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気合と根性で生きる者

作者:康介
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第一話 箱庭召喚!

 
前書き
 初めまして。今回この二次創作を書こうと思いました康介と申します。

 大体一話平均1万~2万程度を目安にしているので更新速度は亀並かそれ以下になる可能性がありますが、それでも大丈夫! という方はここに留まってご愛読していただければと思います。

 また、最初の2600文字程度は今回のタイトルに関係ありの部分ではありますが、その大半は自論のため、もしかすると読者様のご気分を害される恐れがあるため、一応警告だけはさせていただきます。

 それでは、本文をどうぞ! 

 
 気合と根性。僕の唯一の取柄はそれだけだと僕自身が一番よく実感している。

 今までどれだけの事があっても、持ち前の気合と根性で解決出来なかった問題は無かった。故に、僕はいつも「気合と根性があれば何でもできる」と口癖のように言っていた。

 しかし、僕だって分かっていた。気合と根性だけでは、どうしようもない事態があることぐらい知っている。ただ、そういった場面に自分が直面したことが無いだけである。

 殴り合いの喧嘩だってしたことはあるが、気合と根性、つまり自分がどれだけボロボロになっても、ゾンビの様に何度も立ち上がって相手を殴り続けるという作業を繰り返すだけで、喧嘩相手や絡んできた奴を幾度となく撃退した。複数人で僕を拘束してきた相手には、火事場の馬鹿力というやつで対処した。

 喧嘩をしたことが無かった頃は、火事場の馬鹿力など嘘だと思っていたが、いざ直面してみればそれが本当だったことに気付いた。本当のピンチになれば、いつも脳が制御している力を解放するかの如く、必要最低限の力だけが湧き出てきた。

 結果、喧嘩で僕は大怪我をしたことはあれども、負けは無かったといっていい。いつも気絶する前に根性で立ち上がり、気合で相手を殴る。これをやるだけで勝利を掴めるのだから、思わず勝利を掴み取る安易さに苦笑したことさえある。

 しかし、これは僕にとっては普通のことでも、恐らく他の人にとっては普通ではないだろう。

 喧嘩をして殴られればそれは痛いし、その際に体力や気力も削られることだろう。痛いのは当然誰しもが嫌だ。もちろん、僕だって痛いのは嫌だ。痛いのが良いというのは、よっぽどのマゾの発言である。

 殴り合いの喧嘩などでは、少なからずそういった痛みが襲ってくるものだ。これが無いのは、よっぽどの強者や超人などといった、相手と歴然とした実力差を持っているものだけである。

 何が言いたいかといえば、喧嘩をすれば当然痛い。その痛みのせいで、普通の人は体力と気力を削られ、これ以上続けたくない、と無意識にでも思ってしまう。そんな無意識に思っていることが、体の行動を制限して、体力と気力を削ぎ、体を鈍化させる。体の動きが鈍化すれば、相手にまた殴られる。普通の人は、きっとこの悪循環に嵌ってしまい、喧嘩に負けてしまうのだろう。

 でも、僕は違った。確かに痛いのは嫌だと言ったけど、これ以上続けたくない、とは思わない。何故なら、そこで終わってしまえば、更に自分を痛めつける事になり、そして最終的に負けてしまうからだ。

 僕は更に自分を痛めつけるのが嫌で、負けてしまうのが嫌で――だからこそ喧嘩では痛いことなど考慮せず、ただ最後まで立ち、相手を倒す事だけに専念した。結果的に自分が傷ついてしまっても、絶対に負けたくはなかった。

 だから僕は、きっと負けず嫌いだったのだと思う。といっても、それは単に僕が負けだと思う事に対して負けたくなかっただけだ。勉強ではいつも凡々の成績であり、それで満足していたのがその証拠。生きる為の必要最低限の知識さえあればいい、などと思い、勉強を怠ったのだ。他人が聞けば、ただの負け犬の遠吠えであるが、僕は本気でそう思っていた。この世界はつまり、『人生という名の一つの道のりを最低限で歩き切った者が勝ち』だと思っていたから。

 だからこそ、僕は喧嘩で負けたくは無かった。喧嘩で負けると言うのはつまり、弱肉強食という、生命を維持する中で一番の恐怖に負ける可能性を残すという事だからだ。これを分かり易くいうのであれば、命を落とす危険性が増えるという意味だ。

