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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第五十話

 待ち合わせ場所である第七十五層主街区《コリニア》に到着すると、そこはもう、今回のボス戦に参加する攻略組のプレイヤーたちで溢れかえっていた。

 これからも転移門からは続々とプレイヤーたちが集合する筈なので、とりあえずアイテムストレージを確認しながら向こうへ歩いていくことにする。
すると、リズに頼まれて二人で作っていた共有ストレージに、いくつかのポーション類のアイテム等が送られていることに気づくと、少しだけ笑みがこぼれた。

「ようショウキ! 元気か!?」

「お前は元気みたいだな、クライン」

 騒がしいフレンドに対してのいつもの対応に文句を言いつつ、クラインが俺の肩を叩きながら近づいて来た。
ギルド《風林火山》のみんなは一緒ではなく、全員別行動をしているようだった。

「で、ショウキ。攻略前にリズにしたのかよ?」

「……何をだよ?」

 下世話な笑みを浮かべているクラインに対し若干不機嫌な表情で返すものの、この赤髪の男にはそんなものは通用せず、むしろ厄介な援軍を呼ぶだけという結果で終わった。

「面白そうな話をしてるな、俺も混ぜてくれないか」

 厄介な援軍こと黒い肌の大男……商人プレイヤーでありながら攻略組という、かなり異端なプレイヤーのエギルが向こうからやってきた。
顔には商人らしい愛嬌のある笑顔が浮かんでいるが、装備は攻略組のプレイヤーそのものだった……ここにいる時点で、それは当たり前なのだが。

「面白い話なんて何もしてないぞ、エギル」

「いや、ショウキがリズに告白したかって話だぜ」

 クラインが突如として発した爆弾発言に、俺は精神的にダメージを受けて大いによろめいた。
お前は何を言っているんだ、という思いを込めてクラインを睨みつけるが、あくまでもクラインは嫌らしい笑みを浮かべたままだった。

「誰が見ても両思いなのバレバレなんだからよー。くっついちまえよー」

「確かにな」

 小学生か中学生のように絡んでくるクラインが心底うざく、エギルまでそんなことを言いつつ深く頷いていた。
その表情には、「俺もあの時は若かった……」などと言いそうな年長者が出す雰囲気を漂わせている。

「……キリトならともかく、特定の相手がいないお前らには言われたくない」

「ぐっ……!」

 俺のせめてもの反撃に独身男と公言している上に、自身がリーダーを務めるギルド《風林火山》が男だらけのクラインがダメージを受けるが、エギルは鼻で笑って受け流した。

「残念だったな。俺には綺麗な嫁さんがいる」

「「なん……だと……!?」」

 エギルのまさかのカミングアウトに対してクラインとキレイに言葉が被ってから、少し空を仰ぎ見ると、お節介な年長者二人に声を出した。

「……どっちがどうなるか解らない、こんな場所で何かする気はないさ。死亡フラグになっちまう」

 台詞の最後は、シリアスな雰囲気に耐えかねて冗談めかした言葉になってしまったが、これは俺の心の底からの真実だ。
……まあ視界の端に写る、一目もはばからずイチャイチャしてる黒と白の対照的な服を持つ新婚夫婦は、少し見ない方向で。

「俺は……リズが好きだ。だからこそ、きちんとした場所で言いたい」

 当の本人がいないところでのみ語れる本心は、ざわざわと騒がしい攻略組プレイヤーの歓声に消え去っていき、もうこの浮遊城のどこにもない。
これでクラインあたりがリズを俺の背後に呼んでいたりすれば、俺は恥ずかしさでショック死する自信があったが、幸いにもそんなことは無かったようだ。

「……そうか。真面目なヤツだな、テメーはよー」

「そういうことなら、死ぬんじゃないぞ」

 お節介な年長者二人は思い思いの言葉を吐きながら、自分たちのグループの待つ場所へと戻っていく。
俺たちがこんなことを言っている間に集合時間になったらしく、転移門から現れるヒースクリフに対し、血盟騎士団の大抵のギルドメンバーは敬礼をした。

 通常ならばヒースクリフは困ったように苦笑して返すのだが、この状況ではそういう訳にもいかず、ヒースクリフは俺たちに向かって毅然と声を張り上げた。

「諸君、今日はこの場に集まってもらって感謝する」

 このまま演説をする気ではないらしく、ヒースクリフは言葉をそこで切って懐から《回廊結晶》を取りだした。
半数が全滅した俺たち偵察隊が、ボス部屋の前に登録しておいたため、発動するだけでボス部屋の前の空間に繋がる……という優れものだ。

