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東方リリカル戦記

作者:雪風冬人
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第二話「運命の出逢い」

 
前書き
 前回のあらすじ

・『異変』が起こるぞ!→じゃあ、悠の出番だ!→現場へレッツゴー!

・おのれ、スキマとその他諸々!この恨み、忘れるものかー!!
 

 
 どこまでも続く澄み渡った晴天の空。その空に、スキマが開き、何かを放り出して消えた。

「うそーん」

 放り出された何か、悠はスキマから出た直後、目にした光景に思わず言葉を失った。
 なぜなら、スキマから出た場所、それが空中だったからだ。このまま地上まで行けば、確実にお花畑の向こうで鎌を持った昼寝している巨乳の赤毛のお姉さんがいる川岸に直行なのは確実だろう。
 ゲームが始まる前にゲームオーバー、なんて斬新なんだろう。
 現実逃避をしていると。

バッシャァァァン!!

 水しぶきが盛大に上がり、着ていた服が張り付く感触を感じながら、悠は周りを見渡す。
 見えたのは、噴水と思わず見惚れる程丁寧に整備された庭園だった。

「兄様、大丈夫?」

 さらにもう一つ、『古明地こいし』がいた。

「服が濡れただけだから大丈夫だが、いつからいた?というか、何で付いて来た?」

落下したのは噴水の中から出て、濡れた服を絞る。

「兄様が鈴奈庵 に入った時からいたよ。付いて来たのは、無意識で」
「そうか。無意識なら仕方ないな」
「うん。仕方ないよ」

 可愛らしく頭を縦に振るこいしだが、悠はその頭に拳骨を下した。

「な、わけあるか!!」
「あいたぁ!!」

 こいしが頭を押さえている間に、悠は噴水から抜け出す。
 すると、こいしが悠にススッと這い寄ってきた。

「ねえ、ずぶ濡れになっちゃったね、兄様」
「そうだな」

カチャカチャ

「服乾かさないと風邪引いちゃうね」
「そうだな」

スススッ

「じゃ、いいよね?」
「あかんに決まってるだろ」

ゴチィィィン!!

再び悠の拳骨がこいしの頭に降りて良い音が響く。

「勝手に人の服を脱がすな。お前も脱ぐな」
「ブー。なんでさ?」
「見た目幼女なお前さんを、俺が襲っているように見えるからだ。社会の目は厳しいからな」

 悠は脱がされそうになった服を整えながら、こいしをたしなめる。
 一方、こいしは抗議をするものの素直に聞き入れ、自分の脱ぎ掛けていた服を元に戻す。
 ちなみに両者共、すでに服は乾いている。
 身繕いが終了し、さあ移動しようか、としたその矢先に……。

「お前たちを不法侵入で拘束する」
「大人しくすれば、危害は加えませんよ」
「さあ、我々と共に来てもらおうか」

 いつの間にか、ざっと見たところ、十人程の武装した神父やシスターっぽい人達に囲まれていた。

「さて、話してもらうで。君達は何者や?」
「それと、どうやってこの教会に侵入してきたのです?」

 どっかの役人のような制服を着た茶髪の少女と、シスターのような恰好の亜麻色の髪の少女が前に出てくる。

「イッツア、ピーンチだな」
「私、ピッツァを食べたくなってきたよ」

 ぐ~、とこいしが器用にお腹の虫を鳴らすが、誰も反応しない。
 悠が何か言おうと口を開いた時、ソレは起こった。

ドッガアアァァァン!!

 突如爆音が響き、教会らしき建物の一部が崩れ、煙が上がる。

「な、なんや!?何が起きた!?」
「クッ!この方たちは囮!?」
「ふむ。なるほどなるほど。また、始まるのか」
「正直、スキマの言葉だったから眉唾物と考えていたね」

