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ジークフリート

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第一幕その五


第一幕その五

「愛とはどんなものかを」
「愛とはか」
「そうだ。僕はいつもそれをじっと見ていた」
 子供が育つのを最後までというのだ。
「僕の母さんは何処にいるんだ、その母親は」
「御前は馬鹿か」
 話を聞き終えたまずはこう返したミーメだった。
「御前は何を考えておるのじゃ」
「何だと?」
「いいか、御前は鳥でも獣でもないのじゃぞ」
 このことを彼に告げる。
「それで僕を育てたっていうのか」
「そうじゃ」
「では僕の母親は誰なんだ?」
 またこのことを問うジークフリートだった。
「それを聞いているんだ」
「わしが全てなのじゃよ」
 こう返すミーメだった。
「わしが御前の父であり母なのじゃ」
「嘘をつけ」
 それを全力で否定するジークフリートだった。
「そんなことがあるものか!」
「何故嘘だというのじゃ?」
「子供は親に似るものなんだ」
 ジークフリートのその声が強いものになる。
「僕は幸いそれを見たんだ、小河で自分の顔を」
「御前の顔をか」
「動物達や美しい太陽や雲も一緒にだ」
「見たのじゃな」
「僕と御前は何一つ似ていない」
 ミーメのそのお世辞にも美しいとは言えない顔を見ながらの言葉だった。
「そう、全くだ」
「またそんな馬鹿なことを言う」
「馬鹿なことじゃない」
 ミーメの言葉を否定してみせた。
「もうわかってきたんだ。僕と御前が似ていないということが」
「別だというのか?」
「そうだ」
 まさにその通りだというのだった。
「そして僕の父親と母親が誰か。今日はそれを聞き出してやる」
「そんなことはどうでもいいことだ」
「いいわけがない」
 その声がさらに荒いものになった。
「何があっても聞くぞ。御前の作った剣を全て壊すこの力を使っても」
「暴力を振るうのか」
「この場合は別だ」
 食べ終わり飲み終わった。いよいよだった。
「いいな、何があってもだ」
「わかったわかった」
 暴力と聞いて遂に折れたミーメだった。
「わしは頭はいいが力は弱いのじゃ」
「ふん、やっとわかったか」
「わかったわい」
 渋々とした顔で頷いての言葉だった。
「本当にのう」
「それで何なんだ?」
「何故御前がわしを嫌うのかじゃが」
「その理由をか」
「そうじゃ。言うわ」
 苦い顔での言葉であった。
「わしは御前の親父でもなければ親戚でもない」
「やっぱりそうなんだな」
「しかし御前はわしのおかげで育ったんだぞ」
 それでもこのことを強く言うのだった。
「それは事実じゃ」
「それはか」
「そうじゃ。わしは御前のたった一人の友人じゃ」
「そう思ったことは一度もない」
「そしてそれと共に全くの他人じゃ」
 このことも認めるしかなかった。
「御前に同情して助けてやったのに。これでは」
「それでどうなんだ?知っていることを話せ」
「わかっておるわ」
 前置きはいいというのだった。
 
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