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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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ALO編
  episode1 必然という名の運命2

 「ふぅ……」

 一息ついて、左手首の時計を見る。午前、十一時半。

 「はぁ……」

 今度のは溜め息だ。時間はまあ、予想通りだ。……予想外なのは、俺の手首のほうだ。細い。とにかく細いのだ。確かに俺はもともと細いほうではあったのだが、今はもう「向こうの世界」で言う所の骸骨モンスターやらゾンビモンスターのレベルだ。

 (ま、リハビリのプログラムに不服は無いさ。……例の時間に間に合えば、な)

 出てきた病院を、ちらりと見やる。

 清潔的で真新しい白い病院は、リハビリ施設としてはやや早い時間に始まるおかげで、予約さえ前もって入れておけば、二時間の一日分のリハビリを昼前に終わらせることが出来る。バスでここまで通っているのは、もともと入院していたバカでかい病院の紹介に加えて、この終わりの早さに惹かれたからだ。

 なぜなら俺は病院を出るときには既に、とある筋に連絡を取ってあり。
 そこからの、仕事をもう既に依頼されているからだった。


 ◆


 昼前。俺はぶらぶらと当ても無く歩き、近くにあった喫茶店……失礼ながら客の入りの少なそうな店を選んで入る。今日入った店は、カウンター席が三つにテーブルが二つしかないような激狭な喫茶店だったが、最初に頼んだコーヒーは埋もれさせるには惜しいくらい美味しかった。

 もう一杯お代わりを注文し、そこで携帯端末を開く。
 朝方、電車の中で送ったメールに、返信があるのを確認する。

 (よーしよし……)

 心臓が結構な勢いで脈打っている。
 なぜならこれが所謂「採用通知」……或いは「不採用通知」だからだ。

 (頼むぜ、マジで……)

 細目で見ながら恐る恐る見る結果は…OK!

 「っしっ……!」

 店内なのでこっそりとガッツポーズ。
 とりあえずはこれでしばらく食い扶持は稼げそうだ。うん、結構切実。

 勿論、あの家の暮らしで金をとられている訳ではない。……ないのだが、もう俺も十九歳、来年には成人ということを考えるとなんとなく自分で稼がなければならない気もしている。今から大学に行く気が無い俺にとっては、早いとこの職場復帰は欠かせない。いや、高校時代はバイトみたいなもんだったが。

 「んで、次は……」

 そして、次の依頼を確認する。書かれている、次に俺が行くべき場所。
 その場所の名前は。

 『アルヴヘイム・オンライン』。通称、ALOと呼ばれる、妖精の国だった。


 ◆


 俺は……以前に少し言ったかもしれないが……高校時代、既にこっそりとちょっとしたバイトをしていた。そのバイトとは、『雑誌の投稿記者』……俗称で言うなら、ジャーナリスト、というものだった。といっても、報道会社に雇われている訳ではない。フリー、というわけだ。

 そこに至る過程は、ちょっと複雑だ。

 お節介な母さんは、俺のことを心配して、ちょっと常軌を逸した(……と今では分かるのだが、当時は必要なのだと幼い俺は信じ込んでいた)レベルで俺に語学教育を施した。日常会話は勿論、敬語やら文法表現やらレポートの書き方、果ては日本人でもどこまで理解しているか分からんような複雑な古典まで学ばされた俺は、学校でも国語は優良児だった。というか、中高の入試も、そして二年までの高校の授業でも国語で困ったことはない。

 それが高じて、中学時代から雑誌の読者からの投稿記事募集(ちなみにこの時は取材費という名目での賞金目当てだった)に頻繁に応募し、それが編集者の目に留まってバイトに誘われたのだ。「良ければ読者応募ではなく、正規の記者として定期的に記事を書かないか」と。

 まんまと俺はそれに乗って、まあ、高校生のバイトにしてはそこそこに稼いでいたというわけだ。

 SAOに囚われたことで、二年もの時間の経過でそのパイプは既に無い……というかその雑誌自体がまだ生き残っているか不安だった(失礼)ものの、恐る恐るその頃の連絡用アドレスに送ったメールはきちんと帰ってきた。返信では当時の俺の担当もまだ働いていること、そしてまた雇うかどうかに関しては一つ記事を読ませてもらって判断したいということを伝えられ……結果、俺は再び、記事を書くためにVRワールドへと旅立ったのだった。

 俺の書いていた記事は、主にネットゲームのレビュー、スクリーンショットだった。担当もどうやら俺からは若者の意見というものを聞きたいらしく、それを生かす上でネットゲームは都合がよく、SAOに行く以前にも幾つかのVRゲームを手掛けていた。今回の記事に使ったのは、往年の名作ゲームをモデルにした、赤い帽子をかぶって空飛ぶカメを踏みつけていく主人公になって跳躍するという、当時も販売されていたゲームの最新作だった。

 あっちの世界での『軽業(アクロバット)』スキルが生きたのか、超難易度と言われるそのステージを久しぶりのプレイであっさりとクリアしてしまって少々目立ったが、その世界観と懐かしさ、他には出来ないアングルから撮影したスクリーンショットを生かした記事はそこそこに受けたらしい。

 こうして俺は再びネットゲームのレビュアー…要するに、数多くのVRワールドを旅することを仕事とする様になった。そんな俺に、「アルヴヘイム・オンライン」という、あのSAOに劣らぬと謳われるゲームであるタイトルが勧められたのは、ある意味必然だったと言える。

 運命という名の、必然と。

 こうして俺は、その妖精の世界へと旅立つことになる。
 様々な思惑の渦巻く……そして、仮想でありながらも、真実を含む世界へと。

 
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