「コリドー、オープン」

 使用したヒースクリフがまず始めに出現したワープゾーンへと入っていき、その後に《血盟騎士団》のギルドメンバーたちが即座にヒースクリフに続いて行く。

 暗黙の了解といった感じで二番手は《聖竜連合》、三番手は《アインクラッド解放軍》、それからは《風林火山》を始めとする小ギルドやパーティーが続いたので、自ずと俺が最後となった。

 俺は作戦会議でパーティーを組むのではなく、ソロプレイ、もしくはコンビプレイでボスと戦うことなっていた。
恐れはない、と言っては嘘になってしまうが、覚悟を決めてワープゾーンへと入っていった。


 回廊結晶で創りだしたワープゾーンを通ってからは、もう既に偵察で来たことがあるボス部屋の直前にある広間。
一度全員がそこに立ち止まったものの、ヒースクリフが歩きだしたのを合図のようにしてボス部屋の中に足を踏み入れる。

 どのようにしてかは解らないが、攻略組全員が入ったのを見計らったのようにボス部屋の扉が閉まっていき、覚悟はしていたがこれで脱出は不可能になってしまった。

 しばしの間ボスの到着を待つと、天井から人間とは比べられない大型の影が飛来して来て、俺たちの前にその姿を現した。

 《The Skullreaper》――骸骨の狩り手を名乗るフロアボスモンスターは、コーバッツたちが遺してくれた情報の通りの姿で、骨の鎌を構えながら俺たちを威圧した。

「来るぞ!」

 ヒースクリフの号令と共に、比較的スカルリーパーの近くにいたタンクプレイヤーが狙われるが、コーバッツたちの情報通りならば、あの鎌にはタンクプレイヤーの防御でも削り取る威力を秘めているという。

 狙われたタンクプレイヤーは、大きく仰け反りながらも鎌を切り裂くと、自身の背後を見て叫んだ。

「「スイッチ!」

 タンクプレイヤーとスイッチして俺がスカルリーパーの前に出ると、標的に俺が移ったのか俺に鎌が振り下ろされるが、斬り払いならば俺の専門分野だ。
容易くスカルリーパーの鎌を弾くと、第二波の攻撃に備えて日本刀《銀ノ月》を構えた。

「さあ、来いよ……!」

 アインクラッドに来る前に鍛えていた、俺の普段の斬り払いと見切りが功を労し、フロアボスの攻撃でも斬り払い・回避は出来るというのは、グリームアイズ戦で証明済みだ。

 左の鎌を重心を傾けるだけという最小限の動きで回避し、右の鎌は日本刀《銀ノ月》で斬り払い横に受け流す。
《恐怖の予測線》を使うまでもなく、まだ余裕を持ちながら攻撃を回避出来る理由はキリトにある。

 つい数時間前に行ったキリトとのデュエルでの、彼の《二刀流》に比べれば止まっているも同然なのだから――!

「ショウキ、大丈夫か!?」

「……見ての通りだ! 攻撃は頼む!」

 キリトからの俺を心配する言葉が響くが、それに俺はスカルリーパーから意識を離さずに応え、キリトたちに直接攻撃を任せる。

 攻撃には参加出来ないが、このスカルリーパーの足止めが俺のこのボス戦での役割だ。
キリトとのデュエルで二刀を相手にし、偵察隊が敗れてからの一週間で修練は充分。

「っしゃあ行くぜ!」

 顔を見なくてもクラインと解る声が耳に届き、攻略組が側面を足下へと攻撃のために殺到していく……何せ大きいのだ、攻撃をするところに困ることはない。
スカルリーパーの足はその一本一本が剣という性質を持っているらしいが、タンクプレイヤーにとってそれぐらいならば大したことはなく、通常のモンスターを相手にしているのと変わらない。

 情報アドバンテージというコーバッツたちが遺してくれたものの存在は大きく、それさえあればこのように、スカルリーパーに対抗するための戦術が取れるのだから。
……だが、それだけで勝てるほど一筋縄で行けない相手だということも、また確かなことであった。

 ……スカルリーパーが一際雄叫びを上げると、ダンジョン中を駆け回るために移動を開始する。

 そのことを聞いてはいたが対応することは出来ず、スカルリーパーは走りだすと共にその双鎌の攻撃が激しくなっていく。
それでもまだ、耐えられないことは無かったのだが。

「うわああああっ!」

 少し離れた場所で、ポリゴン片が砕けたような音に惑わされて手元が少し狂ってしまい、とてもではないが第二波を受けられる状況ではなくなってしまう。

「……《縮地》っ!」

 鎌が俺に振られる前に高速で側面に移動すると、前への移動を邪魔していた俺がいなくなったスカルリーパーは、壁に向かって歩いていき天井へと登っていく。
そのまま天井をかさかさと移動していたが、狙いすましたかのようにプレイヤーたちが密集している場所に足の剣を輝かせて墜落していく。
「ボスの影から離れろ!」

