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アマールと夜の訪問者

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第五章


第五章

「今何をしようと」
「そ、それは」
「むっ!?一体」
「何だ?」
「何が」
 王達もアマールも二人の声を聞いて目を覚ました。そうしてその枕元を見ると。
「お母さん、何をしてるの?」
「アマール・・・・・・」
「どうしたの?」
「これは・・・・・・」
 言えなかった。我が子には。
 しかしだった。子供はすぐにわかった。そのうえで王達に対して必死に頭を下げて謝るのだった。
「許してあげて!」
「許す?」
「許すって?」
「お母さんを許してあげて」
 母の前に来て必死に謝るのだった。
「お母さんは悪くないから。だから許して」
「いや、坊や」
「落ち着いて」
「待ってくれないか?」
 しかし王達は穏やかな笑みを浮かべてこうアマールに告げるのだった。
「お母さんは何も悪いことはしていないよ」
「そうだよ」
「安心して」
「えっ、けれど」
「ですが」
 アマールだけでなく母も今の王達の言葉には驚きの声をあげた。それは従者も同じだった。
「私は今確かに」
「私達はこの家の中にお邪魔する前に申し上げた筈です」
「宝石を差し上げると」
「御礼として。覚えておられますね」
「は、はい」
 戸惑いながらもその言葉に頷く母だった。
「その通りです」
「ではそういうことです」
「貴女は私達の御礼を受け取った。それだけです」
「そこに何の不都合がありますか?」
 穏やかな笑みを浮かべて母に話すのだった。
「だからね。坊や」
「坊やが気にすることはないんだよ」
「お母さんは御礼を受け取っただけだからね」
「そうなんだ」
 アマールはそれで納得したのだった。王達はさらに言った。
「それにです」
「私達は今赤子を探しているのですが」
「赤子をですか」
「はい」
 母の言葉に対して頷いてみせた。
「そうです、赤子です」
「神によって選ばれた主である赤子」
「その方をです」
 探しているというのである。キリストをである。
「その方には宝石や黄金なぞ必要ないでしょうし」
「それにこうした時の為に使うものです」
「何でしたらさらに」
「すいません」
 王達の言葉に平伏してしまう母だった。
「私も貧しくなければ何か御礼ができるのですが」
「いえ、こうして泊めて頂いていることが何よりの御礼です」
「今日は寒い。雪が降るかも知れませんしね」
「そこで泊めて頂いて」
 感謝していると。穏やかな笑みと共に言うのであった。
「これが何故御礼ではないのでしょうか」
「私達の御礼なぞこれに比べればささやかなものです」
「寂しい外で凍えて死ぬよりはです」
「そう言って頂けるのですね」
 母も心が洗われるようだった。そしてその横からアマールが言うのだった。
「それじゃあ」
「アマール。どうしたの?」
「僕が御礼にこれをあげるよ」
 こう言って王達に自分の杖を差し出したのである。
「これをね」
「杖をなの?」
「僕が持ってるのはこれだけですけれど」
 歪みのない笑みで言って差し出すのだった。その杖を。
「どうか受け取って下さい。御礼です」
「しかし坊や」
「その杖は」
 王達は彼の差し出したその杖を見て怪訝な顔にならざるを得なかった。
「脚の悪い君の為のもの」
「それがなかったら君は」
「いいんです」
 しかし彼の笑みは変わらない。
「僕は杖がなくても動けますから。だから」
 言いながら立ち上がる。するとだった。
 
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