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自由気ままにリリカル記

作者:黒部愁矢
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二十二話~一人と一つの海中探索~

無言で空を見る。雲と青空は丁度半分半分で今日の雲に入道雲のように分厚く、雷が出来やすいタイプのものは存在しない。
肌で感じる気温や湿気は丁度良いもので、頬を撫でる潮風も心地良い。

『マスター』
「っよ。っほ。……なんだ?」
『良い天気ですね』
「そうだな。海水浴には絶好の日だ」

そう言うと、首に掛けられているルナは少し不満気、というか不安気に二、三度点滅した。

『……本当にするのですか? 昨日の戦いでそれなりに無理な動きをマスターはしたと思うのですが』
「まあね。素のスピードを上げたのに加えてフラッシュムーブをしたもんだから体が少し筋肉痛だよ。しかもそのスピードで強引に反転したもんだから足の腱とか切れるかハラハラしたよ」
『それなら今日は休むべきなのでは……!!』
「それでもね。理不尽な世界で生きてきた俺としては出来る限り弱い子にはサポートをしていきたいんだよ。まあ、弱い俺が言うのもなんだけどね」

……本当にあいつらが死んで一旦俺は壊れたのだから、他人のことは言えない。

『マスターは弱くありません。十分強いですよ。シグナムさん相手に奥の手を出さずに勝っただけでも十分凄いですよ!』
「いや、ぶっちゃけシグナムの方も奥の手は出してなかっただろ? 烈火の将なのに火は使ってこなかっただろ? それにカートリッジも使わなかった」
『それは……マスターの動きが速かったからですよ!』
「はいはい。まあ、その事はもう置いとこう。今はこの広い海からジュエルシードを探さないと」

ルナと会話しながら準備運動を終えた俺は日本の海で比較的綺麗な海に目を向ける。

そう、俺は今浜辺にて準備をしている。
海底に潜る準備を。

今の俺の服装は白い半袖シャツに紺色の緩いタイプの半ズボン。無論左腕偽装の黒手袋は着けている。

周囲にもちらほらとほんの少しだけだが海に入って泳いでいる人もいる。

何故俺が一人でここに来たのかというと、勿論昨日の会話が原因である。
蒼也が言うには残りのジュエルシードは全て海の中で発動するということらしいから、海の中にあるのは間違いない。
だが、自力で潜って取るというのは息がまず保てないし、こんなに広大の海から探す方法など、砂漠から米粒一つを拾うようなものだ。

普通の人間ならばそうなる。

「生憎俺は普通の人間じゃないからいけちゃうんだよねえ。そう簡単にとはいかないだろうけど……」

ぼんやりと独り言を言いながら海に向かって走る。
そして、全力で潜れる深さの所にまで届くように跳ぶ。
その跳び具合に周囲で遊んでいた兄ちゃん達がこちらを振り向き、目を丸くしてちょっとした歓声をあげる。テンションが高い人達だね。

盛大な水飛沫をあげて着水。どうやら深くまで潜れる距離にまで跳ぶことが出来たのか下に足場は見えない。
そして、まだ朝早く……午前6時なため、一気に体の芯が冷える感覚がするも、魔法で体温を元に戻す。
そのことを確認すると一旦水面に顔を出して、俺の事を誰も見ていないことを確認して、大きく息を吸う。

……それじゃ、探しにいきますか。

そして俺は海中に潜っていった。

潜れる所までバタ足で潜り、息が続かなくってきたところで自身に魔法を掛ける。
変体の魔法だ。
掛けると徐々に俺の体は変質していく。

両足は人魚のような足になり、

顔部分にはエラ呼吸出来るものがあり、

手にはヒレのようなものが着いていた。

「……よし、それじゃ急いで探しますか」
『……以前に変体って変身魔法と同じようなものと私が言ったことがありと思いますが、訂正します。こっちの変体の方が圧倒的に凄いです』
「そうかい。それは嬉しいね」