 攻略組の部隊とは違うところにいた俺には警告する余裕があったものの、その影の中心地にいるプレイヤーなどは間に合うはずもなく、器用にも空中で一回転したスカルリーパーの足に貫かれてしまう。

 そして天井から大質量の物が落ちてきた故の摂理によって、かなりの衝撃波が床に足を取られているプレイヤーたちの動きを奪い、そこをスカルリーパーの本命である鎌の攻撃が無慈悲にもプレイヤーを切り裂いた。

 ……いや、標的にされたプレイヤーの前に、一人の赤い鎧を纏ったプレイヤーが立ちはだかった。
スカルリーパーからの攻撃に対する防御という、俺と同じ役割を持ったプレイヤーである《聖騎士》ヒースクリフの十字盾が、鎌を防いだのだった。

 変わらず態勢が整えられていないプレイヤーを狙う、もう片方の鎌を、距離が離れていたおかげで早く動けるようになった俺が斬り払う。

「ショウキ君、右は頼む」

「ああ!」

 ヒースクリフの問いに答えだけでも強気に返すと、振るわれ続ける右の鎌を受け流し、少しだけでもダメージを与えられるようにクナイを投げる。
しかし、HPゲージが1ドットすら減らないのを見て、無駄なことを悟って投げるのを止める。

 俺にはやはり斬り払いを行うことしか出来ず、攻撃は全てキリトたちに任せるしかないのだと再認識すると、受け流す衝撃で削れてしまっているHPの為にポーションを口に投げ入れる。

 攻撃部隊も全員先程の状態に戻ることが出来たようだが、スカルリーパーは一カ所に止まるのを良しとしないのか、またもや雄叫びをあげた。

「総員、離れろ!」

 大移動の合図となるスカルリーパーの雄叫びに対し、ヒースクリフの指示が全員に飛ぶが……手足の一部でも当たってしまった者は、スカルリーパーの足に巻き込まれてしまう。
助けるのが遅れてしまえば、巻き込まれてしまった者はその剣のような足にズタズタにされ、耐えられなければ……ポリゴン片となることだろう。

「ヒースクリフ!」

 そしてこのままスカルリーパーの前面から離れなければ、俺もヒースクリフも同じ運命となってしまう。
そのことをヒースクリフが解っていない訳もなく、俺とヒースクリフは示し合わせてスカルリーパーの前から飛び退いた。

 俺たちの生命の危機が回避された代わりに、枷から解き放たれたスカルリーパーは部屋を縦横無尽に駆け回り始め、天井からの攻撃をするために壁を登り始めた。

「てぇぇぇい!」

 そこを同じように、壁を走って登っていくキリトとアスナがスカルリーパーに一太刀浴びせて床に着地すると、スカルリーパーはキリトとアスナを追撃しようとする。

「今!」

 そこをアスナの号令の下、攻撃部隊のプレイヤーが放った大量の投げナイフなどがスカルリーパーに飛んでいき、キリトとアスナの追撃のために無理な態勢を取っていたスカルリーパーは壁から床に落ちていった。

 天井からの攻撃を未然に防ぎなおかつ攻撃チャンスを作るという、あの夫婦の見事な手並みに感心している余裕もなく、プレイヤーたちはこぞって倒れたスカルリーパーに向かっていった。

 だが敵もただやられるわけではなく、その長い骨で作られた尻尾がプレイヤーたちに振るわれたが、それはヒースクリフが単独で受け止める。

「うおおおおっ!」

 まさに千載一遇のチャンスに、尻尾をあしらっているヒースクリフを除いた、全プレイヤーが総攻撃をしかけていく。

 ……その時間が永遠に続けば良かったものの、そんなことはなく、幾ばくかの時間の後にスカルリーパーは起き上がり、雄叫びを上げて中断していた大移動を再開する。

 そのいきなりの大技に、軽量装備のダメージディーラーたちは反応して距離をとったものの、今まさに大技を放とうとしていたタンクプレイヤー――例えばエギル――は、成す術もなく大移動に巻き込まれていく。

