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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode3 乱戦、混戦、総力戦3

 アスナは、必死だった。

 相手を攻めることに集中するあまりに周囲へ耐毒ポーションを飲む指示を出すのを怠った。それはアスナだけのせいではもちろん無いのだが、彼女の責任感と焦燥感がそれに拍車をかけていた。その瞳に強すぎる意思の炎を燃やし、剣を振い続ける。

 結果、彼女はたった一人でボスの攻撃を引き受けていた。
 まさに神業と言えるだろう。

 だが、周囲から降り注ぐ毒液の雨。繰り出される四本の棘のついた蔓の鞭。蜂たちこそシドが一手に引き受けてくれているものの、それでも長くは持たないのは明白だ。既にアスナの耐毒効果も切れている。一撃でも毒液の直撃を喰らえば。

 喰らってしまえば。

 「ッ!!!」

 恐怖が一瞬だけ体をよぎった所為で、背後からの毒液をまともに食らってしまった。HPバーが一割の半分ほど減って、その横にステータス異常が表示される。『麻痺』。

 「あっ……っ!」

 この状況下では最悪のステータス異常に、アスナの体から、急速に力が抜けていく。そのままがっくりと膝をつき、前のめりに倒れ…

 「あっ、ああああっ!!?」

 る前に、鋭い棘が無数に生えた蔓がアスナを締めあげた。蔦の腕を持つ植物モンスターがよく使う、こちらを拘束するタイプの攻撃。その効果は、対象を縛りあげることで継続したダメージを与えるというものだが、発動の隙が大きい上に相当にレベル差が無いと成功しないという本来アスナのレベルなら十分回避できる、恐るるに足りない技。

 しかしそんな欠点も、麻痺状態の相手には関係ない。

 「くっ、ああああっ!!!」

 蔓が締めあげられるたびにアスナのHPバーが減少していく。成功率が低いだけにその威力はアスナの想像以上のもので、HPゲージがイエローを割り込み、赤の危険域へと突入し、

 (し、死ぬ…? 私、ここで、死ぬの…?)

 アスナがぎりぎりに迫った死の恐怖に、眩暈に似た意識の濁りを自覚した瞬間、

 「アスナあああッ!!!」

 一人の男の叫びが、彼女の耳に響いた。





 無我夢中だった。
 四隅の一角に生えたモンスターを切り殺して振り返った瞬間、二本の蔦で締め上げられ、高々と掲げらるアスナの姿が目に映った。なんの偶然か、虚ろになったその視線が、見上げる俺の視線と交錯する。

 俺を見つめる視線。
 アスナのその視線が、俺の記憶の中の、最も痛みを発する部分を掻き乱す。

 ―――痛々しい程の信頼の視線。俺に向けて伸ばされる手。
 ―――そして、爆散するポリゴン片。

 途端、世界が真っ赤に染まったように意識がスパークした。

 「アスナあああッ!!!」

 狂ったように叫びながら、剣を構えて走り出す。数歩も行かないうち敏捷値の限界がもどかしくなり、筋力値を全開にして一気に跳躍する。先程のダッシュを遥かに上回る速度での、飛ぶような大ジャンプ。そのまま空中で体を引き絞って、本能のままにソードスキルを放つ。出の速い三連撃の技、《シャープネイル》。素早く振りぬかれた長剣が二本の蔦を弾き飛ばし、締め上げていたアスナがするりと落下する。空中で何とか受け止め、ポーチから回復結晶を取り出す。

 「ヒール!!!」

 叩き付けるようにアスナの胸に手を当て、叫ぶ。

 一瞬既にHPゲージが消えて、回復することなくその体が爆散するイメージが頭によぎったが、直後に回復結晶が弾けてアスナのHPが端まで回復していく。だが、アスナの顔色は蒼白で、目は閉じたまま。