 だからだろうか。僕はサバイバルの知識や雑学については、普通の人より多くのことを知っていたかもしれない。

 どんな状況下においても生き残る為に、なんとかそれなりの知識は身に付けようとしてのことだった。本当に生き残る為、それ以外に他意は無かったと思う。

 もともと、人間の知識などこの世の全ての十分の一にも満たないのかもしれないのだ。そんな不完全な知識を常識として教えるのは結構な事だ。そうでもしなければ、それは長続きせずに、歴史の書物の中に消えてしまい、後世に引き継がれなくなるのは目に見えている。だから、僕はそういった知識を常識として教えるのは正しいと思っている。

 しかし、それが一個人の単位になると、正直にいえば必要性に欠けてしまう。それに僕は後世に引き継ぐ為に知識を取りそろえている訳ではないのだ。生き残る為に、知識を取りそろえているのだ。

 よく取捨選択という四字熟語を見かけるが、僕はまさにそれを実行しているだけである。生き残る為だけの知識を取りそろえ、他は捨てる。知識は知っている分に損は無いが、学ぶ分には時間を失うというペナルティが発生する。

 そして、人生は有限だ。無限ならばいくらでも僕が知識を追求する。それはもう、果ての果てまで追求して、何も知ることが無くなるほどに追求しよう。探究心と好奇心はこれでもそれなりにある方だ。それくらい、僕にとっては苦にならない。

 しかし、これをやらないのはきっと――あぁ、なるほど。僕は見落としをしていた。最初に「気合と根性さえあれば何でも出来る」などと言ったが、今考えれば、身近にそれでは出来ない事があるじゃないか。知識という、無限を有限で探究しなければならないものが。

 ――だからかもしれない。だから僕は、勉強だけは負けてもいいと思ったのかもしれない。『人生という名の一つの道のりを最低限で歩き切った者が勝ち』などと思ったのかもしれない。

 喧嘩などの強さなど、所詮は生物というグループの中で限られており、底は見えている。人間にですら、底が見える程だ。だから僕は、喧嘩で負けるのが嫌だったのだろう。

 だけど、知識というものは人間では底が見えないのだ。だから僕は、底が見えないのを実感した瞬間に、諦めてしまった。本当に、僕は負け犬だ。これに関しては三下どころか、一部の他人から見れば侮蔑にあたるほどだ。難しい言葉を並べても、結局最後は諦めてしまっている。

 つまり、僕は『底が見えない無限に人生という有限で立ち向かうこと』に恐怖を覚え、『人生という名の一つの道のりを最低限で歩き切った者が勝ち』などという自論を立てて、現実逃避をしていたのだ。

 そしてその反面では、『生き残る為に必要最低限の取捨選択をする』などという最低値という限界を求めている。これは人生でたった一回しか試せない上に、最低値というものの底が見えないことだ。

 これはつまり、無限に対して有限で立ち向かうのと同じくらいに無謀なことだ。ただ、数値の桁が違うだけであり、その無数の選択肢に関しては大差がないことなのだ。

 最大限という無限を求めるのを諦めつつ、最低値という無限を追い求める。

 我ながら、これには自嘲してしまう。明らかな矛盾を抱えている事を、こんなところで気付かされるとは・・・・・・醜態もいいところだ。

 そんな矛盾を抱えている僕だからこそかもしれない。ある日、突然に不可思議な出来事が起こった。

 それは、僕が中学一年生の小寒の頃だったか。

 僕はいつも通り早起きをして、基礎体力を付ける為のトレーニングをしていた。伊達に生き残る為になどと言い訳をしておらず、それに最低限必要な体力を作ってはいた。

 トレーニングとは、主に腹筋や背筋、腕立て伏せとランニングのことだ。ランニングは軽く自分の家と正反対の駅まで往復をしていたので――距離に表すと往復およそ九㎞といったところだろう。

 そのランニングから帰宅して汗を流す為に風呂に入り、汗を流し終わったらいつもの如く朝ごはんを調理しようと思い、キッチンに入って卵焼きを作ろうとしたその時だった。

 不意に、火を掛けようとしたフライパンの中に、一通の手紙が舞い降りてきたのだ。

「――? フライパンの上に、手紙?」

 この光景はとてもシュールなものだった。何せ、まるで「私を焼いてください」と言うかの如く、フライパンの上に手紙がジャストで落ちてきたのだから、それはもう奇妙奇天烈極まりなかった。

