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ジークフリート

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第二幕その十一


第二幕その十一

「あの姿を消す隠れ兜はだ」
「あれのことか」
「そうだ。御前が必要だから御前が作ったのか?」
「御前の様な能無しに鍛える術なぞあるのか」
 言い争いは続く。
「わしの指輪の魔力のおかげで技術を知ったではないか」
「では御前は指輪をまだ持っているのか」
 ミーメが問うたのは指輪のことだった。
「それはどうなのだ」
「指輪だと!?」
「貴様は愚かにもローゲに奪われたではないか」
 また遥かな昔の話だった。
「御前の奪われたそれをわしが計略で手に入れるのだ」
「人間の若造がしたことを貴様は欲張って自分のものにするのか」
「それが悪いというのか」
「御前の仕事ではなくあの若造の仕事ではないか」
「育てたのはわしだ」
 言うまでもなくジークフリートのことである。
「その恩返しをしてもらうのだ」
「恩返しだと!?」
「今まで散々骨を折ったんだからな」
 そのジークフリートのことを言い続ける。
「それも当然のことだ」
「何と図々しい奴だ」
 かといってジークフリートに同情しているわけではないアルベリヒだった。
「子供を育てたのを口実にして指輪を手に入れるのか」
「そうだ。何もかもをだ」
「欲の深い奴だ」
「全てはわしの手に入れるべきものだ」
 ミーメはあくまで主張する。
「何としてもだ」
「わしも釘一本もやらんぞ」
 二人は同じであった。
「何があってもな」
「ならばジークフリートを貴様にけしかけるぞ」
 ミーメは切り札を出した。
「そうすればあの竜と同じくだ」
「ファフナーか」
「そうだ。貴様を倒させるぞ」
 ムキになって言い返す。
「それでいいか」
「その若者だが」
 アルベリヒもムキになっていた。
「もうすぐ出て来るぞ」
「何っ!?」
「隠れ兜も財宝も持っているぞ」
「指輪もだな」
「何ということだ」
 アルベリヒにとっては最悪の事態であった。
「指輪までか」
「ではわしがそれを手に入れるとしよう」
「まだそんなことを言うのか」
「悪いか」
「許さんぞ!」
 弟をそのまま殴り飛ばそうとする。
「ここで殺してやる。いいのか」
「殺せるものならそうしてみろ!」
 また言い返すミーメだった。
「その時は貴様も一緒に殺してやる!」
「おのれ!」
「死ね!」
 二人で言い合う。しかしアルベリヒはジークフリートが来たのを見て。
 去ろうとする。そのうえで弟に実に忌々しげな声で告げた。
「いいか」
「何だ?」
「指輪はわしのものだ」
 あくまでこう言うのだった。
「いいな」
「貴様のものだというのだ」
「そうだ。何があってもだ」
 赤いその目は執着そのものだった。
「それを言っておく。いいな」
「勝手に言っておけ」
 こう言い合った後で姿を消すアルベリヒだった。ジークフリートはその洞穴からゆっくりと出ながらそのうえで呟いているのだった。
「宝は手に入れた。けれど何に使うのか」
 それは全く知らない彼だった。
 
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