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Monster Hunter ―残影の竜騎士―

作者:jonah
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16 「双牙携えし竜は白き幻に見ゆ」

 
前書き
双牙携えし(かれ)は白き(ゆめ)(まみ)
キタ━━( ゚∀゚ )━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(ノ´∀`)ノ━━!!!!
カミングなアウト!!  深夜テンションMAXだよ! サブタイが厨二だよ!   そして記念すべき第一章最終話だよ!!

※残酷・流血描写注意(けっこうガチめに)
作者のいっぱいいっぱい精一杯な戦闘描写。前回よりかはマシでしょうか。
同じ表現が何回かあるって…? それはね…作者の語彙力のなさが露呈した部分なんだよ……慈悲の心でスルーしてやってくださいな…
 

 
 曇天の下不意に放たれた閃光に気絶しひっくり返った猪は6頭。他はKOには至らなかったものの目に星を散らすことは出来たらしく、驚いてその足を止めた。岩壁と崖に挟まれた狭い道が幸を奏したようだ。後ろでは急停止に追いつけなかったファンゴ達が次々と追突され、仲間の尻を自分の牙で突くという思わぬ二次災害が置きていた。弾き出された数頭は崖の下に転落したかもしれない。

ブヒィ――!!

 太刀を振り抜き一閃。3頭のファンゴの頭を文字通り上下に寸断して噴き出す血飛沫は側転して避ける。避けながら立ち止まったうちの1頭の鼻面を勢いに任せて蹴りつけ、のけぞったファンゴの前足を斬り落とした。
 少し離れた所ではルイーズが猪共の足の間を跳ねまわり、攪乱させては同士討ちを誘発させる。時に自慢の手裏剣で目を潰すのも忘れない。
 飽くまでルイーズの役割はファンゴの足止め。1頭1頭倒していては時間がかかりすぎて猪の侵入を許してしまうから、留めを差すのはナギ、あるいは後方のリーゼやエリザの役目だ。
 愛猫が順調に働いているのを横目に確認すると、ナギは目の前の敵に集中した。
 ひっくり返った残りの3頭も一撃で血の池に沈めるとすぐ身を翻し背後死体を乗り越えてきた1頭を薙ぐ。
 閃光玉が放たれてまだ10秒にも満たない。唐突に仲間を8頭失ったファンゴ達は、闇雲に突進するではなく攻撃対象をナギに設定したらしい。一斉にこちらを向き前脚で地を掻く様子は中々に盛観だ。

ブヒィ――!!

 こちらを向くのが一斉なら、突進のタイミングも同時にやって欲しいものだが、そうはうまくいかない。微妙な時間差をつけて、だがどれもただ1点を目指して弾丸のように突っ込んでくる。

「ナギさんッ!!」

 最初にナギに到達した1頭の鼻に手が触れた――と思った刹那、ナギの体は宙に舞い、ファンゴの頭は地に沈む。空中で回転しながら太い首に華を咲かせ、倒れた猪の後ろに鮨詰めになっていたもう1頭の背に着地。

「投げます!」

 猪の悲鳴と血の噴く音の隙間に、辛うじて聞こえた鍛冶師見習いの声に目を閉じる。一際高い耳障りな声と同時に、瞼の向こう側が白に埋め尽くされた。
 自分が乗るファンゴも平行感覚を無くしたようで、安定しないその背の肉を削ぐ。

 ナギの太刀がうなりはじめた。

 旋風のように踊る太刀はその刃が撫ぜた後に赤い残像を刻み、舞う飛沫はナギの着物を赤く染める。
 その殺戮は芸術的ですらあった。蝶の如く不規則にゆらゆらと動いては、舞い降りた地に赤い華を散らす。瞬く間にファンゴの死体は量産された。
 しかし、あまりに数が多すぎた。道は狭いといっても竜車2台がすれ違える程度の幅はあり、中央で竜巻のような死闘を繰り広げているナギも、やがて道の端から零れていく数頭のファンゴを逃すのを許してしまう。
 道を進んだ先にあるのは当然、まだ半数以上の客が逃げ遅れて、固唾を飲んでナギの戦いを見ている村で。
 急遽積み上げた、どれほど効果があるのかも分からない土嚢の外に身を躍らしたリーゼが、ナギ仕込みの軽いステップでファンゴの突進をかわしざまその横腹を横に長く斬りつけた。リーゼが正面から退くとほぼ同時にファンゴの眉間に突き刺さった2本の矢は、もちろんエリザだ。再びリーゼが双剣で斬り上げて、やっと猪はその強靭な生命の鼓動を止めた。
 同じハンターだというのに、ナギはこの牙獣を一撃の下にほふっているのだから、凄いという他ない。大して年は変わらないのに、一体何が彼をあれほど強く育てたのか。
 だが、深く考えている暇はない。すぐに2頭目に剣を振り上げて、エリザと共にファンゴを倒す。2人とも去年まで相手を必要以上に意識していたからか、パーティを組んで2ヶ月弱とは思えぬ息の合いっぷりだ。互いに互いがどう動いているかが自然に分かっていた。

