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ジークフリート

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第一幕その八


第一幕その八

「あいつにはあの化け物を倒してもらわないとならないのにのう。しかもじゃ」
 次はその折れた剣を忌々しげに見るのだった。
「この折れた剣だけはどうにもならん。何なのzた」
「もし」 
 するとだった。また人間の声がしてきた。
「宜しいかな」
「誰じゃ?」
 ふと声がした方を振り向くとそこには人間らしき男がいた。唾の広い帽子を目深に被り顔の右の部分を隠している。その顔の左半分は引き締まり見事な髭がある。左手に槍を持ち古ぼけた濃い灰色のマントを羽織っている。着ている服はマントと同じ色の軍服であった。
 その男が来てだった。ミーメに声をかけてきたのだ。
「旅に疲れた者を休ませてくれないか」
「この森に来たというのか」
「そうだが」
「珍しいというものではないな」
 ミーメはその旅人を見て目を顰めさせた。
「こんな深い森に人が来るというのは」
「さすらい人と言われている」
 旅人はこう名乗ってきた。
「遠くまで旅にさすらい地上のあらゆる場所を巡ってきた」
「さすらい人というのならここに留まることはないだろう」
 まずはこう冷たく返したミーメだった。
「すぐに何処かに行くといい」
「そうはいかん」
 しかしさすらい人はこう彼に返した。
「わしに不親切にするとじゃ」
「何があるというのじゃ?」
「禍があると言われている」
 半ば脅しの言葉であった。
「それだけでな」
「旅人に冷たくすればということか」
「そう考えてもらってもいい」
 こうも返したさすらい人だった。
「とにかくだ。善意をもらいたい」
「わしはいつも禍を受けておる」
 ジークフリートのことである。
「そのわしに禍をさらにというのか」
「善意には知識で返そう」
 さすらい人は交換条件を提示してきた。
「わしはあらゆる場所を巡り多くのことを見てきたからだ」
「知識をか」
「心の痛みを取り除くこともできるが」
「生憎わしはそんなことには興味がない」
 しかし彼はこう返すのだった。
「一人でいたいんだ。あんたは別にいい」
「大抵の者は自分が利巧だと思っているが」
 さすらい人は聞かれる前に述べてきた。
「実は一番知らなければならないことを全く知らないのだ」
「そうだというのか」
「そうだ。そしてだ」
 彼はさらに言うのだった。
「その人に役立つことをわしは質問させる」
「質問をか」
「そうしてもてなしの礼に応えるのだ」
「多くの者は無用な知識を有り難がるがじゃ」
 ミーメも負けてはいなかった。
「わしは必要なことは知っておる」
「知っているというのか」
「そうじゃ。だから充分だ」
 ここでも冷たく返すのだった。
「だからあんたに用はないのじゃ」
「まあそう言うな」
 ここまで聞いても冷たいままの彼だった。
「そんなことはな」
「おい、待て」
「いいではないか」
 さすらい人は強引に岩の上に腰を下ろしてしまった。ミーメが止めてもだ。
「別にな」
「何という図々しい奴だ」
「それでだが」
「何だ?」
「余興を考えた」
 こう彼に言ってきたのである。
 
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