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アマールと夜の訪問者

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第六章


第六章

「えっ!?」
「自然に!?」
 アマールも母もその彼を見て驚きの声をあげた。何と自然に立ち上がることができたのだ。杖もなくごく自然に。すっと立ち上がられたのである。
「まさか」
「お母さん、見て」
 アマールは言った。するとだった。
 跳ねる、そして歩ける。彼はその狭い家の中で飛び跳ねていた。
「動けるよ、歩けるよ」
「そんな、今までずっと満足に歩くことすらできなかったのに」
 母は動き回る我が子の姿を見て驚きのあまり呆然となっていた。
「それがどうして」
「奇蹟ですね」
「これこそが神の」
 王達がこうその母に対して語った。
「そう、坊やが私達に杖を差し出してくれたその優しさが」
「神の元に届いたのです」
「だからです」
「そうなのですか」
 母はそれを聞いてあらためて呆然とするのだった。
「神が。それでこの子を」
「この子は神の祝福を受けたのです」
「その愛を」
 こうも言う王達だった。
「それでですが」
「御母堂、御願いがあるのですが」
「宜しいでしょうか」
 そして王達は真面目な顔になって母にそれぞれの顔を向けてそのうえで彼女に対して申し出るのだった。神のその愛を感じながら。
「この坊やをですが」
「是非私達の主を探す旅に同行させて下さい」
「宜しいでしょうか」
 こう申し出たのである。
「アマールをですか」
「はい」
「その通りです」
 母の申し出にも頷いてみせる王達だった。
「是非共」
「宜しいでしょうか」
「そうですね」
 母は王達の申し出に暫し考えた。しかし今も楽しそうに跳ね回る我が子を見て。そのうえで心を定めてそのうえで王達に対して告げるのだった。
「御願いします」
「よいのですね」
「それでは」
「はい、御願いします」
 澄み切った顔での言葉だった。
「アマールをどうか」
「有り難うございます」
「それでは」
「お母さん、いいの?」
 アマールは動きを止めて母に尋ねた。
「僕が王様達とそんな素晴らしい旅に出て」
「ええ。行ってらっしゃい」
 アマールに対してはこのうえなく優しい言葉をかけるのだった。
「それが御前の果たすべきことだからね」
「僕の果たすべきこと」
「御前は神に祝福された子なんだよ」
 その優しい言葉で我が子に語る。
「だから。行ってらっしゃい」
「うん。じゃあ」
「それじゃあ坊や」
「行こうか」
「早速ね」
 王達は立ち上がってそのうえでアマールに告げた。
「そして主を見つけよう」
「我等を導き愛を下さる主を」
「そのお姿を見つけに」
「はい、わかりました」
 アマールは満面の笑顔で王達の言葉に答えた。従者もここで立ち上がる。母に対して多くの高価な贈り物を授けて。
 彼等はそのまま戸口を開ける。母もそこに来てそれで見送る。
「では今より」
「坊やを預からせて頂きます」
「はい」
 澄み切った笑顔で頷いて応える母だった。
「それでは御願いしますね」
「お母さん、じゃあ行って来るね」
 アマールは王達の横で母に対して右手をあげて大きく振っていた。
「僕、主に会いに行くよ」
「行ってらっしゃい」
 そのアマールにその澄み切った笑顔で見送りの言葉を贈った。
 一行の周りに静かに白い雪が降りだしていた。雪は満月の白い光の中に照らし出されていた。その光はアマール達も照らし出して導いているのであった。主の下へ。


アマールと夜の訪問者   完


                 2009・10・6
 
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