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とある誤解の超能力者(マインドシーカー)

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第6話 強ビリビリ




牧石は、着実に電気を操る能力を身につけていた。
今ならば、自在に電撃を放ったり、レールガンの原理でコインを飛ばしたりすることもできる。

もっとも、そのような強力な能力を試すためには、学校の訓練室で行う必要がある。
だが、訓練室でも全力は出せないようで、一定の力を越えると警告が鳴ってしまう。

最初に警告音が鳴り響いた時、牧石は火災報知器を誤って反応させてしまったと、あわててしまった。

そうではないことが、駆けつけた漆原の口から明らかとなり、ほっとした牧石であったが、
「漆原さん。
ところで最近よく見かけますけど、こちらは非常勤だったと思いましたが?」
と、余計な質問をしてしまった。

いつものように漆原から、延々と話が続き、騒がしさで何事かと駆けつけた担任の高野が遮るまで、止まることはなかった。


牧石は、自分の能力を十分制御できたと確信したところで、もう一人の牧石に挑戦状をたたきつけるため、金曜日の授業終了後、牧石はもう一人の牧石を屋上に呼び寄せた。


「牧石、いやメカ牧石よ」
牧石は、もう一人の牧石を挑発する。
「なんだ、ロリコンの牧石よ」
牧石の挑発を受けたもう一人の牧石も、挑発を仕返す。
「先日の借りを返す。
月曜日の正午に、屋上で決闘だ。
勝った方が、このクラスに残り、負けた方がこのクラスを去ることにしよう」
牧石が提案する。

もともと、同姓同名の生徒が二人いるということで、担任の高野から提案を受けていた。
牧石は、月曜日の決闘でこの問題の解決を図る。

「月曜日は、君の送別会だな」
もう一人の牧石は、再び挑発する。
「君の餞別には、高級なエンジンオイルを準備してあげよう」
牧石も負けずに言い返す。

「こそこそと、秘密特訓をしているようだが、無駄な努力だな」
もう一人の牧石は、余裕の笑みで牧石をさらに挑発する。
「そう言った余裕を言っていられるのは、今のうちだぞ」
牧石は、もう一人の牧石をにらみつける。

「言葉での争いはここまでだ。
結論は月曜日にわかる」
もう一人の牧石は、あとは月曜日でと告げる。
「そうだな」
牧石も同じ思いを伝えた。

屋上から戻ると、二人の牧石はそれぞれの決意を胸にして別れた。



牧石は、宣戦布告を終えると、いつもの公園の砂場に向かっていた。
少しずつ暑さが和らぎ、涼しい風が公園に入っているのを感じながら、牧石は超能力の訓練を行った。

牧石が砂場の手前で能力を発動すると、砂場から2mほどの高さの直方体の壁が、出現する。
牧石が能力を操ると、壁の中央に穴が開いたり、上の部分がへこんだり、下の部分がより太くなったりと姿を様々に変化させる。

牧石の電気制御能力は、自分が触れないところにまで効果を発揮することができる。
半径10mであれば、大気や地面の電気を操ることができる。
このことにより、牧石は自分が感電することはなくなった。
「さすがに、相手の体内は直接さわらないと、いじれないようだけど」

相手の体に遠隔操作ができるのであれば、相手の体内から直接電力を発生させ、気絶させることも可能だ。
それができないのは、人体の構造が複雑である事による。

超能力を究めたサイマスターであれば、可能な技術かもしれないが、そこはまさに神の領域なのだろう。
牧石は、自分の能力はレベル5であるけれども、サイマスターの水準に到達するには、何枚もの分厚い壁を突破しなければならない事を自覚している。
それでも、今の実力ならもう一人の牧石を倒すことができると確信している。
だから、

「ねえ、お兄ちゃん。
砂山作ってよ」
花柄のついたピンクのエプロンを身につけた小さな女の子が、牧石のズボンを引っ張りながらお願いする。
「はいはい」
牧石は、砂鉄の山を作り出す。

「ぼくは、かべがいいな!」
神戸市を本拠地とするサッカーチームのユニフォームを着た少年が、大きな声で牧石に声をかける。
「ほらよ」
牧石は、細い50cm程度の高さの壁を構築する。

