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Monster Hunter ―残影の竜騎士―

作者:jonah
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15 「はじまりの足踏み」

 
前書き
遅くなりました…。だめだ、戦闘描写だめだ。これでも何回も書き直してたんですけど…けど……このクオリティ……orz
すみませぬ…散々待たせて散々もったいぶってこれって。
最早新手の詐欺。ああ戦闘うまく書きたい(号泣
竜って脱皮する…のか……? ええと、残酷な描写注意報デス、多分。
会話文が多いのが個人的に気に入らない。むむ…
 

 
「どうも。頭上から失礼します、っと」

 完全にKO(ノックアウト)しているリオレイアの頭上から現れたのは、あのナギとかいう男だった。
 音もなく地に降りたナギはこちらを一瞥すると、ゆらりと銀の太刀を引き抜いてフラフラしている雌火竜に向き直った。その肩から飛び降りたメラルーはこちらに駆け寄ると、怪我の具合を確認して笛を取り出す。回復笛だ。
 なぜ、とか、なに、とか。
 考えている暇もなく身体の疲労を回復させる安らかな笛の音を聴き、やや体力の戻ったカエンヌはやっとこさ立ち上がった。後ろからメラルーがさっさとしろと急かす。助けが来たと分かり緊張が無意識に緩んだのだろう、回復笛を浴びたとはいえ、カエンヌの体はもう一歩を踏み出すのも億劫なほど疲労困憊していた。

「仕方ニャいニャ。精々旦那の邪魔にニャらニャいよう隅っこで丸まってることニャ」
「おい、待て。1人でリオレイアをどうにかできるつもりなのか!?」
「そもそもあんたが最初から無理しニャかったらニャんの問題もニャかったのニャ」
「う…」
「それに、あんたを叩きのめしたニャアの旦那の力、見くびって貰ったら困るニャ!」

 それだけ言い捨てると、ルイーズは背中から武器を取った。ナルガSネコ手裏剣。デュラクの成長の過程で生え代わった際貰っておいた、抜け落ちた鱗や刃翼の端材から作ったものだ。勇ましく声を上げてリオレイアに向かっていく。雌火竜は既に気絶から立ち直り、ナギと戦闘を繰り広げていた。
 まともな防具もつけていないナギはカエンヌがひやっとするほどギリギリの回避を繰り返していた。だがその表情は余裕、というか、まるで今日の夕飯を考えながら愛犬と戯れているような、そんな顔だ。つまり、“余裕”を通り越していると。
 そんなナギが不意にこちらを振り向いた。顔に浮かぶのは焦り。ナギが避けた火球の延長線上にカエンヌとルイーズがいたのだ。

「しまった、ルイーズ!!」
「にゃふー!」

 自身より大きい火球を、ルイーズは手裏剣を盾にして弾いた。熱を持った身体と武器を川に飛び込んで即座に冷やす。
 その間愛猫に攻撃が向かないようナギは大きく立ち回る。戦いに“本気”になった気がした。
 目の前に立つナギを喰い千切ろうと顎を開いたその一瞬に火を噴く太刀で無防備な口内を容赦なく焼き斬られ、思わず怯むリオレイア。その隙にまた女王の背に飛び乗ったナギは振り落とさんと躍起になるレイアの翼の付け根を斬りつけた。懐からナイフを取り出すと傷を負ったそこに深く突き刺す。

ガアアアア!!!

 咆哮した女王は我こそヒトの上にあるべしと翼を羽ばたかせ空へ浮かんとするが、片翼を動かした途端地に落ちた。
 刺しっぱなしのナイフが、翼を動かすたび食い込むのだ。

「ッ」

 飛び降りたナギに横からしなる尻尾が叩きつけられる、とそれを上に跳んで回避。リオレイアの足に太刀を振るう。驚くべき速さで4撃見舞うと5撃目で斬り下がり、サマーソルトを避ける。
 空へ飛び立てないレイアが地に足付けるとまたそこに連撃。先ほど斬ったところと寸分違わぬ場所を再度攻撃されたレイアはたまらず悲鳴を上げた。ナギを蹴り飛ばしそのまま踏みつけようとする。

