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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第5話 中ビリビリ


土曜日の午後、牧石はマンションの近くにある公園にいた。

公園は、家が2、3軒ほど入る程度のスペースで、遊具と言えば、砂場とシーソーが1台のみ。
あとは、ベンチが2台と、水飲み場が1つあるだけで、トイレは設置されていなかった。

この公園の入り口は一箇所しかなく、普段からあまり人気がないところである。
そのような場所で牧石は、炊事に使うような透明なビニールの手袋を両手に装着して、砂場に立っていた。

「いろいろ考えたが、やっぱり、小さなことからこつこつと、だな」
牧石は、ぶつぶつとつぶやきながら、ポケットから金属性のスプリングのような物体を取り出す。
取り出された金属の両端に、左右の手を当てながら、地面にある砂に向かって、能力を使用した。



牧石が、気絶から回復したとき、最初に考えたのは「調子に乗りすぎた」ということだった。
最初から、力の加減をせずに能力を使用しようと考えたため、制御を誤って自分の体内にも電力が流れて気絶したようだ。

気絶したため、発動した能力も途絶えたようで、幸い身体への後遺症も残らなかったようだ。
もっとも、担任である高野から食らった説教は、牧石にとって後遺症が残るほど精神的なダメージを受けるものだった。


牧石は、学校を出てから、今後の訓練方法について考えた。
課題は、電気関係の力を使用する上で、自分に被害が及ばない方法について確立するのは重要なことである。

牧石はこれまで、精神的な能力を中心に取得していたが、電気を操るという物理的な力を制御するのは初めてだった。

もし牧石がレベル1から、スプーン曲げのように、ゆっくりと電気の能力を制御していたとしたら、問題はなかっただろう。

だが、電気の制御という、新しい能力を使用する時に、レベル5という高い威力で能力を発露することにより、自爆を招いた。

そのため、早急に制御能力を向上させる方法を考えた。
それが牧石が、砂場で手袋をしながら能力を発動することにつながっている。



牧石は、ほんの少しだけ力を込めて電気をあやつる。
その力により、牧石の目の前で、小さなスプリングが光っていた。
牧石は、スプリングの両端を持ち電力を流すことで、スプリングに電磁石のコイルの役割を与えている。

本来、電気を通してもスプリングが光ることは無いため、牧石は余分な力が生じたと思い能力を調整する。
牧石は、一度電池を用いて状況を確認しているので、そのときのイメージを再現することに努める。

スプリングを砂場の近くに近づけると、砂が突然隆起する。
隆起した、砂の中から、黒い固まりのようなものが少しずつスプリングに吸いついてゆく。

黒い固まりは、電磁石になったスプリングにくっついた砂鉄である。
牧石は、スプリングにある程度砂鉄が吸着したのを確認すると、能力を解除する。
すると、先ほどまでスプリングについていた砂鉄は、砂の上に落ちてゆく。

牧石は、この訓練をしばらく繰り返した。

「ねえ、お兄ちゃん。
何やっているの?」
「ぼくたち、すなやま、つくるの。
じゃまだよ」
「おにいちゃんも、いっしょに砂山つくる?」
「・・・・・・邪魔したな」
近所の子どもたちに話しかけられるまで。



一週間後、牧石は、再び砂場に来ていた。
今日の牧石は、透明なビニールの手袋を身につけていたが、コイルの代わりとなるスプリングは持ってきていなかった。

「昨日までの訓練の成果を確認するか」
牧石は、目を閉じて精神を集中すると、目の前にスプリングが存在するようにイメージする。
そのイメージを確立した後、少しずつ電力を、頭の中に思い描いたスプリングへと流し込む。

牧石が、目を開けると、小さな光の線が現れる。
牧石が思い描いたような、電流の流れが出来ていた。

牧石は、昨日まで毎日イメージトレーニングを続けてきたことによる成果である。
小さな、光の線に砂鉄が集まってくる。
「金属がなくてもできるとは、……」
牧石は、上手くいったことを確認すると、今度はコイルの形状を変化してみた。

コイルの形状が変化したことで、その磁力線により集まる砂鉄の量や形が変化していく。

ちなみに、コイルの両端は一つの光の線でつなげている。
特訓により、牧石が直接ふれなくても能力が発動できるようになっている。

ちなみに特訓は夜の公園で行っていた。
当初は、訓練室で行おうと思ったが、先日気絶したことで、当面許可が下りなかった。

また、学校にも砂場があるが、陸上部が部活で使用することと、練習内容がもう一人の牧石に知られることを恐れたことも原因である。


牧石が、星形を作っていると、一人の女性が牧石に声をかけてきた。
「おもしろそうね」
牧石は、話しかけてきた相手を眺める。

女性は、ゆったりとっした白のワンピースに麦わら帽子をかぶり、帽子の後ろからは長い黒髪が背中まで伸びている。
体型や、服装からすれば十代後半に見えるが、顔を見ると大人の女性の雰囲気が漂っている。
「こんにちは」
牧石は、ひとまず能力を止めて返事をする。
「お邪魔したかしら」
「能力の練習には休憩も必要ですよ」
牧石は、笑顔で答える。
「そうだったわね。
懐かしいわね、私も子どものころはあなたのように、一生懸命訓練したわね。
結局、レベル2になれず大学を卒業したけどね」
女性は、懐かしそうに話した。