「止まれぇぇぇぇ!」

 巻き込まれたタンクプレイヤーの全滅――直面した現実に届くはずもない叫びを上げ、無駄だと解っていながらクナイを乱れ投げし、スカルリーパーにダメージを与えようとする。

 無論、そんなもので怯む相手ではなかったが、俺のその横で的確な指示を出す者がいた。

「巻き込まれた諸君、回復したまえ!」

 ヒースクリフの言葉が届いたタンクプレイヤーたちは、足に巻き込まれながら自分の懐を探しだす。
偵察隊が確認済みのことだが、この場はもちろん《結晶無効化空間》であり、簡単にHPを満タンに出来る《回復結晶》は使えない。

 だが先程、俺も使った通りポーションならば使えるので、ダメージを受ける時にポーションを飲んで回復していけば、大ダメージは免れないだろうが死にはしないかもしれない。

 そのヒースクリフの目論見はどうやら正しかったらしく、スカルリーパーが壁に登り始めた時に解放されたタンクプレイヤーたちは、命からがら助かっている者もいた。

 しかしスカルリーパーは天井に登ってしまったため、奴の次なる攻撃は密集した場所への墜落攻撃……今ここでプレイヤーたちが最も密集しているのは、タンクプレイヤーたちの場所だ。

 救助に向かえば自分も諸共に死ぬだろう……墜落攻撃で死ぬか、追撃の鎌で死ぬかぐらいの違いはあるだろうが。

「待ってろ……!」

 それでも俺は、駆け出してタンクプレイヤーたちのところに行くと、天井にいるスカルリーパーのことを睨むように見据える。

「馬鹿野郎ショウキ、逃げろ!」

「断る!」

 満身創痍ながらも、なんとか生き残ったエギルの怒声を軽くスルーすると、天井のスカルリーパーが俺たちのいる場所へと落ちてくる。

 それを見届けた後に、俺は自分に出来る限りの速さでアイテムストレージを操作すると、とあるアイテムがこの場に現れた。

 ――そしてそれと同時に、スカルリーパーの胴体は巨大な剣によって貫かれていた。

「……狙い、通りだっ……!

 俺が出したアイテムには特に名前はなく、ただただ巨大な大剣のようなものであり、それをなんとか俺が支えてスカルリーパーを貫いていた。

 その大剣のようなものの正体は、第七十四層フロアボス《The Gleameyez》の使用していた、悪魔のように巨大な大剣の……中ほどから折れた物である。
あのボス戦の際に、俺が抜刀術《立待月》で叩き折った剣の残骸を回収した物ではあったが、俺とコーバッツたちを苦しめた『質量』と『切れ味』は健在であり、現に同じフロアボスであるスカルリーパーの胴体は貫かれていた。

「くっ……!」

 だがそんなものを支えることが出来るはずもなく、あくまでもタンクプレイヤーが逃げるまでの数秒を稼ぐことしか出来やしない。
そう思っていたのだが、途端に大剣を支えていた両手が軽くなっていく……何故ならば、エギルを始めとする生き残ったタンクプレイヤーたちが、共に大剣を支えてくれていたからだ。

「お前だけにカッコつけさせやしないぜ……!」

 エギルたちがこちらを笑顔で見てくれるが、その合計筋力値でもこの大剣を支えるには充分とは言えず、俺は全員に指示を出した。

「向こうに叩きつけるぞ!」

 エギルたちのおかげで使えずとも振り下ろすことは可能になり、グリームアイズの大剣は俺の指示のもと解放され、スカルリーパーは顔面から床に叩きつけられた。

 ――そしてその地点にいるのは、ヒースクリフから指示を受け、回復と準備を整えたダメージディーラー部隊である。

 スカルリーパーの両鎌は、あっさりとヒースクリフとキリトとアスナ夫妻に封じられ、尻尾で攻撃しようにも尻尾は天井の方を向いていて床には届くことはない。
スカルリーパーはダメージディーラー部隊の総攻撃を、何も出来ずに何十撃も連続して喰らうことなったが……それにも限界があった。

 スカルリーパーがその鎌でグリームアイズの大剣を切り取り、自分に枷られた拘束を解除したのだ。
依然として、胴体には大剣が刺さっているままだったが、自由を手にしたスカルリーパーは極大の雄叫びを響かせた。

「いかん……総員退避!」

 珍しく、ヒースクリフの焦った声がダメージディーラー部隊全員に届いたが、逃げた先をスカルリーパーに追われたプレイヤーは……残念ながら、その鎌に切り裂かれてしまう。

 そして駆け回るスカルリーパーは心なしか、こちらにいる俺とタンクプレイヤーたちを狙っているように思えてならない。

「散るぞ!」

 タンク部隊の指揮をとっていたシュミットの指示で、タンクプレイヤーたちが三々五々壁際から別の場所に逃れていったのを確認すると、俺は逆にスカルリーパーの方へと向かっていった。