 その異変に最初に気づいたのはエリザ。貫通矢をファンゴの側面から撃ち込むと、眉をひそめながら「ねえ…」とリーゼロッテだけに聞こえるような声量で言った。

「なんか変じゃない?」
「何が!」
「ナギの剣がよ。動きが、なんか変わってきてる…?」
「え?」

 4頭目を倒し終えて尊敬する師を見やる。相変わらず剣舞を舞っているかのような美しい戦いだが、確かにその太刀の振り方に戦闘開始と比べ違和感を感じた。

(あ…!)

 右手1本で飛竜刀を操っているのだ。左手、ひいては左半身が完全に開いており、武器のないそちら側は無防備だ。大剣より重いというあの太刀を片腕で振るっているというのにも驚きだが、それよりなぜそんな隙だらけの戦い方になったのかが気になる。
 一体どうしたというのか。倒す頭数は変わらないとはいえ、今までの隙の無い動きとは違う大振りな動き。
 まるで、焦って思わず“素”が出たような。
 まるで、そこに牙をもう1つ持つのが寧ろ自然であるような――。
 そのときだった。ナギの補助をしていたはずのルイーズが、ファンゴのひしめく中から転がるように駆けてきたのだ。鍛え抜かれた脚力であっという間に2人のもとに来ると、エリザにずずいと近づいた。思わず半歩身を引くエリザ。

「な、なに!?」
「時間がニャいニャ。ちょっと甘く見てたニャ…エリザ、急いで太刀をひと振り持って来るニャ!! 今ある一番強いヤツニャ!」
「え? なんで――」
「にゃふぅ~!! んニャこと言ってる場合じゃニャいんだニャ! 早く!! この村が猪に踏み潰されてもいいのかニャ!?」
「ハ、ハイッ!」

 いつに無い気迫に、まだ無事な鍛冶店に飛び込む。
 外まで聞こえるガラガラと荷をひっくり返す音にもルイーズはやきもきして、地団駄を踏んで待っていた。リーゼは油断なく次ナギの死線をくぐり抜けるファンゴに備えて、身を低くして構えている。
 否が応でも目に入るナギの戦舞への疑問を、ルイーズにぶつけた。

「あの、ナギさん戦い方がいつもと違うみたいですけど…」
「にゃふっ」
「…あの、ルイーズさん…?」
「ニャう。……いずれバレることではあったニャ。リーゼ、今の旦那を見て、人間だと思えるかニャ? 怖くニャい?」
「え? そりゃあ――」

 血にまみれて黒い髪は赤黒く染まり、着物も元の色が何色かすら分からない。腕には太刀から伝わる血が滴り、流石に荒くなっている呼吸。それでもファンゴを見る蒼の双眸だけは染まることなく、ただ冷徹に光っていた。

「――まあ、ちょっと人間業とは思えない強さですけど、それでもナギさんはわたし達の尊敬する師匠で、何より今彼はこの村の為に命を張って戦ってくれています。怖いだなんて、これっぽっちも思いません! エリザも同じこと言うと思います。いえ、絶対言います。『馬鹿じゃないの?』って」
「……にゃふー……ありがとうニャ」

 ぐりぐりと前脚で目元を拭う仕草をすると、小さな呟きを落としてちょうどきたエリザから太刀――ブラッドクロス改を受け取り器用に背中にくくりつけると、ルイーズは戦場に戻っていった。

「……ねえ、エリザ」
「ん?」

 エリザは友人の顔を仰ぎ見た。初めて見た複雑な光を湛えたリーゼの整った眉がひょいと上がる。

「……なんでもない」
「は? 何なのよ」
「…ナギさんのこと、尊敬してるよね?」
「馬鹿じゃないの? 当たり前でしょ。じゃなければ誰があんな馬鹿みたいに厳しい修行に付き合ってられるもんですか。あたしは絶対あの背中を超えてみせるから!」
「ふふ、そうだよね!」
「…何笑ってんのよ――て。え…?」