「にゃふー!」

 そうは彼の愛猫が許さなかった。全身を使って渾身の力で手裏剣を投げる。デュラクの刃翼を研いで作られた鋭刃は下位の雌火竜の鱗を容易く砕き、その眉間に突き刺さった。その間にナギは足元から脱出。ルイーズに意識が向いているリオレイアの傷ついた翼の下から太刀を振るう。ガチン、と何か堅いものに当たる感覚がしたと同時に、リオレイアが今日何度目かの苦痛の悲鳴を上げる。
 何度も攻撃され、上から下から炎を伴う斬撃を受けた翼が、あと一歩で焼き切れそうだ。ナギの腕に直に伝わった感覚は、太刀の刃が骨に当たった音だった。

ギャアアアアア!!!!!!

「ぐっ…」
「にゃふッ」

 順調に狩りを進める2人に不意に襲った咆哮。先ほどのよりもずっと大きい音のそれは、塞がなければ耳がイカレるであろう破壊力を持つ。俗にバインドボイスと呼ばれるもの。

「うるさいうるさい、ああうるさい」

 顔をしかめたナギが不機嫌げに言うと太刀を鞘に戻し、さらに鞘も背から外し左手に持った。リオレイアはナギに向き直るやいなや突進。寸前で避けられ、急停止し方向転換、再び突進するがこれも避けられる。3度目の正直とばかりに再び突進。

ズシュッ

 腰を低く落としたナギは横に飛び退くと同時に頭上を通り過ぎる翼めがけて太刀を振り抜いた。女王は直後悲鳴と共に大地に倒れる。
 重い音と共に、切断された(・・・・・)翼が地に落ちた。

「なっ……」

 カエンヌは目を見張る。飛竜種の切断可能部位は尻尾ではなかったか。今までカエンヌが与えていたダメージは主に胴から足に掛けてだ。翼には、それもあれほど狙いにくい付け根にはおそらく一太刀も入れていない。
 それをナギは、戦闘開始から僅か5分で切り落とすに至ったというのだ。

(翼って…切り落とすって…なんだよ…ッ!)

 あんな抜刀術、見たこともない。踏み込み斬りとも少し違う、明らかに一般的に太刀使いが使う技とは異なるモーションだった。しかもその剣速は明らかに異常だ。思い返せば先ほど足に攻撃していた時の一撃も、深く、振り抜きが速かった。女かと思うほど細いあの腕のどこにそんな筋力があるというのか。
 飽くまで自然体で立つナギが痛みに暴れるリオレイアに口角を釣り上げた。

「空の王の番が飛べないだなんて、形無しだな」

 金の眼に怒りの炎を湛えたリオレイアがひゅっと息を吸い込んだ。炸裂ブレスだ、とカエンヌが思う前に、地を蹴ったナギが宙を飛ぶ。地面が爆発するが、空中にいる彼にはまったくダメージはない。リオレイアの頭に着地と共に太刀を先ほどルイーズが作った傷に突き刺した。

ズブ...ズズズ......ズシュッ

 ナギの全体重がかかったそれはみるみる埋まってゆき、同時に赤い血が噴水の如く吹き出した。悲鳴を上げる間もなく銀火竜の太刀は鍔までその身を雌火竜に沈め、それは明らかに口内まで貫通していた。
 空いた口からだらだらと血を流し、目は痛みにうつろになりつつあるリオレイアも、だが陸の女王としての意地を見せた。
 果敢にも片翼のみで飛ぼうとし、バランスを取れないゆえに通常時よりひどく揺れ動く頭により頭上にいるナギを無理やり振り落とす。猫のように着地したナギは尻尾回転攻撃を地に伏せてやり過ごした。踏み込み斬りでもう片方の翼膜も引き裂く。竜の翼膜を一撃で破る太刀の切れ味とそれを十分に活かすナギの腕が合わさり、残ったリオレイアの左翼も痛々しく膜がべろんとさがった。これでは一瞬宙に浮くのも厳しい。

