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アマールと夜の訪問者

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第四章


第四章

「まことにお気の毒な」
「何とかやっていますが」
 言いながら王達の手元を見る。三人共その手首に如何にも高価そうな腕輪をしている。金を元にしてそれをサファイアやルビーで飾っている。
「今は」
「今はですか」
「はい」
 母はこくり、と力なく頷いた。
「そうです」
「今はですか」
「これからは」
「わかりません」
 答える言葉はさらに暗いものになった。
「どうなるのか」
「そうですか。これからはですか」
「わからないのですね」
「ねえお母さん」
 アマールは暗い話をする一同の中でただ一人明るい。そうしてそのうえで言うのだった。
「それでだけれど」
「どうしたの?アマール」
「ほら、これ」
 言いながら王達の腕輪を指差すのだった。
「物凄く奇麗だよね」
「ええ、そうね」
 我が子の言葉に頷く。頷きながらごくり、と唾を飲み込んだ。
「とてもね」
「僕もこういうのが欲しいな」
 子供だからその高貴さは何もわかっていなかった。
「こんな奇麗なのがね」
「そうなの」
 自分の感情は今は必死に包み隠していた。
「貴方はそうなのね」
「僕欲しいよ」
 また言うアマールだった。
「こんな腕輪が」
「アマール」
 ここでまた言う母だった。
「今はね。静かにしていて」
「静かに?」
「そうよ。静かにね」
 また言うのだった。
「わかったわね」
「うん、わかったよ」
 アマールはここでも静かに母の言葉に頷くのだった。
「それじゃあ」
「御願いね。今は」
 そんな話を暫くしてやがてベッドを整え王達にそのベッドを貸して眠りに入った。だが母は一人だけで寝られず目を開けていた。どうしてもあの宝のことが頭に思い浮かぶのである。
「あの腕輪や宝石があれば」
 彼女は思うのだった。
「こんな生活とも」
 今も生きるのがやっとでこれからどうなるかわからない。そう思うとだった。
 起き上がりそのうえで王達の枕元に手をやる。王達はすやすやと寝ている。
「今なら」
 その王達を見て呟いた。
「少しだけでも。宝石の一粒だけなら」
 いいだろうと自分自身に言い聞かせて。そのうえで水晶を一粒取ろうとした。その時だった。
「待って下さい」
「あっ・・・・・・」
 従者が咄嗟に起きて彼女の手を掴んできたのである。
「それを取ってはいけません」
「うう・・・・・・」
「貴女は何をしているのかわかっていますか?」
 あらためて彼女に問うのだった。
 
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