 「アスナ、アスナッ!!!」

 絶叫しながらの呼びかけに、アスナがかろうじて目を開ける。痛々しいほどの疲労と恐怖を称えたその瞳が、自分を見て儚く揺れる。続けざまに取りだした解毒結晶で麻痺も回復させるが、とても戦線に復帰できる状態とは思えない。

 「アスナ、アス、っぐっ!!!」

 アスナを抱きかかえる俺の背中が、強い衝撃で打たれた。剣戟の怯みから回復した蔦が、攻撃を再開したのだ。だめだ。ここにいては、また攻撃を喰らってしまう。アスナの体を抱えて走ろうとするが、一瞬の判断の後、その考えを切り捨てる。

 だめだ。
 人一人抱えた状態で走るのでは、防御も回避もままならない。

 ここで俺が倒れてしまえば、またアスナが。

 逃げることは、出来ない。
 守ることも、俺なんかには、出来はしない。

 ならば。
 俺に出来ることは、一つ。

 「くらえッ!!!」

 アスナを背後に庇って、ボスと正対する。間を置かずに襲いかかろうとしたボスの顔面を、エフェクトフラッシュを纏った一つの影が横から飛び込んで強烈に踏み抜くように蹴りつけた。周囲の鉢たちを殲滅したシドが、その超人的な身のこなしで弾丸の如く花の顔を打つ。そしてそのまま大きく膝を曲げ、バク宙の要領で背後へと大きく飛び退る。

 その攻撃がボスのHPを削られる。
 打たれた恨みに、ボスの注意が俺から一瞬だけ逸れる。

 二度とないだろう、一瞬の隙。

 その隙に、俺に出来ること。
 攻撃特化型たる俺に出来ることは、敵を倒す、それだけだ。

 「おおおおッ!!!」

 絶叫しながら剣を振りかぶる。

 突進して巨大化の懐へと潜り込み、床を砕かんばかりに強烈に踏みしめる。同時に、強烈なエフェクトフラッシュが剣を包む。放つのは、俺が今現在持つ最も強力な技の一つ。特に、ボスモンスターのような巨大な体を持つ敵に対して有効な、三連の重攻撃。

 《サベージ・フルクラム》。

 突き技と切り技を組み合わせた大技が、ボスモンスターの体を深々と穿つ。

 捻じ切らんばかりで引き絞った体によって完全にブーストされた必殺の剣が、アスナとシドの連続技で一割を切っていたそのHPを、すれすれのところで吹き飛ばした。





 後日談。

 こうして俺の四十七層ボス攻略は、なんとか犠牲者を出さずに済んだ。戦後処理…というか毒に苦しむ連中用で足りなかった解毒結晶は、後続としてやってきたヒースクリフが配ってくれたらしい。

 今回のボス戦以降、アスナはなんか思う所あったのか以前のような張り詰めた空気が少し、ほんの少しだけ緩んだように思う。代わりに、キリトの方が妙に思いつめた顔をするようになった。まあ、こればっかりは俺がどうこうできはしないだろう。仮にも俺も情報屋、数ヶ月前にキリトに、そしてキリトのギルドに起こった事件のことも、ちゃんと知っているのだ。

 そして、我らのギルド。

 危険を冒して突っ込んできたことを叱って(ソラには鉄拳制裁付きだ)おいたものの、三人とも笑うばかりでまともに聞いて貰えなかった。全く、困った奴らだ。使いまくった槍、ブーメラン、そして腐食酸でぼろぼろになった俺やファーの金属防具、そして各種結晶類。経費と称してKoBに請求してやろうかとも思ったが、もともと「アスナの手料理」が報酬だった。くそ、高い買い物だったな。

 結局アスナは、律儀に毎月オリジナル料理をギルドホームに届けているらしい(ちなみにその時俺は恐いのでギルドホームにいないことにしている)。なんかその過程でソラと仲良くなってるのは嫌な予感しかしないが、まあ、後はどうなるかなど、俺の知ったことではない。なるようになるだろう。その結果は、きっと誰か別の奴が、…「お姫様を救う勇者様」が、見届けてくれるのだろうから。


 
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