 訝しむエリザの追及は途中で途絶えた。その視線をたどった先にあるのは、我が師 ナギ。

「え?」

 2人が見たのは、ルイーズが体当たりをするようにナギに太刀を渡す瞬間。
 積み上がった仲間の死体を踏み台にし、ファンゴがその図体からは想像できないような跳躍をした。100kgはくだらないだろう重さに重力も味方して、ナギなど潰されたらひとたまりもない。思わず息を飲んだ後方組の前で、だが猪はあっけなくその命を散らした。吹き出す血。回し蹴りで真横に蹴り飛ばされた物言わぬそれは後に続こうと地を離れた仲間の顔面を潰した。
 静寂。
 牙獣ですら恐れたのか。血糊を払ったナギは額に張り付いた髪を耳にかけると、カクンと首を鳴らした。嫌に響くその音に、本能から一歩後退したファンゴを、ナギは蒼い海の眼で見やる。
 彼は、薄く笑っていた。

「来いよ。それくらいじゃあ、俺は、死ねねぇな」

 空を舞う。全体重をかけてその猪の首を貫くと、金縛りが解けて狂ったように突進してくるファンゴにまた斬りかかっていった。
 それはまるで竜巻のようだった。
 太古の昔、まだ竜が架空の存在だった頃。分け隔てなく、無慈悲に命を刈り獲っていく暴風の渦を、人は“竜がとぐろを巻いている”と言って恐れた。嵐と共にやってくる、森も、家も、人も。巻き上げ崩壊させ、天へと突き上げる災い。
 今、紅葉美しきユクモの地に流るる渓流の小川は、紅にその身を染めていた。

ブヒィ――!!!

 背後から自慢の牙を突き立てて突進してきたファンゴを察し、その額に太刀を突き刺しバク転、再び背に降り立つ。刃を抜いて吹く血飛沫に目を潰されたファンゴの鼻を削ぎ落とし、金属を引っ掻いたような叫びを上げる猪の頭に乗り移った。
 痛みにロデオのようにはねる猪の頭を渾身の力で踏み込んでその頭蓋を陥没させ、反動を利用して再び空に躍り出た。着地と同時にかかと落とし、眼球を飛び出させたファンゴ。ほぼ同時に左右から迫り来る2頭は横に回転しながら上に跳んで、裂傷を顔面のいたるところに負わせる。溢れる血に前が見えない2頭は互いの顎に自らの牙を突き刺し、悲鳴をあげた。
 右から来る大暴れの牙振りは飛竜刀を絡めてやり過ごし、左からはギリギリ外れた突進に急停止するファンゴの首を切り落とす。と思えば身を滑らせて右のファンゴの股下に入り込み下腹を掻っ捌いた。
 倒れ痙攣するファンゴから抜け出たナギの前に立つ白髭の大猪(ドスファンゴ)。ナギの底冷えするような笑みが、深まった。

ブモォォオオ!!

 ドスファンゴは地を掻き狙いを定めると、腹に響くような声とともに猛烈な勢いで突進してきた。進路上にいる配下の1頭が踏み潰される。
 横に跳んで避けたナギはすぐそばにいたファンゴに飛び乗りその短い尻尾を切る。痛みにびっくりしたファンゴは前に走り出し、ちょうど方向転換したドスファンゴの正面から突っ込んでいった。走るファンゴの心臓を一突きすると同時に飛び上がり、勢いにまかせて着地、緩慢な動きで振り向くと、一歩とともに切り払う。深く傷つけられあふれる血にまみれながらも、だがドスファンゴは大暴れし、なんとか背の上のヒトを振り落とそうと躍起になる。

ザシュッ

 追撃。深く入ったブラッドクロス改の毒液が血管に入り、みるみるドスファンゴの息が荒くなった。出血量もある。放置しても1分で死ぬだろう。
 直に立ってもいられなくなった大猪は砂埃を巻き上げながら倒れ、ひくひくと動くのみとなった。血の池は広がりつづける。
 群れの長を倒したからか、ファンゴのこちらを襲う様子がやや鈍った。
 さしものナギでも荒くなった息を深呼吸して抑え、血を吸い重くなっただけの羽織を脱ぎ捨てる。くるくると2本の太刀を回して握り直すと、血糊が頬に飛び散った。手のひらで拭う。
 その時、太陽が陰った。

ギエエエアアアアアア!!!!!

