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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第五十一話

 スカルリーパーがポリゴン片となって消滅したことにより、その口に噛まれていることによって拘束されていた俺も空中で解放され、そのまま重力に従って地上へと落ちた。
ここでかっこよく着地と行きたかったところだが、力が抜けてしまい、どうしても尻餅をつかざるを得なかった。

 役目を終えた《恐怖の予測線》も解除されると、気合いを入れて立ち上がり、先程斬撃術《朔望月》によって砲弾のように吹っ飛んでいった日本刀《銀ノ月》を回収……しようとしたが、まだ立ち上がることは出来そうにない。

「流石だな、ショウキ君」

 今ここにいるプレイヤーの中で、唯一立っているプレイヤーである《聖騎士》ヒースクリフが俺に近づいてくると、いつの間にか回収されていた俺の愛刀たる日本刀《銀ノ月》を渡してくれる。

「……わざわざありがたい」

「なに、今回の君の奮戦に比べれば安いものさ」

 微笑を浮かべて相変わらずの減らず口を叩いてみせるヒースクリフだったが、流石にその表情には疲労が色濃く残っており、この最強のプレイヤーでさえギリギリの戦いであったということを実感させられる。
……そして俺は聞きたくなかったものの、ギリギリの戦いには必ずしもついて回ることを、ヒースクリフに問いかけたのだった。

「……何人、死んだ?」

「……十人のプレイヤーが、この浮遊城から姿を消した」

 目を瞑って黙祷をするようにしているヒースクリフから発せられた言葉には、とても信じがたい数値であり……また、これからのこのデスゲームの攻略のことを考えさせられる数値だった。
クォーターポイントではない次以降の層は、これ程の強さではないのか、それともこの層以降のボスはみんなこれぐらいの強さなのか……それはまだ解るはずもない。

 俺に今出来ることは、ここに生きていられることへの感謝と死んでいった仲間たちへの追悼、そしてこれからのボスに対する恐れだけだ。

「コーバッツ……みんな……仇は取ったぞ……!」

 このスカルリーパー戦において、命を懸けた最大の功労者たちに届くことはない報告を呟くと、俺の斜め上を黒色の閃きが飛んで行った。

「ヒースクリフ! 後ろだ!」

 そのどこかからか放たれた黒色のナイフは、俺の前にいたヒースクリフに向かって飛んでいき、《血盟騎士団》の部下たちを眺めていたヒースクリフには避けることも防ぐことも出来なかった。

 ――だが俺の警告の叫び声は、結果的には全くの無意味で終わった。

 カラン、と音をたてて床に落ちて消えていくナイフに、確かに当たったはずなのにヒースクリフの姿がそこにはあった……正確には、ヒースクリフからは【Immortal Object】という表示が現れていたが。

「団長……?」

 『理解出来ない』
そんなニュアンスが含まれている問いが、少し距離があるがしっかりと今のを見ていたらしい、驚愕のあまり口を抑えているアスナから発せられた。

 それもその筈であり、ヒースクリフから表示された《Immortal Object》――所謂『不死属性』を示すメッセージであり、いかなるプレイヤーにも持ち得ぬ技術なのだから。
それを持っているということは、NPCであるか、ダンジョンの床や壁であるか、そういうモンスターであるか……あるいは。

「……《他人のやっているRPGを傍から眺めるほどつまらないものはない》……そうだろう、ヒースクリフ。いや、茅場晶彦!」

 ヒースクリフに直撃した黒色のナイフを投げた張本人であるらしい、キリトの言葉に攻略組へとざわめきが走っていく。

 そんな中俺は日本刀《銀ノ月》を鞘にしまいつつ、昔のとあることを思いだしていた。

 ギルド《COLORS》最期の共同戦線……あれはヒースクリフが教えてくれた隠しボスのおかげでなし得たことである。
だが、そんな情報を何故ヒースクリフが知っていて知っているのかは疑問に思っていた。

 後から聞いた話によると、同じ22層にギルドを構えていたシュミットや、あのアルゴでさえもボスのことは知らず、四人でやればなんとか倒せるあのボスモンスターの絶妙な強さ。