「飛べない竜は」

 遠目にもわかる、リオレイアは瀕死だった。血を流しすぎていた。
 ルイーズによって更にちまちまと削られていた右足を引きずってエリア脱出を図るも、ナギがそれを許すはずもなく。

「ただのトカゲだよ」

 防具をつけないゆえに生まれる瞬発力と速さであっという間にレイアに近づき、再びその足に向かって太刀を振り抜く。今度は足がちぎれ飛んだ。
 哀れな陸の女王は、皮肉にもその陸に伏せ、立ち上がることもままならない。ただ喘いでもがくだけだ。強靭な竜の生命力が、今はリオレイアを苦しめていた。
 流れる川の水が女王の血に染まり、赤く大地を染めていく。
 ナギはゆっくりリオレイアの眼前に回り込むと、再び太刀を鞘に戻し、腰を落とした。チャキ、と金属音。ふっとナギの体が脱力した。

ザンッ

 最後に躯から切り離されたのは、頭であった。

「お前の負けだ」

 物言わぬ女王の亡骸はところどころパーツの足りないいびつな(かばね)で、竜のそんな死体などカエンヌは見たこともない。

 あまりに圧倒的だった。

 まともな攻撃は一撃も浴びず、それどころか片翼と片足、首を切り落とす。飛竜相手にそれを成し遂げた上で戦闘時間合計十数分。
 これは人間の成せる業か。世の上位ハンターや、G級ハンターはこれくらいできるというのか。
 ナギは手を伸ばして開いたままのレイアの虚ろな瞳を閉じると滝に向かい、帰り血を浴びた顔を洗った。羽織は血濡れでずっしり重く、とりあえず洗ったがどちらにしろ血生臭すぎてもう着ないだろう。
 ため息をつきつつカエンヌのもとへ行ったナギを迎えたのは、恐怖の眼。

(ああ……)

 再び小さく息をつき、グッと拳を握り締めると問答無用で彼の体を起こした。びくりと震えたカエンヌに気づかないはずもなく、だが気づかないふりをして「身体の方は」と尋ねる。若干どもりながらも問題ないと答えたカエンヌは、おとなしくナギの肩を借りることにしたのか、火傷を負った左足を引きずって「イテテ」とうめいた。
 ルイーズはナギの頭に上るときゅっとナギを抱きしめた。小さなぬくもりは温かかった。
 ベースキャンプに着くととりあえずカエンヌをベッドに残し、討伐証拠としてレイアの素材を取りに行く。受諾者(カエンヌの筈が結果的にこれはナギの勝利となったわけだが)の狩猟完了を報告する為にどこかで見ている筈のギルドの雇われアイルーがいるが、まあ問題ないだろう。何を報告されるのかが少し怖いが。
 鱗を数枚、甲殻を何枚か、それに剥けた翼膜ももらっていく。以前リーゼロッテに怒られた為、それほど枚数は持っていかない。それから翼を切り落とした時に落ちたナイフも回収する。
 再びベースキャンプへ戻るが、まだ迎えの竜車は来ていなかった。

(さて…まずいぞ)

 カエンヌと2人っきり。どうする。
 ベッドに座る勇気もなく、キャンプを支える柱に背を預け腕を組んだ。帰りにデュラクは使わない。既に彼は渓流への空路を飛んでいるだろう。途中かわいい雌ナルガをみつけて道草を食わないといいが。
 そんなどうでもいいことを考えているから、低い声でボソッとカエンヌが言った言葉を聞き逃した。

「……すまなかった」
「は?」
「だから、初対面でいきなり殴りかかって、悪かったっつってんだ!」
「ああ…いや、そんな。別にいいですよ。怪我したわけでもないし」
「それでも謝らせろ。それから、その…感謝する」
「いや……あの子達にあんなに必死に頼み込まれたらね……」
「そうか。でも、ありがとう」

 ベッドに上半身を起こして頭を下げるカエンヌは、初めて会った時の印象より随分しおらしい。感謝も謝罪も慣れていないナギがわたわたと注意をカエンヌの怪我に向けると、快活な笑顔で「問題ない」と言った。
 出会いが出会いだっただけに、彼にそんな笑顔を向けられるのに違和感バリバリだが、とりあえず元気ならよかった。