「お姉さんなら、そんなに、昔のことではないでしょう?」
「あら、お姉さんだなんて、お世辞でも嬉しいな」
女性は牧石の言葉に上機嫌になる。
「僕と、そんなに年が離れている訳じゃないですよね」
「そうなのだけど、年の離れた兄がいたせいで、中学校の時からおばさん呼ばわりされたら……」
女性は悲しそうな声になる。
「それは、ひどいですね」
牧石は、女性に同情の視線を向ける。

「嬉しいな、そんな事を言ってくれるなんて」
女性は牧石にもう少し近づいてきた。

「え、えっと、そこのベンチに座りませんか?」
牧石はあわてて、近くにあるベンチに女性を連れていった。



牧石たちが座るベンチの上には、ヒマラヤスギがあるため日差しをしのぐことが出来る。
牧石に話しかけてきたのは、亜浪(あろう)カリアさんで公園の近くにあるマンションに住んでいるそうで、仕事帰りに牧石が公園で練習しているのを毎日見ていたらしい。

「牧石君が、毎日熱心に練習しているから、どんなことをしているのか気になったの。
土曜日も昼に来ていたと聞きましたので、ひょっとしたら今日も来ているかと思いまして」
「そうですか。
でも、そんなにおもしろい練習ではありませんよ、狩屋さん」
牧石は、亜浪に返事をする。

「そうなの?
それにしては牧石君は一生懸命だったけど」
「まあ、明確な目的がありますからね。
それに、効果が実感できているので、やる気も下がりませんし」
「どんな、目的なの?」
亜浪は牧石に近づいて質問する。
「た、たいした事ではないです」
牧石はうろたえながらも、なんとか返事を返す。

「おかしいなぁ。
あんなに真剣に練習していたのに、たいしたことないなんて」
亜浪は、疑いの目を牧石にむけたが、
「がんばってね、牧石君」
亜浪は立ち上がると、牧石の左肩をとんとんたたく。
「そうですね、がんばります」
牧石は力強くうなずいた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



サイキックシティ第17区。
そこでは、様々な機械の製造が行われている工場が多く存在するのが特徴的な区域である。

その中の一つに、葛桐(くずきり)医療機器第3工場が存在する。
葛桐医療機器は、サイキックシティでは中堅の規模の企業だが、義肢や義眼等の製造においては、医療工学が進んでいるサイキックシティにおいても最先端の技術開発力を持っていた。

その技術開発力をさらに高めるため、去年第3工場が新設された。
第3工場は、第1工場、第2工場とは違い新製品や新技術の検証に必要な製品開発のための製造ラインを持っていた。
製造ラインの生産性は第1、第2の工場よりも劣っているが、非常に高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応することができるようになっていた。

今も、そのラインの最終工程から、1台の試作品が生み出された。
生み出された試作品は、鈍い金属の色をした人形に見える。
人形の大きさは2メートルを越え、近くで見るものに威圧感を与える。
体は、部位ごとに金属で覆われ、稼働部分はむき出しの金属部品や様々な色の配線が見える。
人間にとって顔に当たる部分には、3つのレンズが人間であれば口の両端と眉間の位置に装着されていた。

生み出されたばかりの機械は、運搬用の機械に搭載され、工場の視察に来ていた、天野の前に運び込まれていた。
機械は、未だに動かない。
電力を与えることで、稼働することができるが起動スイッチが入っていない。
モノを言わない人形は、顔に装着された3つのレンズを目の前の天野に向いていた。

「天野先生、いかがですか?」
天野のそばには、工場長の新丘(にいおか)がいた。
白い作業服に、帽子を被っていた大柄の男は、天野をおそれるように、3歩ほど後ろにたっていた。
「試作機としては、こんなものだろう。
本来なら、調整が必要だが、急いでいる。
すぐに、量産化計画を起動させろ」

「りょ、量産化ですか?」
「ああ、そうだ。
300体は欲しいところだが、100体あれば十分だ」
「ひゃ、100体ですか、そ、それは……」
「新丘よ、無理とは、いわせねぇぞ!
俺の旧姓を知っているだろう?」
新丘は、顔を青くしながら直立不動の体勢をとる。
「は、はい。
直ちに、取りかかります」
「それで、いいのだよ。
それで」

天野は、部屋から立ち去る新丘に視線を移すことなく、試作品の一つを見ながらつぶやく。
「とりあえず、雑魚は用意できた。
あとは、翼を完成させれば準備は整う。
覚悟するのだな、愚かな敵たちよ。
俺が捨てた「血塗られた名前」と、本当の恐怖を思い知らせてやる」 
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