 一瞬、手紙が本当にそう言っているのかと思い、ご希望に沿って油を引いて焼こうかとも思ったのだが――家が火事になるといけないので思いとどまった。

「えーっと、差出人不明の手紙?」

 右手に持ったサラダ油を一度置いて手紙を観察するが、差出人は一切分からなかった。しかし、確かにあて先は『古東(ことう)(まさる)殿へ』と達筆でそう書かれていた。これは疑いようもなく、僕に対する手紙だった。

 ここで無視してダストポイをするのもありだが、生憎そこまでの勇気は持ち合わせていない。もし、重要な手紙だった場合に「無視して捨てて、読んでいませんでした」などという事態になれば、非常に不味い状況になるのは目に見えている。

 手紙のサイズや厚さからして、恐らく朗読するのにそこまでの時間は要さないだろう。そう思い、彼は手紙の封を開けて中を拝見することにした。










『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる
 その才能を試すことを望むのならば、
 己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
 我らの〝箱庭〟に来られたし』










「――って、何処だよ此処!?」

 それは、手紙を読み切って瞬きをした次の瞬間の出来事だった。先ほどまで自宅に居た勝は、何故だか見知らぬ土地の空中へと放り出されていたのだ。

 勝はすぐに状況の判断をするために周りを見渡す。

視線の先には、地平線と誰が言っていたのかは分からないが、存在しない筈の世界の果てであろう断崖絶壁。

 眼下には、数々の巨大な天幕で覆われた、それこそ大陸以上の広さを誇るかもしれない超大型都市。

 彼の目の前に広がるのは、完全無欠の異世界だった。

「――もしかして、これってチュートリアルから死亡フラグの立つ鬼畜ゲーなわけですか?」

 思わずそんな言葉を発してしまうが、余裕があるという訳ではない。伊達に飛行機の墜落事故で無人島に着いてサバイバルをする、などという想定をした人生を送っていない為、スカイダイビングの経験はあるのだが、体感だけでも高度はおよそ4000mなどという着地した瞬間に人生がゲームオーバーする高さ。着地したが最後、恐らく自由落下で潰れたザクロの如き姿になるだろう。

 真下には湖があるのだが、この高度ではクッション代わりになどならない。逆に、今の速度で水面に落ちればそれはコンクリートの如き硬さだろう。

「――うん、無理。チュートリアルから回避不可能な死亡イベントとか、対処出来る訳ないだろコンチクショウ」

 これは死亡フラグではなく、死亡イベント。そうと決まれば腹を括るのが一番なのだが――生憎、気合と根性だけで生きてきた彼にとって、これもその領域で何とか出来る範囲だと考えたのか、突然、着用していた冬用のダボダボの部屋着を脱ぎ始めてそれを腕力で引き裂き、ギリギリまで伸ばし、正方形の形にしたかと思うとその両端を持ち、パラシュートの様にして穏やかな着地を試みたのだが――

 ――ビチッ、ビリィ!

 その落下速度と風圧に耐えきれなかったのか、難無く真っ二つに破れてしまった。

「・・・・・・ごめんなさい。気合と根性では、どうにもなりませんでした、御爺様」

 流石にこれ以上は打つ手がないのか、勝は死を覚悟しながらも、最後の悪あがきに足から着水しようと直立姿勢になるタイミングを見計らう。

「――・・・・・・今だ!」

 湖までまだ300mあるが、この際には余裕を少しでも持っていた方が良いと判断して、すぐに直立姿勢になる。そして着水すると同時に足に思いっきり力を入れるのだが――落下地点に用意してあった緩衝材のようなものに勢いを弱められ、水膜を幾重も通った後に湖へと投げ出された。

「・・・・・・ねぇ、僕の努力って、一体何だったの?」

 水面に背を向けて浮かびながら、乾いた笑い声を上げる勝。気合と根性で頑張った結果は、服を一枚失うというだけの空しい結果に終わってしまっては、このようになるのも無理はなかった。

