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東方リリカル戦記

作者:雪風冬人
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第三話「遊戯 ~kill time~」

麗らかな日和の中、その気候に合わない光景があった。
昆虫のような容姿で全身緑の怪人ワームのサナギ体が八体、ミノタロスやトカゲ人間のような幻想の生物の怪人ファントムが二体、蝙蝠と蜘蛛のような容姿の地球の記憶で変貌したドーパントが二体いた。
 そして、怪人に囲まれたシスターのような服装の二人の少女、役人のような服装の少女が一人、黒い三角帽を被った少女と、彼女らを守るように対峙する二人の戦士がいた。

「往くぞ、こいし」
「お任せあれ、兄様」

 仮面ライダーディケイドに変身した悠は、ベルトにカードを装填する。

〈KAMEN RIDE! ファイズ!〉

「変わった!?」
「五月蝿いです」

 驚きの声を上げることしかできていないカリム達に、ジャッジが黙らせる。
 それに対し、はやて達は抗議する。

「五月蝿いとは、失敬やな」
「では言い換えましょう。吾輩が彼等を鑑賞する至福の時間の邪魔であると」
「ええい、欲望ダダ漏れやないか!あの怪人共は何や!?あんた、何か知ってるんか?」
「それに、彼等は何者ですか?」

 矢継ぎ早に質問するはやて達を、ジャッジは帽子の縁から呆れた表情、いわゆるジト目を覗かせた。

「言った筈です。『希望』だと」
「そこをもっと詳しく」
「めんど……、今はまだ語る刻ではありません」
「今、めんどうだとか言いかけませんでした!?」
「おや、決着が着きそうですね」

 露骨に話を逸らしたジャッジに呆れながらも、はやて達が視線を向けると、背中を合わせ怪人達に囲まれて見るからにピンチな悠とこいしがいた。

「あかん!助けに行かんと!」
「ええ!!」
「必要ありませんよ」

 駆け出そうとするはやて達をジャッジは押し止める。

「付き合ってよ、兄様!!」
「いいぞ、十秒間だけな!」
「じゃあ、じっくり堪能しないとね!キャストオフ!」

〈FORM RIDE! ファイズ!アクセル!〉
〈cast off!〉

 Dファイズの胸部の装甲が開いて内部の機構が露出し、ダークカブトのアーマーが弾け飛ぶと黒いカブトムシに近いアーマーに変わる。

「な、何が起こるんや!?」
「見ていれば分かりますよ。光速のvisionに付いて来れたらですが」

 はやてに言葉を返すと、ジャッジはウンメイノーと口ずさみ始める。

「遅れるなよ」
「当然!クロックアップ!」

〈start up!〉
〈clock up!〉

 二人の姿が消えたのを認識した瞬間、ドーパント以外の怪人の頭上に紅い円錐が現れた。

「フィナーレですね」

〈FAINAL ATTACK RIDE! ファ・ファ・ファ・ファイズ!〉
〈1・2・3!rider kick!〉

 ジャッジの言葉通り、紅い円錐が怪人の体を貫いてΦの記号が浮かび、紫電が走ると爆発した。

〈time up!〉
〈clock over !〉

 爆発が収まると、その熱風を受けながら、悠とこいしの姿が見えた。
 残る怪人は、二体のドーパントのみとなった。

「そ、そんな馬鹿な!」
「『神』に選ばれた我々が人間如きに負けるなど!!」
「あまり人間をナメるなよ」
「最も、私達は人間じゃないけど」

〈FAINAL ATTACK RIDE! 〉
〈1!2!〉

 ディケイドの姿に戻った悠はカードを装填し、ライドブッカーをソードモードにして構える。
 こいしは、飛び掛かってきたバットドーパントに拳を握り、腰を低くして構える。

