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ジークフリート

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第一幕その六


第一幕その六

「それでは話すぞ」
「ああ。それでどうしてなんだ?」
 ジークフリートはじっと彼の話を聞こうとしてきた。
「僕はどうしてここに御前と一緒にいてそして母さんは」
「昔のことじゃった」
 ミーメはその記憶から話をはじめた。
「この森に一人の女が来た」
「女!?」
「雌と考えるのじゃ」
 森の生き物と自分しか知らない彼にわかりやすく話した。
「それがこの森に来たのじゃよ」
「雌・・・・・・女がか」
「人間の女がじゃ」
「人間というと僕と同じか」
「そうじゃ」
 このこともジークフリートに話をした。
「実はわしはニーベルング族で御前は人間なのじゃよ」
「そうだったのか。やっぱり僕と御前は」
「そういうことじゃ。わしは小人じゃ」
 今彼にこの事実をはじめて教えた。
「御前とはそこからして違ったのじゃ」
「そうか、それで僕と御前は」
「左様。では話を続けるぞ」
「ああ」
「その人間の女が呻きながら倒れているのを見てじゃ」
「どうしたんだ?」
 身を乗り出して問うた。
「それで」
「ここに運んで助けたのじゃ」
「助けたのか」
「その女はすぐに死んでしまった」
 ミーメは俯いて悲しげな声で答えた。
「御前を産んですぐにじゃ」
「僕を産んですぐに」
「そうじゃ、それで死んでしまったのじゃ」
 こう話すのだった。
「それでじゃ」
「僕を産んでか」
「うむ」
「それじゃあ僕のせいで」
 それを聞いてジークフリートは悲しい顔になった。
「母さんは」
「母さんはわしに御前を頼むと言って死んだ」
 声は自然にしんみりとしたものになっていた。
「そういうことなのじゃよ」
「そうだったのか」
「それでそれからはわしが」
「それはもう聞いた」
 恩着せがましい話はもう言わせなかった。
「それで次は」
「次は何じゃ?」
「僕の名前のことだ」
 このことを問うというのだ。
「僕の名前はジークフリートだな」
「それがどうかしたのか?」
「何故この名前なんだ?」
「それは御前の母さんがわしに言ったのじゃよ」
「その母さんがか」
「そうじゃ。このことも話そう」
 ジークフリートを見ながら話す。
「ジークフリートという名前なら御前は強く美しくなるだろうと言ってな」
「母さんが名付けてくれたのか」
「そういうことじゃ」
「そうか。じゃあ次は」
「まだ聞くのか」
「そうだ、聞く」
 たまりかねた調子になったミーメにさらに問うのだった。
「今度はその母さんのことだ」
「御前の母親のことか」
「名前は何といったんだ?」
「何と言ったかな」
 そう言われると覚えていない。首を捻るのだった。
「それは」
「覚えてないのか」
「いや、待て」
 こう前置きするのだった。
「思い出した。それでなのじゃが」
「何て名前なんだ?」
「一度だけ名前を自分から言ってくれた」
「それでその名前は」
「確かジークリンデといった」
 こう話したのだった。
「それはな」
「ジークリンデというのか」
「そうじゃった。確かな」
「そうだったのか。ジークリンデか」
 その名を聞いて自分も俯いたジークフリートだった。
 
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