 最後に溜息を吐くと、仕方がないと同時に無傷なだけ儲けものとポジティブに考え、陸地に上がると、そこには三人の先客が居た。

「し、信じられないわ! まさか問答無用で引き摺りこんだ挙句、空に放り出すなんて!」

 最初に言葉を発したのは、黒髪パッツン長髪をした自分より少し年上の少女。

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜコレ。石の中に呼び出された方がまだ親切だ」

 次に言葉を発したのは、ツンツンした金髪のヘッドホンを掛けた自分よりもそこそこ年上の男。

「・・・・・・。いえ、石の中に呼び出されては動けないでしょう?」

「俺は問題ない」

「そう。身勝手ね」

 最後に一言も喋ってはいないのだが、茶色い髪をしたショートヘアーの少女が居た。この少女も、自分と歳は一番近くはあるが年上だろうと、勝は思った。

 完全に置いてけぼりを食らい、途方に暮れる彼だが、とりあえず自分も他の三人同様、服が吸収した水を絞る事にする。一度脱いでから絞りたい気分ではあるのだが、生憎ここには女性が居る為、それをすることは出来なかった。

 絞り終わった後は、すぐに湖の水を掬って臭いを確認、同時に水質を目で確認して口に含む。

「・・・・・・多分、飲める水だよね?」

 水質調査や腹を下す水を飲んだ経験は乏しい為なんともいえないが、サバイバル初日から水源を確保できたのはラッキーだったといえる。

「で、そこで水を飲んでいる貴方は?」

 そんなことを考えていると、先ほどのパッツンの少女が話し掛けてきていた。恐らくこの問いかけは、自分の名前を聞いているものだと判断し、少しだけ考える様に間を開けて、口を開く。

「・・・・・・僕は古東勝っていいます。以後、お見知りおきを」

 何を考えていたかといえば、初対面の年上の相手に敬語を使うかどうかだ。相手はタメ語なので、普通に会話しようとも思ったのだが――流石に初対面な上に相手は年上のため、それは失礼だと思い、考えを改める事にした。

「そう。私は久遠飛鳥よ。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女は?」

「・・・・・・春日部耀。以下同文」

「そう。よろしく春日部さん。最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 心からケラケラ笑う金髪ヘッドホンの男、逆廻十六夜。

 傲慢そうに顔を背けるパッツン長髪少女こと久遠飛鳥。

 我関せず無関心を装うショートヘアーの少女こと春日部耀。

 今も尚周りを見回し、状況を確認しながら何かを考える眼鏡の少年こと古東勝。

 そんな彼らを物陰から見ていた黒ウサギは思う。

(うわぁ・・・・・・なんか、問題児ばっかりみたいですねえ・・・・・・)

 この物陰に隠れている黒ウサギこそ、今回の四人を召喚に加担した人物であり、彼らと会う為に待ち構えていた人物だった。










「・・・・・・ちなみに、皆に一つ。お腹は減っていたりしない?」

 勝からの突然の質問に、三人は「小腹くらいなら」と答える。それを聞いて、勝は一度頷いてから、ポケットに隠し持っていた折り畳みナイフの刃を出し、そしてそれを近くにあった物陰に投げつける。

「ひィッ!?」

「あれ・・・・・・? 人の声? おかしいな。確かにウサギか何か小動物だと思ったのに」

 怪訝そうな顔をする勝に、「やっぱりか」と言う飛鳥、耀、十六夜。そして、先ほど勝がナイフを投げた物陰から手を挙げて出てくる何とも奇妙な服装をしたウサ耳の少女。歳は、飛鳥より少し上、十六夜より少し下か同年代に見える。

「や、やだなあ御四人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギ死んじゃいますよ? ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便に御話を聞いていただけたら嬉しいでございますョ?」

「断る」

「却下」

「お断りします」

「今日の朝飯・・・・・・ウサギ肉かと思ったのに」

「あっは、取りつくシマもないですね♪ って、そこのお方はこの黒ウサギを食べようとしていたのですか!?」

 バンザーイ、と降参のポーズをとりながら驚愕する黒ウサギ。

 しかし、その眼は冷静に三人を値踏みしていた。

(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝気は買いです。・・・・・・この黒ウサギを食べようとして投げたあのナイフも、実に的確に、そして迅速に放っていましたし。まあ、扱いにくいのは難点ですけども)