〈ディ・ディ・ディ・ディケイド!〉
〈rider punch!〉

 スパイダードーパントは突進しようとしたが、展開したホログラムのカードに弾かれて怯み、その隙を逃さず悠は十枚のホログラムのカードを駆け抜ける。
 こいしは、バットドーパントの音波を首を傾けることで避け、腕を振り下ろされるより早く自身の拳を腹に目掛けて突き出す。

「せい!」
「やー!」

 悠がすれ違いざまにスパイダードーパントの体を斬り付け、こいしはバットドーパントを殴った勢いを止めずに吹き飛ばす。

「「グアアアァァアアア!!」」

爆発が起こると、ドーパントの体からUSBメモリのような端末が排出され、砕け散った。

「グフッ」
「クソッ」

 ドーパントに変身していた神父とシスターが倒れ込む。

「さて、キリキリ吐いてもらおうか」
「メモリを渡した人物は?親玉の名は?」

「そ、それは」

〈Weather!〉

「いけませんねぇ。敗れたプレイヤーは、退場してもらわねば」

 尋問しようとした矢先、神父とシスターの体が一瞬で凍りつき、呆気なく砕けた。
 その現象を起こした当人、ウェザードーパントはクツクツと愉快そうに笑う。

「ああ、これはこれは始めまして、『幻想』におわす方々。外つ世界へようこそ。私は、グレートショッカーの暗黒大将軍の一柱、ウェザーでございます」

 悠達の姿を見ると、ウェザードーパントは大仰にお辞儀をする。

「お招きいただきありがとう。『鷲』はどこだ?」
「そう急かすものではありません。まだ『遊戯』は始まったばかり」
「だったら、聞き出すまで!」

 駆け出すこいしをジャッジが、アーマーの襟の部分を掴んで止める。

「落ち着いてください。貴方達がここに来た本来の理由は何です?」
「何って、職場異動でしょ」
「肯定。つまるところ、ここで『遊戯』に巻き込まれたのは偶然」
「なるほど。向こうが突っかかって来ないのならば、戦う必要はないってことか」

 ジャッジの言葉に、悠はなるほど、と頷く。

「おやおや、てっきり尋問にでも来ると思っていましたが?」
「勝手に勘違いしてただけだろ」

 さっさと消えろ、と意味を込めながらシッシと手を振る。
 ウェザーは突風を巻き起こし、悠達が目を開けた時にはすでに姿を消していた。

「で、本音は?」

 ウェザーが消えたのを確認したこいしは、振り返って悠に尋ねる。

「戦うなんてチョーめんどくさい」
「うん。いつもの兄様だ」
「ああ!それでこそ、吾輩が生涯を捧げると想わせるほどに愛しい恋しいマイダーリンDEATH!!」
「相変わらずだな、ジャッジ。あと、俺はお前の夫じゃないから」

 ライドブッカーの柄で額をグリグリ押しながら、抱き着こうとするジャッジを阻止する悠。切っ先を向けないのは、彼なりの優しさである。

「イタタタ。積もる話もありますので、行きましょうか」
「どこへ?」
「機動零課、貴方達の職場です」

 赤くなった額を抑えながらジャッジが手をかざすと、灰色のオーロラが降りてきた。
 そのオーロラへ、一歩足を踏み出す。

「待ってえな!!あんたらは一体何者なんや!?」
「教えてください!」
「あの怪人の事も!!」

 はやて達の叫びに、悠達三人は足を止めて振り返る。

「知らない方がいいよ」
「肯定。無知こそが、人の幸せです」
「そういうことだ。世界には、識るべきでないこともあるんだよ、人間」

 見た者を例外無く鳥肌を立たせるような冷たい視線と、感情をかんじさせない声音にはやて達は立ちすくしてしまう。

「ばいばいき~ん」
「では、また」
「うおい!それっぽいフラグを建てるな、ジャッジ」

 三人がオーロラの中に消えるとオーロラも消え、後に残ったのは怪人達によって破壊された痕跡と深まる謎に頭を抱える少女達であった。
 
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