「ねえ、とんねるを、ほってよ!」
Tシャツと短パンをきた男の子がさきほど牧石が作った山に指を指しながら注文する。
「ほいきた」
牧石は、先ほど作った砂山に3カ所穴をあける。

牧石は、もう一度自分の考えを確認する。
今の実力ならもう一人の牧石を倒すことができると。
だから、砂場に集まる子どもたちの相手をしても問題ないはずだと。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



二人の牧石が戦いを挑む日の、午前3時。
天野は、第17区にある更地に佇んでいた。
天野は、腕時計を確認すると背後を振り返る。
そこには、葛桐医療機器第3工場で制作された機械が103体存在した。

それらのうち100体は漆黒に染められていることと、更地の周辺に光源が存在しないこと、さらに今日が新月に当たることから、ぼんやりとしか認識できない。
残り3体は、真紅に塗られており、特殊用途と思われるようになっていた。

この3体は、量産された110体のうち、最も性能が高い機体であり、今回の作戦において遊撃を担うことになっている。
110体のうち残りの7体は、既に作戦に投入されているため、ここにはいなかった。

「さて、翼が到着する時間だな……」
天野は、再度腕時計を確認する。
すると、天野の上空から12体の白い物体が降下してきた。

「時間通りだな、菱井」
天野は、上空に一瞬だけ視線を移したが、目の前に作業服と作業帽を着た若者を気配で察すると、声をかける。
「ええ、時間通りです」
菱井と呼ばれた男が、歩いて天野の前に登場する。
「さすが、菱井重工業の御曹司というところか」
「元ですよ、元。
財閥の運営よりも、機械製作にのめり込んで勘当された身ですから」
菱井と呼ばれた男は、薄手の作業着のポケットか煙草を取り出すと口にくわえる。

「そうかい。
俺のように、姓を捨てても結局縛られる場合もあるだろうに。
まあ、こっちとしては翼が台数確保できたら問題ないさ」
天野は、菱井の言葉にどうでもよいといった口調で言葉を返すと、着地した物体を確認する。

菱井を守るかのように取り囲む白い物体は、10メートルを越えていた。
白い物体は、人の形をしているが、人とは異なる特徴がある。
背中に生えた、大小2つずつの翼である。

外側にある大きな翼は、広げると10mにも達し、小さな翼も5m近くになる。
翼を構成する羽の先端からは、白く輝く素粒子がかすかに漂っている。
これは、天野が設計した機械を浮遊するための素粒子であり、物理学と超能力とが融合した際に見いだされたものである。

これまでも、この素粒子を使用して飛行機等の浮遊補助装置として使用されたことはあるが、単独で浮遊させることを可能にしたのは、天野の才能によるものであった。

ただし、採算を度外視した装置であり、サイキックシティといえども量産化は厳しいというのが、菱井の出した結論であった。

天野が「(プテリュクス)」と名付けたその機体は、独自の兵装とともに、対地戦闘能力を有していた。

「そうですか。
それでは、制御装置をお渡しします」
菱井は、作業帽を脱ぐと、天野に手渡す。

「スーツに作業帽か。
わかってはいたが、似合わんな。
俺も、作業服がよかったのかな」
天野は、少しだけ自嘲ぎみに話しながら帽子を被る。

「脳波パターン青。
天野統治であることを確認しました。
コード:45DF3に基づき、管理者権限を菱井邦夫から天野統治に変更します」
帽子から、天野の脳波に直接女性の声が響く。

「どうですか、天野さん。
仕様書通りの性能ですが?」
「……。
そうだな」
天野は予想通りの事だったため、反応は鈍かった。

「心配するな、菱井。
計画通りだ。
サイマスターが干渉しない限り、問題ない」
天野は、菱井の不安そうな表情をみて説明する。
天野の試算では、計画が失敗する状況はサイマスターグルーが直接介入する場合だけであると考えていた。
一方で、天野はそのような事態は起こり得ないと考えていた。

サイマスターグルーの目的は、次のサイマスターを育成することだけであり、それ以外に関心は持っていない。

牧石とグルーが以前1度だけ接触したことがあるという報告を受けているが、それだけだ。

天野は、これまで率いていた100体余りの黒い機体と、菱井から引き継いだ12体の白い機体を確認し、宣言する。
「新しい時代の夜明けだ!」

天野は、サイキックシティに対して宣戦布告した。 
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