 おどけつつも、四人にどう接するべきか冷静に考えを張り巡らせていると――不意に春日部耀が、根本から黒いウサ耳を鷲掴みにして――

「えい」

「フギャ!」

 力いっぱい引っ張った。

「ちょ、ちょっとお待ちを! 触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素的耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか!?」

「好奇心の成せる業」

「自由にも程があります!」

「へえ? このウサ耳って本物なのか?」

 今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。

「・・・・・・。じゃあ私も」

 何かに悩んだ末、飛鳥までもがその耳を引っ張る。

「ちょ、ちょっと待――!」

 最後に黒ウサギはSOSを求めて、ボサボサの黒髪の眼鏡を掛けた少年、勝の方を見るのだが――

「朝飯食ってないのに――ウサギ肉、取り損ねた。次からはもっと早く、体の中心部を狙った方が良いのかな?」

 こちらの様子など眼中にもなく、ただ自分のご飯の心配をしている様子で、黒ウサギは完全に無駄だと悟り諦める。

 それから数分後――言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。










 あれから小一時間してようやく黒ウサギは会話を再開した。

 重要部分を簡潔に纏めると、『ギフトゲーム』という金品・土地・利権・名誉・人間・ギフトを賭けて勝負する賭け事に参加させてあげる代わりに、うちのコミュニティに入ってね、というものだった。

 箱庭について説明するのであれば、『ギフトゲーム』に勝てる者は自然とこの世界で生き残っていけるシステムになっており、その『ギフトゲーム』にはちゃんとしたルールと色々な勝負方法があり、〝力〟〝知恵〟〝勇気〟などで勝負するのが王道であること。

 『ギフトゲーム』に勝利すれば景品は貰えるが、負ければ自分が賭けたものを失うこと。

 また、『ギフトゲーム』は他人へ強制することは出来ず、『ギフトゲーム』を強制する場合には〝主催者権限〟というものが必要だということ。『ギフトゲーム』を主宰する際には、商品や景品を用意することが必須事項であり、また、参加方法は基本的に自由参加ということ。

 また、『ギフトゲーム』で反則をした場合、ペナルティが与えられること。それは主催者側にも適用され、不正防止の意味合いもあって、黒ウサギのような、箱庭の創設者の眷属がギフトゲームの審判をすること。

 そしてこれは常識ではあるが、異世界だからといって法律が無いわけではなく、元の世界の刑事犯罪などは、この箱庭にも例外なく適用されていること。

 少し話しただけで、黒ウサギからだけでも、これだけ有力な情報を得る事が出来た。勝はそれを聞き耳立てて聞いていた程度ではあるが、大まかなことは理解することが出来た。

 三人の最後の――十六夜からの、「この世界は楽しいか?」という質問にも、黒ウサギは元気よく「YES!」と答えた。黒ウサギの名を使って保障したところを聞くに、どうやら、退屈するような世界でない事だけは確かだ。

 しかし、勝にとってそれは本当にどうでもいいことだった。楽しいとか、楽しくないとか、そういったものは二の次であり、今一番に知りたいことは別にあった。

「・・・・・・黒ウサギ、さんでいいのかな?」

「はい。どうかなされましたか?」

「――この世界は、その恩恵とやらがあれば・・・・・・無限を追求し続けることは可能だったりするのかな?」

「――? それは具体的に、どういった意味合いでしょうか?」

「・・・・・・いや、やっぱいい。今のことは忘れてほしいな。これは自分で確かめるべきことだから」

「?」

 黒ウサギは小首を傾げて疑問符を頭に浮かべているが、勝はその答えを聞きたく無かった為、自分から話を打ち切ることにした。

 何故なら、答えを聞いてしまえば、それが無理か可能かということが分かってしまうのだから。こういうことは、一生涯掛けてやるべきだと考えているからこそ、勝はその答えを聞かなかった。

「それでは、ここから少々歩きますが、我々のコミュニティに向かいましょう」

 凄くご機嫌な様子で、黒ウサギは森と森の間に出来ていた一本道を歩きはじめる。三人もここの地理には詳しく無い為、黒ウサギの後に続くことになったのだった――









 ――場所は箱庭二一〇五三八〇外門。ペリベッド通り・噴水広場前。

「あ、ジン坊ちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」

 ジンと呼ばれたダボダボのローブを着た少年がハッと顔を上げると、そこには良く見知った黒ウサギの顔と、見知らぬ三人の顔が見受けられた。

「お帰り、黒ウサギ。そちらの三人が?」

「はいな、こちらの御四人様が――」

 クルリと振り返る黒ウサギ。

 それと同時に、カチンと固まる黒ウサギ。

「え、あれ? もう一人いませんでしたっけ? ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から〝俺問題児!〟ってオーラを放っている殿方が」