 ナギの顔に浮かんでいた笑みが、明るくなった。無意識に詰めていた息を、ほっと吐き出す。ルイーズの歓声も聞こえた。

「デュラク!」

 飛来した黒き死神は着地にすると同時にその刃翼で飛びかかり、捕食者の登場に怯んでいたファンゴ達をひとっ飛びで6頭上下に分断した。赤く染まる艶やかな黒毛。
 数で攻めようと群がる猪を、尻尾回転で360°一掃し、もつれ倒れた猪をナギが始末していく。
 そこからはあっという間だった。
 30頭弱をもともとナギが片付けていたのもあり、デュラクが現れて10分程度で全ては終わった。長年連れ添ったナギ、デュラク、ルイーズの3人は互いに息を合わせ、1頭も逃すことなく猪共を駆逐せしめる。
 ナギが二刀を手にしてから村に踏み込むファンゴもほとんどなく、村の被害はゼロ。奇跡と言ってもよい。

「終わった…?」
「うん……うんッ…!」

 呆然と立ち尽くしたリーゼロッテがつぶやく。双剣を握り締めたままのその手を、エリザががしっと掴んで何度も頷いた。その目にはうっすらと光るものがある。
 ようやく実感が湧いてきたリーゼロッテもエリザの手を握り返し、思わず双剣を放って抱き合った。

「「やったああ!!」」
「うをぉぉぉおおおおお!!! 勝ったぞおおお!!!」

わああああああ!!!

 ファンゴが到着してから下手に騒いで刺激して、ナギの戦いの邪魔にならないようにと息を潜めていた湯治客が歓声を上げた。
 多くの者が目にした、ナギ()デュラク()と背を預け合い戦う姿。それは、かつてない感動と驚愕の嵐を呼んだ。

「はぁ……」
「ナギさん!!」
「ナギッ!!」

 役目が済んだとばかりに飛び去るデュラクを見送ったナギが、流石に疲れたとその場に大の字に倒れこみ、慌てて弟子2人が駆け寄った。ルイーズもナギの首もとで丸くなる。

「2人とも無事? 怪我は?」
「無いわよ、馬鹿ね! あんたが…あんたが守ってくれたんじゃない!」
「それはこっちの台詞です! 怪我は!?」
「大したものはないよ…ちょっと、疲れたし、血でベタベタするけど」

 自嘲気味に笑って自分の手のひらを見やる。拍子に乾いた音を立てて太刀が転がった。その手をリーゼロッテがしっかと握り、胸に掻き抱いた。透明な雫がナギの血染めの手を濡らした。

「ちょ…汚れ「汚れません!」…まったく…」
「ありがとうございました……こんな、ボロボロになって……守って…くれて……」

 自分より1回り大きな手を、リーゼは強く抱きしめた。近くに来ればわかる。この戦場で、如何に激しい戦いが繰り広げられていたのかが。
 足の踏み場もないくらいに散乱するファンゴの死体、内臓、血の、赤、赤、赤。
 若いながらもいちハンターとして、こういうのにはなれていたと思っていたのに、それでも思わず食べ物が逆流してきそうなほど濃密な“死”のにおい。
 無傷と思ったナギの身体の隅々にも、細かい傷がたくさんあった。彼の身を染めていた赤は、猪の血だけではなかったのだ。

「ありがとうございます。ナギさん…」
「あんたはこの村の恩人だわ。……ありがとう」
「……はは。なかなか悪くないもんだね。人助けも」

 よっこらと起き上がるナギの手をひっぱり助け上げ、重い2本の太刀を2人で背負って師の負担を減らす。ゆっくりとした足取りで村に向かうナギの表情は、晴れやかだった。村人も、湯治客も、その場に居合わせた皆が彼に感謝し、笑顔をみせ、嬉し涙を流した。あれよあれよという間に胴上げまでされる始末だ。

「俺、血で汚れてるって、みんな、臭くないんですか!?」

 あれ程華麗に空を舞っていたにもかかわらず、男衆から空に送り出されるたび落ちやしないかとひやひやしながらナギは叫んだ。豪快に笑った1人の男がそれに答える。ヴェローナの鍛冶師だ。

「なぁに言ってんだ! あんたは俺たちの村を守ってくれた英雄だ! その着物、むしろ触れたら勝利のご利益があるかもしれねえぞ! がはははは!」

 そう言われると苦笑いするしかなく、ちらりと見やった先にいる2人の弟子も笑顔で彼を見ているものだから、ますます仕方ないかという気持ちになったのだった。
 血の雨が降ったあとの空は冴え冴えしく澄み渡り、心地よい疲労感にふと心が軽くなった。

(俺は、ここを居場所として、良いのかもしれない)