なにせ、この魔法は俺達闇精霊ならではのものなのだから。

俺は異世界で一度人間として死んでいる。
なら何故ここで生きているという話になるがそれは生き返らせてくれたのだ。俺の近くにいた闇精霊が。

その蘇生方法が俺とその精霊の体の一部を融合させるというものであるが、その際にその精霊はあろうことか自身の下半身ざっくりと斬って俺と融合させたのだ。

その蘇生方法は融合する二人の内、強い者の特徴を大きく反映するようになっており、だから俺よりも強かったその精霊の特徴を受け継ぐことになり、今の俺がある。

お陰で俺は精霊の特徴を大きく受け継いだ人間。半分人間で半分精霊な半人半霊が出来あったわけだ。

まあ、この姿になったお陰で人間だった時よりは便利な事が出来るようになったからその精霊には感謝こそすれど、恨む気は欠片も無かったのだが。

便利な事の一つとして例えば、この変体魔法がそうであり、俺の世界で闇精霊は、総じて悪戯好きな精霊の中でも特に悪戯好きな者という認識が根付いており、それを裏付けるように闇精霊のみが自らの体を自由自在に変えるような事が出来ていた。

だが、本来の精霊は肉体の全てを変体……例をあげれば、猫から象に変化するということが出来るのに対し半人半霊の俺が変体魔法をつかっても人間の姿から人間に似た何かに変体するのが限界だった。

だから俺は質量を大幅に無視して変体することは不可能なことであり、精々が魔力で体を補完して一回り程大きく出来る程度しか出来ないのだ。
そして、今回俺は海底。しかも話を聞く限りじゃ中々に深い所にある小さな物を見つけなければならない。
更に更に期限は今日の夕方より前、空が赤く染まる前にフェイトが雷を起こした瞬間がタイムリミットだ。

『マスター。急ぎましょう。急がなければフェイトちゃんが危険な目に遭います』
「……そうだな」

そして、両足が人魚のおびれへと変化したものを大きく動かして、一気に海底へ潜る。
出来るだけ人間に近い姿でかなりの速度で泳げる姿が何かを考えた所、本来は候補として半魚人と人魚があがっていたのだが半魚人は俺の体にエラと手足に水かきがついただけという姿で、魔力消費は少ないがどう想像してもいまいち潜水に向いているとは思えない。
対する人魚は体の構造こそ大きく変わってしまうがそれに見合う程のスピードを得ることが出来る。半魚人よりも魚に近いことがそれに起因しているのだろう。

現に既に五秒で水深およそ百メートルに到達している。

そして、潜ると広範囲に少量の魔力を音波のように流し、魔力反応が返って来るのを期待しながら動く。
俺は一度だけだが、視力を完璧に失ったことがあり、その時には都合よく心眼という心の目で世界を見るような、明らかに人間を止めるための登竜門みたいな技を会得していなかったため、宿から一歩も外に出られなくなる事態に陥ったことがある。

そこで思いついたのが蝙蝠だ。

詳しくは覚えていないが蝙蝠は視力が悪い代わりに確か超音波を出すことで周りの状況や、獲物のありかを感知することが出来るそうだ。
だから俺もそれを真似し、魔力を薄く、断続的に発することで動けるか試してみた。
結果だけを言えば歩くことは出来たが、まともに走ることも、戦闘に参加することも出来なかったため、親友に視力を治す方法を探してもらい、治してもらった。

その時の経験で俺は魔力を持つ物体に魔力波を当てると魔力を持っていないものとは変わった感じに返って来るのが分かったのだ。


つまりそれを利用して魔力の塊とも言えるジュエルシードを探し当てるということをしようとしている。

……まあ、魔王を倒した後、あの荒れていた時期になんとなく心眼を会得出来るか試してみた所……大体十八年目か? そのくらいで会得出来たのだが、そのことは今どうでもいいだろう。

そんなことより、今回は運が良いのか新たに判明したことがある。

「まさか……音と同じように魔力波も水中の方が伝達速度が速いとはねえ。……大体四倍ちょいはあるんじゃないのか?」

ジュエルシードを探索しながらつぶやく。
俺を食べようとしているのか、ホオジロザメが近づいて来たため、軽く電撃を当てることで威嚇しておく。
すると、俺と自身にプロテクションを掛け続けることで、水圧から身を守っていたルナが呆れたように点滅する。

『普通……あんな六メートル程もあるホオジロザメには、物怖じするもんなんですけどね。一体マスターの胆力はどれ程なんですか?』
「まあ……全長三キロメートルの西洋竜みたいな形の竜にも足が竦まない程度には」

まあ、さすがに逃げ腰にはなったけどな。
そう、ぼんやりと考えていると魔力波に何かが引っかかり、その後すぐに、目の前をゆったりとした速度でイルカが通り過ぎるのが見える。
まさか……イルカ?