「お前すげぇな」
「え?」
「翼を切り落としたり…あんな戦い見たことない。その太刀、見せてもらえねえか?」

 先ほどの恐怖の眼はどこへ行ったのか。なんだかキラキラと輝く瞳でこちらを見るその様子は、まるで10代の若者が何かのスポーツであこがれの選手に出会えたときのような、そんな純粋さがみられた。
 戸惑いつつ渡すと、いつぞやそれを見たエリザのように(流石にあれほどの狂喜乱舞っぷりではないが)歓声をあげた。ハンターならばまあ当然かもしれない。幻とも謳われる【銀の太陽】ことリオレウス希少種の武器。使う武器のジャンルが異なれど、その武器に惹かれるものがハンター達にはあった。

「これ…これって、飛竜刀【銀】だよな…!? すげぇ、お前希少種のリオレウスまで狩れるのか! 旧大陸出身か?」
「ああ、はい」
「すげえ…」

 持ち上げようとして「重いな」とぼやき、それでも両手で持ってちらりと鞘から抜くと、翼から削り出された鋭利な刃を見てまた声をあげる。切れ味が落ちているだろうから、また研いでおかねば。
 懐から砥石と水、乾いた布を出すとその場でとぎ始めた。その様子を見ながらカエンヌが思い出したように口を開いた。

「ああ、そういえばまだちゃんと自己紹介してなかったな。オレはカエンヌ・ベルフォンツィ。出身はユクモからちと遠い農村だ。ロックラックのハンターズギルド本部からユクモ村に派遣された、専属ハンターだ。エリザの姉のオディルとパートナーを組んでる。かれこれ6年くらいになるか…。そういえばエリザとリーゼちゃんを渓流で助けてくれたんだっけか。ありがとう」
「いえ…」

 カエンヌに対する違和感の原因がわかった。口調があのときと全然違う。こちらが素か。

「オレは今年で30になるが…お前、いくつだ?」
「22」
「若ぇな。それであの強さかよ……」
「渓流の奥に住んでいましてね。慣れてるだけですよ」
「…ナギ、お前その敬語やめねえか?」
「あー、年上と思ったらつい…」
「気にすんな。ハンターの世界は実力社会なんだからよ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」

 曖昧に微笑むナギに肩をすくめると、不意にカエンヌが真面目な顔になった。何事かと問う前に、勢いよく土下座される。これは俗に言うジャンピング土下座か。ぎょっとしたナギは太刀を研ぐ手を止めた。

「頼む、ナギ。お前のその実力を買って、たのみたいことがある」
「何を…」
「村を、ユクモ村を守ってほしい」

 オディルは負傷、カエンヌも負傷。残るリーゼロッテとエリザは新米ハンターで、大型モンスターといえどまだ飛竜を相手にできるほどの実力はない。

「最近モンスターの動きが活性化してるっつーのに、今ユクモ村を守れるハンターがいないんだ! 頼むから、せめて俺が戦えるようになるまで!」
「お、おい…」
「頼む! このとおりだ!」
「落ち着くニャッ」

 ルイーズの軽いとは言えないネコパンチをくらいやっと懇願をやめたカエンヌに苦笑した。派遣されたハンターと言ったが、随分村のことを大切に考えているようだ。実力があるハンターにこれほど想われて、村人達も良いハンターと巡り合えたものだ。
 ガラガラと音がして振り向けば、ガーグァ車が到着したようだった。またカエンヌに肩を差し出した。

「出来うる限り全力で、守るよ。弟子のためにもね」
「ああ……ありがとう…!」

 揺れる荷車の上一週間同じ釜の飯を食う会話を交わし(主にどんな生活を送っているだとか、どうやったらそんな戦い方ができるのかとか)、ユクモ村に帰る頃には初め殴りあったのが嘘のように友人と言い合えるような仲になった。リーゼやエリザとも少し違う、ナギにとって初めてといっていい男友達だ。

