈴から放たれるあの見えない砲撃を回避、そして可能なものは切り払い、それを何度も繰り返して、チャンスを待った。

そして、鈴が一瞬油断したのか、俺は鈴の背後に回ることに成功した。

今だ!――そう俺は思うと、イグニッション・ブーストを行うと同時に『零落白夜(れいらくびゃくや)』を発動。

鈴がこちらに振り向くが、もう遅い――貰った!

俺が勝利を確信した瞬間、それは起こった。
突如として白式から告げられる警告音、それに反応して俺は急いで後ろに下がる。
鈴も機体からの警告があったのか、その場から退避する。
そして――恐らく俺と鈴が最後にぶつかり合う筈だった位置に、一条の光、閃光が奔った。
その閃光が走ると同時に、アリーナ全体に響く衝撃、そして着弾点には――巨大なクレーターが出来ていた。
燃え盛る着弾点はまるで地獄とでも言うかのように、業火が燃え続けており、事態がどれほど深刻かを物語っていた。


「な、何だ!?」
「い、一体何なのよ!」

俺と鈴はお互い既に事態が事態で、試合どころではないと判断。
急いで合流すると、その着弾点――煙が上がるその位置を見ながら警戒していた。

「鈴、確認するけど――あれ、お前の攻撃じゃないよな?」
「当たり前じゃない!――あんな規格外の、というか下手したらあんな直撃貰ったら確実に絶対防御貫通して即死よ? そんなもの――競技に使う訳が……」

<<警告、アリーナ中央部に所属不明のISを確認。対象より『白式』、『甲龍』共にロックされています>>

そんな警告音を聞いて、煙が晴れ始めた閃光の着弾点を見るとそこには――


「な、なんだよ……あれは」
全身装甲(フルスキン)!?何よあれ――」

見た目は確かに女性的なボディラインをしているが、巨大と言ってもいいその四肢に恐怖をも覚える顔面5つ目の仮面。
そこには、全身装甲の、まさに『異形』と言ってもいいISが存在した。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

嫌な予感ほどよく当たるという。
まさにその通りだ。なぜなら今俺はそれを身をもって体験していたのだから。

俺達4人と織斑先生、山田先生は一夏と凰さんの試合を見ていた。
そしてその試合は最終的に一夏の賭けにより、イグニッション・ブーストと零落白夜を組み合わせた一撃が甲龍を直撃し、試合は一夏の勝ちになるものだと思っていた。

だがしかし、その瞬間に乱入者が現れた。
突如としてアリーナのシールドを貫通するだけの威力、まるであの時の襲撃者の攻撃にも似た砲撃によりシールドを貫通してアリーナへと乱入者が現れた。

俺はアリーナに閃光が走ったのをモニターで確認した時に、『まさか、また奴なのか?』と思った。
だが、その乱入者は以前の襲撃者ではなかった。暫くして煙がある程度晴れ、そこから現れたのは――『異形』だった。
その『異形』が放った閃光の一撃はアリーナの中央に大きなクレーターと燃え盛る業火を残し、事態の深刻さを物語っていた。

即座にアリーナ内部への避難命令が発令されると共に、観客席の防護シェルターが降りる。
そして今居る管制室にもアラートが鳴り響いており、今モニターの中ではアリーナの空で唖然としている一夏に凰さん、そして――アリーナの中央から微動だにしないその『異形』が対峙していた。
不味い、俺は自分の中でそう思った瞬間――それまで微動だにしなかったその『異形』が動き出し、一夏と凰さんに対して攻撃を開始する。

「お、織斑君!?凰さん!? 大至急アリーナから離脱して下さい! 急いで教師陣がアリーナへと突入、事態の沈静化に動きます!」

山田先生も声を荒げてそう通信を送るが、返された返答は予想外のものだった。

『そうしたいのは山々だけど――だけどここで俺と鈴が逃げたら、奴はきっと観客席を狙う! それが一番最悪の事態じゃないのかよ――答えてくれ千冬姉!』
『そうよ千冬さん! 今奴の意識はあたし達に向いてる、だけど――もしあたし達が逃げて、さっきみたいな攻撃が観客席に対して放たれたら、それこそ惨劇になるんですよ!』

確かに、2人の言う事は最もだ。
もしこのまま奴を無視して離脱したとしよう、恐らく――奴の攻撃は観客席、一般生徒や一般人へと向けられる。

あれだけの出力だ、予想ではあるがリミッター無しの相棒と同等くらいの砲撃能力――あれを食らえば、確実に消し炭確定だ。
だから時間を稼ぐという二人の判断は間違いではない、間違いではないのだが――

「……確かに、2人の言う通りだ。 では、お前達はどうする気だ?」
『――先生達が来るまで、奴を食い止めます いいな、鈴』
『勿論よ。あんな奴にあたしと一夏の勝負を邪魔されてイラついてるっていうのもあるけど、あんな化け物を放置してやおけば大変なことになるからね』
「――やれるんだな?」

