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カヴァレリア=ルスティカーナ

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第一幕その四


第一幕その四

「ワインを買いに行ってたんだ。母さんに聞けばわかるさ」
「嘘よ」
 彼がそう言うのはわかっていた。そしてローラ自身こう返すのもわかっていた。
「アルフィオさんの家の側で見たって人がいるわ」
「そんな筈ないさ」
 トゥリッドゥのこの言葉もあらかじめ決まっていたのであろうか。二人の会話は何処までも予定めいていた。悲しいまでに。
「だって俺は」
「私も見たわ」
 彼女はここで切り札を出してきた。
「トゥリッドゥ、貴方昨日ローラと会っていたわね」
「馬鹿な」
「白を切らないで。もうわかっているんだから」
 その声はもう泣きそうになっていた。
「全部。まだあの女に未練があるの?」
「いや」
 ここでそうだと答える者はいない。これは彼も同じであった。
「じゃあ」
「何でそんなことを言うんだ」
 トゥリッドゥはたまりかねてこう漏らした。
「ローラ、少し落ち着け」
「落ち着いてなんかいられないわ」
 この言葉は逆効果でしかなかった。今彼女はもう真実を知ってしまっている。その真実を壊してもう一度彼が自分の側にいて欲しいのだ。
「こんなことって」
 彼女は叫ぶ。
「あの女が私から貴方を奪うなんて。こんなことって・・・・・・」
「サンタ」
 彼は彼女の仇名を呼んだ。
「俺は御前の奴隷じゃないんだ」
 これはたまりかねたうえでの言葉であった。
「えっ!?」
「俺は御前の下らない嫉妬の奴隷じゃないんだ。いい加減にしろ」
「よくそんなことが言えるわね」
 もう声は泣いていた。
「私にこんな仕打ちをして。裏切って」
「いい加減にしろ」
 そう返して黙らせようとする。
「こんな目出度い日に。馬鹿なことを」
「私には関係ないわ」
 破門されている女には関係ないと言う。
「そんなことは」
「全く」
 トゥリッドゥはさらに苦い顔になった。
「俺が何をしたっていうんだ」4
「自分の胸に聞いたらどう!?」
 二人は互いに引かない。ここで新たな役者がやって来た。
「あら、トゥリッドゥ」
 白い華やかな祭用の服をきたあだっぽい妖艶な女がそこにやって来た。金髪の波がかった髪と茶色の瞳が如何にも気を強そうに見せている。
 彼女がローザであった。アルフィオの妻でトゥリッドゥのかっての恋人、そして二人の喧嘩の渦中にいるいわくつきの人物である。
「どうしたの、こんなところで」
「ちょっとね」
 トゥリッドゥは何でもないといった様子で言葉を返す。サントゥッツァは暗い顔でローラを睨んでいた。
「何でもないよ」
「そうなの。ところで」
「何だい?」
「アルフィオを見なかったかしら」
「さあ」
 彼はその言葉には首を傾げさせた。これは演技ではなかった。
「俺も今この広場に来たばかりだし」
「そうなの。じゃあ皆で何処かで楽しくやっているのね」
「多分ね」
「じゃあいいわ。ところで」
 ローラはここでサントゥッツァに顔を向けた。皮肉な笑みを口の端に浮かべている。
 それに対してサントゥッツァは暗い顔で彼女を睨むだけであった。それだけで精一杯であった。
「何を話していたの?」
「大したことじゃないさ」
 トゥリッドゥはそう返しただけであった。だがローラはここで言ってきた。
「てっきり広場でミサをしているのかと思ったわ」
 破門されているサントゥッツァへの皮肉であった。これ以上ない皮肉であった。
「違うわ」
 サントゥッツァは怖気ずにそう返す。
「あそこは昼に行くには罪がないと思っている人だけが行くのだから」
「破門とかそういうことは関係なしに?」
「ええ」
 毅然としているように態度をとったがやはりそうはいかなかった。弱かった。
「私はそう思うわ」
「御立派なこと」
 それに対してローラはやはり嫌味で返した。
「それは貴女にお返しするわ」
「あらあら」
「ローラ」
 その陰にこもりながらも熾烈なやり取りにトゥリッドゥはうんざりしていた。それでローラに声をかける。
「俺の店に行こう。いい酒がある」
「いえ、ここにいるわ」
 だがローラはそれを受けようとはしない。サントゥッツァを見据えたままだ。
「別に何もないけれど」
「私も何もないけれど」
 サントゥッツァもそれは同じだった。二人は互いを睨み据えていた。
 
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