「ああ、十六夜君のこと? 彼なら〝ちょっと世界の果てを見てくるぜ!〟と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」

 飛鳥があっちの方に、と指をさすのは高度4000mから落ちた時に見えた断崖絶壁の方向だった。

 街道の真ん中でしばしフリーズする黒ウサギだが、すぐに正気に戻りウサ耳を逆立てて三人に問いただす。

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

「〝止めてくれるなよ〟と言われたもの」

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

「〝黒ウサギには言うなよ〟と言われたから」

「嘘です! 絶対嘘です! 実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

「「うん」」

 飛鳥と耀の息の合った答えに、黒ウサギは項垂れてしまう。そして最後の砦と思い、もう一人の勝に目を向けてみるが――

「――? 考え事をしていて、今まで何も気付いていませんでした。申し訳ありません」

 一瞬で陥落してしまった。黒ウサギはショックでガクリと前のめりに倒れる。

「一応お気持ちはお察ししますが、あの程度の猛獣ならさほど害はないでしょう。少なくとも、命の危険なんてありませんよ」

 全然お察しなど出来ていないのだが、今は「あの程度」という言葉が気になって思わず黒ウサギは顔を上げて勝の方を見てしまう。

「あの程度の猛獣っていうのは気になりますが、〝世界の果て〟にはギフトゲームの為に野放しにされた幻獣が」

「幻獣?」

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に〝世界の果て〟付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ちできません!」

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

「ゲーム参加前にゲームオーバー? ・・・・・・・・・・・・斬新?」

「冗談を言っている場合では――」

「一つお訊きしたいのですが」

「あ、はい。どうぞ」

 勝に質問をされたのに驚いて冷静になったのか、ジンからは先ほどの動揺が嘘みたいに消し飛んでいた。

「もしかして、ここで狩猟したら不味かったのでしょうか?」

「「え、狩猟?」」

 ジンと黒ウサギの声が重なる。それと同時に、先ほどまで持ってなかったように思える自身の体よりも大きな包みを何処からともなく取出し、そしてその包みを外して中身を見せた。

「いやぁ、実はお腹が減り過ぎていて、黒ウサギさんも弄り回されているものだから、ついつい暇になってそこら辺を歩いていると、ちょうどいい食料だと思い思わず狩ってしまったのですが・・・・・・あ、ちゃんと麻酔使って眠らせているので、まだ殺してはいませんよ?」

 その中身とは、かの有名な一角獣とほぼ同類の二角獣――バイコーンだった。

「――ッ! 何でバイコーンなんて見つけて、しかも狩猟するんですかッ!」

「美味しそうだったから。馬肉って、本当にいい食材なんですよ!」

「そういう問題ではありません!!」

「あ、あとこっちにも――」

「まだあるんですか!?」

 驚愕もいいところであった。まさか、このジンとほとんど背丈の変わらない眼鏡の少年が、ここまで武闘派だとは思わなかった黒ウサギとジン。そして飛鳥と耀も驚きを隠せないでいた。

「これと、これと――あと、これが一番の大物です!」

 一つ目は、先ほどのバイコーンの体型に勝るとも劣らない白い虎が包まれていた。バイコーンと同様に寝息を立てているという事は、恐らく眠っているだけなのだろう。

 二つ目は、黒い犬――ヘルハウンドだった。こちらも寝ているだけではあるが、あの白い虎同様、相当の強さだったに違いはない。一体どうやって捕まえたのか、まったくの謎である。