 そう思った。
 ユクモ村の危機は去った。連絡はとなりのヨルデ村に避難していた村人と湯治客にもすぐに伝わり、直に彼らも戻ってきた。皆互いに「よかったな」と肩を叩き合い、再会の喜びを分かち合った。死者はなく、誰の笑顔には一点の曇りもなかった。
 傷にいいからと勧められルイーズとともに湯を浴びてさっぱりしたナギは、使い物にならなくなった着物の始末を頼んで村人から服を借りて、広場で2人と雑談していた。今日はこのまま村に残る予定だ。なにやら宴が催されるらしい。是非白米を食べておかねば。

「またわたしのお父さんも腕を振るいますから、是非食べていってください。昨日ヨロイシダイを大量入荷してたので、多分それで一品豪勢なの作ると思いますよ」
「ヨロイシダイ?」
「鱗は硬いんですけど、身は焼けばふわふわして美味しいんです。脂ものってるし、焼くだけじゃなくて煮出して――」
「それより! ねえナギあんた太刀の二刀流だったの!? そんな人初めて見た!」
「ああ。普段は1本で大抵まかなえるんだけど、今日みたいな時とかはね。本当は今日もこれだけで終わらせたかったんだけど、まだまだ弱いね」
「いや、あれ以上強くなられても人間か疑いたくなるから…」
「わたしがナギさんの家に最初に行ったときは、その飛竜刀【銀】しかありませんでしたよね?」
「ああ、うん。普段は倉庫の方に入れてあるんだ――っと」

 他愛もないおしゃべりの最中。突然腰にきた衝撃に驚いて、下を向く。カーキのフードをかぶった誰かが、ナギの腰に抱きついていた。
 どきりと心臓を跳ね上げながらも引き剥がそうとその肩に置いた手は、彼女の顔を見た瞬間動きが止まる。

 抱きついた拍子にとれたカーキ色のフードの下から見えた真っ白く癖のない長い髪。同色の長く震える睫毛に縁取られた、涙で潤んだ蒼い瞳。

 その蒼はまるで海のような――

(ゆき)()……?」

 ソレハ、過去ニ置イテキタ筈ノ、

(ナギ)兄さん!!」

 (かな)シキ思ヒ出トノ再会。



                     ――――第一章「渓流の残影」了
 
 

 
後書き
「ちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは」

在原業平朝臣  小倉百人一首より、第十七首  『古今集』 秋。

“不思議なことが数多く起こっていたという神代の昔にさえも、これほどのものは聞いたことがありません。
 それほどの素晴らしさですよ、秋の竜田川に散り敷くもみじが、川一面をあたかも一枚の真っ赤な括り染めのごとく彩っているこの情景は。”


誤字報告他感想等おまちしております。



●あとがき(無駄に長い原稿用紙2枚半分注意)(最後に厨二的次章予告あります)

おわった!! 終わったよ1章!!! 最終話の最後の方はちょっと疲れが見えるが無視!
プロットも当初全くなく、他の皆様の作品を呼んでノリと勢いで書いたのが始まりだったっちゅうのに!!
やればできるもんだなぁ! まだオチは決まってないけど!(ェ
上に書いた百人一首は、ちょうどナギが二刀もったあたりに書いた情景を考えたときにふっと頭に浮かんだ短歌です。これ好きなんですよね。響きも綺麗。まあ、本文はそんな美しいなんてものとは程遠い感じですけど…
あと持統天皇の「春過ぎて~」も好き。これ一番好き。あとは、作者忘れたけど(どっかの坊さんだった気がする)「天つ風~」も。
百人一首ってほんと美しい響きの歌がたくさんあって素敵です。

まあここに至るまでに色々…本当に色々ありましたけど。例えばエリザヒロイン化事件とか。ナギ空気化事件とか。いやでも彼最後は主人公したよね? ね?

次章も引き続きよろしくお願いいたします。グラスハートですけど、誤字他感想ご指摘はバシバシお送りください!! 待ってます! いや待っちゃだめだ。無いように務めますが!
……えー、うぉっほん。

それでは最後になりましたが、この小説をお気に入りにいれてくださった45名の皆様(2013/6/17現在)。
読了いただきありがとうございました!!
以下ちょっと表現黒歴史↓↓



◆◇◆次章予告◆◇◆

ナギを「兄」と呼ぶ白髪の少女――雪路ゆきじ。

明かされるナギの過去と真実。

「助けて、お兄ちゃん!」

「災いを招くんだよ」

「近い将来確実に、死ぬだろう」

運命の歯車は 廻り出す


次章 「災厄の乙女 ―She invites the Ragnarok」 
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