 それらは目の前の男が茅場晶彦だったと仮定すれば、全てに説明がつくのだ。

 尻餅をついた状態から立ち上がって距離を離すと、ヒースクリフは微笑しながらキリトに視線を向ける。

「参考までに、どうして解ったのか聞かせてもらえるかな?」

「あのデュエルの時のあんたの最後の動き……あれは、この世界の限界を超えてたよ」

 自白したのと何ら変わらないヒースクリフの静かな問いに、キリトはその両手に持った二刀を用心深く構えながら答えると、ヒースクリフはやれやれとばかりに頭を振ってから返答した。

「あれは私にとっても計算外だった。そこにいるショウキ君といい、私は案外好奇心は抑えられない性格なのだよ、危険だと解っていてもね」

 もはや決定的――現実を認められない《血盟騎士団》のプレイヤー以外は、皆思い思いの武器を持って、身体に鞭打って無理やり戦闘態勢をとっていた。

「確かに私は茅場晶彦だ。第百層で君たちを待つ筈だったラスボスでもある」

 遂に放たれた真実の言葉に、皮肉にも結果的にはラスボスの手によって生かされてきた攻略組プレイヤーが殺気立ってきたが、ヒースクリフはその殺気を何てことのないように受け流した。

 それも当然だ、彼は自分の何らかの目的のために一万人を殺しても良い覚悟があり、実際にもう数千人の命を奪っているのと同義であるにもかかわらず、平然としている精神力の持ち主なのだから。

「趣味が悪いぜ、最強のプレイヤーがいきなりラスボスとはな……」

「そうかね? なかなか良く出来たシナリオだと自負しているのだが」

 まるで世間話にも興ずるような口調のヒースクリフの背後から、《血盟騎士団》の幹部でもあるプレイヤーが、《忍び歩き》スキルで近づきながら戦斧を振り上げていた。

「俺たちの忠誠をっ……よくもっ――!」

 だがそれに反応していたヒースクリフは、あっさりと十字盾で戦斧を弾き飛ばし、その隙に左手で呼びだしたシステムメニューを操作すると同時。
全プレイヤーがつい先程と同様に、動けなくなってへたり込んでしまう……これは《麻痺》の状態異常だ。

「ここで全員殺して隠蔽する気か……?」

 どうやら一人だけ《麻痺》の効果の対象外となったキリトが、背後にいるアスナを守るように剣を構えると、それに対抗してかヒースクリフも《神聖剣》を抜きはなった。

「まさか、そんなことはしないさ。こうなった以上、私は第百層《紅玉宮》で君たちの到着を待つことにしよう」

 コツ、コツとその真紅の鎧から重厚な足音を響かせながら、圧倒的な存在感を示しながらも静かに、一歩一歩キリトに向かって歩みを進めていく。

「……だが、キリト君。私の正体を見破った報奨として、君には一つチャンスを与えよう」

 ヒースクリフはそこで立ち止まると《神聖剣》を床に突き立て、キリトに更なる言葉を紡ぎだそうとする。

 ――今だっ……!

「抜刀術《十六夜》!」

 突如として立ち上がった俺が放った高速の抜刀術《十六夜》が、キリトの方を見ていたヒースクリフに必殺の一撃を叩き込まんと、斜め後ろから飛来していく。

「……む!?」

 しかしアインクラッド最強の剣士の名は伊達ではなく、すんでのところでヒースクリフに防がれてしまう。

「ショウキお前、動けるのか!?」

 ヒースクリフから少々距離をとるために、お互いの剣が届かない程度に後退すると、油断なくヒースクリフを見据えながらキリトの問いに応じた。

「……ああ、お前のおかげでな」

 先程までのボスモンスター《The Skullreaper》戦において、俺はスカルリーパーから最高レベルの《麻痺毒》を喰らってしまったが、キリトが投擲スキル《シングルシュート》で投げてくれた解毒ポーションのおかげで事なきを得た。

 そしてヒースクリフが使って全員を動けなくさせたのも、ゲームマスターにのみ使える規格外の魔法ではなく――ここにいる全員をノーコストで麻痺させるのはともかく――俺もキリトと同じように動けなくなることはなかった。

