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ソードアート・オンライン ~無刀の冒険者~

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SAO編
  episode3 乱戦、混戦、総力戦2

 「!!!!!!」

 慌ててしゃがみこんだキリトの体を掠めるように飛来した槍は、四隅のモンスターの顔面に深々と突き刺さった。貫かれた薔薇の兵隊がボス部屋中央の巨大花よりも一オクターブ甲高い悲鳴を上げて大きく痙攣し、直後爆散してポリゴン片へと化す。

 『投剣』スキルカテゴリの技、『投げ槍』スキルだ。一撃の威力を重視するなら遠距離攻撃系でも有数の威力を誇る技にも関わらず、人気が少なく上げている人間の少ないスキル。

 理由は簡単。確かに一発の威力はピックやスローイングダガーよりも数倍高いが、なにせ投げるのは値段が数十倍してもおかしく無い専用の投擲槍(ピラム)だ。まともに考えるのが馬鹿らしくなるくらい燃費が悪すぎる。そしてそんな物好きなスキルを上げている奴なんて、情報屋の俺でも寡聞にして聞いたことがない。

 ただ一人を除いて。

 「ソラっ!!?」

 開いた扉から駆け込んできたのは、皮鎧を着て両手用の長剣を携えた、我らがギルドリーダー、ソラだった。キリトの前の一体が爆散したのを確認した後、すぐに別の角の一体へと踊りかかる。毒液の雨が彼女のHPバーを削るが、耐毒ポーションをきちんと飲んでいるらしくそのHPバーにステータス異常特有の表示は見られない。

 「さあさあっ! 雑魚はおねーさん達に任せて、シドは本丸を叩くのですっ!」

 両手剣の一撃を叩きこみながら、ソラがこちらを見て笑う。おねーさん、達?

 一瞬訝しいんだ答えは、すぐに分かった。後ろから飛来したブーメランが、俺を襲っていた数匹の大蜂をまとめて薙ぎ払ったからだ。考えるまでもない。レミだ。ということは、ファーも一緒だろう。

 「バカっ、そんなレベルでボス部屋に来てっ、」
 「……入って、無いから、だいじょーぶい」
 「バ、バ、」
 「こちらなら心配無いッス! 俺が抑えるッス!」

 切り裂かれた蜂は、しかしHPバーは三割も減っていない。理由は、すぐに分かった。彼女投げたブーメランが、いつものそれより一回り小さい。いつもの筋力値をギリギリまで注ぎ込んだ異色と射程重視の装備とは違う、素早く手元に返ることでの小回りを重視したトライエッジだ。

 HPを消し飛ばすには足りない、しかし憎悪値を煽るには十分なそれを連発して蜂たちを惹き付けていき、ファーがそれを迎え撃つ。さっきはスキル構成が盗賊(シーフ)の俺でも支え切れたのだから、フル装備の戦士であるファーなら、前の蜂たちは何とか支えられるだろう。

 問題は。

 「後ろを考えろっ! ボス部屋前で中を攻撃すると、後ろから高レベルMobのポップがっ、」
 「こちらなら問題ないよ、シド君」

 答えは、投擲を繰り返すレミの、更に後方から帰ってきた。

 見えるのは、キリトに負けずとも劣らない強力なエフェクトフラッシュ。
 そして聞こえた声は、

 「っ、ヒースクリフ!?」
 「こちらは私が支えておこう。君たちはボスに集中したまえ」

 なんとあのKoB団長、SAO最強の男と名高い『神聖剣』ヒースクリフが二人の後方を支えているらしい。既に数匹のモンスターがポップしているようで、敵のものと思われるソードスキルの光が時折漏れるものの、その声には全く焦りはない。レミとファーはボス部屋には入ってはいないため、ボスの鞭も毒液も届きはしない。

 (いけるっ!)

 ポーチから回復結晶を取り出し、自分にヒールをかける。先程五体の蜂をまとめて相手にしていたせいでレッドゾーンぎりぎりまで迫っていたHPバーが一気に端まで全回復する。体は疲労で重くなりつつあるが、まだまだ動けないほどじゃない。

 「いくぜ…っ、くらえッ!!!」

 俺は地面を蹴って、キリト達を狙い続ける巨大なボスへと飛び掛かった。


 
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