「このっ……馬鹿者!」

 ユクモ村に生還したカエンヌが第一にもらったものは、目にうっすら涙を溜めたオディルの平手打ちだった。周りがニヤニヤする中怒鳴りつけられ怪我で済んだことを喜ばれ、最終的になんだか色々ぐちゃぐちゃになりながら抱きつかれたカエンヌは、青くなったり赤くなったりと忙しない。

「ありがとう、ナギ君。本当にありがとう」
「ありがとうございました!」
「まあ一応こんなやつでもあたしの先輩なわけだし…お礼言っとくわ。ありがと」

 村人達からも「よかったよかった」「ありがとうよ」と背を叩かれ、こそばゆい。人助けもなかなか良いものだと、心地よい疲れを感じながら思った。

「ほんとうにありがとうございました、ナギさま。本当に…」
「いくらでも感謝するがいいニャ。ニャアも讃えるニャ」
「ええ。感謝しますわ、ルイーズさま」
「にゃふっ♪」
「コラ。…また何かあったら呼んでください。……ん?」

 竜車を貸してもらい、門へと歩きだそうとしたナギは不意に足を止めた。後ろから不思議そうに見やる視線を感じつつしゃがみこみ、石畳に耳を付ける。

「な、なにやってんのよ」
「ナギさん……?」
「……来る」
「え?」

 その時だった。

カーンカーンカンカン! カーンカーンカンカン!

 物見やぐらから緊急避難の鐘がなった。何事かと皆上を見上げる。青ざめた物見が力の限り叫んだ。

「何か…黒山の何かが渓流方面から向かってくるぞ! 逃げろ!! あれは……ファンゴの大群だ!!!」
「10や20なんて数じゃない!! ドスも混じってる! 50頭はいるよ!!」
「村が根こそぎ踏み潰される!! 逃げろ!!!」

 静寂は一瞬だった。

キャアアアア!!!!
うわああああ!!!!

 観光客は我先に逃げ出し、場は混沌と化す。村長と補佐、ハンター4名とナギは物見の話を聞くべくやぐらに隣接する集会浴場へと向かった。
 ファンゴが来るまで推定であと10分と少し。数は憶測50頭うち3頭のドスファンゴを確認。ファンゴはまっしぐらに村へと駆けてきているが、それが村を目指しているのかたまたま村が延長線上にあるだけか、それは不明。それだけ聞くと、ナギ達は物見にも避難するよう伝えた。「すまねえ」とひとこと謝ると、物見の夫婦は急ぎ足で仕度をすませて部屋を出ていった。
 集会浴場奥の会議室に残ったのは、村長、補佐、リーゼロッテ、エリザ、ナギ、カエンヌ、オディルとそれぞれのオトモアイルーのみ。受付嬢――シャンテもリーゼロッテ達に急かされて避難していた。
 議題は、如何にして村人および観光客の避難を完遂させるまで時間を稼ぐか。そもそもファンゴの群れが来る僅か十数分で避難が完全に終わるとは到底思えない。良くて半数が竜車に乗れる程度だろう。それまでなんとしても村に猪共を侵入させる訳には行かない。

「……俺が、止めよう」
「ナギさん!?」
「無茶よ! 50頭でドスも3頭くらいいるのよ!?」
「じゃあ他に誰がやる?」

 エリザが言葉につまる。ナギはあくまで穏やかな口調のまま告げた。

「一頭も通さないとは確約できない。だから、俺が前で抑えるから、リーゼとエリザには後ろでそれぞれオトモと一緒にこぼした奴らの掃討をたのみたい。オディルさんとカエンヌは怪我人だから他の村人と一緒に避難を――」
「悪いが、残らせてもらうよ。妹を残して逃げるほど落ちぶれてはいないからね。もし4人がかりでも抑えきれなかったら、私達が出張る必要もあるだろう?」
「オレも、年下に後を任せてサヨウナラなんてしたくねえからな。片手剣でも貸してもらえれば左腕だけでもまあ戦えなくはないし」
「まったく……わかりました。じゃあよろしくお願いします。無理はしないようにしてください…」
「まかせとけ!」