 慌てるシスター達とは対照的に、悠とこいしは冷静に分析する。

「クッ!行くでカリム!」
「はい!行きましょう、はやて!シャッハも、皆さんも行きますよ!!」
「御意、騎士カリム!」

 カリム、はやて、シャッハと呼ばれた三人は駆け出そうとするが、その腕を周りにいた神父やシスター達に掴まれる。

「な、何をするんや!?」

 三人は腕を振りほどこうとするが、一向に腕は離れる気配は見せない。

「残念ながら、行くことはできません」
「なぜなら、ここで貴方達は死ぬからです」
「さあ、絶望しろ」

 周りにいた人が全て、昆虫や幻想の生物に似た体躯へと変貌する。
 そして、教会の方からもコウモリと蜘蛛をモチーフにしたような怪人が現れた。

「ワームにファントムか。向こうにいるのはスパイダーとバットドーパントだな」
「『遊戯』の余興といったところかな?悠!」
「オーライ」
「「ドオゥリャア!!」」

 三人を拘束していた怪人に、悠とこいしは飛び蹴りを叩き込む。
 悠とこいしを眼中になかった怪人は、完全に虚を突かれて腕を放す。

「さて、こいつらは俺達の獲物だ」
「邪魔しないで、ジッとしていてね」

 いつの間にか、こいしの身長が悠と同等の高さとなり、二人の手にはスペルカードが握られていた。
 はやて達が何か言おうとしたが、それより早く、二人は宣言した。

「我こそは『切り札/アルカナ』の『番外』、鹿狩悠」
「我こそは『地霊』の『Extra』、古明地こいし」
「「今ここに、我ら『幻想』が『道化師』の庇護の元、『遊戯』に参加することを宣言する!!」」

 掲げられたスペルカードから、純白の光が放たれ人間だろうが、怪人だろうが関係なく目を背ける。

―Spell Card! Stand By!―

「仮面符『世界の破壊者』」
「仮面符『黒き太陽の覇者』」

 二人の腰には、それぞれ意匠が異なったベルトが巻かれる。
 そして、悠は一枚のカードを、こいしは黒いカブトムシをベルトに装填した。

「「変身!!」」

〈KAMEN RIDE! ディケイド!〉
〈HENSHIN!〉

二人の姿は異形の戦士、世界を渡り守るために破壊する、仮面ライダーディケイド、太陽によって生まれた影、仮面ライダーダークカブトへと変わった。
 二人の姿や急展開する状況にはやて達は、我を忘れて魅入る。


さかのぼる事、数分前。

色とりどりの花が咲き誇る庭園の一画、そこに白い円形のテーブルを挟んで座っている二人の少女と片方の少女の傍らに立ち少女、計三人の少女がいた。
 テーブルには本が広げられ、そこにはこう記されていた。

『東洋の紅き宝石は砕け

金色の女王は秘められた鱗片と共に混沌の淵へ誘われ

創造の前奏曲(プレリュート)が奏でられる』

「あ、すみません。これ、私の昨日の夕飯の予言でした」
「ちょ、待てえな!」

 茶髪のショートの女性、魔導騎士とも呼ばれる八神はやてが相方の少女の天然さにツッコミを入れる。

「重要な話があるって聞いて来たのに、昨日の夕飯の内容の予言を見せられるとは何事やねん!ってか、予言が俗っぽすぎるわ!」
「ちなみに、カレーでした。東洋の紅き宝石が人参、金色の女王がジャガイモ、秘められた鱗片が玉ねぎのことを指してました」

 激昂しているはやてに対して、飄々とした笑みを浮かべてのほほんと対応しているのは、聖王教会の教会騎士団所属の騎士にして、はやての姉的な存在でもあるカリム・グラシエである。

「いい加減せえや、カリム!中二病か、その予言!?」
「まあ、落ち着てください、はやて。それより、機動六課の方はどうですか?」

 はやてを諌めたのは、このカリムの傍らに立つ、護衛を務めるシャッハ・ヌエラだった。

「ぜーはーぜーはー。取り乱してすまへんな。JS事件以降は、滅多なことは起きてへんよ」
「そうかい。それは良かったのですが……」

 はやての答に、カリムとシャッハは顔を曇らせ、はやては何か伝えにくいことがあるのでは、と推測した。

「どうかしたん、カリム?まさか、重要な話ってやつかいな?」

 はやては二人の表情が硬くなったことから、自分の推測は正しかったと判断する。
 カリムは一冊の重厚な装丁の本を取り出した。

「その通りです。実は、JS事件を指していた予言に続きがあったのです。それが、これです」

 本を開くと、ページが一枚一枚外れて宙を舞う。
 カリムの操作で、必要な部分のページがはやての目の前に集まる。

『古い結晶と無限の欲望が集い交わる地、死せる王の下、聖地よりかの翼が蘇る。

 死者達が踊り、なかつ大地の法の塔はむなしく焼け落ち、

 それを先駆けに数多の海を守る法の船もくだけ落ちる』

「これが、JS事件の予言やったよね?続きっちゅうのは?」

 JS事件とは、アルハザードの遺児たるジェイル・スカリエッシュらがロストギアを使って引き起こした事件のことである。
 ある意味、機動六課はこの事件を解決するために、創設されたとも言えるかもしれない。
 この事件を解決した、八神はやてが率いる機動六課は『奇跡の部隊』と呼称されている。