 そして最後の得物は――想像を絶する大きさだった。黒ウサギの身長の1,5倍はあるだろう巨大な体躯。恐らく、これだけは布で包めなくてこの状態にしたのだろう。

 ジンと黒ウサギのコミュニティに関しては、とても喜ばしい事態ではあった。これほど巨大な、その上有名な幻獣を捕らえてくるなど、文句を付ける余地は何処にもなかった。

 しかし、問題は別にあるのだ。その捕まえたものがおかしいのだ。

 通常、人間は神格を持つ者には勝てない。こんなことは常識として知られていることである。どんな者であろうと、例外はないといっていいただろう。

 しかし今目の前で、その例外は起こっていた。

 彼が一番の大物と見せているのは――神格を持っているであろう、北米神話に出てくる番犬・・・・・・ガルムだったのだ。

「――なんで、なんでこんなところに」

「えーっと、一応訊きますけど、食べちゃダメですよね?」

「当たり前でしょう!?」

 黒ウサギの言っていることが正論なだけに、勝はショボーンという音が聞こえてきそうな程目に見えてガッカリする。

 そして、食べちゃダメなのが分かった途端に、恐らくもう必要がないと見たのだろう。勝はその動物たちの頬をペチペチと叩いて起こし、起こしたところでナイフをチラつかせ笑顔でその動物たちの顔を見ていると、動物たちは起きた順に我先にと逃げ去って行った。

「「「「・・・・・・」」」」

 傍から見ていて、この少年は悪魔だと四人は確信した。ただナイフ一本をチラつかせただけで幻獣を怯えさせるなど、よほどの事が無い限りは有り得ないことである。きっと、四人の見ていない間に酷い目に遭ったのだろう。思わず逃げて行った幻獣たちに同情の視線を向けるのは、仕方のない事だった。

「あ、そういえば気になっていたのですが――十六夜さん、追わなくていいんですか?」

 あっ、と小さく声を上げる黒ウサギ。そして十六夜が何をしたのか思い出したのか、今更になってプルプルと怒りで肩を震わせ、艶のある長い黒髪を緋色に染め上げる。まるで、今の彼女の怒りを表しているかのように、その髪は赤かった。

「一刻程で戻ります! 皆さんはゆっくりと箱庭ライフを御堪能ございませ!」

 一度軽く跳躍して(それでも化け物じみた跳躍力だが)外壁を足場にすると同時に、黒ウサギは弾丸のように加速して、あっという間に四人の視界から姿を消していた。

『貴様に、我が主催するゲームの挑戦権をやろう』

 代わりに、今さっき目を覚ましたガルムが勝から少し距離を置いた真正面に立って、こちらを優雅に見ていた。声が誰から発せられたのか最初は分からなかったが、状況から考えて目の前の巨大犬ことガルムが発したものとしか考えられなかった。

「確認の為に訊きますが、ガルムの貴方がこの声を発しているので?」

『如何にも。我がゲームをクリアすれば、それ相応の恩恵を与えよう。さぁ、どうする?』

「だ、ダメですよ! ガルムは明らかに神格持ちで、更に凶悪な獣です! 下手をすれば、命を落とすことだって――」

「申し訳ありませんが、僕は元より、ゲームに参加する意思はありませんので。折角のお誘いですが、謹んでお断りさせていただきます」

 ジンの言葉を遮って、勝は自分の意見を言い放つ。それを聞いたガルムは虚を突かれた様に一瞬だけ固まるが、すぐに先ほどと同じ状態に戻り、怒気を漂わせながら言い放つ。

『何故ゲームを受けない? このゲームには命を落とすリスクは無い。しかし、クリアすればそれに対して破格の恩恵を受ける事が出来るのだぞ?』

「生憎ですが、僕は自ら怪我をするかもしれないリスクを背負ってまで、必要のないものを得ようなどとは思いません」

『ぐ・・・・・・うぅ』

「ご用件が御済みでしたら、僕たちはこれで失礼させていただきます」

 言い終わると同時に、彼は箱庭の外壁を潜ってその内へと入っていく。飛鳥、耀、ジンは少しばかりガルムの様子を見て、すぐに勝の後を追うのだった――

 
 

 
後書き
 最初の一話目はどうだったでしょうか? もし、最初の2600文字の自論でご気分を害されたというのであれば、誠心誠意を持って、この場をお借りして謝罪をさせていただきます。

 最初の2600文字でご気分を害された方々、本当に申し訳ありませんでした!!

 恐らくこういった長文の自論はこれ以降出さない予定なので、もしよろしければ、この小説のご愛読の方をよろしくお願いいたします。

 また、感想、ご指摘など、心よりお待ちしております!

 それでは、失礼いたします。

 ギフトゲームについて、一部誤りがあったので、訂正をいたしました。5/3 
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