 オディルとカエンヌの譲らない表情にため息をつきつつ頷いた、そのときだ。不意に会議室の扉が開いたのは。現れたのはヴェローナ鍛冶店と一楽亭の面々。2人の血縁者のみならず、従業員までが押し寄せていた。

「わしらも残るぞ。孫娘達を差し置いて逃げるのはヴェローナの恥じゃ」
「僕たちものころう。愛娘が命をかけるんだ。親の僕たちが安穏と逃げるわけにはいかない」
「エリザお嬢さんとオディルお嬢さんを置いて行けるもんですか!」
「リーゼちゃんの勇姿は俺らが目に焼き付ける!」
「おじいちゃん! みんな!」  「お父さん! 皆さん!」
「私も残るよぉ!」
「カミラおばさんも!?」

 やれやれと立ち上がったナギはまったく頑固な村人達を見据えて言った。

「……まあ、あなたがたがいる方が2人も力が出るだろうし、覚悟ができているならいいですけど。死んでも文句はなしですよ」
「ああ、もちろんさ!」
「じゃあ、弓の心得がある方や余裕がある方、後方から閃光玉を投げてもらえると助かります。投げたときには一言お願いします。俺達の目が潰れたら終わりなので」
「まかせとけ!」

 何故か非戦闘員達のテンションが上がっていく中、太刀を担いで門前へと向かうナギに、心配そうにリーゼロッテが声をかけた。

「あの、ナギさん。もしみんなが貴方の負担になるなら、わたし達の方から避難するように言いますけど…」
「大丈夫。一頭も通すつもりないから」
「…へっ?」
「まあ、飽くまでつもり、だけどね…。正直数頭は侵入を許すと思うけど、そこは頼んだ。大丈夫、エリザは落ち着いて一頭一頭確実に。こぼしたやつをリーゼが倒していけばいい。あとは、なんとしてでもこっちで抑える。村を踏み荒らさせはしない」

 決意に満ちた表情に、思わずリーゼが尋ねる。彼と会ってまだふた月弱。何回も聞きたかったことだ。

「なんでそんなに…命をかけてまで…この村を助けてくれるんですか?」
「……それは、」

 ナギ自身何故だろうと首をかしげた。進んで見張りを買って出てくれたヴェローナの鍛冶師見習いが、やぐらの上から「来たぞぉー!!」と声を張り上げるのが聞こえる。早足になりながらもナギは一瞬足を止めリーゼの顔を見ると、ふっと微笑んだ。見慣れない彼の微笑と、深い海色の瞳が自分を見つめていて、胸が高鳴る。

「この村が、俺を受け入れてくれたから、かな」

 弓の最終チェックと瓶を装着していたエリザが「えっ」と顔を上げた。すぐにナギは踵を返し、門のむこうに立って白銀にきらめく得物を構える。その足元には、なれたように寄り添うルイーズの姿。
 やがて50頭もの猪の突進による地響きが、立っていてもわかるほどになってきた。岩と岩の隙間から茶色い大群が向かってくる。
 閃光玉を弓にくくりつけた鍛冶師見習いが、ごくりと喉を鳴らす。彼が最初の一矢を放って戦闘開始だ。合図は、最前線の(ナギ)

「……()ェ!!」

ヒュッ...カッ!!
ブヒ――!!

 戦 闘 開 始。
 
 

 
後書き
個人的に興奮する厨二技「抜刀術」。抜刀術いいよね抜刀術。響きが。好きですよ、るろ剣。京都行く前ダークに堕ちろとか思ったけどまあそうはいかないのが世の常。え? この作品? ……やだなぁブラックナギなんてありませんよ~たぶんね~
3時間あれば十分とか言った彼。ハッハッハッハー(の人とあと教官出し損ねたよどーしよ)。討伐時間10分ちょいですよ。そんなもんですよね…? え、下位レイア程度5分でできるって? 作者そんなに強くないの…(泣
次話で第一章最終話……かも。なんか展開が急すぎッスねー
ナギのコミュ障もちょっと治り過ぎたかな…
あああと尻切れトンボ感が半端ねぇ…

うわぁ・・・

    ・・・おかしなところ見つけたら是非ご一報を。 
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