「これです」

 カリムが指したページをはやてが読むと、そこには、

『大地の法の塔、数多の海を守る法の船が崩れた地に、救済の使者が舞い降りる。

 魔導の力を持つ者は、彼の者を崇め讃え拝めるであろう。

 さすれば、真の平穏が世界に訪れよう』

と、記されていた。

「なんやねん、これは……」

 カリムの予言は暗喩となっていて、解釈の仕方は千差万別。その事実を知っているはやてだが、思わず声をあげずにはいられなかった。
 それほど、予言から終わったと思っていた事件が、まだ終わっていないことを知らされたのショックだったのだろう。

「おそらくですが、ここミッドチルダを指しているのでしょう。地上本部や管理局は、先の事件でてんてこ舞いですからね。救済の使者とは、読んで字の如く何かの災厄から救ってくれる存在を表していると考えられますが、よくは分かりません。魔導の力を持つ者、これは魔導師のことでしょうね。彼の者が何かは分かりませんが、教祖みたいな感じだと思われます。そして、最後の行ですが、これも平和な世界が訪れると言っているのではないかと考えています」

 カリムが語る予言の解釈の危機感に、はやては我知らず手に握ったカップに力を入れてしまい、紅茶をこぼしそうになる。

「それで、まだ試験運用期間である機動六課に、この案件に警戒してもらいたいのです。ロストロギアに関係するかもしれませんし、近頃、物騒な事件も頻発しているでしょう?」
「ああ、不可能犯罪やな。一般人では不可能な殺人で、魔力の痕跡の見当たらひんから、魔導師でもない事件やな」

 カリムの言葉に、はやては自身が記憶している事件を思い浮かべる。
 曰く、陸地で近くに水もないのに溺死、人体が突然発火しての焼死、行方不明となった犠牲者が行方不明になった場所から遠方の地で凍死した事件などなど。

「それとですね、管理局に新たに不可能犯罪の対策専門の機動零課が設立されたそうなんです」
「なんやそれ!?聞いてへんで!」

 はやては一部隊の隊長であるという身分にも関わらず、自分でも初耳な情報に驚きを隠せず、大きな声を出してしまう。

「私やカリムも詳しく知らないんです。それに、零課の場所すら分かっていない。つまり、あくまで噂なんですよ」
「ですから、警戒しておくことしか言えないのです」
「分かったわ。六課の方でも話とく」

 カリムとシャッハの申し訳なさそうな顔から、戸惑っているのは自分だけでないことに気づき、気持ちを落ち着かせる。

「そういえば、六課の中の食堂が変わったそうですね」

 暗い空気を飛ばそうと、カリムは話題を変える。

「そうなんや。何でも前の担当者が急に倒れてもうてな。確か、秘封倶楽部っちゅう名前の店が入ることになったんや」
「へえ。おいしい料理が出るのなら、一度行ってみたいですね」
「スタッフの人は、いつ来るのですか?」
「確か、今日やったな」
「そうですか。楽しみですね」
「ほんまやな」

 さきほどのまでの話題を忘れ、この後のお茶会はこれからできる新しい食堂の話題へと変わった。 
 その時だった。

バッシャァァァン!!
何かが噴水に落ちた音が三人の耳に聴こえた。

「行ってみましょう!」

 カリムの言葉に、はやてとシャッハは頷き、音の発生源に向かった。
 そして現在、彼女らの前には二人の戦士が怪人から守るように立っていた。

「なんや、アレ?」
「バリアジャケット?しかし、魔力は感じられません」
「まさか、ロストロギア!?」
「否定。アレは人間が生み出した『希望』です」
「「「ぬうわああぁぁあああ!!」」」

 自分達のそばに、音もなく一人の黒い三角帽を深く被り、いかにも魔法使いです、といった服装で、手には木で出来た等身大の杖を持った、声音から少女と判断した人物の登場に驚く。

「初めまして、参加者の皆々様。知っている方とそうでない方、吾輩の名はジャッジ。怠惰なる神の『遊戯』の審判を務めさせていただきます」

 ジャッジは恭しく頭を垂れた後、杖を揺らす。
 すると、先端に取り付けられた天秤が揺れ、シャラン、と甲高い音が鳴る。

「今ここに、『遊戯』に『幻想』の参加を認めましょう。よって、『遊戯』を開始いたします!」

 高らかに謳うように告げるジャッジの言葉に、はやて達は茫然とする。
 彼女らはこの時、予想だにしていなかった。これから巻き起こる災厄で、自分たちの常識が通じないことを。
 かくして、これが『魔法』と『幻想』が運命の出逢いを果たし、暇を持て余した神の『遊戯』が開始した瞬間であった。
 
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