織斑先生は険しい顔をして、通信を送ってきている2人に対して問いかける。
すると、2人は笑いながら返事を返した。

『勿論だよ千冬姉――時間稼ぎぐらいならできる』
『問題ありませんよ千冬さん。あたしと一夏で時間を稼ぎます、その間に――対応をお願いします』

「……馬鹿者が。だが――すまない、任せる」

織斑先生がそう言うと、二人は笑顔をもう一度返して通信を切った。
アリーナの内部を移すモニターには、変わらず『異形』と2人の戦闘が映し出されていた。
通信終了後、織斑先生はどこか疲れたようにため息をつく。やはり2人が心配なのだろう。

とにかく緊急事態だ、だったら俺達もここに居る以上何かしなければならない。
少なくとも、俺達は一般の生徒ではない。
企業所属者に、空軍兵、代表候補生が揃っているのだ。
それなのに『では逃げますね』等といって大人しく逃げられるわけがない。それに、友人達の危機なのだ。無視などできるものか。


「先生、提案があります」
「何だ、月代」
「――俺とアリア、オルコットさんに突入の許可を。自分達なら事態の沈静化をより迅速に行うことができます」
「……確かに、そうしたいし、頼みたいのは山々だ。だが――山田君」

織斑先生に言われて山田先生が表示したのは、アリーナのステータスチェックだった。
そしてそこには、以前あの襲撃者が現れたときと同じく、『レベル4』設定になっていた。
更にはあの時と同じ、大半の扉のロック、システムのハッキングが行われていた。

「ど、どういうことですのこれは……! これでは、まるで――」
「あの時と同じ、そう言いたいのではないか? オルコット」

そうだ、これはまるで『あの時の再現』だ。
あの時の襲撃者、オルコットさんとアリアが攻撃を受けていた際もアリーナに対してレベル4の設定が適応され、今の2人と同じ状況となっていたのだ。

シールドレベル4、これを突破するのは非常に困難だ。
無理ではない、単純な話としてリミッターを解除すれば破壊は可能だが――そうんな事は前回同様、できるわけがないのだ。

前は一夏と白式という存在があったからこそ対応できた。しかし……現状でアリーナのシールドを突破して、あの中へと突入する方法は、ない。

「これでは避難する事も救助に向かうことも出来ない、状況としては最悪――あの時は一夏の零落白夜と、イレギュラーの事態がありましたからなんとかなりましたが、今回は絶望的です……。そして、一夏も凰さんも、既にエネルギー残量はそこまで多くない筈です。長くは持ちませんよ」
「ああ、その通りだ月代。あの時のように運がよくてなんとかなった、という展開にはならんだろう。政府に連絡するにしても対応が遅すぎて手遅れになるだろうしな。――だが、今回ばかりはちゃんと手は打ってある」

手は打ってある―― 一体、どういう……
俺たち4人はどういうことだ、と言う風に顔を見合わせる。
すると、それを見た織斑先生が通信を開いた。

「状況は理解できているな? 木篠」
『ええ、確認してます――非常用のピット・ゲートはロックから逃れてます。いつでも出れますよ織斑先生』

そうか――梓姫か。
朝、梓姫は『仕事があるから別行動』と言って俺たちとは別々での行動をしていたのだ。
そしてつまりは……楯無が最悪のケースを考えて、梓姫をロックの掛かからないと思われる非常用のピットに配置したんだろう。

「木篠、現状は理解していると思うが、今迅速に対応できるのはお前だけだ。そのままアリーナへと突入、対応に当たれ。その上で2人と協力して教師陣が対応可能になるまで時間を稼げ」
『了解しました』
「梓姫ッ!」
『よお悠、なんだよ――そんな心配そうな顔すんなよ、いい男が台無しだぜ?』
「……お前、わかってるのか? 奴は規格外だ。下手したら――死ぬぞ?」
『知ってる。というかお前だってそれ理解した上で2人助けに行こうとしたんじゃないか? 仕事ってだけじゃないさ、友人2人助けるのに命張る、それだけで理由は十分だろ? ああ、それと織斑先生――』
「何だ、木篠」
『時間を稼ぐのはいいんですが――別に、アレを倒してしまっても構わないんですよね?』

おい、その台詞はなんとなくだが、ダメだろう。
色んな意味で詰んでいる予感がしてならない俺だった。

「なあ梓姫……その台詞は、」
『ああ。オレの名前は木篠梓姫、趣味は剣道と弓道と――エロゲーだ。特に厨二心を擽る作品は大好物だ』
「何かおかしなものが加わってねえか!?」

この間そんな事言って無かっただろうお前!
状況が状況だし、ふざけている場合ではないのだが……

『ま、冗談だ――死ぬつもりなんて更々無い。じゃ、行って来るとするよ、それとな悠』
「……なんだよ」
『今のオレは機嫌が悪いんだ、だからさ――あいつを倒してしまおうと思っているのは、本当だよ』

ニヤリ、と梓姫の奴はそのまま笑うと通信を切った。

まったくアイツは――
だけど、アイツなら本当にあの異形を撃破できるんじゃないか。
俺はそんな予感がしていた。


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