 幸いだったのは、一部を除いて『平等』ということにこだわり過ぎるこのアインクラッドという環境。
そして俺には使えない《隠蔽》スキルを付加させて、ヒースクリフに対して俺のカーソルを目立たなくさせてくれた、この漆黒のコートのおかげ、か……。

 ――ありがとう、アリシャ。

 コーバッツたちと一緒で、もう『ここ』にはいない親友に対して礼を言っている間に、ヒースクリフがまたも小さく笑いだした。

「ショウキ君。君はプレイヤーの中でも、とびきり異端な存在だと解っていたが……やはり君は、私を楽しませてくれる」

 異端なのは当然だ……俺はもともとゲーマーですらなく、茅場にこの世界に引きずり込まれたのだから――と反論するより早く、ヒースクリフは懐からとある結晶系アイテムを取りだした。

「あれは、《回廊結晶》……?」

 そう、ヒースクリフが懐からだして手に持っているのは、このボス部屋に来る時のものと同種の、あらかじめ指定してある場所へとワープする空間を作るアイテム……《回廊結晶》だ。

「逃げる気かよ、ヒースクリフ」

「それは君たち次第だな。ここで君たち二人と二対一で戦っても良いが、それだと勝ってしまった時の、私のこれからの楽しみが半減してしまうのでね。……コリドー、オープン」

 ヒースクリフの宣言と共に隣に《転移門》と同じ空間が発生し、ヒースクリフがその空間に入っていく途中でこちらを振り向いた。

「私と戦い、この世界を終わらせたいのならば追ってきたまえ。ただし、先着一名となっているがな……ああそれと、君たちの《麻痺》は後数分で解けるが、この《回廊結晶》の空間も、それまでしか保たないようになっている。では、また会おう」

 ヒースクリフは最後まで忠告めいた口調で話しながら、空間の『向こう』へ消えていき、キリトは即座に追おうとした。
だがキリトの足元にクナイが刺さり、その場に立ち止まざるを得なくなった。

 キリトを止めるためにクナイを投げたのも俺で、《回廊結晶》の空間に先にたどり着いたのも俺だった……俺の方が距離が近かったのだから当たり前だが。

「悪いが俺が行かせてもらうぞ、キリト」

 正直言って、追ってもヒースクリフに勝てる可能性は少ない……しかしキリトは、第一層で俺を助けてくれたように、他人を助けることが出来る人間……そのユニークスキルも併せ、いわば『勇者』と言える存在だ。
……真似事しか出来ない俺と違って、ここから先の攻略に必要なキリトを、ここで行かせるわけにはいかない。

「何言ってる、俺の方が……」

「お前、俺にもヒースクリフにも負けてるじゃないか」


 もちろん、ヒースクリフ戦はシステムのオーバーアシストであったらしいし、俺との勝負は俺が有利な条件で戦ったからと、実際の実力はキリトの方が俺より上だ。

 ……だからこそ、行かせるわけにはいかないのだが。

「……それでも、キリト。俺の命を救ってくれてありがとう」

 ……若干照れくさいものの、この際だ、まとめて言ってしまおう……俺がこの後どうなるにせよ、この世界での最期の友人たちとの会話になるのだから。

「エギル、クライン。色々とお節介をありがとな。アスナは、リズに伝言頼めるか? 『遅くなりそうだ』って」

 言いたいことだけ言って背を向けると、震えている足を無理やり動かして空間の中へ入っていく……こんな時ぐらい恐がるな、と我ながら思ってしまうが、こんな弱いのもまた自分だろう。

 それに、こんなに弱くてもこの世界を終わらせることぐらいならば……俺にも出来るはずだ。

 ――ああ何だ、それはつまり――

「ナイスな展開じゃないか……!」

 そうやって自分を激励すると、とても後ろ髪を引かれる友人たちの叫び声を聞きながら、俺はどこかへ転移していった。
 
 

 
後書き
というわけで、次話からヒースクリフ戦となります。

他の皆様が個性に溢れるヒースクリフ戦を投稿してる中、自分のは《麻痺》のあたりはただの妄想設定という残念具合。

感想・アドバイス待っています。 
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