「ショウキ、何やってる!」

 後退したエギルの声が背後から聞こえるが、俺はそのままスカルリーパーへと向かっていく。
キリトとアスナの奇策によって受けたダメージ、胴体を大剣で今もまだぶち抜かれたダメージ、ダメージディーラーたちから総攻撃を受けたダメージ……それらのダメージはスカルリーパーのHPを大きく削っており、もう少しで削りきれるほどだ。

 ならば、これ以上の犠牲者が出る前にスカルリーパーを叩く……そう決意した俺は、胸で輝く《カミツレの髪飾り》を手に取った。

「ナイスな展開じゃないか……!」

 俺自身を鼓舞する口癖と共に発動する、《恐怖の予測線》の影響によってクリアになっていく視界は、ある一点のみを見据えていた。

「見えてるぞ、スカルリーパー……」

 クナイの乱れ投げ・グリームアイズの大剣による叩きつけ……今までに二度その場所に攻撃したが、当たったその時のスカルリーパーのHPの減少量が、明らかに大きすぎた。

「お前の、弱点が……!」

 すなわち頭蓋骨。
二方向から乱舞のように放たれた鎌を、《恐怖の予測線》の導きに従って避けていき、日本刀《銀ノ月》を構えてその乱舞を突破した。

「刺突術……《矢張月》!」

 一点突破においては俺の持つ技で最も威力のある技、刺突術《矢張月》をスカルリーパーの頭蓋骨の中心へと叩き込み、その骨にひびがピシピシという音をたてて波紋のように広がっていき――

 ――そこで、止まった。

「嘘、だろ……!」

 刺突術《矢張月》はスカルリーパーのHPゲージを削りきるには至らず、頭蓋骨にひびを与えたのみで終わってしまう。
そして、空中へと飛んでいて動くことが出来ない俺に向けて、スカルリーパーは首を伸ばして俺の足に噛みついた。

「ぐ――――ッ!?」

 それと共に俺の身体は、まるで自分の身体でないように動かなくなり――この症状は高レベルの《麻痺毒》だという結論に至る――背後から、特大の《恐怖の予測線》が迫ったいるのが解る。
しかし、解っていても避けることが出来ない攻撃は避けられないのが《恐怖の予測線》の弱点……俺は麻痺毒で動けない。

「――すまない、リズ」

 必ず帰ると約束した彼女に脳内でそれぐらいを言う時間はあり、俺の足に噛みついたままのスカルリーパーを睨みつける。

「相変わらず、こんな無茶な戦い方しか出来なくてな……自分で喰らいな、スカルリーパー!」

 その言葉と共に俺は全力で『しゃがむ』と、俺を狙っていたスカルリーパーの双鎌は、勢いあまって自身の弱点である顔面に突き刺さり、プレイヤーを一撃で葬り去る攻撃を皮肉にも自分で喰らうことになる。

 スカルリーパーの双鎌が背後から届く前に何処からか『攻撃』が来た……いや、《恐怖の予測線》にも反応しない、とてもじゃないが攻撃とは言えない代物。
キリトが愛用する投剣スキル《シングルシュート》……投剣スキルとは言うものの、何でも投げられるそのスキルで俺に届けられたのは、解毒ポーション……!

 スカルリーパーの背後で自らの攻撃を中断していたキリトに、言葉を出している余裕はないが感謝の気持ちをアイコンタクトで伝えると、最期の一撃を加える為に日本刀《銀ノ月》を振りかぶった。

 場所は未だに空中だが、またもやスカルリーパーには皮肉にも、噛みつかれているおかげで俺の足元は安定している。
そして上半身の身体のバネを最大限活かす、零距離限定隙だらけの一撃必殺技――

「――斬撃術《朔望月》!」

 大砲の弾のように撃ち出された日本刀《銀ノ月》は、易々とひび割れたスカルリーパーの頭を貫通し、そのHPゲージにトドメを刺す。

 そして消え去った頭から徐々にポリゴン片となっていくと、最期は欠片一片たりとも遺さずにこの浮遊城から脱落していくのだった。

 
 

 
後書き
遅くなりました、スカルリーパー戦です。

SAO編もそろそろラスト……ということで、更新していきたいのはやまやまなのですが、これからテストという。

一回ぐらい更新しても……いや、感想・アドバイス待ってます。 
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