『イルカですねー。……可愛い……ってああ!? シャチですよ! しかもイルカを完璧にターゲットにしているようです! 助けましょう!』
「別にいいけどさ。ちゃんとイルカの動きは捕捉しておいてくれよ、ルナ。あいつから魔力反応がするからジュエルシードを持っている可能性が高い。いや、今なんとなくちらりとだが光った物が見えたから咥えてやがる」

そして、およそ……八メートル大のシャチに向けて先程のサメにぶつけたのと同じように電撃をぶつけるが、逃げる様子は無い。

「……さすが、海中の食物連鎖の頂点」

次に先程の電撃の三倍。比較対象で言えばシグナムと戦った際に俺の体に流した電撃の三分の一くらいの威力の電撃を流してやると怯んでどこかに逃げていった。

「……ふぅ。あの電撃でようやく逃げるか。しかも痺れた様子がないってのは中々シャチも嘗めちゃいけないね。……それで、ルナ。さっきのイルカはどこだ?」
『えーと……その……』

妙に歯切れの悪いルナに首を傾げていると、背中を何かでつつかれる感触がした。
振り返ってみた。

『マスターの真後ろにいます』

何やら後ろでスタンバっていたイルカがいた。
俺が戸惑っていると胸元に口を押し付け、何かをペイッと吐き出した。

「ジュエルシード……これをくれるのか?」

言葉が通じるかどうか分からないが聞いてみると、イルカは体全体を動かして頷き、そのままターンをしてどこかに去っていった。
手元には海中でようやく一つ目となるジュエルシード。

「さてと……。もういっちょ頑張るか」
『もう一踏ん張りですよ。マスター』

ルナからの激励を受けつつまた俺は水深四百から三百メートルにある海底を散策し始めた。








「……よし。これで三つ目だな」
『まさか水深五百以上潜る破目になるとは思いませんでしたね。これ以上の深さは私のプロテクションも少し保てるかどうか心配になる領域ですし……』

これ以上の深さに下がろうとすると、プロテクションがきしみ始めたのだ。

「そうだな……まあ、ここが潮時みたいだ。……魔力の奔流が上に向かっているだろ? 多分、今テスタロッサが無理矢理起こしたんだ」

魔力の奔流、つまりジュエルシードの居場所を確認するとやはり今俺達がいる場所よりも更に下からそれは溢れ出し、その原因となっているジュエルシードも上へと急速に向かっているのも感じる。
……ふと、今思いついたことがあるのだが、実行するかどうかで考え直してしまう。

『……マスター』
「言うな、ルナ。分かってる。……多分ルナと思いついたことは同じだ……が、さすがに今あそこに向かうのは厳しい。下手したら海の藻屑になるぞ?」

周囲に見えるのは魔力の奔流によって出来たと思われる、海底から伸びる三つの巨大な竜巻。そして、その竜巻に近づいた生き物は全てその強烈で凶悪な渦に巻き込まれて自由に動けていない。先程威嚇した大きさのシャチも例外ではない。

「……ひとまず、海から出よう。もう海中にいる意味も無いだろう」
『そうですね』
「一応他の人達に見つかりにくい位置に出ることが出来るように把握しておいてくれ」
『了解しました』


そして、俺は海面へと急上昇を始めた。

「そろそろか」

一応水深十メートルに近づいた辺りで変体を解除し、急に息苦しくなる。
酸素を求めて空気を走る要領で水中を蹴って急いで海上に顔を出す。

「っぷは!! っはあ。っはあ…。っは……っふーーーー。よし」


今はどんな状況だ?
息を整えながらルナの助けにより、浮遊する。
体からは海水が滴り落ち、髪や服は海水に長い間浸かっていたことで、ベタベタになっている。

そして、上を見上げると丁度竜巻は収まっており、そこには火傷し、辛そうにしているテスタロッサを抱えている激昂したアルフと、動揺した様子の高町達アースラ組。隠はクロノの妨害をしようとしているが、神白の妨害の妨害により、上手くいっていないようだ。

そして、アルフが魔力弾を海面に勢いよく叩きつけて水飛沫をあげ、おさまった時にはアルフとテスタロッサはどこにもいなかった。


その後、俺はクロノ達と合流し、事の顛末を聞く事になる。
 
 

 
後書き
結局そこまで意味をなさなかった主人公の行動。
そして、傷ついたフェイト。



・・・さあて、他の視点を書くのは疲れるから時の庭園内の視点は書くのをやめてしまおうか(迫真

何度も言っている気がしますが、物語も佳境にちゃくちゃくと近づいております。
そして私の精神力もガツガツ削られております(汗
物語が終わるのが先か、春休みが終わるのが先か、私がオワルのが先か・・・

おおう、大変だ。 
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